tecktom.com

スタビライザー形式

2026年10月15日9分で読めますAI生成教科書『基礎理論』第2章 量子誤り訂正とフォールトトレラント計算
目次
  1. 準備:群論の最小限
  2. Pauli群
  3. スタビライザーと固定部分空間
  4. 例1:EPR状態
  5. 例2: を生成元から決める
  6. が非自明であるための条件
  7. 検査行列表現
  8. 固定空間の次元: 次元定理
  9. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

量子情報入門 第2章 §2.6

CSS符号よりもさらに広いクラスの符号を統一的に扱うのがスタビライザー形式である。その中心的な着想は「状態ベクトルそのものではなく、状態を固定する演算子の集合で量子状態を記述する」というものだ。この視点の転換は単に符号の記述を簡潔にするだけでなく、誤り・ゲート・測定のすべてを統一的な代数の言葉で扱うことを可能にし、さらにGottesman–Knill定理という量子計算の本性に関わる副産物まで生む。本章では、必要な群論の言葉を最小限だけ準備したうえで、形式の全体を一歩ずつ組み上げる。

準備:群論の最小限

以下で使う群論は次の3つの概念だけである。

(i) 群と部分群。集合 GG に結合的な積が定義され、単位元と逆元を持つとき GG を群という。GG の部分集合 SS が同じ積で群をなすとき部分群という。本章の群はすべて行列の積に関する行列の集合である。

(ii) 生成元。群 GG の元の列 g1,…,glg_1,\ldots,g_l の積(繰り返し・順不同を許す)で GG のすべての元が書けるとき、g1,…,glg_1,\ldots,g_l は GG を生成するといい、G=⟨g1,…,gl⟩G=\langle g_1,\ldots,g_l\rangle と書く。生成元による記述の利点は圧縮である:大きさ ∣G∣|G| の群は高々 log⁡2∣G∣\log_2|G| 個の生成元で生成できる(新しい生成元を1つ加えるたびに生成される群のサイズは少なくとも2倍になるため)。さらに、あるベクトルが SS のすべての元で固定されることを確かめるには生成元で固定されることだけ確かめれば十分である——積で書ける元による固定は自動的に従う。この2点が、以下で 2n2^n 次元の状態を nn 個程度の演算子で記述できるカラクリの正体である。

(iii) 共役。UgU†U g U^\dagger の形の変換を(UU による)共役という。ユニタリ発展のもとでの演算子の変換がちょうどこの形になることを、次章で徹底的に使う。

Pauli群

主役となる群はPauli群である。1量子ビットのPauli群は、Pauli行列に ±1,±i\pm1,\pm i の係数を許した16個の行列の集合

G1≡{±I,±iI, ±X,±iX, ±Y,±iY, ±Z,±iZ}G_1 \equiv \{\pm I,\pm iI,\ \pm X,\pm iX,\ \pm Y,\pm iY,\ \pm Z,\pm iZ\}

である。「なぜ ±1,±i\pm1,\pm i を付けるのか」と思うかもしれないが、これは積で閉じるために必要である:たとえば XY=iZXY=iZ、ZX⋅XZ=−Y⋅(−Y)ZX \cdot XZ = -Y\cdot(-Y) 等、Pauli行列同士の積には ±i\pm i が自然に発生するので、係数を許さないと群にならない。nn 量子ビットのPauli群 GnG_n は、Pauli行列の nn 重テンソル積に同じく ±1,±i\pm1,\pm i の係数を許したものとして定義する。GnG_n の重要な性質は、任意の2元が可換または反可換のいずれかであること(各テンソル因子の可換・反可換の符号の積で決まる)、および係数 ±i\pm i の付かない元は g2=Ig^2=I を満たすことである。

スタビライザーと固定部分空間

定義 (スタビライザー)

SS を GnG_n の部分群とする。SS のすべての元 gg に対して g∣ψ⟩=∣ψ⟩g\ket\psi=\ket\psi を満たす状態 ∣ψ⟩\ket\psi の全体を VSV_S と書き、SS にスタビライズされる部分空間と呼ぶ。SS を VSV_S のスタビライザーという。

VSV_S が部分空間になること(∣ψ⟩,∣ϕ⟩∈VS\ket\psi,\ket\phi\in V_S なら任意の線形結合も VSV_S)、および VSV_S が各元の固有値 +1+1 固有空間の共通部分であることは、定義から直ちに確かめられる。

