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チェビシェフ多項式:cos⁡nθ\cos n\theta は cos⁡θ\cos\theta の多項式

2026年度 中3発展2026年10月6日12分で読めます塾講師木下三角関数
目次
  1. 1. 和積の公式で を結ぶ
  2. 2. を作る:関数漸化式と数学的帰納法
  3. 3. 応用: の値と黄金比

22倍角の公式 cos⁡2θ=2cos⁡2θ−1\cos2\theta=2\cos^2\theta-1 と 33倍角の公式 cos⁡3θ=4cos⁡3θ−3cos⁡θ\cos3\theta=4\cos^3\theta-3\cos\theta を見ると、どちらも右辺はcos⁡θ\cos\theta だけの多項式になっている。実は cos⁡4θ, cos⁡5θ\cos4\theta,\ \cos5\theta についても、加法定理を根気よく繰り返せば同じことが起きる。11倍角から 55倍角までを並べてみよう。

cos⁡1θ=cos⁡θ→ T1(x)=xcos⁡2θ=2cos⁡2θ−1→ T2(x)=2x2−1cos⁡3θ=4cos⁡3θ−3cos⁡θ→ T3(x)=4x3−3xcos⁡4θ=8cos⁡4θ−8cos⁡2θ+1→ T4(x)=8x4−8x2+1cos⁡5θ=16cos⁡5θ−20cos⁡3θ+5cos⁡θ→ T5(x)=16x5−20x3+5x\begin{array}{l} \cos1\theta=\cos\theta\\ \qquad\to\ T_1(x)=x\\[8pt] \cos2\theta=2\cos^2\theta-1\\ \qquad\to\ T_2(x)=2x^2-1\\[8pt] \cos3\theta=4\cos^3\theta-3\cos\theta\\ \qquad\to\ T_3(x)=4x^3-3x\\[8pt] \cos4\theta=8\cos^4\theta-8\cos^2\theta+1\\ \qquad\to\ T_4(x)=8x^4-8x^2+1\\[8pt] \cos5\theta=16\cos^5\theta-20\cos^3\theta+5\cos\theta\\ \qquad\to\ T_5(x)=16x^5-20x^3+5x \end{array}

各組の上の式には cos⁡θ\cos\theta しか登場しない。そこで、その cos⁡θ\cos\theta を 11文字 xx に書き直したのが矢印の先の式である(ただの書き直しなので、xx に cos⁡θ\cos\theta を戻せば矢印の先の式は上の式に一致する)。この右辺の多項式をチェビシェフ多項式 Tn(x)T_n(x) と呼ぶ(つまり Tn(cos⁡θ)=cos⁡nθT_n(\cos\theta)=\cos n\theta)。実はこの先もcos⁡nθ\cos n\theta はつねに cos⁡θ\cos\theta の多項式で表せることが知られているのだが、cos⁡6θ, cos⁡7θ,…\cos6\theta,\ \cos7\theta,\dotsをこの調子で毎回加法定理から導くのは、次数が上がるほど式がふくらんで手に負えなくなる。そこで知りたいのは、Tn(x)T_n(x) を11 つずつ別々に導くのでなく効率よく求める方法である。鍵は関数漸化式(数列の漸化式の「数」を「多項式(関数)」に置きかえたもの)にあり、それは三角関数の和積の公式から出てくる。応用として、作った T5T_5 から cos⁡36∘\cos36{}^{\circ} の値(さらに黄金比)が出ることにも触れる。

1. 和積の公式で cos⁡(n+1)θ, cos⁡nθ, cos⁡(n−1)θ\cos(n{+}1)\theta,\ \cos n\theta,\ \cos(n{-}1)\theta を結ぶ

まず、cos⁡nθ\cos n\theta を cos⁡(n−1)θ\cos(n{-}1)\theta から加法定理で表すと

cos⁡nθ=cos⁡((n−1)θ+θ)=cos⁡(n−1)θ cos⁡θ−sin⁡(n−1)θ sin⁡θ\begin{aligned}\cos n\theta&=\cos\bigl((n{-}1)\theta+\theta\bigr)\\&=\cos(n{-}1)\theta\,\cos\theta-\sin(n{-}1)\theta\,\sin\theta\end{aligned}

