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King Property

2025年度 高2発展2026年10月6日9分で読めます塾講師木下積分
目次
  1. 1. 区間の中央でグラフを裏返す
  2. 2. 定理と置換による証明
  3. 3. 足して 2 で割る
  4. 4. 授業で扱った問題に当てはめる

授業で扱った問題1塾の授業で扱った問題は塾の教材なので、数値を変えた類題に差し替えています。下の脚注へでは ∫0πxsin⁡x3+cos⁡2x dx\displaystyle\int_0^\pi \frac{x\sin x}{3+\cos^2 x}\,dx を求めるものでした。被積分関数の原始関数は高校の範囲では書けませんが、誘導どおり x=π−tx=\pi-t と置き換えると右辺に同じ積分がもう一度現れ、それを II とおいて II の1次方程式を解けば値が出ました。

この置換は、区間の左端と右端を入れ替えるものです。こうした置換をいつでも使える形にまとめたものは、英語圏でKing Property(キング・プロパティ)と呼ばれています。この頁では、まずその式がグラフの上で何を言っているのかを確かめ、次にどういう積分なら値が出せるのかを見ます。

1. 区間の中央でグラフを裏返す

区間 [a,b][a,b] の中央は x=a+b2x=\dfrac{a+b}{2} です。グラフ y=f(x)y=f(x) をこの縦の直線を軸にして左右に裏返す(線対称に移す)と、どんな式のグラフになるでしょうか。

y=f(x)y=f(x) 上の点 P (p, f(p))\mathrm P\,(p,\ f(p)) を考えます。裏返しても高さは変わらず、xx 座標だけが軸の反対側へ移ります。移った先の xx 座標を qq とすると、pp と qq の真ん中が軸なので p+q2=a+b2\dfrac{p+q}{2}=\dfrac{a+b}{2}、つまり q=a+b−pq=a+b-p です。したがって移った点は P′ (a+b−p, f(p))\mathrm P'\,(a+b-p,\ f(p)) になります。

この P′\mathrm P' が乗っている曲線の式は、x=a+b−px=a+b-p のとき y=f(p)y=f(p) になるものです。p=a+b−xp=a+b-x と書き直せば y=f(a+b−x)y=f(a+b-x) となります。

裏返したグラフの式

y=f(x)y=f(x) のグラフを直線 x=a+b2x=\dfrac{a+b}{2} に関して線対称に移すと、y=f(a+b−x)y=f(a+b-x) のグラフになる。とくに a=0a=0 のとき(直線 x=b2x=\dfrac b2 が軸)は y=f(b−x)y=f(b-x)。

図1図1 左の y=f(x)y=f(x) を点線の軸 x=a+b2x=\frac{a+b}2 で裏返すと右の y=f(a+b−x)y=f(a+b-x) になり、点 P は P′' に移る。右の白丸は P があった位置。色をつけた部分の面積は左右で同じ

裏返すと x=ax=a の真上にあった部分は x=bx=b の真上へ、x=bx=b の真上にあった部分は x=ax=a の真上へ移ります。区間 [a,b][a,b] の中身はそっくり入れ替わるだけで、区間からはみ出す部分も新しく入ってくる部分もありません。図形を鏡に映しても面積は変わらないので、図1の左右の色のついた部分の面積は等しくなります。

2. 定理と置換による証明

図で見た事実を式で書いたものが次の定理です。f(x)f(x) は区間 [a,b][a,b] で連続とします(面積として見たのは f(x)≧0f(x)\geqq0 の場合ですが、式としては符号に関係なく成り立ちます)。

King Property

∫abf(x) dx=∫abf(a+b−x) dx\int_a^b f(x)\,dx=\int_a^b f(a+b-x)\,dx

とくに区間が [0,a][0,a] のときは

∫0af(x) dx=∫0af(a−x) dx\int_0^a f(x)\,dx=\int_0^a f(a-x)\,dx

証明

右辺の積分で t=a+b−xt=a+b-x とおきます。dtdx=−1\dfrac{dt}{dx}=-1 なので dx=−dtdx=-dt です。xx が aa から bb まで動くと、tt は bb から aa まで動きます。

∫abf(a+b−x) dx=∫baf(t) (−dt)=∫abf(t) dt\begin{aligned}\int_a^b f(a+b-x)\,dx&=\int_b^a f(t)\,(-dt)\\ &=\int_a^b f(t)\,dt\end{aligned}

