確率論入門 第11章 §11.3 ★★ 確率収束を L1 収束(期待値の収束)へ格上げする条件は、一様可積分性とちょうど一致する(Vitali の定理)。優収束定理の仮定を弱めた形として使う
確率収束から期待値の収束 E[Xn]→E[X] を引き出したい場面は多い。たとえば第12章の弱法則で XˉnPμ を得たとき、次まで言えるかどうかが問題になる。
EXˉn−μ→0
§11.2 の反例 (b) Xn=n1(0,1/n) が示すように、確率収束(さらに概収束)しても期待値は収束するとは限らない。原因は、確率が小さい事象の上に大きな値が乗り、その積(期待値への寄与)が番号によらず残ることにある。この寄与を列全体で一様に小さく抑える条件が一様可積分性である。
優収束定理を確率収束へ広げる
まず第5章 §5.2 の優収束定理を、概収束から確率収束の仮定へ広げておく。
命題 11.11(確率収束の優収束定理)
XnPX とする。さらに可積分な Y があって、すべての番号で ∣Xn∣≤Y a.s. とする。このとき極限 X は可積分で、次が成り立つ。
E[∣Xn−X∣]→0,とくにE[Xn]→E[X]
証明
an=E[∣Xn−X∣] と置く。
- 極限は可積分である。定理 11.8 から、概収束する部分列 Xnk→X がとれる。不等式 ∣Xnk∣≤Y は極限でも保たれるので、∣X∣≤Y a.s. である。よって極限は可積分である。
- 方針。an→0 を示すため、任意の部分列 (ank) が、0 に収束する部分列をさらに持つことを示す。実数列についてこれが成り立てば、列全体が 0 に収束する。収束しないなら、ある ε>0 について、ank≥ε となる部分列がとれる。その部分列は 0 に収束する部分列を持てないからである。
- 部分列の部分列で優収束定理を使う。系 11.9 から、概収束する部分列 Xnkj→X がとれる。差は Xnkj−X≤2Y を満たし、右辺は可積分である。第5章 §5.2 の優収束定理から
ankj=EXnkj−X→0
である。
優収束定理は、裏返すと次のように使うこともできる。概収束するのにずれの期待値 E∣Xn−X∣ が 0 に収束しないなら、上限 supn∣Xn∣ は可積分でありえない。可積分なら、それを優関数にとれば命題が使えるからである。
反例 (b) で確かめる。ω∈[m+11,m1)(m≥1)とする。Xn(ω)=n となるのは n≤m のときである。よって上限は m である。したがって
E[nsupXn]=m=1∑∞m(m1−m+11)=m=1∑∞m+11=∞
となり、確かに優関数は存在しない。しかし優関数が存在しなくても期待値が収束する列はある(確認テスト 11.3-3)。必要十分な条件を求めるのがこの節の目標である。
一様可積分性
1つの可積分な X について、関数 ∣X∣1{∣X∣>K} を考える。これは K→∞ で各点 0 に近づき、∣X∣ で押さえられる。よって優収束定理から
E[∣X∣;∣X∣>K]→0(K→∞)(11.13)
である。ここで E[X;A]=E[X1A] は第5章の記号である。これを列全体で一様に要求したものが次の定義である。
定義 11.12(一様可積分)
可積分な確率変数の族 {Xn} が
K→∞limnsupE[∣Xn∣;∣Xn∣>K]=0(11.14)
を満たすとき、{Xn} は一様可積分であると言う。
反例 (b) の Xn=n1(0,1/n) では、n>K について次が成り立つ。
E[Xn;Xn>K]=E[Xn]=1
