場の量子論入門 第1部 第1章 §1.1.3 ★★★ 核心:2つの病はどちらも1粒子解釈の副作用である
相対論的な分散関係 E2=p2+m2 を素直に量子化して得られる Klein–Gordon 方程式(∂t2−∇2+m2)φ=0 には、時間について2階であることに由来する困難がある。連続の式を作ると保存量の密度は
ρ=i(φ∗∂tφ−φ∂tφ∗)
の形になり、これは負にもなれる。時間について2階の方程式では初期条件としてφ と ∂tφ を独立に指定できるので、ρ の符号は好きに選べてしまう。確率密度は定義上非負でなければならないから、ρ を確率密度と読むことはできない。
Dirac 方程式は時間について1階なので ρ=ψ†ψ≥0 となり、この病は治る。しかし負エネルギー解 E=−p2+m2 は残り、Dirac はこれを「真空とは負エネルギー準位がすべて電子で満席の状態である」という海の仮説で処理した。Pauli の排他律が正エネルギー電子の落下を禁じ、海に空いた穴が陽電子として振る舞う。陽電子の予言としては大成功だったが、処方としては三つの点で不満が残る。第一に、排他律を使うのでフェルミオン専用であり、スピン0の粒子(π 中間子)には使えない。第二に、真空が無限個の電子を含むことになり、電荷密度もエネルギー密度も無限大になる(両方とも「差だけを測る」と言い訳して逃げることはできるが、理論の基礎としては不健全である)。第三に、海の描像は「電子の個数」を数える言葉で書かれており、第1.2節で見た粒子数の非保存とは相性が悪い。
場の量子論の立場から見ると、この2つの病はどちらも1粒子解釈という無理な要求の副作用である。Klein–Gordon の ρ は、確率密度ではなく電荷密度と読めばよい(第4.3節で導く)。電荷は正にも負にもなるので、ρ の符号が変わるのは病気ではなく、粒子と反粒子の区別が現れているだけである。負エネルギー解の展開係数は、「負エネルギー粒子の消滅演算子」ではなく「反粒子の生成演算子」と読み替える(第2部 第5章)。この読み替えをすると、Hamiltonian は下に有界になり、反粒子はボゾン・フェルミオンを問わず統一的に現れる。
例題 1.2(Klein–Gordon の連続の式を作る)
オリジナル実または複素の場 φ(x) が (∂t2−∇2+m2)φ=0 を満たすとする。
- (1) ρ=i(φ∗∂tφ−φ∂tφ∗)、j=−i(φ∗∇φ−φ∇φ∗) が∂tρ+∇⋅j=0 を満たすことを示せ。
- (2) 平面波 φ=Ne−i(Et−p⋅x) に対して ρ を計算し、E<0 の解では ρ<0 になることを確認せよ。
解答
(1) 直接微分する。
∂tρ=i(φ∗∂t2φ−φ∂t2φ∗),∇⋅j=−i(φ∗∇2φ−φ∇2φ∗).
どちらも1階微分の積の項(∂tφ∗∂tφ など)は打ち消し合って消える。和を取り、運動方程式 ∂t2φ=∇2φ−m2φ とその複素共役を代入すると
∂tρ+∇⋅j=i[φ∗(∇2φ−m2φ)−φ(∇2φ∗−m2φ∗)]−i(φ∗∇2φ−φ∇2φ∗)=0
となる。m2 の項は φ∗φ の対称性から相殺し、∇2 の項は第2項と相殺する。
(2) ∂tφ=−iEφ を代入すると
ρ=i[φ∗(−iEφ)−φ(+iEφ∗)]=2E∣N∣2.
E>0 の解では正、E<0 の解では負になる。ρ の符号は解のエネルギーの符号そのものであり、確率密度としては破綻している。一方、これを電荷密度と読むなら、E<0 の解が電荷の符号の逆な粒子(反粒子)を表していると解釈できる。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com