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量子コンピュータの現状(方式・何を量子にするか・どれが来そうか)

2026年10月16日その他

問いは木下が出したもので、答えは Claude Code と調べて書いたものです。

量子コンピュータの現状は?各種方式やスケーラビリティ、なにを量子として扱うのか、今後どれがきそうだと現状言われているのかなど教えてほしい。

答え:いまは「物理量子ビットの数」から「誤り訂正した論理量子ビットを何個・どれだけ長く保てるか」へ競争の軸が移った段階で、役に立つ誤り耐性計算機(FTQC)はまだ無い。方式は超伝導・イオントラップ・中性原子の3強に光と半導体スピンが続き、2024〜26年は中性原子が規模で急伸して「超伝導一強」が崩れた、というのが大方の見方である

何を量子ビットにするか。 量子ビットに要るのは、よく孤立した2準位(∣0⟩,∣1⟩|0\rangle, |1\rangle)で、重ね合わせを長く保ち(コヒーレンス)、外から狙って回転させられ(1ビットゲート)、2つを相互作用させてもつれさせられ(2ビットゲート)、最後に読み出せることである。方式の違いは「どの物理系の2準位を使うか」の違いにすぎない。

方式ごとの得意・不得意(スケーラビリティ)。

いまの到達点。 物理量子ビットは超伝導で百〜千個級、中性原子で数千個級。2ビットゲートの誤り率はおおむね 10−310^{-3} 前後で、誤り訂正の閾値(表面符号で約 10−210^{-2})は下回った。これを受けて、論理量子ビットの実証(Google の閾値以下、Quantinuum と Microsoft による物理より約800倍低い論理誤り率、QuEra のマジック状態)が相次いだ。一方、実用的な問題(例えば RSA-2048 の素因数分解には、近年の見積もりで物理量子ビット百万個弱を1週間程度)に要る規模にはまだ2〜3桁足りない。「量子優位」の実証はランダム回路サンプリングのような有用性の乏しい問題に限られ、化学・材料の計算で古典計算機に明確に勝った例はまだ議論の段階である。

今後どれが来そうと言われているか。

補足:物理的なやりやすさと装置の大きさ

物理的にやりやすさとかね(たとえば超伝導とかは極低温つくるの難しそうだしね)。装置の大きさなどについても教えてほしい。

超伝導の極低温は「作れるが、配線が詰まる」。 約 10 mK は希釈冷凍機(He-3 と He-4 の混合液で冷やす)で到達でき、Bluefors などから市販品を買える時点で、温度を出すこと自体はもう難所ではない。難しいのは冷却能力が極端に小さいことで、10 mK 段で取り除ける熱は数十 μW しかない。量子ビット1個ごとに室温から同軸線を何本も引き下ろすので、その線を伝う熱と、線の物理的な本数が規模の上限を決める。冷凍機は高さ 2〜3 m・直径 1 m 程度の円筒で、中の金色の多段構造(シャンデリア)の最下段の数 cm のチップが本体である。周りに制御用のマイクロ波電子機器のラックが並ぶので、1台で小部屋1つ分になる。He-3 の供給が限られていることも量産の不安材料である。

イオントラップは「温度より真空とレーザー」。 必要なのは 10−1110^{-11} Torr 級の超高真空で、イオン自体はレーザー冷却で μK 近くまで冷やすため、装置全体を極低温にする必要はない(雑音を減らすため 4 K に冷やす機種もある)。手間がかかるのは、元素ごとに違う波長のレーザーを何本も安定に揃え、μm 精度でイオンに当て続ける光学系である。チップ型の表面電極トラップ自体は数 cm だが、光学定盤とレーザー群で部屋1つ分になる。IonQ はこれをデータセンターのラック数本へ詰めた製品も出している。

