なぜ波長によって屈折率が違うのか(分散)
問いは木下が出したもので、答えは Claude Code と調べて書いたものです。
なんで波長で屈折率が違うんだっけ
答え:物質中の電子が「固有振動数を持つバネ」として光に揺さぶられ、その応答の大きさが振動数で変わるから
屈折率は「物質の中で光がどれだけ遅くなるか」の比である。光が遅くなるのは、光の電場が物質中の電子を揺さぶり、揺れた電子が二次的な光を出し、それが元の光と重なって位相が遅れた波になるからである。したがって屈折率は「電子がどれだけ大きく揺れるか(分極のしやすさ)」で決まる。
電子は原子核に束縛されているので、バネにつながれたおもり(ローレンツモデル)として扱える。このバネには固有の共鳴角振動数 ω 0 \omega_0 ω 0 がある。外から角振動数 ω \omega ω の電場で揺さぶると、強制振動の振幅は 1 ω 0 2 − ω 2 \dfrac{1}{\omega_0^2-\omega^2} ω 0 2 − ω 2 1 に比例する(減衰を無視した場合)。その結果、屈折率は
n 2 ( ω ) = 1 + N e 2 ε 0 m 1 ω 0 2 − ω 2 n^2(\omega) = 1 + \frac{Ne^2}{\varepsilon_0 m}\,\frac{1}{\omega_0^2-\omega^2} n 2 ( ω ) = 1 + ε 0 m N e 2 ω 0 2 − ω 2 1
となり、振動数(=波長)に依存する。ガラスや水では ω 0 \omega_0 ω 0 が紫外域にあるので、可視光は共鳴より下で揺さぶっている。可視光の中で振動数が高い(波長が短い)青ほど ω \omega ω が ω 0 \omega_0 ω 0 に近づいて分母が小さくなり、電子が大きく揺れて屈折率が大きくなる。これが「青のほうが赤より曲がる」正常分散で、プリズムや虹で色が分かれる理由である。波長で書き直して展開すると経験則のコーシーの式 n ≈ A + B / λ 2 n \approx A + B/\lambda^2 n ≈ A + B / λ 2 が出てくる。
補足:共鳴の近くでは逆転する(異常分散)
ω \omega ω が ω 0 \omega_0 ω 0 のすぐ近くでは減衰項 γ \gamma γ が効いて光が強く吸収され、その帯域では振動数が上がるほど屈折率が下がる「異常分散」が起きる。ガラスが紫外線を通しにくいのはこの吸収のためである。共鳴を越えた高振動数側(X 線など)では電子が追従できず n n n はわずかに 1 を下回る。つまり「波長で屈折率が違う」のは、物質が持つ共鳴の位置と光の振動数の距離が波長ごとに違うことの表れである。
補足:基礎から数式で組み立てる
もっと基礎的な部分から、数学的に構築して、もっとわかりやすく教えて欲しい
全体の筋は「屈折率は分極で決まる → 分極は電子の揺れで決まる → 電子の揺れ方は揺さぶる振動数で変わる」の3段である。
① 屈折率は比誘電率で決まる。 真空のマクスウェル方程式から波動方程式 ∇ 2 E = ε 0 μ 0 ∂ t 2 E \nabla^2 E = \varepsilon_0\mu_0\,\partial_t^2 E ∇ 2 E = ε 0 μ 0 ∂ t 2 E が出て、光速は c = 1 / ε 0 μ 0 c = 1/\sqrt{\varepsilon_0\mu_0} c = 1/ ε 0 μ 0 になる。物質中では電束密度が D = ε 0 E + P D = \varepsilon_0 E + P D = ε 0 E + P になり、分極 P P P が電場に比例して P = ε 0 χ E P = \varepsilon_0\chi E P = ε 0 χ E と書けるなら D = ε 0 ( 1 + χ ) E D = \varepsilon_0(1+\chi)E D = ε 0 ( 1 + χ ) E である。