場の量子論入門 第5部 第1章 §5.1.1 ★★★ 出発点。保存カレントが後で結合の相手になる
『量子力学入門』の第5部「電磁場中の荷電粒子とゲージ」では、電磁ポテンシャル Aμ を外から与え、荷電粒子の Hamiltonian に p^→p^−qA という置き換え(極小結合)で組み込んだ。そこでは、ゲージ変換 A→A+∇χ に伴って波動関数が位相 eiqχ を獲得すること、その位相が Aharonov–Bohm 効果として干渉縞のずれに現れることを見た。論理の向きは「電磁場が先にあり、量子力学の波動関数がそれに合わせて位相を変える」であった。
本章では論理を逆向きに辿る。出発点は電磁場ではなく、自由な Dirac 場が持つ位相の任意性である。この任意性を時空の各点で独立に使ってよいと要求すると、Lagrangian 密度はそのままでは不変でなくなり、破れを埋め合わせるためにベクトル場を1つ導入することが強制される。導入された場の変換則・運動項の形・質量を持てないことが、すべて要求から決まる。結果として現れるのは電磁場そのものであり、相互作用の形まで対称性が指定する。この論法をゲージ原理と呼ぶ。
自由 Dirac 場の Lagrangian 密度は
L0=ψˉ(iγμ∂μ−m)ψ=ψˉ(i∂−m)ψ
である(第4部 第1章)。ここで ψˉ=ψ†γ0 である。この L0 は、定数 α を用いた位相変換
ψ(x) ⟶ e−iαψ(x),ψˉ(x) ⟶ e+iαψˉ(x)
で不変である。ψ と ψˉ の位相が逆符号で現れ、L0 の各項が ψˉ⋯ψ の形をしているので、位相因子が相殺するからである。位相因子 e−iα の全体は絶対値1の複素数の集合であり、群として U(1) をなす。α が時空の点によらない定数であることを強調して、この対称性を大域的 U(1) 対称性(global U(1) symmetry)と呼ぶ。「大域的」とは、宇宙のどの点でも同じ量だけ位相を回す、という意味である。
連続対称性には保存カレントが対応する(Noether の定理。第1部 第4章)。この場合のカレントは
jμ=ψˉγμψ,∂μjμ=0,Q=∫d3xj0=∫d3xψ†ψ
であり、Q は場の量子化の後には「粒子数から反粒子数を引いたもの」を数える演算子になる(第4部 第2章)。電荷を測るのはこの Q に電気素量を掛けたものである。
例題 1.1(Dirac 場の Noether カレント ★★★)
オリジナル自由 Dirac 場の大域的 U(1) 対称性に対応する Noether カレントが jμ=ψˉγμψ で与えられること、および Dirac 方程式を用いると ∂μjμ=0 が成り立つことを示せ。
解答
Noether の定理は、場 ϕa の無限小変換 ϕa→ϕa+ϵδϕa が L を不変に保つとき、
jμ=a∑∂(∂μϕa)∂Lδϕa
が保存することを主張する。いまの場合、独立な場は ψ と ψˉ の2つであり、微小変換は α=ϵ の1次で
δψ=−iψ,δψˉ=+iψˉ
である。L0=ψˉ(iγμ∂μ−m)ψ は ∂μψˉ を含まないので、∂L0/∂(∂μψˉ)=0 であり、ψˉ からの寄与はない。ψ については∂L0/∂(∂μψ)=iψˉγμ だから
jμ=iψˉγμ⋅(−iψ)=ψˉγμψ
となる(全体の定数倍は規約で、ここでは j0=ψ†ψ が正定値になるように取った)。
保存則を直接確かめる。Dirac 方程式 iγμ∂μψ=mψ と、その Dirac 共役−i∂μψˉγμ=mψˉ を使うと
∂μjμ=(∂μψˉ)γμψ+ψˉγμ(∂μψ)=(imψˉ)ψ+ψˉ(−imψ)=0.
第1項では ∂μψˉγμ=imψˉ を、第2項では γμ∂μψ=−imψ を用いた。運動方程式を使ってはじめて保存が言える点に注意する。Noether カレントの保存は「解の上で」の主張である。■
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