よって番号についての上限は常に 1 であり、一様可積分でない。各項ごとには (11.13) が成り立っている。しかし「K をどこまで大きくしても、さらに先の番号では K を超える値が期待値 1 を運んでいる」。このことが一様可積分性を壊している。
一様可積分性は、次の2つの条件に言い換えることができる。(b) は、確率の小さい事象の上での期待値が、列全体で一様に小さいという条件である。
命題 11.13(一様可積分性の言い換え)
{Xn} が一様可積分であることと、次の2条件が両方成り立つことは同値である。
- (a) supnE[∣Xn∣]<∞。
- (b) 任意の ε>0 について、ある δ>0 が存在して次が成り立つ。P(A)<δ を満たすすべての事象とすべての番号について
E[∣Xn∣;A]<ε
証明
一様可積分ならば (a)(b):任意の事象 A と正の数 K をとる。事象 A を、∣Xn∣ がこの数以下の部分と、超える部分に分けると
E[∣Xn∣;A]≤KP(A)+E[∣Xn∣;∣Xn∣>K](11.15)
である。
- (a) を示す。A=Ω と置く。(11.14) で第2項の番号についての上限が 1 以下になる K を選ぶ。すると
nsupE∣Xn∣≤K+1<∞
となる。
- (b) を示す。正の数 ε を与える。第2項の番号についての上限が ε/2 未満になるように、K を選ぶ。そのうえで δ=ε/(2K) と置く。P(A)<δ のとき、右辺は ε 未満になる。
(a)(b) ならば一様可積分:C=supnE∣Xn∣ と置く。Markov の不等式から、すべての番号で次が成り立つ。
P(∣Xn∣>K)≤KC
ε>0 に対して (b) の δ をとる。そのうえで K>C/δ とする。すると事象 A={∣Xn∣>K} は、すべての番号で P(A)<δ を満たす。よって (b) から、すべての番号で次が成り立つ。
E[∣Xn∣;∣Xn∣>K]<ε
一様可積分性を確かめるための十分条件をまとめておく。
命題 11.14(一様可積分の十分条件)
次のどれかが成り立てば {Xn} は一様可積分である。
- (i) 有限個の可積分な確率変数からなる族である。
- (ii) 可積分な Y があって、すべての番号で ∣Xn∣≤Y である。
- (iii) 非負の関数 ϕ で、無限遠で ϕ(x)/x→∞ となるものについて、次が成り立つ。
nsupE[ϕ(∣Xn∣)]<∞
とくに、ある r>1 について supnE[∣Xn∣r]<∞ なら一様可積分である。
証明
(i):各項について (11.13) が成り立つ。有限個の最大値も K→∞ で 0 に近づく。
(ii):{∣Xn∣>K}⊂{Y>K} であり、その上で ∣Xn∣≤Y である。よって
E[∣Xn∣;∣Xn∣>K]≤E[Y;Y>K]
である。右辺は番号によらず、(11.13) から K→∞ で 0 に近づく。
(iii):次のように置く。
C=nsupE[ϕ(∣Xn∣)],cK=x>Ksupϕ(x)x
仮定 ϕ(x)/x→∞ から cK→0 である。事象 {∣Xn∣>K} の上では ∣Xn∣≤cKϕ(∣Xn∣) なので
E[∣Xn∣;∣Xn∣>K]≤cKE[ϕ(∣Xn∣)]≤cKC→0
である。ϕ(x)=xr なら cK=K1−r で、次の評価になる。
E[∣Xn∣;∣Xn∣>K]≤Kr−1E[∣Xn∣r]
(iii) で r=1 では足りない。反例 (b) は E∣Xn∣=1 なので L1 有界であるが、一様可積分でない。L1 有界は条件 (a) にすぎず、(b) を保証しない。