例1:EPR状態

∣ψ⟩=(∣00⟩+∣11⟩)/2\ket\psi=(\ket{00}+\ket{11})/\sqrt2 は X1X2∣ψ⟩=∣ψ⟩X_1X_2\ket\psi=\ket\psi かつ Z1Z2∣ψ⟩=∣ψ⟩Z_1Z_2\ket\psi=\ket\psi を満たす(直接計算)。実はこの2つの演算子で固定される状態は(全体位相を除き)∣ψ⟩\ket\psi ただ一つである。すなわち「222^2 個の複素振幅」の代わりに「2個の演算子 X1X2,Z1Z2X_1X_2, Z_1Z_2」でこの状態は完全に指定できる。

例2:VSV_S を生成元から決める

n=3n=3、S=⟨Z1Z2, Z2Z3⟩S=\langle Z_1Z_2,\ Z_2Z_3\rangle とする(SS の元は I,Z1Z2,Z2Z3,Z1Z3I, Z_1Z_2, Z_2Z_3, Z_1Z_3 の4つ;たとえば Z1Z3=(Z1Z2)(Z2Z3)Z_1Z_3=(Z_1Z_2)(Z_2Z_3))。Z1Z2Z_1Z_2 の +1+1 固有空間は「第1・2ビットのパリティが偶」の空間で ∣000⟩,∣001⟩,∣110⟩,∣111⟩\ket{000},\ket{001},\ket{110},\ket{111} が張る。Z2Z3Z_2Z_3 の +1+1 固有空間は ∣000⟩,∣100⟩,∣011⟩,∣111⟩\ket{000},\ket{100},\ket{011},\ket{111} が張る。共通部分は

VS=span{∣000⟩, ∣111⟩}V_S = \mathrm{span}\{\ket{000},\ \ket{111}\}

——3量子ビットビット反転符号の符号空間そのものである。第10章で「Z1Z2Z_1Z_2 と Z2Z3Z_2Z_3 を測る」と述べた症候測定の正体は、スタビライザー生成元の測定だったのである。

VSV_S が非自明であるための条件

どんな部分群 SS でも役に立つわけではない。たとえば S={±I,±X}S=\{\pm I,\pm X\} を考えると、−I∣ψ⟩=∣ψ⟩-I\ket\psi=\ket\psi を満たすのは ∣ψ⟩=0\ket\psi=0 だけなので VS={0}V_S=\{0\}(自明)。VS≠{0}V_S\neq\{0\} のために必要な条件が次の2つである:

  1. (a) SS の元はすべて可換である。
  2. (b) −I∉S-I\notin S。

必要性の証明は短い。VSV_S に零でない ∣ψ⟩\ket\psi があるとし、M,N∈SM,N\in S が反可換だと仮定すると

−∣ψ⟩=−NM∣ψ⟩=MN∣ψ⟩=∣ψ⟩-\ket\psi = -NM\ket\psi = MN\ket\psi = \ket\psi

(M,NM,N がともに ∣ψ⟩\ket\psi を固定することを両端で使った)。よって ∣ψ⟩=0\ket\psi=0 となり矛盾——GnG_n の2元は可換か反可換しかないので、(a)が従う。(b)は −I∣ψ⟩=∣ψ⟩-I\ket\psi=\ket\psi が直ちに矛盾を与える。実はこの2条件は十分でもあり、次小節で次元まで込めて示す。なお −I∉S-I\notin S から ±iI∉S\pm iI\notin S、さらに SS のすべての元が g2=Ig^2=I(したがって g†=gg^\dagger=g、Hermite)を満たすことも従う。以降、スタビライザーは常に「独立で可換な生成元により生成され −I∉S-I\notin S」という規約で扱う。

検査行列表現

生成元の独立性(gig_i をどれか1つ除くと生成される群が真に小さくなること)や可換性を機械的に判定する道具が検査行列である。g∈Gng\in G_n(係数因子は無視)に対し 2n2n 次元の行ベクトル r(g)r(g) を、

第 j 成分={1g の第 j ビットが X か Y0それ以外,第 n+j 成分={1g の第 j ビットが Z か Y0それ以外\text{第 } j \text{ 成分} = \begin{cases}1 & g \text{ の第 } j \text{ ビットが } X \text{ か } Y\\ 0&\text{それ以外}\end{cases},\qquad \text{第 } n{+}j \text{ 成分} = \begin{cases}1 & g \text{ の第 } j \text{ ビットが } Z \text{ か } Y\\ 0&\text{それ以外}\end{cases}

