場の量子論入門 第4部 第1章 §4.1.2 ★★★ 道具:Dirac 表示と Weyl 表示。物理は表示に依らない
定理4.1.1を満たす 4×4 行列の組み方は一通りではない。実際、任意の可逆行列 U に対し γμ→UγμU−1 はやはり同じ代数を満たす。逆に、既約な 4×4 表現は互いにこの相似変換で移り合うことが知られている(Pauli の基本定理)。したがってどの表示を使っても物理は変わらない。実務では計算の見通しが良くなる表示を選ぶ。よく使う2つを挙げる。
Dirac 表示(標準表示)
非相対論極限が見やすい表示で、本書の既定である。2×2 ブロックで
γ0=(100−1),γi=(0−σiσi0),γ5=(0110)(4.1.8)
(σi は Pauli 行列、γ5≡iγ0γ1γ2γ3)。γ0 が対角なので、静止した粒子(p=0)では上2成分と下2成分がきれいに分かれ、上が正エネルギー・下が負エネルギーに対応する。非相対論極限で下2成分が v/c 倍に小さくなる「大成分・小成分」の議論(『量子力学入門』第13部 第3章)は、この表示で行った。
Weyl 表示(カイラル表示)
高エネルギー(質量が無視できる領域)で見やすい表示で、第6章で使う。
γ0=(0110),γi=(0−σiσi0),γ5=(−1001)(4.1.9)
この表示では γ5 が対角なので、上2成分と下2成分がそれぞれ確定したカイラリティ(第6章で定義する)をもつ。質量ゼロなら方程式が2成分ずつに分裂する。この部では、特に断らない限り Dirac 表示を使う。Weyl 表示を使う箇所では「ここでは Weyl 表示」と明記する。
散乱振幅の計算では、どちらの成分表示も使わずに済むことが多い。定理4.1.1とトレース定理(§1.5)だけで振幅の絶対値2乗が計算できてしまうからである。成分を書き下すのは、具体的なスピン状態のスピノルが要るとき(§2.5 のヘリシティ固有スピノルなど)に限るのがよい。
例題 1.1(Dirac 代数だけで示せる基本恒等式)
オリジナル{γμ,γν}=2ημν だけを使って、次を示せ。a,b は任意の4元ベクトル。
- ab+ba=2a⋅b、とくに aa=a2
- γμγμ=4
- γμaγμ=−2a
- γμabγμ=4a⋅b
解答
(1) ab+ba=aμbν(γμγν+γνγμ)=aμbν⋅2ημν=2a⋅b。b=a とおけば 2aa=2a2、すなわち aa=a2。
(2) γμγμ=21{γμ,γμ}=21⋅2ημνημν=η μμ=4(4次元だから4)。
(3) γμγν=2ημν−γνγμ を使うと
γμγνγμ=(2ημν−γνγμ)γμ=2γν−γν(γμγμ)=2γν−4γν=−2γν.
aν を掛けて γμaγμ=−2a。
(4) (3) を2回使うとγμγνγργμ=2γργν−γν(γμγργμ)=2γργν+2γνγρ=4ηνρ、最後に aνbρ を掛けて 4a⋅b。(検算 検算スクリプト:(2)(3)(4) の収縮公式を数値確認済み。)
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com