定積分の値は積分変数の文字によらないので、最後の式は ∫abf(x) dx\displaystyle\int_a^b f(x)\,dx と同じです。□

置換で積分の向きが逆になり、dx=−dtdx=-dt のマイナスでもう一度逆になるので、結局もとの向きの積分に戻ります。図1で左右を入れ替えても面積が変わらないことを、計算の側から見るとこうなります。

3. 足して 2 で割る

定理の左辺と右辺は同じ値 II です。2つの等しい数を足して 2 で割っても、その値は変わりません。そこで

I=∫abf(x) dx=12∫ab{f(x)+f(a+b−x)} dx\begin{aligned}I&=\int_a^b f(x)\,dx\\&=\frac12\int_a^b\bigl\{f(x)+f(a+b-x)\bigr\}\,dx\end{aligned}

と書けます。この等式自体はどんな連続関数でも成り立ちます。ただし、これで計算が楽になるとは限りません。右辺の被積分関数 f(x)+f(a+b−x)f(x)+f(a+b-x) が、もとの f(x)f(x) より積分しやすい形になったときだけ役に立ちます。

得をしない例 ∫02x3 dx\displaystyle\int_0^2 x^3\,dx に使うと、被積分関数は x3+(2−x)3=6x2−12x+8x^3+(2-x)^3=6x^2-12x+8 になります。12∫02(6x2−12x+8) dx=4\dfrac12\displaystyle\int_0^2(6x^2-12x+8)\,dx=4 で値は合いますが、もとの 244=4\dfrac{2^4}{4}=4 を直接出すほうが短く済みます。

得をする例 ∫0π2sin⁡xsin⁡x+cos⁡x dx\displaystyle\int_0^{\frac\pi2}\frac{\sin x}{\sin x+\cos x}\,dx を考えます。分母があるので、このままでは原始関数を見つけにくい形です。f(x)=sin⁡xsin⁡x+cos⁡xf(x)=\dfrac{\sin x}{\sin x+\cos x} とおくと、sin⁡ ⁣(π2−x)=cos⁡x\sin\!\left(\dfrac\pi2-x\right)=\cos x、cos⁡ ⁣(π2−x)=sin⁡x\cos\!\left(\dfrac\pi2-x\right)=\sin x より

f ⁣(π2−x)=cos⁡xcos⁡x+sin⁡xf\!\left(\frac\pi2-x\right)=\frac{\cos x}{\cos x+\sin x}

です。分母が同じなので、足すと

f(x)+f ⁣(π2−x)=sin⁡x+cos⁡xsin⁡x+cos⁡x=1f(x)+f\!\left(\frac\pi2-x\right)=\frac{\sin x+\cos x}{\sin x+\cos x}=1

となります。したがって

∫0π2sin⁡xsin⁡x+cos⁡x dx=12∫0π21 dx=π4\int_0^{\frac\pi2}\frac{\sin x}{\sin x+\cos x}\,dx=\frac12\int_0^{\frac\pi2}1\,dx=\frac\pi4

です。

図2図2 実線が f(x)f(x)、点線が裏返した f ⁣(π2−x)f\!\left(\frac\pi2-x\right)。どの xx でも縦に足すと 11 になる

使う前に確かめること

いきなり式変形を始めず、まず余白で f(x)+f(a+b−x)f(x)+f(a+b-x) を計算してみます。定数になる、分母が消える、原始関数の分かる形になる、のどれかなら King Property で値が出せます。どれにもならなければ別の方法を考えます。

4. 授業で扱った問題に当てはめる

授業で扱った問題を、誘導の置換を見ずにこの方法でやってみます。区間は [0,π][0,\pi] なので、f(x)=xsin⁡x3+cos⁡2xf(x)=\dfrac{x\sin x}{3+\cos^2 x} に対して f(π−x)f(\pi-x) を作ります。sin⁡(π−x)=sin⁡x\sin(\pi-x)=\sin x、cos⁡(π−x)=−cos⁡x\cos(\pi-x)=-\cos x を使うと

f(π−x)=(π−x)sin⁡x3+(−cos⁡x)2=(π−x)sin⁡x3+cos⁡2x\begin{aligned}f(\pi-x)&=\frac{(\pi-x)\sin x}{3+(-\cos x)^2}\\&=\frac{(\pi-x)\sin x}{3+\cos^2 x}\end{aligned}

