場の量子論入門 第7部 第4章 §7.4.1 ★★ 定義は 3 行。だが Berezin 積分の約束には理由がある
前章までの経路積分は、各時空点で実数(あるいは複素数)を積分するものだった。しかしフェルミオンの場は、正準量子化では反交換関係 {ψ,ψ†}=δ を満たす演算子である。経路積分で扱うには、積分変数の側を反可換にする必要がある。それが Grassmann 数である。この章では Grassmann 数の代数と積分を定義し、Gauss 積分がボゾンと逆の形になること、そしてそれがフェルミオンループの符号 (−1) の起源であることを示す。
定義 (Grassmann 数)
互いに反可換な量 θ1,θ2,…,θn の組をGrassmann 数(あるいは反可換数)と呼ぶ。
θiθj=−θjθi(∀i,j),とくにθi2=0.
通常の複素数とは可換とする。
θ2=0 なので、1 変数の関数は Taylor 展開が 2 項で終わる。
f(θ)=a+bθ.
n 変数なら、θ を高々 1 個ずつ含む 2n 個の単項式の線形結合である。関数空間が有限次元になる点が通常の解析と決定的に違う。
微分は左微分で定義する。∂/∂θi は θi を左端まで持ってきてから取り除く操作であり、移動のたびに符号が付く。たとえば
∂θ1∂(θ1θ2)=θ2,∂θ2∂(θ1θ2)=∂θ2∂(−θ2θ1)=−θ1.
微分演算子どうしも反可換である。
積分の定義には理由がある。通常の実積分の最も本質的な性質は平行移動不変性∫dxf(x+a)=∫dxf(x) である(Gauss 積分の平方完成も、経路積分のϕ=ϕc+η という置き換えも、この性質に依存していた)。Grassmann 数にも同じ性質を要求すると、積分の形はほぼ一意に決まる。
定義 (Berezin 積分)
Grassmann 数についての積分を
∫dθ 1=0,∫dθ θ=1
で定義する。多変数のときは dθi どうしも反可換とし、∫dθn⋯dθ1 のように順序を指定して使う。
この定義が平行移動不変性を満たすことは直ちに確かめられる。η を別の Grassmann 数としてf(θ)=a+bθ に θ→θ+η を代入すると f=a+bη+bθ となり、積分すると定数部分は落ちて b が残る。もとの ∫dθf(θ)=b と一致する。定数の積分が 0 でなければこの性質は壊れるので、∫dθ1=0 は選択ではなく帰結である。結果として、Grassmann 数の積分は微分とまったく同じ操作になる。
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