場の量子論入門 第4部 第1章 §4.1.1 ★★★ 最初の一歩:4本の γ にまとめると Lorentz 対称性が目に見える
『量子力学入門』第13部で構成した Dirac 方程式は、自然単位 ℏ=c=1 で
i∂t∂ψ=(−iα⋅∇+βm)ψ,{αi,αj}=2δij,{αi,β}=0,β2=1(4.1.1)
という形だった。この書き方には不満がある。時間微分だけが左辺に隔離されていて、時間と空間が対等に見えないことである。Lorentz 変換は時間と空間を混ぜるのだから、方程式の形から対称性が読めるようにしたい。
手続きは単純で、式(4.1.1)の両辺に左から β を掛け、全部を左辺に集める。β2=1 を使うと
iβ∂0ψ+iβαi∂iψ−mψ=0
となる(∂0=∂/∂t、∂i=∂/∂xi、∇ の成分は ∂i で、−iα⋅∇ の項が iβαi∂i に化けている)。そこで4つの行列を
γ0≡β,γi≡βαi(i=1,2,3)すなわちγμ=(β, βα)(4.1.2)
と定義すれば、方程式は
(iγμ∂μ−m)ψ=0略記して(i∂−m)ψ=0(4.1.3)
と書ける。ここで任意の4元ベクトル aμ に対するFeynman スラッシュa≡γμaμ=γμημνaν を導入した(∂=γμ∂μ)。式(4.1.3)がDirac 方程式の共変形式である。時間微分と空間微分が γμ∂μ という1つの縮約に収まり、添字 μ の付き方だけを見てLorentz 変換性を議論できるようになった。
γ 行列の満たす代数
式(4.1.1)の α,β の代数を、定義(4.1.2)を通して γμ の言葉に翻訳する。まず γ0γ0=β2=1=η00⋅1。次に
{γ0,γi}=β(βαi)+(βαi)β=αi+βαiβ=αi−β2αi=0
({αi,β}=0 より αiβ=−βαi を使った)。最後に
{γi,γj}=βαiβαj+βαjβαi=−β2(αiαj+αjαi)=−2δij=2ηij.
3つをまとめると、γ 行列は次の1本の関係式に集約される。
定理 4.1.1(Dirac 代数(Clifford 代数) ★★★)
{γμ,γν}=2ημν14×4 ημν=diag(+1,−1,−1,−1)
(検算 検算スクリプト:4次元の 16 通りすべてで数値確認済み)。右辺の 1 は 4×4 単位行列で、以後は省略して書く。
この1本がこの部の全計算の土台である。以後の γ 行列の計算は、具体的な行列成分を書き下すことなく、定理4.1.1だけを繰り返し使って進む。「γ を隣どうし入れ替えると符号が変わり、同じ添字どうしなら 2ημν という数が残る」という書き換え規則だと思えばよい。
随伴スピノルと Lagrangian
Dirac 方程式の Hermite 共役を取ると ψ† の方程式が出るが、そこには γμ† が現れる。γ0=β は Hermite、γi=βαi は反 Hermite((βαi)†=αiβ=−βαi)なので、4本の γ は Hermite 性を揃えていない。この不揃いは、1本の式
γμ†=γ0γμγ0(4.1.4)
にまとめられる(μ=0 なら γ0γ0γ0=γ0、μ=i なら定理4.1.1の {γ0,γi}=0 から γ0γiγ0=−γi)。そこで ψ† ではなく
ψˉ≡ψ†γ0(随伴スピノル,Dirac 共役)
を使うと式が整う。ψˉ を使う理由は、次節で見るように ψˉψ が Lorentz スカラーになる一方ψ†ψ はならないことにある(ψ†ψ は4元流れの時間成分であって、スカラーではない)。
Dirac 場の Lagrangian 密度は
L=ψˉ(iγμ∂μ−m)ψ(4.1.6)
である。ψˉ を独立な場とみなして Euler–Lagrange 方程式∂μ(∂L/∂(∂μψˉ))−∂L/∂ψˉ=0 を立てると、L が ∂μψˉ を含まないので、そのまま (i∂−m)ψ=0 が出る。ψ について変分すれば ψˉ の方程式i∂μψˉγμ+mψˉ=0 が得られる。
L が大域的な位相変換 ψ→e−iθψ(θ は定数)で不変なので、Noether の定理(第1部 第4章)から保存流
jμ=ψˉγμψ,∂μjμ=0
が出る。実際 ∂μjμ=(∂μψˉγμ)ψ+ψˉ(γμ∂μψ)=(imψˉ)ψ+ψˉ(−imψ)=0 である。時間成分はj0=ψ†ψ≥0 で、これが Dirac が Klein–Gordon 方程式に対して勝ち取った「正定値の密度」だった。ただし場の理論に上げた後の解釈は変わり、jμ は確率流ではなく電荷の流れ(−e を掛けて電流)になる。粒子数が保存しない高エネルギー領域では確率解釈が破綻し、代わりに電荷が保存量として残る、という第2部 第5章の複素スカラー場と同じ筋書きである。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com