場の量子論入門 第5部 第5章 §5.5.1 ★★ 内線の分母が 2p⋅k と −2p⋅k′ になる
Compton 散乱 γ(k)+e−(p)→γ(k′)+e−(p′) は、外線に実光子を含む最初の例である。第4章と違って最低次のダイアグラムが2つあり、どちらか一方だけでは Ward 恒等式が成り立たない。2つを足してはじめてゲージ不変になるという構造を、本章で実際に確かめる。結果は Klein–Nishina の公式であり、低エネルギー極限で古典電磁気学の Thomson 散乱に一致する。

図 Compton 散乱の最低次ダイアグラム2つ。(a) は電子が先に入射光子を吸収する図(内線の運動量 p+k)で、(b) は電子が先に終状態の光子を放出する図(内線の運動量 p−k′)である。どちらも同じ次数であり、両方を足さなければならない。
図 (a) では、電子が入射光子を吸収して運動量 p+k の仮想電子になり、その後 k′ の光子を放出する。図 (b) では、先に k′ の光子を放出して運動量 p−k′ の仮想電子になり、その後 k の光子を吸収する。手順にしたがって書き下すと
iM=uˉ(p′)[(−ieγν)(p+k)2−m2i(p+k+m)(−ieγμ)+(−ieγμ)(p−k′)2−m2i(p−k′+m)(−ieγν)]u(p)ϵμ(k)ϵν∗(k′)
である。分母は、p2=m2 と k2=k′2=0 を使って
(p+k)2−m2=2p⋅k,(p−k′)2−m2=−2p⋅k′
と簡単になる。因子を整理して
M=−e2ϵμ(k)ϵν∗(k′)uˉ(p′)[2p⋅kγν(p+k+m)γμ−2p⋅k′γμ(p−k′+m)γν]u(p)
を得る。第1項が s チャネル((p+k)2=s)、第2項が u チャネル((p−k′)2=u)である。t チャネルの図が無いのは、光子2本と電子2本を結ぶのに γγ→γγ の頂点がQED に存在しないからである。
例題 5.1(Compton 波長シフト ★★)
オリジナル実験室系(入射前の電子が静止)で、散乱光子のエネルギー ω′ が入射光子のエネルギー ω と散乱角 θ でどう決まるかを求めよ。
解答
運動量保存 p+k=p′+k′ を、測らない量 p′ を消す向きに使う。p′=p+k−k′ の両辺を2乗すると
m2=p′2=(p+k−k′)2=p2+k2+k′2+2p⋅k−2p⋅k′−2k⋅k′
であり、p2=m2、k2=k′2=0 を使うと
p⋅k−p⋅k′−k⋅k′=0.
実験室系では p=(m,0) なので p⋅k=mω、p⋅k′=mω′ である。また k⋅k′=ωω′(1−cosθ)(θ は2本の光子のなす角)だから
mω−mω′=ωω′(1−cosθ).
両辺を mωω′ で割ると
ω′1−ω1=m1−cosθ
を得る。波長で書けば λ′−λ=m2π(1−cosθ) であり、2π/m が電子の Compton 波長(3.862×10−13 m)である。散乱光子は必ずエネルギーを失い(ω′≤ω)、前方(θ=0)では損失がない。この関係は運動学だけから出ており、相互作用の詳細(QED であること)を使っていない。■
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