中性原子は「室温の装置で原子だけ冷やす」。 真空容器は数 cm 角のガラスセルで、原子はレーザー冷却で μK まで冷やすので、冷凍機は要らない。ここが超伝導に対する大きな利点である。代わりに、光ピンセットを数千本作る大出力レーザーと空間光変調器、リュードベリ励起用の高安定レーザーが要り、光学定盤数 m2\mathrm{m^2} +ラックで、やはり部屋の一角くらいの大きさになる。原子は真空中の残留ガスに叩かれて数秒〜数十秒で抜けていくので、計算中に補充する仕組みが最近の焦点である。

光は「室温だが検出器が冷たい」。 光子の伝搬は室温でよいが、単一光子を高効率で数える超伝導ナノワイヤ検出器は 1〜4 K に冷やす。mK よりずっと楽な温度で、冷却能力にも余裕がある。ただし誤り耐性に必要な規模は巨大で、PsiQuantum はデータセンター1棟規模の施設を前提に設計している。

シリコンスピンは「少し温かくてよい超伝導の親戚」。 通常は 0.1 K 以下で動かすが、1 K 前後で動く「ホット量子ビット」の実証があり、1 K なら冷却能力が桁違いに大きいので、制御回路を量子ビットのすぐ横に置ける見込みがある。量子ビット1個は 100 nm 級で、方式の中で最も小さい。

まとめると。 「冷凍機がいらない」方式(イオン・中性原子)も、レーザーと光学系という別の重さを背負っており、どの方式も今は部屋1つ分の装置である。大規模化で効いてくるのは、量子ビット1個あたりに必要な制御線・レーザー光・電力が、数を増やしたときにどう増えるかで、ここを桁で減らせた方式が勝つと見られている。

補足:家庭用や一企業のサーバとして置けそうなのはどれか

「家庭用量子コンピュータ」とか「一会社の量子コンピュータサーバ」みたいなのをかんがえたときに原理的に実現できそうなのはどの方式?

原理的な禁止はない。 量子計算を妨げるのは環境との相互作用(デコヒーレンス)なので、量子ビットを周りから切り離せれば温度や大きさに原理的な下限はない。問題は工学と経済である。

一企業のサーバ(ラック数本)は既に現実。 IBM の超伝導機は企業や大学へ据え置きで納入されているし、IonQ のイオントラップや一部の中性原子機はデータセンターのラックに収まる形で売られている。ただしどれも数十〜数百物理量子ビットの「誤り訂正前」の機械である。誤り耐性に要る 10 万〜100 万物理量子ビットを一企業の部屋に置けるかは、配線と冷凍機の制約がある超伝導より、室温の装置で数を増やせる中性原子・イオン、または半導体工場で量子ビットとレーザー光学をチップに集積できたときのイオン・中性原子・シリコンスピンの方が見込みがあると言われる。

家庭用に近いのは「冷凍機のいらない方式のチップ化」。 候補は次のとおり。

ただし家庭に置く理由が乏しい。 量子コンピュータが速くなる問題(分子・材料のシミュレーション、素因数分解、一部の最適化)は家庭で日常的に回すものではなく、古典計算の加速器として必要なときだけ使えばよい。そのため、スーパーコンピュータと同じく「大きな施設に置いてクラウド経由で使う」形が主流であり続ける、というのが大方の見方である。現実的な順番は、クラウド(今)→企業や研究所への据え置き(今〜2030 年代)→小型化した特殊用途機、であり、家庭用の汎用機は見通しに入っていない。

