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和積公式と波のうなり

2026年度 中3発展2026年10月6日10分で読めます塾講師木下三角関数
目次
  1. 1. 波を正弦波で表す
  2. 2. 音は媒質の振動であり、時間について正弦波で表される
  3. 3. 二つの音の重ね合わせと和積公式
  4. 4. うなりの振動数と音の高さ

和積公式

cos⁡A+cos⁡B=2cos⁡A+B2cos⁡A−B2\cos A+\cos B=2\cos\frac{A+B}{2}\cos\frac{A-B}{2}

は三角関数の式変形の公式であるが、現実に耳で聞ける現象の説明にも用いることができる。振動数のわずかに異なる二つの音を同時に鳴らすと、音の大きさが周期的に強くなったり弱くなったりして聞こえる。この現象をうなりという。本稿では、音を表す式を用意したうえで、和積公式からうなりの式を導く。

1. 波を正弦波で表す

横軸を位置 xx、縦軸をその点での変位 yy とする。なめらかに山と谷をくり返す波は、近似的にy=sin⁡xy=\sin x とみなすことができる1厳密には、周期 TT の波は y=Asin⁡ ⁣(2πTx)y=A\sin\!\big(\dfrac{2\pi}{T}x\big) と表される。さらに一般の周期関数は、いろいろな周期の正弦波・余弦波の和として表すことができる(フーリエ展開)。本稿では簡単のため、周期を 2π2\pi とした最も単純な正弦波 y=sin⁡xy=\sin x を用いる。下の脚注へ。振幅(山の高さ)を AA とすれば y=Asin⁡xy=A\sin x となり、AA が大きいほど波は大きく振れる。

図1図1 正弦波 y=sin⁡xy=\sin x。山と谷を1回ずつ含む長さ(波長)は 2π2\pi

2. 音は媒質の振動であり、時間について正弦波で表される

音は、空気などの媒質が振動して伝わる現象である。媒質の一点に注目すると、その変位は時間 tt とともに正弦波の形で振動する。11 秒あたりの振動の回数を振動数 ff とすれば、その変位は

y=cos⁡ ⁣(2πf t)y=\cos\!\left(2\pi f\,t\right)

と表される(sin⁡\sin で表しても cos⁡\cos で表してもよい2sin⁡\sin と cos⁡\cos は、sin⁡(θ+π2)=cos⁡θ\sin(\theta+\tfrac{\pi}{2})=\cos\theta のように一方を横(角度)方向に平行移動すると他方にぴたりと重なる、同じ形の曲線である。だから変位を sin⁡\sin で書くか cos⁡\cos で書くかは、時間 tt をどの瞬間から測りはじめるか(時間の原点の取り方)の違いにすぎず、どちらで表してもよい。本稿ではt=0t=0 で変位が最大(cos⁡0=1\cos 0=1)になる瞬間を時間の原点に選んだので cos⁡\cos を用いた。厳密には、原点をどこにとるかに応じて y=cos⁡(2πft+φ)y=\cos(2\pi f t+\varphi) のように角度に定数 φ\varphi(初期のずれ)が加わるが、本稿では簡単のため φ=0\varphi=0 とした。下の脚注へ)。

なぜこの式で ff がちょうど「11 秒あたりの振動数」になるのかを確かめよう。cos⁡\cos は、角度が 2π2\pi 増えるごとにちょうど 11 回もとの値にもどる(=11 振動する)。いま角度は 2πf t2\pi f\,t なので、時間 tt を11 秒だけ進めると、角度は

2πf (t+1)−2πf t=2πf2\pi f\,(t+1)-2\pi f\,t=2\pi f

だけ増える。これは 2π2\pi の ff 倍、つまり 11 秒のあいだに振動がちょうど ff 回起きることを意味する。こうして、角度を 2πf t2\pi f\,t と取ったことで、ff が狙いどおり11 秒あたりの振動数になっていることが確かめられた。ff が大きいほど速く振動し、高い音として聞こえる。

このことは、既に学んだグラフの拡大・縮小からも見てとれる。変位を時間 tt の関数 cos⁡(2πft)\cos(2\pi f t) と見ると、振動数を 2f2f にすることは、tt を 2t2t に置きかえること、すなわち関数 g(t)g(t) を g(2t)g(2t) にすることにあたる。g(2t)g(2t) のグラフは g(t)g(t) のグラフを横方向に 12\dfrac12 倍に縮めたものであったから、同じ時間の中に山と谷が22 倍細かく詰まる。これが「振動数が大きいほど速く振動する」ことの中身である。

図2
上:振動数 ff。下:振動数 2f2f。t→2tt\to 2t(g(t)→g(2t)g(t)\to g(2t))で横に 12\tfrac12 倍に縮み、波が 22 倍詰まる。