Vitali の定理
定理 11.15(Vitali の収束定理)
列の各項は可積分で、XnPX とする。次の3つは同値である。
- (i) {Xn} は一様可積分である。
- (ii) X は可積分で、XnL1X。
- (iii) X は可積分で、E[∣Xn∣]→E[∣X∣]。
証明
(i)⇒(ii):まず極限が可積分であることを示す。定理 11.8 から、概収束する部分列 Xnk がとれる。Fatou の補題(第5章 §5.2)と命題 11.13 (a) から
E∣X∣=E[kliminf∣Xnk∣]≤kliminfE∣Xnk∣≤nsupE∣Xn∣<∞
である。次に ε>0 を固定し、An={∣Xn−X∣>ε} と置く。差は次のように押さえられる。
- Anc の上では ∣Xn−X∣≤ε である。
- An の上では ∣Xn−X∣≤∣Xn∣+∣X∣ である。
よって
E∣Xn−X∣≤ε+E[∣Xn∣;An]+E[∣X∣;An]
である。命題 11.13 (b) を、列と(1つの可積分な)極限の両方に使い、共通の δ をとる。確率収束から、番号が十分大きければ P(An)<δ となる。よって第2項と第3項はともに ε 未満になり、E∣Xn−X∣<3ε を得る。
(ii)⇒(iii):三角不等式 ∣Xn∣−∣X∣≤∣Xn−X∣ から
E∣Xn∣−E∣X∣≤E∣Xn−X∣→0
である。
(iii)⇒(i):K≥2 について、連続関数を
ψK(x)=⎩⎨⎧∣x∣(K−1)(K−∣x∣)0(∣x∣≤K−1)(K−1<∣x∣<K)(∣x∣≥K)
と定める。これは ∣x∣ を K−1 までそのまま使い、そこから先は直線的に 0 へ落とした関数である。グラフから次の2つが読み取れる。
- 0≤ψK(x)≤∣x∣ である。∣x∣≤K−1 では等号が成り立つ。したがって
∣x∣1{∣x∣>K}≤∣x∣−ψK(x)≤∣x∣1{∣x∣>K−1}.(11.16)
- ψK は有界(≤K−1)である。傾きの絶対値が K−1 以下なので、次を満たす。
∣ψK(x)−ψK(y)∣≤(K−1)∣x−y∣
2つ目から、∣ψK(Xn)−ψK(X)∣≤(K−1)∣Xn−X∣ である。よって ψK(Xn)PψK(X) である。定数 K−1 を優関数にして命題 11.11 を使うと、次を得る。
E[ψK(Xn)]→E[ψK(X)]
(11.16) の左の不等式と仮定 (iii) から
nlimsupE[∣Xn∣;∣Xn∣>K]≤nlim(E∣Xn∣−E[ψK(Xn)])=E∣X∣−E[ψK(X)]≤E[∣X∣;∣X∣>K−1]
である(最後は (11.16) の右の不等式)。ε>0 を与えて、次の3段で一様可積分性を示す。
- 先の番号を押さえる。(11.13) から E[∣X∣;∣X∣>K0−1]<ε となる K0 を選ぶ。上の評価から、ある N があって、n≥N で次が成り立つ。
E[∣Xn∣;∣Xn∣>K0]<ε
2. 残りの有限個を押さえる。X1,…,XN−1 については、命題 11.14 (i) から K1 をとれる。その K1 で、これらの項について E[∣Xn∣;∣Xn∣>K1]<ε とできる。3. まとめる。K≥max(K0,K1) なら、すべての番号で次が成り立つ。
E[∣Xn∣;∣Xn∣>K]<ε
よって列は一様可積分である。
要点
確率収束する可積分な列について、
一様可積分⟺L1 収束⟺E∣Xn∣→E∣X∣ (<∞).
