場の量子論入門 第7部 第1章 §7.1.2 ★★ 経路積分が本当に計算できる二つの例。以降の Gauss 積分の原型
経路積分が定義できても、実際に積分できなければ意味がない。作用が座標について高々 2 次(Gauss 型)であれば、経路積分は正確に実行できる。自由粒子と調和振動子がその例である。
自由粒子。
V=0 のときは H=p2/2m が単独で指数関数に乗るので、時間を刻む必要がない。例題 1.1 で ε→T と置き換えればよく、
Kfree(xf,T;xi,0)=2πiℏTmexp[ℏi2Tm(xf−xi)2].
指数の肩に現れた m(xf−xi)2/2T は、二点を結ぶ等速直線運動(すなわち古典解)に沿った作用Scl=2m(Txf−xi)2T に等しい。振幅の位相が古典作用で書けるのは偶然ではなく、次の一般論から従う。
作用が 2 次のときの一般構造。
経路を古典解のまわりの揺らぎに分解する。x(t)=xcl(t)+y(t) と置き、xcl は Euler–Lagrange 方程式を満たし両端の条件 xcl(0)=xi、xcl(T)=xf を満たすものとする。すると揺らぎ y は両端で消える(y(0)=y(T)=0)。作用を y で展開すると
S[xcl+y]=S[xcl]+=0∫0TdtδxδSxcly(t)+21∫0Tdtdt′y(t)δx(t)δx(t′)δ2Sxcly(t′)
となり、1 次の項は xcl が Euler–Lagrange 方程式の解であることから消える。作用が高々 2 次ならば 3 次以上の項は最初から無いので、この展開は近似ではなく厳密である。測度は平行移動 x→xcl+y で不変(各時刻の積分変数を定数だけずらすだけ)なのでDx=Dy であり、
K=eiScl/ℏ×F(T),F(T)=∫y(0)=y(T)=0Dy exp[2ℏi∫dtdt′yδxδxδ2Sy]
と分解する。前因子 F(T) は端点 xi,xf に依らず T だけの関数であり、古典解が位相を、揺らぎが振幅の大きさを決める、という構造になっている。
調和振動子。
L=2mx˙2−2mω2x2 の場合を計算する。古典解は
xcl(t)=sinωTxisinω(T−t)+xfsinωt
であり(両端の条件を直接代入すれば確かめられる)、これを作用に代入すると次の例題の結果を得る。
例題 1.2(調和振動子の古典作用)
オリジナル調和振動子の古典解に沿った作用が
Scl=2sinωTmω[(xf2+xi2)cosωT−2xfxi]
となることを示せ。
解答
Lagrangian が座標について 2 次なので、部分積分で境界項だけを残せる。
S=2m∫0Tdt(x˙2−ω2x2)=2m[xx˙]0T−2m∫0Tdt x(x¨+ω2x).
古典解は x¨cl+ω2xcl=0 を満たすので、積分の項は消える。残るのは
Scl=2m[xfx˙cl(T)−xix˙cl(0)].
古典解を微分すると
x˙cl(t)=sinωTω[−xicosω(T−t)+xfcosωt]
なので、両端での値は
x˙cl(T)=sinωTω(−xi+xfcosωT),x˙cl(0)=sinωTω(−xicosωT+xf).
代入して整理すると
Scl=2sinωTmω[xf(−xi+xfcosωT)−xi(−xicosωT+xf)]=2sinωTmω[(xf2+xi2)cosωT−2xfxi].
この式は二つの独立な検算を通っている(検算スクリプト 検算スクリプト)。第一に、T と xf の関数として Hamilton–Jacobi 方程式∂TScl+2m1(∂xfScl)2+2mω2xf2=0 を満たす。第二に、ω→0 の極限で m(xf−xi)2/2T、つまり自由粒子の古典作用に帰着する。
前因子 F(T) も計算できる。揺らぎ y は両端で消えるので、区間 [0,T] で Fourier 正弦級数y(t)=∑n=1∞ansin(nπt/T) に展開できる。正弦関数の直交性から
2m∫0Tdt(y˙2−ω2y2)=4mTn=1∑∞an2[(Tnπ)2−ω2]
となり、各モードが独立な 1 次元 Gauss 積分に分かれる。∫daneicλnan2∝λn−1/2 なので、F(T) は固有値 λn=(nπ/T)2−ω2 の積の −1/2 乗に比例する。Dy から ∏dan への変換の Jacobian は ω に依らないので、自由粒子(ω=0)との比を取ればそれが落ちる。
F0(T)Fω(T)=n=1∏∞[(nπ/T)2(nπ/T)2−ω2]−1/2=n=1∏∞[1−n2π2(ωT)2]−1/2=(ωTsinωT)−1/2.
最後の等号には無限積の公式 sinz=z∏n≥1(1−z2/n2π2) を使った。自由粒子の前因子は既に F0(T)=m/2πiℏT と分かっているので、
Fω(T)=2πiℏTmsinωTωT=2πiℏsinωTmω
を得る。まとめると、調和振動子の伝播振幅は
Kosc=2πiℏsinωTmωexp{ℏi2sinωTmω[(xf2+xi2)cosωT−2xfxi]}
である。前因子も ω→0 で m/2πiℏT に帰着し、自由粒子の結果と整合する(検算済み)。ωT=nπ で前因子が発散するのは、その時刻に古典軌道がすべて一点に収束する(焦点)ためである。
虚時間へ回すとスペクトルが読める
xf=xi=0 と置いて T=−iβ とすると、sinωT=−isinhωβ からKosc=mω/2πℏsinhωβ となる。β→∞ では sinhωβ≃21eωβ なのでKosc≃mω/πℏ e−ωβ/2 である。一方 ⟨0∣e−βH/ℏ∣0⟩=∑n∣ψn(0)∣2e−βEn/ℏ のβ→∞ での支配項と比べれば、減衰率から E0=ℏω/2(零点エネルギー)が、前因子から ∣ψ0(0)∣2=mω/πℏ が読み取れる。演算子を経ずにスペクトルが出る例であり、第 6 章で分配関数として一般化する。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com