場の量子論入門 第4部 第6章 §4.6.2 ★★ 構造:運動項は左右に分かれ、質量項だけがつなぐ
ψˉL を計算するときに注意が要る。γ5 は Hermite(γ5†=γ5)でγ0 と反交換するので、PLγ0=γ0PR となり
ψˉL=(PLψ)†γ0=ψ†PLγ0=ψ†γ0PR=ψˉPR
である。左巻きスピノルの Dirac 共役には、右巻きの射影が付く。この事実を使うと、Lagrangian の各項が次のように分解する。運動項では γμ が γ5 と反交換するのでPRγμ=γμPL となり、
ψˉi∂ψ=ψˉLi∂ψL+ψˉRi∂ψR
と、左と右がきれいに分離する。ところが質量項では γ 行列が挟まらないのでPRPR=PR、PRPL=0 の組み合わせから
−mψˉψ=−m(ψˉLψR+ψˉRψL)
となり、左と右を混ぜる項になる。
この構造は物理的に重い意味をもつ。理論に左巻き成分しか存在しなければ質量項が書けない、つまりカイラリティが片方しかない粒子は質量ゼロでなければならない。標準模型でニュートリノが当初質量ゼロとされたのは、右巻きニュートリノが観測されていなかったからである。また質量があるとカイラリティは保存せず、ψL から出発しても質量項を通じて ψR が混ざる。カイラリティは Lorentz 不変だが保存しない量であり、ヘリシティは保存するが Lorentz 不変でない量である。この双対が、質量ゼロ極限で解消される。
例題 6.1(カイラル分解の確認)
オリジナルPL=(1−γ5)/2、PR=(1+γ5)/2 について次を示せ。
- PL+PR=1、PLPR=PRPL=0、PL,R2=PL,R
- ψˉγμψ=ψˉLγμψL+ψˉRγμψR
- ψˉψ=ψˉLψR+ψˉRψL
解答
(1) は (γ5)2=1 の直接の帰結である。PL+PR=21(1−γ5)+21(1+γ5)=1。PLPR=41(1−γ5)(1+γ5)=41(1−(γ5)2)=0。PL2=41(1−2γ5+1)=21(1−γ5)=PL、PR も同様。
(2) ψ=PLψ+PRψ を両側に入れる。ψˉγμψ=ψˉ(PL+PR)γμ(PL+PR)ψ で、γμ と γ5 が反交換するので γμPL=PRγμ。したがってPLγμPL=PLPRγμ=0、PRγμPR=0 となり、交差する2項 PLγμPR と PRγμPL だけが残る。ψˉPR=ψˉL、ψˉPL=ψˉR を使うと主張の形になる。
(3) 質量項には γ が挟まらないので、PLPL=PL、PLPR=0 から対角成分 ψˉPRPRψ=ψˉLψR と ψˉPLPLψ=ψˉRψL だけが残る。(2) と (3) で生き残る組み合わせが逆になるのが要点で、その違いを作っているのは γμ が γ5 と反交換することだけである。
例題 6.2(軸性流が質量で保存しなくなること)
オリジナル軸性流を j5μ=ψˉγμγ5ψ と定義する。Dirac 方程式を使って ∂μj5μ を計算し、m=0 のときだけ保存することを示せ。
解答
Dirac 方程式 (i∂−m)ψ=0 は γμ∂μψ=−imψ と書ける。ψˉ の方程式 i∂μψˉγμ+mψˉ=0 は∂μψˉγμ=imψˉ である。積の微分から
∂μj5μ=(∂μψˉγμ)γ5ψ+ψˉγμγ5(∂μψ).
第1項は imψˉγ5ψ。第2項は {γ5,γμ}=0 で γ5 を左へ抜き、γμ∂μψ=−imψ を入れると−ψˉγ5γμ∂μψ=−ψˉγ5(−imψ)=imψˉγ5ψ。合わせて
∂μj5μ=2imψˉγ5ψ.
m=0 のときに限り右辺が消え、軸性流が保存する。ベクトル流jμ=ψˉγμψ は質量があっても保存した(§1.1)ことと対照的である。違いは γ5 が γμ と反交換する(したがって左右が入れ替わる)ことから来ており、「質量項だけが左右を混ぜる」という本節の結論を、保存則の言葉で言い直したものになっている。
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