媒質が実際に動くようすと、その変位を時間について記録した軌跡(正弦波)を重ねると、両者の対応が見やすい。

図3
媒質の1点は上下に振動し(左)、その変位を時間について記録すると正弦波になる(右)。

3. 二つの音の重ね合わせと和積公式

二つの音を同時に鳴らすと、媒質の変位はそれぞれの変位の和になる。これを重ね合わせという。二つの音の振動数を f1, f2f_1,\,f_2 とすれば、注目する点の変位は

y=cos⁡(2πf1t)+cos⁡(2πf2t)y=\cos(2\pi f_1 t)+\cos(2\pi f_2 t)

である。ここで和積公式を A=2πf1t, B=2πf2tA=2\pi f_1 t,\ B=2\pi f_2 t として適用すると、

y=2cos⁡ ⁣(2πf1−f22 t) cos⁡ ⁣(2πf1+f22 t)y=2\cos\!\Big(2\pi\frac{f_1-f_2}{2}\,t\Big)\,\cos\!\Big(2\pi\frac{f_1+f_2}{2}\,t\Big)

を得る。二つの余弦の積の形になった。この右辺の二つの因子のうち、左の因子が「音の大きさ」を、右の因子が「音の高さ」を担う。

4. うなりの振動数と音の高さ

f1f_1 と f2f_2 がほぼ等しい場合を考える。f1=f, f2=f+δf_1=f,\ f_2=f+\delta(δ\delta は小さい正の数)とおくと、f1−f22=−δ2\dfrac{f_1-f_2}{2}=-\dfrac{\delta}{2} だが、cos⁡(−θ)=cos⁡θ\cos(-\theta)=\cos\theta により符号は外せるので、上の式は

y=2cos⁡ ⁣(2πδ2 t) cos⁡ ⁣(2π(f+δ2)t)y=2\cos\!\Big(2\pi\frac{\delta}{2}\,t\Big)\,\cos\!\Big(2\pi\Big(f+\frac{\delta}{2}\Big)t\Big)

となる。右の因子は振動数 f+δ2f+\dfrac{\delta}{2} で速く振動する部分であり、これが聞こえる音の高さを与える。ここで δ\delta は二つの音の振動数の差でごく小さいから、f+δ2f+\dfrac{\delta}{2} はもとの振動数 ff とほとんど変わらない。すなわち聞こえる音の高さは、もとの音の高さとほとんど同じである。一方、左の因子 2cos⁡ ⁣(2πδ2t)2\cos\!\big(2\pi\frac{\delta}{2}t\big) の振動数は δ2\dfrac{\delta}{2} である。§2 で見たように、振動数が小さいほど振動はゆっくりであった。δ\delta が小さいぶん δ2\dfrac{\delta}{2} はさらに小さいから、この左の因子は、速い振動にくらべればほとんど止まって見えるほどゆっくりと変化する。この左の因子が、速い振動の振幅(=音の大きさ)をゆっくり周期的に増減させる。この振幅の周期的な増減がうなりである。下図で、速い振動の山の先端をなぞる、このゆっくり変化する上限・下限の曲線を包絡線という(左の因子 ±2cos⁡ ⁣(2πδ2t)\pm 2\cos\!\big(2\pi\frac{\delta}{2}t\big)がそれにあたる)。

図4
実線:合成波、破線:ゆっくり変化する包絡線。音の大きさが包絡線に沿って周期的に増減する。

では、うなりは 11 秒あたり何回くり返されるだろうか。音の大きさ(うるささ)は、変位が 00 からどれだけ大きく振れるかで決まる。すなわち、上の図の包絡線の絶対値 ∣2cos⁡ ⁣(2πδ2t)∣\bigl|2\cos\!\big(2\pi\frac{\delta}{2}t\big)\bigr| で決まる。ここで注意したいのは、包絡線が正の山にふくらむとき(変位が大きく ++ に振れる)も、負の谷にふくらむとき(大きく−- に振れる)も、どちらの瞬間も音は大きく聞こえることである。つまり音が大きくなる瞬間は、包絡線の cos⁡\cosが 11 回振動するあいだに、山と谷で22 回おとずれる。

図5
音の大きさ ∣2cos⁡(2πδ2t)∣\big|2\cos(2\pi\frac{\delta}{2}t)\big|(実線)。破線の cos⁡\cos が 11 回振動する間に、大きくなる山が 22 回できる。

したがって、音の大小がくり返される回数(うなりの回数)は、包絡線の振動数 δ2\dfrac{\delta}{2} のちょうど 22 倍で、δ=∣f1−f2∣\delta=|f_1-f_2| に注意すると、11 秒あたり