です。分母も sin⁡x\sin x も共通なので、足すと分子の xx と π−x\pi-x がまとまり

f(x)+f(π−x)=πsin⁡x3+cos⁡2xf(x)+f(\pi-x)=\frac{\pi\sin x}{3+\cos^2 x}

になります。もとの式で積分を難しくしていた因数 xx が消えています。

図3図3 f(x)=xsin⁡x3+cos⁡2xf(x)=\frac{x\sin x}{3+\cos^2x}(太い実線)と、それを裏返した f(π−x)f(\pi-x)(点線)。2つの和 πsin⁡x3+cos⁡2x\frac{\pi\sin x}{3+\cos^2x}(細い実線)は x=π2x=\frac\pi2 に関して左右対称で、x=π2x=\frac\pi2 で最大値 π3\frac\pi3 をとる

したがって

I=12∫0ππsin⁡x3+cos⁡2x dxI=\frac12\int_0^\pi\frac{\pi\sin x}{3+\cos^2 x}\,dx

です。ここで u=cos⁡xu=\cos x とおくと du=−sin⁡x dxdu=-\sin x\,dx で、x:0→πx:0\to\pi のとき u:1→−1u:1\to-1 なので

I=π2∫−11du3+u2I=\frac\pi2\int_{-1}^{1}\frac{du}{3+u^2}

となります。u=3tan⁡θu=\sqrt3\tan\theta とおくと du=3cos⁡2θ dθdu=\dfrac{\sqrt3}{\cos^2\theta}\,d\theta、3+u2=3cos⁡2θ3+u^2=\dfrac{3}{\cos^2\theta} で、u:−1→1u:-1\to1 のとき θ:−π6→π6\theta:-\dfrac\pi6\to\dfrac\pi6 なので

∫−11du3+u2=∫−π6π613 dθ=π33\int_{-1}^1\frac{du}{3+u^2}=\int_{-\frac\pi6}^{\frac\pi6}\frac{1}{\sqrt3}\,d\theta=\frac{\pi}{3\sqrt3}

です。よって I=π2⋅π33=3 π218I=\dfrac\pi2\cdot\dfrac{\pi}{3\sqrt3}=\dfrac{\sqrt3\,\pi^2}{18} です。

log の積分と組み合わせる

被積分関数が f(x)=log⁡g(x)f(x)=\log g(x) の形なら、足し算は log の中の掛け算に変わります。積分区間で g(x)>0g(x)>0 のとき

f(x)+f(a+b−x)=log⁡{g(x) g(a+b−x)}f(x)+f(a+b-x)=\log\bigl\{g(x)\,g(a+b-x)\bigr\}

なので、積 g(x) g(a+b−x)g(x)\,g(a+b-x) が定数になれば、和は定数の log になって積分できます。

この形の代表が ∫0π4log⁡(1+tan⁡x) dx\displaystyle\int_0^{\frac\pi4}\log(1+\tan x)\,dx です。区間 [0,π4]\left[0,\dfrac\pi4\right] で 1+tan⁡x>01+\tan x>0 です。加法定理から tan⁡ ⁣(π4−x)=1−tan⁡x1+tan⁡x\tan\!\left(\dfrac\pi4-x\right)=\dfrac{1-\tan x}{1+\tan x} なので

1+tan⁡ ⁣(π4−x)=(1+tan⁡x)+(1−tan⁡x)1+tan⁡x=21+tan⁡x1+\tan\!\left(\frac\pi4-x\right)=\frac{(1+\tan x)+(1-\tan x)}{1+\tan x}=\frac{2}{1+\tan x}

となり、(1+tan⁡x){1+tan⁡ ⁣(π4−x)}=2(1+\tan x)\left\{1+\tan\!\left(\dfrac\pi4-x\right)\right\}=2 です。よって

∫0π4log⁡(1+tan⁡x) dx=12∫0π4log⁡2 dx=π8log⁡2\int_0^{\frac\pi4}\log(1+\tan x)\,dx=\frac12\int_0^{\frac\pi4}\log2\,dx=\frac\pi8\log2

が得られます。逆に、裏返した相手との積が定数になる gg を先に決めておけば、この方法で値の出る積分を自分で作ることもできます。

1 塾の授業で扱った問題は塾の教材なので、数値を変えた類題に差し替えています。

塾の授業で配った補足資料をもとに、問題を類題に差し替えて書き直しました。

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