ウォリス積分とウォリス積
いよいよ高一数Ⅲも最後ですね。今回は定積分と漸化式に関係する「ウォリス積分」および「ウォリス積」というものについて紹介します。
定理(ウォリス積分・ウォリス積)
nを非負の整数とし、
In:=∫0π/2sinnxdx
とする。
1. ∫0π/2cosnxdx=Inである。
2. In+2=n+2n+1Inが成立する。
3. 次が成立する。(ウォリス積分)
In=⎩⎨⎧n!!(n−1)!!(nが奇数)n!!(n−1)!!2π(nが偶数)
4. ∏k=1∞(2k−1)(2k+1)(2k)2=2π が成立する。(ウォリス積)
はじめに、みなさんに馴染みがないと思われる記号や概念の紹介をしましょう。
定義(二重階乗)
非負の整数mに対して、
m!!:={m⋅(m−2)⋯3⋅1(mが奇数)m⋅(m−2)⋯4⋅2(mが偶数)
ただし、0!!=1、(−1)!!=1と約束する(定理のn=0,1の場合に使う)。
まずは“!!”の記号から。これは「二重階乗」と呼ばれ、上の定義からも分かる通り階乗の二個飛ばしバージョンです。例えば、
{5!!=5⋅3⋅1=158!!=8⋅6⋅4⋅2=384
みたいな感じです。あんまむずくないしかっこいいっしょ。
定義(総乗記号)
数列{am}に対して、
k=l∏nak:=al⋅al+1⋅al+2⋯an
続いて“∏”の記号です。これは、総乗記号と呼ばれ、総和記号∑の掛け算バージョンです。上の定義をみても分かるように、例えば、
{∏k=14k=1⋅2⋅3⋅4=24∏k=13k2=12⋅22⋅32=36
のようになります。これも見た目こそかっこいいですが難しいことをやっているわけではないですし、なんなら知っておくと記述とかで楽できる場面が結構ある気がします。(ちなみに∏はギリシャ文字のπの大文字です。英語で積を表す“Product”の頭文字“P”に対応しています。)
定理(はさみうちの原理)
十分大きいnでいつでもan≦bn≦cnが成り立つ数列{am}、{bm}、{cm}について、
{limk→∞ak=αlimk→∞ck=α
が成り立つとき、
k→∞limbk=α
が成立する。
上記の定理をはさみうちの原理と言います。大学数学で厳密に極限を定義するとそこから導かれる定理となりますが、高校数学のうちは言及さえすれば証明なしで用いることのできる定理です。直感的にはまあ当たり前よね。
さて、準備も済んだので、いよいよ冒頭の定理を示しに行ってみましょう。
- 定理-1. ∫0π/2cosnxdx=Inについて。
Inの定義から、要は
∫0π/2cosnxdx=∫0π/2sinnxdx
ということを言っている。これには、置換積分を使ってやるのが楽。
以前の補足で登場した“King Property”1右辺で t=a+b−x と置換すると、x=a のとき t=b、x=b のとき t=a、dx=−dt なので左辺に戻ります。この性質はKing Property の記事でも扱っています。:
定理(King Property)
∫abf(x)dx=∫abf(a+b−x)dx
を用いれば、
∫0π/2sinnxdx=∫0π/2sinn(2π−x)dx=∫0π/2cosnxdx(∵sin(2π−x)=cosx)
となる。よって、
∫0π/2sinnxdx=∫0π/2cosnxdx
□
- 定理-2. In+2=n+2n+1Inについて。
※この解法は有名なので覚えておいてもいいかも。
In+2=∫0π/2sinn+2xdx=∫0π/2sinxsinn+1xdx=[−cosxsinn+1x]0π/2+∫0π/2(n+1)sinnxcos2xdx(部分積分)=∫0π/2(n+1)sinnx(1−sin2x)dx(∵[−cosxsinn+1x]0π/2=0)=(n+1)∫0π/2sinnxdx−(n+1)∫0π/2sinn+2xdx=(n+1){In−In+2}
となる。つまり、