となるが、右辺に sin⁡(n−1)θ\sin(n{-}1)\theta が混ざってくる。ここで作りたいのは、Tn(x)T_n(x) を、すでに分かっているTn−1(x), Tn−2(x),…T_{n-1}(x),\,T_{n-2}(x),\dots という部品だけを使って組み立てる漸化式である。右辺の cos⁡(n−1)θ\cos(n{-}1)\theta はTn−1(cos⁡θ)T_{n-1}(\cos\theta) に置き換えれば手持ちの部品にちょうど収まるが、sin⁡(n−1)θ\sin(n{-}1)\theta の方はどのTk(cos⁡θ)T_k(\cos\theta) とも一致しない。TkT_k はどれも「cos⁡(kθ)\cos(k\theta) を表す多項式」として用意した部品であって、sin⁡(kθ)\sin(k\theta) を表す部品はまだ無いからである。sin⁡(n−1)θ\sin(n{-}1)\theta 用にもう 11 組、別の数列を新しく用意して TT と並行に漸化式を回すことも考えられなくはないが、それでは手間が二本立てになってしまう。cos⁡θ\cos\theta だけで完結する 11 本の漸化式が欲しいので、そもそも sin⁡\sin を持ち込まずに済む組み合わせを探したい。ねらうのは、角度の倍率が 11 ずつちがうcos⁡(n+1)θ, cos⁡nθ, cos⁡(n−1)θ\cos(n{+}1)\theta,\ \cos n\theta,\ \cos(n{-}1)\theta の 33 つだけを結ぶ式である。そのために、二つの余弦の和を積に直す和積の公式

cos⁡A+cos⁡B=2cos⁡A+B2 cos⁡A−B2\cos A+\cos B=2\cos\frac{A+B}{2}\,\cos\frac{A-B}{2}

を使う。和積の公式は他に cos⁡A−cos⁡B\cos A-\cos B、sin⁡A±sin⁡B\sin A\pm\sin B を積に直す形もあるが、そちらは変形の途中で sin⁡\sin が顔を出す。この cos⁡A+cos⁡B\cos A+\cos B の形だけは、A,BA,B をどう取っても左辺の 22 つも右辺の22 つも cos⁡\cos のままで、sin⁡\sin が一切混ざらない。cos⁡\cos だけで組み立てたい今回にはちょうど良い道具というわけである。これを、A=(n+1)θ, B=(n−1)θA=(n{+}1)\theta,\ B=(n{-}1)\theta という角度に対して使う。A,BA,B の平均と半差を計算すると

A+B2=(n+1)θ+(n−1)θ2=nθ,A−B2=(n+1)θ−(n−1)θ2=θ\begin{aligned}\frac{A+B}{2}&=\frac{(n{+}1)\theta+(n{-}1)\theta}{2}=n\theta,\\\frac{A-B}{2}&=\frac{(n{+}1)\theta-(n{-}1)\theta}{2}=\theta\end{aligned}

だから、和積公式はちょうど

cos⁡(n+1)θ+cos⁡(n−1)θ=2cos⁡nθ cos⁡θ\cos(n{+}1)\theta+\cos(n{-}1)\theta=2\cos n\theta\,\cos\theta

となる。狙いどおり sin⁡\sin がどこにも現れず、33 つの cos⁡\cos だけを結ぶ式が手に入った。

2. TnT_n を作る:関数漸化式と数学的帰納法

前節で得た等式をもう一度書いておこう。

cos⁡(n+1)θ+cos⁡(n−1)θ=2cos⁡nθ cos⁡θ\cos(n{+}1)\theta+\cos(n{-}1)\theta=2\cos n\theta\,\cos\theta

これを、Tk(cos⁡θ)=cos⁡kθT_k(\cos\theta)=\cos k\theta をみたす多項式 TkT_k を使って書き直したい。出発点はT0(x)=1T_0(x)=1(cos⁡0=1\cos0=1 より)、T1(x)=xT_1(x)=x(cos⁡θ=cos⁡θ\cos\theta=\cos\theta より)であり、もしTn−1, TnT_{n-1},\,T_n がすでにこの性質をみたす多項式として見つかっているなら、上の式のcos⁡(n−1)θ\cos(n{-}1)\theta を Tn−1(cos⁡θ)T_{n-1}(\cos\theta) に、cos⁡nθ\cos n\theta を Tn(cos⁡θ)T_n(\cos\theta) に置き換えて

cos⁡(n+1)θ+Tn−1(cos⁡θ)=2 Tn(cos⁡θ) cos⁡θ\cos(n{+}1)\theta+T_{n-1}(\cos\theta)=2\,T_n(\cos\theta)\,\cos\theta

という式にできる。これを cos⁡(n+1)θ\cos(n{+}1)\theta について解くと

cos⁡(n+1)θ=2cos⁡θ Tn(cos⁡θ)−Tn−1(cos⁡θ)\cos(n{+}1)\theta=2\cos\theta\,T_n(\cos\theta)-T_{n-1}(\cos\theta)