2×∣f1−f2∣2=∣f1−f2∣  (回/秒)2\times\frac{|f_1-f_2|}{2}=\bigl|f_1-f_2\bigr|\ \ (\text{回}/\text{秒})

となる。たとえば 440 Hz440\,\mathrm{Hz} と 442 Hz442\,\mathrm{Hz} の音(Hz\mathrm{Hz} は「回//秒」の単位で、440 Hz440\,\mathrm{Hz} は11 秒に 440440 回振動する音)では、∣440−442∣=2|440-442|=2 より毎秒 22 回うなる。f1=f2f_1=f_2 のときはうなりが生じない。楽器の調律は、うなりが消えるように二つの音を合わせる操作である。

最後に、なぜ「うなり」として耳に届くのかをもう一度まとめておこう。二つの近い音を重ねた合成波は、〈速い振動〉の振幅が〈ゆっくりの包絡線〉に沿って伸び縮みする形になっている。速い振動の振動数(=音の高さ)は f+δ2f+\frac{\delta}{2} でもとの ff とほとんど変わらないから、音の高さは保たれたままである。変わるのは、その速い振動の振幅、すなわち音の大きさだけであり、これが包絡線に沿って周期的に大きくなったり小さくなったりする。この「高さはそのままで、大きさだけが周期的に強くなったり弱くなったりする」ことこそが、耳に聞こえるうなりの正体である。

まとめ

  1. 波は正弦波 y=Asin⁡xy=A\sin x で近似する。音は媒質の振動で、11 点の変位は時間について y=cos⁡(2πft)y=\cos(2\pi f t)。
  2. 振動数 ff が大きいほど高い音。二つの音の変位は和 cos⁡(2πf1t)+cos⁡(2πf2t)\cos(2\pi f_1 t)+\cos(2\pi f_2 t) になる。
  3. 和積公式により、これは〈ゆっくり変化する因子〉と〈速く振動する因子〉の積で表される。
  4. 速い因子(平均の振動数)が音の高さ、ゆっくりの因子が音の大きさの増減を与える。うなりの回数は ∣f1−f2∣|f_1-f_2| で、二つの音が一致すると消える。

補足:音の波は空気の圧力の変化である

本稿では変位 yy を「波の高さ」として扱ったが、音の場合の yy は、正確には空気の圧力(または空気の粒子の変位)の、平常値からのずれである。スピーカーが前後に動くと、空気に濃い部分と薄い部分ができ、その圧力の変化が波として伝わって鼓膜を動かす。したがって、縦軸を空気の圧力の変化と読みかえれば、これまでの式 y=cos⁡(2πft)y=\cos(2\pi f t) がそのまま音を表す式となる。

実験してみよう(ブラウザで見て・聞ける)

  • うなりを聞く・波形を見る:academo.org(Wave Interference and Beat Frequency)。二つの周波数(=振動数)を 440 Hz440\,\mathrm{Hz} と 441 Hz441\,\mathrm{Hz} のように 11 だけずらし、Sound on にチェックすると、毎秒 11 回のうなりが聞こえ、合成波が周期的に増減するようすが見える。
  • 媒質の振動と正弦波の対応・合成波を作る:desmos.com/calculator に次を入力する(f1,f2f_1,f_2 はスライダーになる)。合成波と、その包絡線が同時に描ける。
    f_1=5  f_2=6  y=cos(2pi f_1 x)+cos(2pi f_2 x)  y=2cos(2pi (f_1-f_2)/2 x)

1 厳密には、周期 TT の波は y=Asin⁡ ⁣(2πTx)y=A\sin\!\big(\dfrac{2\pi}{T}x\big) と表される。さらに一般の周期関数は、いろいろな周期の正弦波・余弦波の和として表すことができる(フーリエ展開)。本稿では簡単のため、周期を 2π2\pi とした最も単純な正弦波 y=sin⁡xy=\sin x を用いる。

2 sin⁡\sin と cos⁡\cos は、sin⁡(θ+π2)=cos⁡θ\sin(\theta+\tfrac{\pi}{2})=\cos\theta のように一方を横(角度)方向に平行移動すると他方にぴたりと重なる、同じ形の曲線である。だから変位を sin⁡\sin で書くか cos⁡\cos で書くかは、時間 tt をどの瞬間から測りはじめるか(時間の原点の取り方)の違いにすぎず、どちらで表してもよい。本稿ではt=0t=0 で変位が最大(cos⁡0=1\cos 0=1)になる瞬間を時間の原点に選んだので cos⁡\cos を用いた。厳密には、原点をどこにとるかに応じて y=cos⁡(2πft+φ)y=\cos(2\pi f t+\varphi) のように角度に定数 φ\varphi(初期のずれ)が加わるが、本稿では簡単のため φ=0\varphi=0 とした。

塾の授業で配った補足資料をもとに書き直しました。

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