式の中の ε 0 \varepsilon_0 ε 0 が ε 0 ( 1 + χ ) \varepsilon_0(1+\chi) ε 0 ( 1 + χ ) に置き換わるだけなので、速さは v = c / 1 + χ v = c/\sqrt{1+\chi} v = c / 1 + χ 、屈折率は n = c / v = 1 + χ n = c/v = \sqrt{1+\chi} n = c / v = 1 + χ となる。したがって「振動数 ω \omega ω の電場をかけたとき分極 P P P がどれだけ生じるか」が分かれば屈折率が決まる。
② 電子をバネ付きのおもりとして運動方程式を書く。 電子(質量 m m m 、電荷 − e -e − e )は原子核に束縛されており、ずれ x x x に比例する復元力 − m ω 0 2 x -m\omega_0^2 x − m ω 0 2 x を受けるとする。抵抗を − m γ x ˙ -m\gamma\dot x − mγ x ˙ 、光の電場を E = E 0 e − i ω t E = E_0 e^{-i\omega t} E = E 0 e − iω t とすると
m x ¨ = − m ω 0 2 x − m γ x ˙ − e E 0 e − i ω t . m\ddot x = -m\omega_0^2 x - m\gamma\dot x - eE_0 e^{-i\omega t}. m x ¨ = − m ω 0 2 x − mγ x ˙ − e E 0 e − iω t .
定常解を x = x 0 e − i ω t x = x_0 e^{-i\omega t} x = x 0 e − iω t と置くと x ¨ = − ω 2 x \ddot x = -\omega^2 x x ¨ = − ω 2 x 、x ˙ = − i ω x \dot x = -i\omega x x ˙ = − iω x なので
x 0 = − e m E 0 ω 0 2 − ω 2 − i γ ω . x_0 = -\frac{e}{m}\,\frac{E_0}{\omega_0^2 - \omega^2 - i\gamma\omega}. x 0 = − m e ω 0 2 − ω 2 − iγ ω E 0 .
③ 分極にまとめて屈折率を出す。 電子1個の双極子モーメントは p = − e x p = -ex p = − e x 、単位体積あたり N N N 個あるので P = N p = N e 2 m E ω 0 2 − ω 2 − i γ ω P = Np = \dfrac{Ne^2}{m}\,\dfrac{E}{\omega_0^2-\omega^2-i\gamma\omega} P = N p = m N e 2 ω 0 2 − ω 2 − iγ ω E となる。これを P = ε 0 χ E P = \varepsilon_0\chi E P = ε 0 χ E と比べると
χ ( ω ) = ω p 2 ω 0 2 − ω 2 − i γ ω , ω p 2 = N e 2 ε 0 m , n 2 = 1 + χ ( ω ) . \chi(\omega) = \frac{\omega_p^2}{\omega_0^2-\omega^2-i\gamma\omega},\qquad \omega_p^2 = \frac{Ne^2}{\varepsilon_0 m},\qquad n^2 = 1+\chi(\omega). χ ( ω ) = ω 0 2 − ω 2 − iγ ω ω p 2 , ω p 2 = ε 0 m N e 2 , n 2 = 1 + χ ( ω ) .
