tecktom.com

ハノイの塔:漸化式が解けると「世界の寿命」がわかる!?

2026年度 中3発展2026年10月6日11分で読めます塾講師木下数列
目次
  1. 1. 漸化式を立てる:大きい1枚を動かすには
  2. 2. 解く:習った二項間漸化式の手順がそのまま使える
  3. 3. 伝説:「ハノイの塔」と世界の寿命

33本の杭 A・B・C があり、A に大きさの違う nn 枚の円盤が「大きいものほど下」に積んである。これを全部 C へ移したい。ルールは2つ。ひとつは、一度に動かせるのは各杭のいちばん上の 11 枚だけ。そしてもうひとつがこの問題でいちばん大事なルールで、

どの瞬間も、小さい円盤の上に大きい円盤を載せてはいけない

(言いかえれば、どの杭もつねに「大きいものほど下」を保っていなければならない)。この制約があるからこそ手数がふくらみ、あとで見るように漸化式がそのからくりを解き明かす。最小で何手かかるだろうか。

図1図1 3本の杭と、杭 A に積まれた4枚の円盤

1. 漸化式を立てる:大きい1枚を動かすには

nn 枚を A から C へ移す最小手数を ana_n とする。着目するのはいちばん下の最大円盤だ。これをA から C へ動かせるのは、その上の n−1n{-}1 枚がすべてどいて最大円盤がむき出しになり、しかも移動先の C が空になった瞬間しかない。そこで手順を次の3段に分ける:

  1. まず上の n−1n{-}1 枚を、ルールを守って 11 枚ずつ動かし、いったん空いている杭 B へ移しておく。
  2. むき出しになった最大円盤を A から C へ動かす(11 手)。
  3. B に集まった n−1n{-}1 枚を、最後に(やはり 11 枚ずつ)C へ移す。

真ん中の②は 11 手。残る問題は、①と③がそれぞれ何手かということだ。結論から言うと①も③もちょうど an−1a_{n-1} 手になる。「an−1a_{n-1}」とは n−1n{-}1 枚を別の杭へ移す最小手数のことだから、これは①③がどちらも円盤 n−1n{-}1 枚のハノイの塔そのものだと言っているに等しい。なぜそう言い切れるのか。鍵は次の一点にある。

最大円盤は「床」とみなせる

最大円盤はどの円盤よりも大きいので、その上にはどんな円盤を載せてもルール違反にならない。だから最大円盤がある杭に置かれているあいだは、それをその杭にくっついた床の一部と思ってよい。残りの円盤をどう動かすうえでも、最大円盤は制約を一切生まないからだ。

これを使うと①③の中身がはっきりする。①では、A の底に最大円盤があるが、いま見たとおりこれは床とみなせるので、実際に相手にするのは上の n−1n{-}1 枚だけ。つまり①は「n−1n{-}1 枚を A から B へ移す」という一回り小さい同じ問題である。空いている C を作業に使ってよい点まで込めて、条件はもとの問題の杭の名前を取り替えただけだから、手数は an−1a_{n-1}。

③も同じ構図だ。このとき C の底にはすでに最大円盤が置かれているが、これも床とみなせるので、動かすのはB にある n−1n{-}1 枚だけ。すなわち③は「n−1n{-}1 枚を B から C へ移す」というやはり n−1n{-}1 枚の問題で、手数は an−1a_{n-1}。しかも③に入る時点で、B の n−1n{-}1 枚は①でルールを守って動かした結果大きいものほど下に正しく積まれており、そのまま次の問題の初期配置になっている。

こうして nn 枚の問題は、同じ形の n−1n{-}1 枚の問題2回ぶんと、最大円盤の 11 手にきれいに分解できた。合わせて、a1=1a_1=1 と

an=2 an−1+1a_n=2\,a_{n-1}+1

という漸化式が立つ。あとはこれを解くだけで、最小手数がぴたりと分かる。

立ちどまって振り返ると、私たちは最大円盤の 11 手のまわりで「nn 枚を n−1n{-}1 枚2つに置きかえる」という一段の分解をしただけで、実際の手順を一手ずつ具体的にたどってはいない。同じ形の一回り小さい問題に帰着させ、その関係を式にしたものが漸化式である。この「自分より小さい同じ問題に投げてしまう」考え方(再帰)のおかげで、あとで見る 264−12^{64}-1 という天文学的な手数さえ、頭の中で操作を全部並べることなく求められる。ここにこの問題の難しさと、それを飼いならす漸化式の強さがある。裏を返せば、この分解が一通りに定まるからこそきれいに解けたのであって、分解の仕方に選択肢が生まれたとたんに問題は難しくなる(最後のコラムで触れる杭 44 本以上が、まさにその例である)。