In+2=(n+1){In−In+2}⇔(n+2)In+2=(n+1)In⇔In+2=n+2n+1In
□
- 定理-3. nが奇数のときIn=n!!(n−1)!!、nが偶数のときIn=n!!(n−1)!!2πについて。
定理-2.を繰り返し用いると、
In=nn−1In−2=nn−1n−2n−3In−4=nn−1n−2n−3n−4n−5In−6=⋯=⎩⎨⎧n!!(n−1)!!I1(nが奇数)n!!(n−1)!!I0(nが偶数)
となる。(二重階乗の定義を確認せよ!)ここで、
- ・ I1=∫0π/2sin1xdx=1、
- ・ I0=∫0π/2sin0xdx=∫0π/2dx=2π
なので、
In=⎩⎨⎧n!!(n−1)!!(nが奇数)n!!(n−1)!!2π(nが偶数)
□
- 定理-4. ∏k=1∞(2k−1)(2k+1)(2k)2=2πについて。
まず、[0,2π]で0≦sinx≦1より、自然数nに対して、
sin2n+2x≦sin2n+1x≦sin2nx
であるから、これを積分しても大小関係は同じく、
I2n+2≦I2n+1≦I2n⋯♢
である。ここで、定理-3.を用いると、
♢⇔(2n+2)!!(2n+1)!!2π≦(2n+1)!!(2n)!!≦(2n)!!(2n−1)!!2π
この全辺に(2n−1)!!(2n)!!(>0)をかけてやって、
(2n+2)!!(2n+1)!!(2n−1)!!(2n)!!2π≦(2n+1)!!(2n−1)!!{(2n)!!}2≦2π⋯♡
を得る。ここで、二重階乗の定義から、
(2n+2)!!(2n+1)!!(2n−1)!!(2n)!!=(2n+2)(2n+1)(2n)!!(2n−1)!!(2n−1)!!(2n)!!=(2n+2)(2n+1)
となるから、
♡⇔(2n+2)(2n+1)2π≦(2n+1)!!(2n−1)!!{(2n)!!}2≦2π
となる。
n→∞lim(2n+2)(2n+1)2π=n→∞lim(1+2n2)(1+2n1)2π=2π
なので、はさみうちの原理から、
n→∞lim(2n+1)!!(2n−1)!!{(2n)!!}2=2π
が分かる。二重階乗と総乗記号の定義から、
(2n+1)!!(2n−1)!!{(2n)!!}2=k=1∏n(2k−1)(2k+1)(2k)2
であるので、
k=1∏∞(2k−1)(2k+1)(2k)2=2π
□
なかなかハードな計算でしたね。ただ、このウォリス積は、バラしてみると
k=1∏∞(2k−1)(2k+1)(2k)2=1⋅32⋅2×3⋅54⋅4×5⋅76⋅6×⋯
であり、つまり各項が有理数のものを掛け合わせていくとπが出てくるんですね。なんとも不思議で美しい公式です。
また、一般には三角関数の高次(4次以上)の累乗の積分は
{ひとつ分離して置換積分で多項式の積分に帰着(奇数乗)半角公式でばらしまくる(偶数乗)
が定石で、その計算は結構大変だったりすることが多いんですが、定理-3.で示されたように、積分区間が0→π/2であるような定積分に限ってはこのウォリス積分を用いれば一瞬で計算できてしまいます2たとえば ∫0π/2sin6xdx=6⋅4⋅25⋅3⋅1⋅2π=325π、∫0π/2cos5xdx=5⋅3⋅14⋅2=158 です(cos は定理-1. により sin と同じ値です)。。(僕はよくこれを使ってラクしてました。)
1 右辺で t=a+b−x と置換すると、x=a のとき t=b、x=b のとき t=a、dx=−dt なので左辺に戻ります。この性質はKing Property の記事でも扱っています。
2 たとえば ∫0π/2sin6xdx=6⋅4⋅25⋅3⋅1⋅2π=325π、∫0π/2cos5xdx=5⋅3⋅14⋅2=158 です(cos は定理-1. により sin と同じ値です)。
塾の授業で配った補足資料をもとに書き直しました。
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