χ \chi χ に ω \omega ω が入っているので、屈折率は振動数(=波長)で変わる。これが答えの数式としての本体である。
④ 式を読む(γ \gamma γ を無視)。 ゆっくり揺さぶる ω → 0 \omega\to 0 ω → 0 では χ = ω p 2 / ω 0 2 \chi = \omega_p^2/\omega_0^2 χ = ω p 2 / ω 0 2 で、静電場をかけたときと同じ一定値になる。ω \omega ω を上げて ω 0 \omega_0 ω 0 に近づけると分母が小さくなり、電子は大きく揺れ、n n n が大きくなる(ブランコをちょうど良い周期で押すと大きく揺れるのと同じ)。ω = ω 0 \omega = \omega_0 ω = ω 0 付近では分母が − i γ ω -i\gamma\omega − iγ ω だけになり、エネルギーが吸収される。ω ≫ ω 0 \omega \gg \omega_0 ω ≫ ω 0 では慣性が勝って電子は押す向きと逆に少しだけ揺れ、χ < 0 \chi<0 χ < 0 、n < 1 n<1 n < 1 になる。ガラスは ω 0 \omega_0 ω 0 が紫外域にあるので、可視光は「共鳴の手前の、ω \omega ω を上げるほど n n n が上がる区間」にいる。だから青(高振動数)のほうが屈折率が大きい。
⑤ コーシーの式を出す。 ω ≪ ω 0 \omega \ll \omega_0 ω ≪ ω 0 なら 1 ω 0 2 − ω 2 = 1 ω 0 2 ( 1 + ω 2 ω 0 2 + ⋯ ) \dfrac{1}{\omega_0^2-\omega^2} = \dfrac{1}{\omega_0^2}\left(1+\dfrac{\omega^2}{\omega_0^2}+\cdots\right) ω 0 2 − ω 2 1 = ω 0 2 1 ( 1 + ω 0 2 ω 2 + ⋯ ) と展開でき、ω = 2 π c / λ \omega = 2\pi c/\lambda ω = 2 π c / λ を代入すると n 2 ≈ ( 1 + ω p 2 ω 0 2 ) + 4 π 2 c 2 ω p 2 ω 0 4 1 λ 2 n^2 \approx \left(1+\dfrac{\omega_p^2}{\omega_0^2}\right) + \dfrac{4\pi^2c^2\omega_p^2}{\omega_0^4}\,\dfrac{1}{\lambda^2} n 2 ≈ ( 1 + ω 0 2 ω p 2 ) + ω 0 4 4 π 2 c 2 ω p 2 λ 2 1 となる。平方根をとってさらに展開すれば経験則 n ≈ A + B / λ 2 n \approx A + B/\lambda^2 n ≈ A + B / λ 2 になる。
補足:吸収されたら波長が変わるのでは?なぜ速さが変わるのか
エネルギーが物質に吸収されると、波長が変わるんでなくて?なんで光の速さが変わるの?
振動数は変わらない。 電子は光の電場に強制振動させられているので、定常状態では外力と同じ振動数 ω \omega ω で揺れ、同じ ω \omega ω の光を出し直す。境界面の両側で電場の時間変化がつながる条件からも、ω \omega ω は物質に入っても保存される。光子1個のエネルギー ℏ ω \hbar\omega ℏ ω も変わらない。吸収とは「光子のエネルギーが減る」ことではなく「光子の数が減る=振幅が減る」ことである。振動数そのものが変わるのは、蛍光やラマン散乱のように電子が別の準位を経由する別の現象である。
波長は変わる。 v = c / n v = c/n v = c / n で ω \omega ω が一定なので、物質中の波長は λ = λ 0 / n \lambda = \lambda_0/n λ = λ 0 / n に縮む。色は振動数で決まるので、水中でも色は変わらない。
屈折そのものはエネルギーを吸収しない。 共鳴から遠いと χ \chi χ の分母の i γ ω i\gamma\omega iγ ω が無視でき、χ \chi χ はほぼ実数になる。このとき電子は1周期の前半でエネルギーを受け取り、後半でそっくり返すので、正味の吸収はない。複素屈折率 n ~ = n + i κ \tilde n = n + i\kappa n ~ = n + iκ と書くと E ∝ e i ( n ω z / c − ω t ) e − κ ω z / c E \propto e^{i(n\omega z/c - \omega t)}\,e^{-\kappa\omega z/c} E ∝ e i ( nω z / c − ω t ) e − κω z / c となり、実部 n n n が速さ(位相の進み)を、虚部 κ \kappa κ が吸収(振幅の減衰)を受け持つ。屈折と吸収は χ \chi χ の実部と虚部という別々の役割である。
速さが変わる仕組み=重ね合わせによる位相の遅れ。 光子が原子に捕まって遅れるのではない。薄い層の電子が出し直す波は、元の波に対して位相が 90 ∘ 90^\circ 9 0 ∘ ずれた小さな波 i δ E i\delta\,E i δ E になる(面状に並んだ双極子の放射の性質。ファインマン物理学 I 巻31章。ここでは上と同じく時間因子 e − i ω t e^{-i\omega t} e − iω t の規約)。元の波と足すと E ( 1 + i δ ) ≈ E e i δ E(1 + i\delta) \approx E\,e^{i\delta} E ( 1 + i δ ) ≈ E e i δ となる。e i ( k z − ω t ) e^{i(kz-\omega t)} e i ( k z − ω t ) に e i δ e^{i\delta} e i δ が掛かるのは波数 k k k が実質的に増えたのと同じで、層を1枚通るたびに位相が少しだけ遅れる。この遅れが厚さに比例して積み重なると、波の山が真空より遅く進むのと区別がつかない。これが位相速度 c / n c/n c / n の正体である。
補足:遅くなるのは位相速度だけで、群速度は変わらないのか
え、てことは光の速度が遅くなるっていうことは位相速度が遅くなるだけで群速度とかは物質中でも変わらないの?