となり、右辺は Tn−1, TnT_{n-1},\,T_n と cos⁡θ\cos\theta だけで書けている。そこでこの右辺を使ってTn+1(cos⁡θ):=2cos⁡θ Tn(cos⁡θ)−Tn−1(cos⁡θ)T_{n+1}(\cos\theta):=2\cos\theta\,T_n(\cos\theta)-T_{n-1}(\cos\theta) と定義すれば、Tn+1(cos⁡θ)=cos⁡(n+1)θT_{n+1}(\cos\theta)=\cos(n{+}1)\theta が自動的に成り立つ。最後に x=cos⁡θx=\cos\theta とおけば

Tn+1(x)=2x Tn(x)−Tn−1(x)T_{n+1}(x)=2x\,T_n(x)-T_{n-1}(x)

という、xx だけで書かれた式が得られる。これは関数漸化式(数列の漸化式の「数」が「多項式」に変わった 33 項間漸化式)であり、T0=1, T1=xT_0=1,\ T_1=xさえ分かれば、あとは機械的に T2,T3,T4,…T_2,T_3,T_4,\dots が全部作れる。

しかも、この作り方自体が「cos⁡nθ\cos n\theta はつねに cos⁡θ\cos\theta の多項式になる」ことの証明になっている。Tn−1, TnT_{n-1},\,T_n までが恒等式 Tk(cos⁡θ)=cos⁡kθT_k(\cos\theta)=\cos k\theta をみたすと分かっていれば、上の漸化式で作ったTn+1T_{n+1} も自動的にそれをみたす。出発点の T0,T1T_0,T_1 は確認済みだから、数学的帰納法により、00 以上のすべての整数nn で Tn(cos⁡θ)=cos⁡nθT_n(\cos\theta)=\cos n\theta が成り立つ(これは「予想」ではなく、和積の公式と漸化式から導かれる事実である)。

nnTn(x)T_n(x)(多項式。Tn(cos⁡θ)=cos⁡nθT_n(\cos\theta)=\cos n\theta)
0011
11xx
222x2−12x^2-1
334x3−3x4x^3-3x
448x4−8x2+18x^4-8x^2+1
5516x5−20x3+5x16x^5-20x^3+5x

たとえば T4=2x T3−T2=2x(4x3−3x)−(2x2−1)=8x4−8x2+1T_4=2x\,T_3-T_2=2x(4x^3-3x)-(2x^2-1)=8x^4-8x^2+1。ここで x=cos⁡θx=\cos\theta に戻せば、これは

cos⁡4θ=8cos⁡4θ−8cos⁡2θ+1\cos4\theta=8\cos^4\theta-8\cos^2\theta+1

という44倍角の公式にほかならない。44倍角・55倍角の公式をわざわざ覚えていなくても、漸化式を回すだけで各次数の公式が出てくるわけである。

コラム:和積ひとつで「作り方」まで手に入る

22倍角・33倍角の公式は、ふつう cos⁡2θ,cos⁡3θ\cos2\theta,\cos3\theta を個別に加法定理を用いていちいち変形して導出する。ところがいま見たように、和積の公式を一度だけ使うと、すべての倍角の公式を次々に生み出す漸化式が手に入ってしまう。角度を 11 つずらしたcos⁡\cos どうしの和を積に直す、というたった一つの操作が、公式の暗記を「漸化式を回すだけ」に置きかえるのである。

3. 応用:cos⁡36∘\cos36{}^{\circ} の値と黄金比

漸化式で作った TnT_n の使い道を一つ見よう。θ=36∘\theta=36{}^{\circ} を選ぶと 5θ=180∘5\theta=180{}^{\circ} なので、T5(cos⁡36∘)=cos⁡180∘=−1T_5(\cos36{}^{\circ})=\cos180{}^{\circ}=-1。T5(x)=16x5−20x3+5xT_5(x)=16x^5-20x^3+5x だったから、cos⁡36∘\cos36{}^{\circ} は方程式

16x5−20x3+5x+1=016x^5-20x^3+5x+1=0

の解。これは因数分解できて (x+1)(4x2−2x−1)2=0(x+1)(4x^2-2x-1)^2=0。cos⁡36∘>0\cos36{}^{\circ}>0 だから x+1=0x+1=0 ではなく4x2−2x−1=04x^2-2x-1=0。これを解くと x=1±54x=\dfrac{1\pm\sqrt5}{4} で、やはり cos⁡36∘>0\cos36{}^{\circ}>0 より正の解を取って

cos⁡36∘=1+54∴ 2cos⁡36∘=1+52\begin{aligned}\cos36{}^{\circ}&=\frac{1+\sqrt5}{4}\\\therefore\ 2\cos36{}^{\circ}&=\frac{1+\sqrt5}{2}\end{aligned}