で定める(左半分が「XX 成分」、右半分が「ZZ 成分」;Y=iXZY=iXZ は両側に 11)。生成元 g1,…,glg_1,\ldots,g_l を並べた l×2nl\times2n 行列が検査行列である。この表現の要点は2つ:

(i) 積は和になる:r(g)+r(g′)=r(gg′)r(g)+r(g')=r(gg')( mod  2\bmod\,2;係数因子を除く)。群の積がベクトルの加法に写る。

(ii) 可換性は「ねじれた内積」で判る:2n×2n2n\times2n 行列

Λ=(0II0)(I は n×n)\Lambda = \begin{pmatrix}0&I\\ I&0\end{pmatrix} \qquad(I \text{ は } n\times n)

を使うと、g,g′g,g' が可換   ⟺  r(g) Λ r(g′)T=0(mod2)\iff r(g)\,\Lambda\,r(g')^T = 0 \pmod 2。左辺は「gg の XX と g′g' の ZZ が同じ場所で衝突する回数+その逆」の偶奇を数えており、XX と ZZ の衝突1回ごとに反可換の符号が1つ出ることの帳簿である(Steane符号の6生成元・全ペアについてこの判定則が実際の行列の可換性と一致することを数値確認済み)。

これらから、独立性の判定が線形代数に落ちる:

命題

−I∉S=⟨g1,…,gl⟩-I\notin S=\langle g_1,\ldots,g_l\rangle のとき、g1,…,glg_1,\ldots,g_l が独立   ⟺  \iff 検査行列の行が  mod  2\bmod\,2 で線形独立。

(i)より行の従属 ∑iair(gi)=0\sum_ia_ir(g_i)=0 は ∏igiai=±I\prod_ig_i^{a_i}=\pm I を意味し、−I∉S-I\notin S より =I=I、すなわちある生成元が他の積で書けることと同値だからである。Steane符号の検査行列(第13章の HH を左右ブロックに配したもの)は  mod  2\bmod\,2 でランク6であり、6生成元の独立性が機械的に確認できる(数値確認済み)。

固定空間の次元:2k2^k 次元定理

命題 2.4

S=⟨g1,…,gl⟩S=\langle g_1,\ldots,g_l\rangle、生成元は独立、−I∉S-I\notin S とする。任意の ii に対し、ggig†=−gigg_ig^\dagger=-g_i かつ ggjg†=gjgg_jg^\dagger=g_j(j≠ij\neq i)を満たす g∈Gng\in G_n が存在する。

つまり「狙った生成元1つだけの符号を反転させる」Pauli演算子が必ず見つかる。証明は検査行列の面目躍如で、行が独立なら GΛx=eiG\Lambda x=e_i(eie_i は第 ii 単位ベクトル)を満たす xx が解け、r(g)=xTr(g)=x^T なる gg が所望のものになる。この命題は後で、症候の符号合わせ・論理演算子の構成・次元の証明と、繰り返し使われる。

命題

S=⟨g1,…,gn−k⟩S=\langle g_1,\ldots,g_{n-k}\rangle(n−kn-k 個の独立・可換な生成元、−I∉S-I\notin S)のとき、VSV_S は 2k2^k 次元である。

証明の鍵は射影子の明示式である。(I+gj)/2(I+g_j)/2 は gjg_j の +1+1 固有空間への射影子なので、VSV_S への射影子は

PS=∏j=1n−kI+gj2P_S = \prod_{j=1}^{n-k}\frac{I+g_j}{2}

と書ける。より一般に符号ベクトル x∈{0,1}n−kx\in\{0,1\}^{n-k} に対し PSx=∏jI+(−1)xjgj2P_S^x=\prod_j\frac{I+(-1)^{x_j}g_j}{2} とおくと、命題2.4により各 PSxP_S^x は PS=PS0⋯0P_S=P_S^{0\cdots0} とユニタリ共役(同じ次元)で、異なる xx どうしは直交し、しかも ∑xPSx=I\sum_xP_S^x=I。2n−k2^{n-k} 個の同次元の直交射影子が 2n2^n 次元を埋め尽くすのだから、各々の次元は 2n/2n−k=2k2^n/2^{n-k}=2^k。直観的には「独立な生成元を1つ課すたびに空間が半分になる」(±1\pm1 固有空間が半々)ということである。

これで役者が揃った:n−kn-k 個の生成元は 2k2^k 次元の符号空間を定め、そこに kk 量子ビットを符号化できる。

木下の勉強ステータス

木下はまだこの記事を勉強していません。

AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com

← AI生成教科書『基礎理論』の記事一覧へ