群速度も遅くなり、ふつうは位相速度よりさらに遅い。 物質中では k = n ( ω ) ω / c k = n(\omega)\,\omega/c k = n ( ω ) ω / c なので、群速度は
v g = d ω d k = c n + ω d n d ω ≡ c n g v_g = \frac{d\omega}{dk} = \frac{c}{\,n + \omega\,\dfrac{dn}{d\omega}\,} \equiv \frac{c}{n_g} v g = d k d ω = n + ω d ω d n c ≡ n g c
となる。n g n_g n g を群屈折率と呼ぶ。可視光のガラスは正常分散(d n / d ω > 0 dn/d\omega>0 d n / d ω > 0 )なので n g > n n_g > n n g > n で、パルスの包絡線は波の山よりさらに遅く進む。波長で書くと n g = n − λ d n d λ n_g = n - \lambda\,\dfrac{dn}{d\lambda} n g = n − λ d λ d n で、コーシーの式 n = A + B / λ 2 n = A + B/\lambda^2 n = A + B / λ 2 を入れると n g = A + 3 B / λ 2 n_g = A + 3B/\lambda^2 n g = A + 3 B / λ 2 になる。BK7 ガラス(A ≈ 1.5046 A\approx1.5046 A ≈ 1.5046 、B ≈ 0.00420 μ m 2 B\approx0.00420\,\mu\mathrm{m}^2 B ≈ 0.00420 μ m 2 )のナトリウム D 線 589 n m 589\,\mathrm{nm} 589 nm では n ≈ 1.517 n\approx1.517 n ≈ 1.517 、n g ≈ 1.541 n_g\approx1.541 n g ≈ 1.541 である。光ファイバーで信号が届くまでの遅れを計算するときに使うのも、この群屈折率のほうである。
なぜ遅くなるのか。 位相の遅れは定常状態で波の山の位置がずれる話だった。パルスのように強さが変わる光では、電子の振動にエネルギーをいったん蓄え、それが光と一緒に運ばれる。運ぶ荷物が増える分、エネルギーの流れ(ふつうは群速度で進む)は真空より遅くなる。分散がなければ n g = n n_g = n n g = n で、群速度と位相速度は同じ c / n c/n c / n になる。
c c c を超えることはあるのか。 共鳴付近の異常分散(d n / d ω < 0 dn/d\omega<0 d n / d ω < 0 )では n g < 1 n_g<1 n g < 1 や n g < 0 n_g<0 n g < 0 になり、群速度が c c c を超えたり負になったりする。しかしこの帯域では吸収が強くパルスの形が崩れるので、群速度は「信号の速さ」を表さなくなる。情報が届く速さ(波の先端の速さ)は常に c c c 以下であることが、ゾンマーフェルトとブリルアンによって示されている。逆に、電磁誘起透明化(EIT)で d n / d ω dn/d\omega d n / d ω を非常に大きくすると、群速度は秒速17メートルまで落とせる(Hau ら、1999年)。