場の量子論入門 第4部 第1章 §4.1.5 ★★★ 最もよく使う計算道具:散乱断面積のスピン平均はすべてトレースに落ちる
散乱振幅 M は uˉΓu の形を含み、断面積は ∣M∣2 を必要とする。測定がスピンを見ていない場合、始状態のスピンを平均し終状態のスピンを和で潰すと、第2章のスピン和公式によって ∣M∣2 はγ 行列の積のトレースに化ける。必要なトレースの規則は次の4本である。
定理 4.1.2(トレース定理 ★★★)
(T1)Tr[γμ]=0(T2)Tr[γμγν]=4ημν(T3)γ が奇数個の積のトレースは 0(T4)Tr[γαγβγγγδ]=4(ηαβηγδ−ηαγηβδ+ηαδηβγ)
(4本とも 検算スクリプト で数値確認済み。Tr1=4 も併せて使う。)
証明
(T3) から示す。γ5=iγ0γ1γ2γ3 は (γ5)2=1 と{γ5,γμ}=0 を満たす(第6章で確認する。検算済み)。n 個の積に 1=γ5γ5 を挿入し、トレースの巡回性で右端の γ5 を左端へ回してから、n 個の γ をすべてすり抜けさせると
Tr[γμ1⋯γμn]=Tr[γ5γμ1⋯γμnγ5]=(−1)nTr[γ5γ5γμ1⋯γμn]=(−1)nTr[γμ1⋯γμn].
n が奇数なら Tr=−Tr となり Tr=0。(T1) は n=1 の場合である。
(T2):Tr[γμγν]=Tr[γνγμ](巡回性)なので、Tr[γμγν]=21Tr[{γμ,γν}]=21⋅2ημνTr[1]=4ημν。
(T4):左端の γα を反交換関係で右へ順に送る。γαγβ=2ηαβ−γβγα を繰り返し使うと
γαγβγγγδ=2ηαβγγγδ−2ηαγγβγδ+2ηαδγβγγ−γβγγγδγα.
両辺のトレースを取り、最後の項に巡回性を使うと、それは左辺と同じ Tr[γαγβγγγδ] である。移項して2で割り、(T2) を代入すれば (T4) を得る。
同じ手口(左端を右端まで送って巡回性で戻す)で γ が6個・8個の場合も再帰的に計算できる。実務では6個以上を手で展開することは少なく、(T4) までで足りる場面がほとんどである。
γ5 を含むトレースと収縮公式
弱い相互作用のように γ5 が入る計算では、次も使う(いずれも検算済み)。
Tr[γ5]=0,Tr[γ5γμγν]=0,Tr[γ5γμγνγργσ]=−4iεμνρσ
(ε0123=+1 の規約)。また例題1.1 の収縮公式に加えてγμabcγμ=−2cba も同じ手順で示せる。
例題 1.3(トレース計算の練習)
オリジナル次を計算せよ。p,q,r,s は4元ベクトル、m は定数。
- Tr[pq]
- Tr[pqrs]
- Tr[(p+m)(q+m)]
- Tr[pγμqγμ]
解答
(1) (T2) より Tr[pq]=pμqνTr[γμγν]=4pμqνημν=4p⋅q。
(2) (T4) に pαqβrγsδ を掛けて縮約する。
Tr[pqrs]=4[(p⋅q)(r⋅s)−(p⋅r)(q⋅s)+(p⋅s)(q⋅r)].
符号が中央の項だけ負である点に注意する。添字の隣接する組(1–2 と 3–4)が正、交差する組(1–3 と 2–4)が負、外側の組(1–4 と 2–3)が正、と覚える。
(3) 展開すると Tr[pq]+mTr[p]+mTr[q]+m2Tr[1]。中央の2項は (T3)(奇数個)で消えるのでTr[(p+m)(q+m)]=4p⋅q+4m2。
(4) γμ と γμ の間に挟まっているのは q ひとつだけなので、例題1.1(3) の収縮公式 γμqγμ=−2q をそのまま使える。pγμqγμ=−2pq だから、(1) と合わせて
Tr[pγμqγμ]=−2Tr[pq]=−8p⋅q.
縮約を先に済ませてからトレースを取る方が、(T4) を4項に展開してから縮約するより手数が少ない。γμ⋯γμ の形を見つけたら、まず収縮公式を探すのが定石である。
第1章のまとめ
γμ=(β,βα) と定義すると Dirac 方程式は (i∂−m)ψ=0 になり、α,β の代数は1本の {γμ,γν}=2ημν に集約される。ψˉ=ψ†γ0 を使うと ψˉψ がスカラー、ψˉγμψ が保存する4元流れになる。Lorentz 変換の生成子は Sμν=4i[γμ,γν] で、その回転部分が Σ/2 になることが「スピン 1/2 の表現」の内容である。断面積の計算はトレース定理(T1)〜(T4)に帰着する。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com