優収束定理(命題 11.11)は、命題 11.14 (ii) を通してこの定理の特別な場合になる。非負の列では、(iii) は E[Xn]→E[X]<∞ と同じである。よって「確率収束して期待値も収束すれば L1 収束する」が成り立つ。
確認テスト 11.2-2 の列 Xn=na1(0,1/n) でこの定理を確かめる。切り捨てた期待値は次のとおりである。
E[Xn;Xn>K]={E[Xn]=na−10(na>K)(na≤K)
よって
nsupE[Xn;Xn>K]=n>K1/asupna−1
である。
- a<1 なら、これは K→∞ で 0 に近づく。よって一様可積分である。
- a≥1 なら、これは 0 に近づかない。よって一様可積分でない。
列は 0 に概収束するので、Vitali の定理から L1 収束の条件は a<1 である。これは直接の計算と一致する。
E[Xn]=na−1→0⟺a<1
例題 11.3 標本平均の一様可積分性 ★★
オリジナルX1,X2,… を独立同分布で可積分とする。期待値と標本平均を次のように置く。
μ=E[X1],Xˉn=n1i=1∑nXi
- (1) {Xˉn} が一様可積分であることを、命題 11.13 の (a)(b) を確かめて示せ。
- (2) 第12章で示す弱法則 XˉnPμ(可積分だけを仮定した形)を認める。そのうえで次を示せ。
EXˉn−μ→0
3. (3) X1 の分布を次で定める。
P(X1>x)=x−3/2(x≥1)
K≥1 について E[X1;X1>K] を計算せよ。また E[X12]=∞ を確かめよ。この場合に (2) が Chebyshev の不等式による証明で代えられない理由を述べよ。
解答
(1) (a):すべての番号で次が成り立つ。
EXˉn≤n1i∑E∣Xi∣=E∣X1∣
(b):ε>0 を与える。各項は X1 と同分布である。しかし事象 A の上の期待値 E[∣Xi∣;A] は、この確率変数と事象の同時分布による。
よって同分布だけから直接に評価することはできない。そこで (11.15) の形で評価する。
K を E[∣X1∣;∣X1∣>K]<ε/2 となるように選ぶ。この期待値は分布だけで決まるので、同分布からすべての i で次が成り立つ。
E[∣Xi∣;∣Xi∣>K]=E[∣X1∣;∣X1∣>K]<2ε
(11.15) から
E[∣Xi∣;A]≤KP(A)+2ε
である。δ=ε/(2K) と置く。P(A)<δ のときは、すべての添字で E[∣Xi∣;A]<ε となる。したがって
E[Xˉn;A]≤n1i=1∑nE[∣Xi∣;A]<ε
がすべての番号で成り立つ。(a)(b) から標本平均の列は一様可積分である。
(2) 弱法則 XˉnPμ と (1) を合わせる。Vitali の定理 (i)⇒(ii) により、EXˉn−μ→0 である。
(3) 密度は f(x)=23x−5/2(x≥1)である。
E[X1;X1>K]=∫K∞x⋅23x−5/2dx=23∫K∞x−3/2dx=23⋅2K−1/2=3K−1/2
で、K=1 と置くと E[X1]=3 である。一方、2乗の期待値は発散する。
E[X12]=23∫1∞x−1/2dx=∞
Chebyshev の不等式による弱法則の証明は、V[Xˉn]=V[X1]/n→0 を使う。よって分散が無限大のこの分布には使えない。(1)(2) の議論は1次のモーメントしか使わない。よってこの場合にも、弱法則を認めた上で EXˉn−3→0 が成り立つ。
確認テスト
オリジナル
- 11.3-1 Xn∼N(μn,σn2) とし、次を仮定する。
nsup∣μn∣<∞,nsupσn<∞
この列が一様可積分であることを示せ。2. 11.3-2 列の分布を次で定める。
P(Xn=n)=n−3/2,P(Xn=0)=1−n−3/2
2つの期待値 E[Xn3/2]、E[Xn2] を求めよ。この列が一様可積分であることを、命題 11.14 (iii) で示せ。L2 有界でないことも確かめよ。3. 11.3-3 Ω=(0,1) に Lebesgue 測度を入れる。n≥2 について次のように置く。
Xn=lognn1(0,1/n)
(a) E[Xn;Xn>K] を計算して、次を示せ。それによって、この列が一様可積分であることを確かめよ。
nsupE[Xn;Xn>K]→0(K→∞)
(b) E[supnXn]=∞ を示し、可積分な優関数が存在しないことを確かめよ。4. 11.3-4 X1,X2,… を同分布で可積分とする(独立性は仮定しない)。次を示せ。
n1E[i≤nmax∣Xi∣]→0
独立な Ex(1) の列については、次の等式が成り立つ。これを用いて、この比が 0 に近づく速さを確かめよ。
E[i≤nmaxXi]=k=1∑nk1
5. 11.3-5 2つの列 {Xn}、{Yn} がともに一様可積分とする。和の列 {Xn+Yn} も一様可積分であることを示せ。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com