この 2cos⁡36∘=1+52=1.618…2\cos36{}^{\circ}=\dfrac{1+\sqrt5}{2}=1.618\dots という比は黄金比とよばれ、しばしば記号 φ\varphi(ファイ)で表される。すなわち 2cos⁡36∘=φ2\cos36{}^{\circ}=\varphi である。三角関数と多項式の計算をたどっただけで、黄金比 φ\varphi がcos⁡36∘\cos36{}^{\circ} の値として現れたことになる。この cos⁡36∘\cos36{}^{\circ} は、正五角形とも直接結びついている。正五角形の11 つの内角は 108∘108{}^{\circ} だから、下図のように、ある頂点 AA で交わる 22 辺 AB,AEAB,AE(長さ ss)と、その両端を結ぶ対角線 BEBE(長さ dd)は、頂角 108∘108{}^{\circ}・底角 36∘36{}^{\circ} の二等辺三角形をつくる。頂点 AA から対角線 BEBE へ垂線を下ろすと、底角 36∘36{}^{\circ} の直角三角形ができてd2=scos⁡36∘\dfrac{d}{2}=s\cos36{}^{\circ}、したがって

ds=2cos⁡36∘=φ.\frac{d}{s}=2\cos36{}^{\circ}=\varphi .

すなわち対角線と辺の長さの比がちょうど黄金比になるという正五角形の有名な性質が、cos⁡36∘\cos36{}^{\circ} の値から説明できるのである。

図1
正五角形。内角 108∘108{}^{\circ} の頂点 AA に集まる 22 辺(長さ ss)と対角線 BEBE(長さ dd)がつくる二等辺三角形。垂線より d2=scos⁡36∘\frac{d}{2}=s\cos36{}^{\circ}、ゆえに d/s=2cos⁡36∘=φd/s=2\cos36{}^{\circ}=\varphi。

コラム:3θ=180∘−2θ3\theta=180{}^{\circ}-2\theta を使う近道

θ=36∘\theta=36{}^{\circ} では 3θ=108∘=180∘−72∘=180∘−2θ3\theta=108{}^{\circ}=180{}^{\circ}-72{}^{\circ}=180{}^{\circ}-2\theta である。ここで補角の余弦cos⁡(180∘−α)=−cos⁡α\cos(180{}^{\circ}-\alpha)=-\cos\alpha を α=2θ\alpha=2\theta に対して使うと、cos⁡3θ=cos⁡(180∘−2θ)=−cos⁡2θ\cos3\theta=\cos(180{}^{\circ}-2\theta)=-\cos2\theta が分かる。33倍角・22倍角の公式で書くと

4cos⁡3θ−3cos⁡θ=−(2cos⁡2θ−1),4\cos^3\theta-3\cos\theta=-(2\cos^2\theta-1),

整理すると 4cos⁡3θ+2cos⁡2θ−3cos⁡θ−1=04\cos^3\theta+2\cos^2\theta-3\cos\theta-1=0。ここで x=cos⁡θx=\cos\theta とおけば4x3+2x2−3x−1=(x+1)(4x2−2x−1)=04x^3+2x^2-3x-1=(x+1)(4x^2-2x-1)=0 となり、55次を経由せず3次で同じ 4x2−2x−1=04x^2-2x-1=0 に着ける。結果はもちろん同じ cos⁡36∘=1+54\cos36{}^{\circ}=\dfrac{1+\sqrt5}{4}。

まとめ:チェビシェフ多項式

  1. cos⁡nθ\cos n\theta は x=cos⁡θx=\cos\theta の多項式 Tn(x)T_n(x) になる(T0=1, T1=x, T2=2x2−1,…T_0=1,\,T_1=x,\,T_2=2x^2-1,\dots)。
  2. 作り方は和積から出る関数漸化式 Tn+1=2x Tn−Tn−1T_{n+1}=2x\,T_n-T_{n-1}(数列と三角関数の合流点)。
  3. θ=36∘\theta=36{}^{\circ}(5θ=180∘5\theta=180{}^{\circ})を入れると cos⁡36∘=1+54\cos36{}^{\circ}=\frac{1+\sqrt5}{4}、2cos⁡36∘=φ2\cos36{}^{\circ}=\varphi(黄金比)。

塾の授業で配った補足資料をもとに書き直しました。

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