2. 解く:習った二項間漸化式の手順がそのまま使える

an=2an−1+1a_n=2a_{n-1}+1 は、隣り合う2項を結ぶ二項間漸化式である。授業で習った特性方程式1漸化式 an=pan−1+qa_n=pa_{n-1}+q の an, an−1a_n,\ a_{n-1} をともに α\alpha に置きかえた方程式 α=pα+q\alpha=p\alpha+q のこと。高校数学で、この型の漸化式を等比数列に直すときに使う。下の脚注へを使う手順をそのままなぞろう。まず、漸化式の ana_n と an−1a_{n-1} をともに α\alpha に置きかえた方程式 α=2α+1\alpha=2\alpha+1 を解くと α=−1\alpha=-1。この α\alpha を代入した式

−1=2⋅(−1)+1-1 = 2\cdot(-1)+1

を、もとの漸化式 an=2an−1+1a_n=2a_{n-1}+1 から辺々引くと、じゃまな定数 +1+1 が消えて

an−(−1)=2{an−1−(−1)},すなわち an+1=2 (an−1+1)\begin{aligned}a_n-(-1)&= 2\{a_{n-1}-(-1)\},\\\text{すなわち}\ a_n+1&= 2\,(a_{n-1}+1)\end{aligned}

となる。ここで bn:=an+1b_n:=a_n+1 とおくと bn=2 bn−1b_n=2\,b_{n-1}、つまり数列 {bn}\{b_n\} は公比 22 の等比数列をなす。初項は b1=a1+1=2b_1=a_1+1=2 だから bn=2⋅2 n−1=2 nb_n=2\cdot 2^{\,n-1}=2^{\,n}、よって an+1=2 na_n+1=2^{\,n}、すなわち

an=2 n−1a_n=2^{\,n}-1

試しに漸化式 an=2an−1+1a_n=2a_{n-1}+1 を、a1=1a_1=1 から手でたどってみよう:

a2=2⋅1+1=3,a3=2⋅3+1=7,a4=2⋅7+1=15,a5=2⋅15+1=31, …\begin{aligned}&a_2=2\cdot1+1=3,\quad a_3=2\cdot3+1=7,\quad a_4=2\cdot7+1=15,\\&a_5=2\cdot15+1=31,\ \dots\end{aligned}

たしかに 2n−12^n-1(1,3,7,15,31,…1,3,7,15,31,\dots)とぴたり一致する。図の 44 枚なら 24−1=152^4-1=15 手だ。

コラム:これは「最小」なのか

2n−12^n-1 手で移せるのは上で示したとおり。実はこれが最小でもある。最大円盤はどこかで必ず最低1回は動かねばならず、その瞬間には残り n−1n{-}1 枚が1本の杭に退避しきっていなければならない。最大円盤を初めて動かすまでに「n−1n{-}1 枚を1本の杭へどける」のに最低 an−1a_{n-1} 手、最後に動かして C に置いた瞬間にも残り n−1n{-}1 枚は1本の杭に集まっているので、そこから「n−1n{-}1 枚を C へ戻す」のにまた最低 an−1a_{n-1} 手が要る(前者は初めて動かす前、後者は最後に動かした後なので重ならない)。だからan≥2an−1+1a_n\ge 2a_{n-1}+1。到達可能な 2n−12^n-1 が、同時に下限でもある。

3. 伝説:「ハノイの塔」と世界の寿命

ここまで「33 本の杭に円盤を積みかえるパズル」と呼んできたが、これにはハノイの塔という名前がある。18831883 年にフランスの数学者リュカ(É. Lucas)が考案して玩具として売り出したもので2リュカは「N.N. Claus(de Siam)=シャムのクラウス教授」という偽名で発売した。これは本名Lucas d'Amiens(アミアンのリュカ)などのアナグラムである。下に述べる「ベナレスの寺院で 6464 枚の黄金円盤を移し終えると世界が終わる」という伝説は、この玩具に同梱されたリーフレットに記されていたものである。出典:ウィキペディア日本語版「ハノイの塔」(20262026 年 77 月 2222 日閲覧)。下の脚注へ、その商品には次の言い伝えが添えられていた。ある寺院で僧たちが 6464 枚の黄金円盤を(このパズルと同じ規則で)休みなく移し続けており、それを移し終えたとき世界が終わる、というのである。必要な手数は

a64=264−1=18,446,744,073,709,551,615≈1.8×1019 (手).\begin{aligned}a_{64}&=2^{64}-1\\&=18{,}446{,}744{,}073{,}709{,}551{,}615\\&\approx 1.8\times10^{19}\ (\text{手}).\end{aligned}