補足:方式ごとの主な企業と研究拠点

各種方式の研究拠点とか、研究企業とかについても教えてほしい

方式 主な企業 主な大学・研究拠点 日本
超伝導 IBM、Google Quantum AI、Rigetti、AWS(猫量子ビットの Ocelot)、Alice & Bob(仏)、IQM(フィンランド)、OQC(英) Yale(Schoelkopf)、ETH Zürich(Wallraff)、MIT、UC Berkeley、Delft の QuTech、中国科学技術大学(祖沖之号) 理研 量子コンピュータ研究センター(中村泰信)と富士通の国産機、東大、NEC
イオントラップ Quantinuum(Honeywell 系)、IonQ(2025年に Oxford Ionics を買収)、AQT(墺) Innsbruck(Blatt)、Oxford、NIST・JILA、Duke・Maryland(Monroe) 大阪大学などに研究室がある程度で、企業は少ない
中性原子 QuEra、Atom Computing(Microsoft と提携)、Pasqal(仏)、Infleqtion、planqc(独) Harvard・MIT(Lukin、Greiner、Vuletić)、Caltech(Endres)、Princeton(Thompson)、Wisconsin(Saffman)、Institut d'Optique(Browaeys) 分子科学研究所(大森賢治)、京大(高橋義朗。Yb 原子)
光 PsiQuantum、Xanadu(加)、Quandela(仏)、QuiX(蘭) 中国科学技術大学(潘建偉の九章)、Bristol 東大 古澤明研とそこから出た OptQC、NTT
シリコンスピン Intel、Diraq(豪)、Silicon Quantum Computing(豪)、Quantum Motion(英) UNSW(Dzurak、Simmons)、QuTech(Vandersypen) 理研(樽茶清悟)、日立
トポロジカル Microsoft Microsoft の Station Q、コペンハーゲン大 —
NV 中心 Quantum Brilliance(豪独) QuTech(Hanson。量子ネットワーク) 東工大、QST

国のレベルでは、米国(国家量子イニシアチブ・DARPA の実用性評価計画)、中国(中国科学技術大学が超伝導と光の両方で旗艦)、EU(Quantum Flagship)がそれぞれ大型の予算を組み、日本は理研・産総研の G-QuAT・QST が拠点になっている。分野の勢いを知るには、Google・IBM・Quantinuum・QuEra の発表と、Nature・Science に出る論理量子ビットの実証論文を追うのが早い。

補足:光方式をもう少し詳しく

光は?

根本の難しさは、光子同士が相互作用しないこと。 室温で雑音を受けにくいのは光子が何とも相互作用しないからだが、同じ理由で2量子ビットゲート(もつれの生成)が作れない。そこで光方式は「ゲートを測定で置き換える」。先に大きなもつれ状態(クラスター状態)を用意し、それを1つずつ測定していくと、測定の選び方で計算が進む(測定型量子計算)。もつれの生成も、ビームスプリッタと光子検出の組み合わせで確率的に起こす。

2つの流派。

主な誤りは光子の損失。 導波路・接続・検出器を通るたびに光子が少しずつ失われ、誤り耐性に許される損失は経路全体で数 % 程度と厳しい。連続変数ではスクイーズの強さが足りないことが同じ問題になり、GKP で誤り耐性に乗るには 10 dB 台後半が要るとされ、実験はその手前である。部品の損失を桁で減らすことが光方式の最大の課題になっている。

温度と装置。 光の伝搬と導波路チップは室温でよい。ただし単一光子を高効率で数える超伝導ナノワイヤ検出器は 1〜4 K、量子ドット光源も数 K に冷やす。mK の希釈冷凍機と違ってこの温度は楽で、冷却能力にも余裕がある。

現状。 中国科学技術大学の九章(2020 年)がガウシアン・ボソンサンプリングで量子優位を主張したのが最初の大きな成果で、有用な計算ではない。Xanadu は 2025 年にチップ上での GKP 状態の生成と、多数のチップを光ファイバでつないだモジュール型の実証機を発表した。PsiQuantum は GlobalFoundries の半導体工場で光チップを量産し、10 億ドル規模の資金でオーストラリアのブリスベンとシカゴに百万量子ビット級の施設を建てる計画を進めている。一方、誤り訂正した論理量子ビットの実証では超伝導・イオン・中性原子に遅れている。

どう見られているか。 「最初から工場で量産して一気に大規模化する」という賭けで、損失の問題を解ければ規模の伸びは最も大きいが、小さな実証を積み上げる他方式と比べて途中経過が見えにくい、というのが大方の評価である。勝敗とは別に、光は他の方式でも必須になる。超伝導やイオンのモジュール同士、冷凍機同士をつなぐのは結局光で、量子ネットワークの担い手としての地位はほぼ確実である。