場の量子論入門 第5部 第1章 §5.1.3 ★★★ ゲージ場は「入れてもよい」のではなく「入れざるを得ない」
新しいベクトル場 Aμ(x) を導入し、微分を
Dμ≡∂μ+ieAμ
で置き換える。Dμ を共変微分(covariant derivative)と呼ぶ。e は結合の強さを表す定数(結合定数)である。「共変」という名前は、Dμψ が ψ と同じ変換をすること、すなわち
Dμψ ⟶ e−iα(x)Dμψ
が成り立つことに由来する。素の微分 ∂μψ は余分な項を出してこの形にならなかった。この要求を満たすために Aμ が従うべき変換則は一意に決まり(例題 5.1.2 で示す)
Aμ(x) ⟶ Aμ(x)+e1∂μα(x)
となる。これは電磁ポテンシャルのゲージ変換 A→A+∇χ、A0→A0−∂χ/∂tそのものである(χ=−α/e と読み替えればよい)。導入した Aμ をゲージ場と呼ぶ。
これで
L=ψˉ(iD−m)ψ=自由部分ψˉ(i∂−m)ψ 相互作用−eψˉγμψAμ
が局所ゲージ変換のもとで不変になる。右辺第2項が相互作用項であり、−ejμAμ の形をしている。ここで得られた結論は3つある。第一に、相互作用の相手は勝手な量ではなく、対称性が生む保存カレント jμ である。第二に、結合の形は jμAμ という縮約に固定され、たとえば ψˉγμγ5ψAμ のような別の結合は現れない。第三に、自由パラメータは結合定数 e ただ1つである。相互作用の形をこちらで選ぶ余地は残っていない。
e の符号の約束について
共変微分を Dμ=∂μ+ieAμ と書いたとき、ψ の量子が担う電荷は +e である(電荷 q の粒子の極小結合は i∂μ→i∂μ−qAμ、すなわち Dμ=∂μ+iqAμ)。電子場にこの式をそのまま当てはめるなら、e は電子の電荷そのもの(負の量)を表す。一方、素電荷を正に取って e>0、電子の電荷を −e と書く流儀も広く使われ、その場合の共変微分は Dμ=∂μ−ieAμ、頂点因子は +ieγμ になる。本書は記法の正本にしたがって前者の書き方(Dμ=∂μ+ieAμ、頂点 −ieγμ)を採り、微細構造定数を α=e2/4π=1/137.036、e=4πα=0.302822 と定める。この部で計算する断面積はすべて e4=(4πα)2 に比例するので、e の符号の取り方は結果を変えない。符号が結果を分けるのは、外場中で粒子がどちら向きに曲がるか、電荷の異なる粒子の振幅を足し合わせて干渉させるとどうなるか、といった場面である。
位相の比較という見方(Aharonov–Bohm 効果とのつながり)
異なる点 x と y で場の位相を比べる道具が U(y,x)=exp[−ie∫xyAμdzμ] であり、ゲージ変換のもとで U(y,x)→e−iα(y)U(y,x)e+iα(x) と変換するのでψˉ(y)U(y,x)ψ(x) はゲージ不変になる。y→x で1次まで展開すると共変微分 Dμ が現れる。閉じた経路についての位相 exp[−ie∮A⋅dz] が Aharonov–Bohm 効果で観測された位相であり(『量子力学入門』第5部「電磁場中の荷電粒子とゲージ」)、そこで測っていたのは「離れた2点の位相を比べる道具そのもの」であった。
例題 1.2(ゲージ場の変換則は一意に決まる ★★★)
オリジナルψ→e−iα(x)ψ に対して Dμψ→e−iα(x)Dμψ が成り立つようにAμ→Aμ+δAμ を定めると、δAμ=e1∂μα 以外にないことを示せ。
解答
変換後の共変微分を Dμ′=∂μ+ie(Aμ+δAμ) と書く。要求は
Dμ′(e−iαψ)=e−iα(∂μ+ieAμ)ψ
である。左辺を展開する。Leibniz 則より
∂μ(e−iαψ)=e−iα(∂μψ−i(∂μα)ψ)
だから
Dμ′(e−iαψ)=e−iα(∂μψ−i(∂μα)ψ+ieAμψ+ieδAμψ).
右辺と突き合わせると、ψ に掛かる項として
−i∂μα+ieδAμ=0⟹δAμ=e1∂μα
が必要十分である。ψ は任意の場だから係数どうしが等しくなければならず、これ以外の選択肢はない。
なお、α を定数に戻すと δAμ=0 となり、大域変換ではゲージ場は動かない。局所化して初めてゲージ場が変換を受ける。■
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