毎秒 11 手で休まず動かしても約 5850\mathbf{5850}億年。宇宙の年齢(約 138138 億年)の40倍以上かかる。つまり、たとえ僧が一手も休まず動かし続けても、私たちが生きているあいだに終わってしまう心配はまずない。円盤が 11 枚増えるたびに手数が約2倍になる(指数の爆発)のが、この途方もない大きさを生んでいる。

枚数 nn112233551010202030306464
手数 2n−12^n-1113377313110231023約10610^6約10910^9約1.8×10191.8\times10^{19}

まとめ:ハノイの塔

  1. 「上の n−1n{-}1 枚を避難 → 最大を移動 → n−1n{-}1 枚を戻す」で漸化式 an=2an−1+1a_n=2a_{n-1}+1。
  2. an+1a_n+1 が公比 22 の等比数列 → an=2n−1a_n=2^n-1。これは達成値かつ最小。
  3. 11 枚増えると手数は約2倍(指数爆発)。6464 枚で ≈1.8×1019\approx1.8\times10^{19} 手=宇宙年齢の40倍超。

コラム:杭を増やすと?(4本以上のハノイの塔)

杭が 33 本だと最小 2n−12^n-1 手だった。杭を増やすと、よけておく円盤を複数の杭に分散できるぶん、もっと少ない手数で済む。とくに杭が n+1n{+}1 本以上あれば、上の n−1n{-}1 枚を11 枚ずつ別々の空き杭にのけられるので、「n−1n{-}1 枚をのける(n−1n{-}1 手)→ 最大円盤を移す(11 手)→ n−1n{-}1 枚を戻す(n−1n{-}1 手)」で、合わせて2n−12n-1 手で完成する(たとえば杭 44 本・円盤 33 枚なら 2⋅3−1=52\cdot3-1=5 手)。指数の 2n−12^n-1 が一気に11 次式 2n−12n-1 まで小さくなるのは劇的だ。

では、杭 44 本で円盤がもっと多いときの最小手数は? じつはこれは 33 本のときのようなきれいな公式にはならず、最小手数を求める問題はずっと難しくなる。退避先が複数あると、さきほどの「小さい問題への分解」が一通りに決まらず、上の何枚を・どの空き杭へ・どうよけるかに選択肢が生まれて、どの分け方が最短かを別に探さねばならないからだ(33 本のとき再帰がそのまま最小手数を与えたのは、分解が一意だったからにほかならない)。実際、杭 44 本の最小手数がようやく証明されたのは 20142014 年のことで344 本以上での最短手順の候補は 19411941 年に J. S. Frame と B. M. Stewart が独立に与えたが(Frame–Stewart のアルゴリズム)、それが本当に最小だという証明は長く未解決だった。杭 44 本についてはT. Bousch が 20142014 年に解決した(“La quatrième tour de Hanoï,” Bull. Belg. Math. Soc. Simon Stevin 21 (2014), 895–912)。55 本以上での最適性はいまも未解決である(Frame–Stewart 予想)。下の脚注へ、55 本以上ではいまも完全には決着していない。身近なパズルの一歩先に、まだ研究されている問題が広がっている。

1 漸化式 an=pan−1+qa_n=pa_{n-1}+q の an, an−1a_n,\ a_{n-1} をともに α\alpha に置きかえた方程式 α=pα+q\alpha=p\alpha+q のこと。高校数学で、この型の漸化式を等比数列に直すときに使う。

2 リュカは「N.N. Claus(de Siam)=シャムのクラウス教授」という偽名で発売した。これは本名Lucas d'Amiens(アミアンのリュカ)などのアナグラムである。下に述べる「ベナレスの寺院で 6464 枚の黄金円盤を移し終えると世界が終わる」という伝説は、この玩具に同梱されたリーフレットに記されていたものである。出典:ウィキペディア日本語版「ハノイの塔」(20262026 年 77 月 2222 日閲覧)。

3 44 本以上での最短手順の候補は 19411941 年に J. S. Frame と B. M. Stewart が独立に与えたが(Frame–Stewart のアルゴリズム)、それが本当に最小だという証明は長く未解決だった。杭 44 本についてはT. Bousch が 20142014 年に解決した(“La quatrième tour de Hanoï,” Bull. Belg. Math. Soc. Simon Stevin 21 (2014), 895–912)。55 本以上での最適性はいまも未解決である(Frame–Stewart 予想)。

塾の授業で配った補足資料をもとに書き直しました。

← 塾講師木下の記事一覧へ