場の量子論入門 第7部 第5章 §7.5.2 ★ 恒等式を 1 個挟むだけ。有限次元の極座標変換とまったく同じ論理
処方の骨格は、積分に「1 を賢く書いたもの」を挿入して、ゲージ軌道方向の積分を分離することである。有限次元で先に見ておく。
例題 5.1(有限次元での予行演習)
オリジナル2 次元平面上の回転不変な関数 f(∣x∣) の積分 I=∫d2xf(∣x∣) を、「ゲージ条件」g(x)=x2=0 を使って角度方向の積分を分離せよ。回転を xα=R(α)x と書く。
解答
恒等式
1=∫02πdα δ(g(xα))∂α∂g(xα)
を作る。実際 g(xα)=−x1sinα+x2cosα は α の関数として周期内に2 個の零点を持ち、δ 関数の公式から右辺は 1 になる(零点 2 個のうち片方だけを数える約束にすれば1、両方数えれば 2 で、以下ではどちらでも定数倍の違いにしかならない)。零点では xα が x1 軸上にあり、そこでの微分は
∂α∂g(xα)=−x1cosα−x2sinα⟶∓r,r=∣x∣.
したがって ∣∂g/∂α∣=r である。これを積分に挿入すると
I=∫02πdα∫d2x δ(g(xα))rf(r).
被積分関数が回転不変なので、内側の積分は α に依らない(x→x−α と変数変換すればよい)。そこで α 積分は単に 2π という「回転群の体積」を出し、
I=2π∫d2x δ(x2)rf(r)=2π∫−∞∞dx1∣x1∣f(∣x1∣)=2π∫0∞dr rf(r)
となる。これは極座標変換の公式そのものである。ここで現れた因子 r=∣∂g/∂α∣ がFaddeev–Popov 行列式に相当し、極座標の Jacobian と同じ役割を担っている。ゲージ理論で行うのは、この操作を無限次元で実行することだけである。
場の理論での手続きは次のとおりである。ゲージ固定条件を G(A)=0(たとえば G=∂μAμ−ω(x))とし、ゲージ変換したものを Aμα=Aμ+e1∂μα と書く。恒等式
1=∫Dα δ(G(Aα)) det(δαδG(Aα))
を経路積分に挿入する。δ 関数は汎関数デルタ(各時空点で 1 個)である。作用と測度がゲージ不変なので、有限次元の場合と同様に α 積分は被積分関数から分離でき、ゲージ群の体積 ∫Dα という全体因子として括り出されて、規格化で消える。残るのは
∫DA δ(G(A))det(δαδG(Aα)) eiS[A].
QED(可換ゲージ理論)では G(Aα)=∂μAμ+e1□α−ω なのでδG/δα=□/e となり、A に依らない定数である。定数の行列式は規格化で消えるので、QED にはゴーストが要らない。さらに ω(x) について重み exp[−2ξi∫ω2] で平均を取ると、δ 関数がゲージ固定項に置き換わり、実効的な作用は
Sgf=∫d4x [−41FμνFμν−2ξ1(∂μAμ)2]
となる。ξ はゲージ固定パラメータであり、物理量は ξ に依存しない。
例題 5.2(光子の伝播関数)
オリジナル上の Sgf から光子の伝播関数を求め、ξ=1(Feynman ゲージ)で−iημν/q2 になることを確かめよ。
解答
Sgf を部分積分でまとめると
Sgf=21∫d4x Aμ[ημν□−(1−ξ1)∂μ∂ν]Aν
であり、運動量空間では ∂μ→−iqμ、□→−q2 から
Oμν(q)=−q2ημν+(1−ξ1)qμqν.
伝播関数は iO−1 である。対称性から (O−1)νρ=aηνρ+bqνqρ と置き、Oμν(O−1)νρ=δρμ を課す。
[−q2ημν+(1−ξ1)qμqν][aηνρ+bqνqρ]=−q2aδρμ+qμqρ[−q2b+(1−ξ1)a+(1−ξ1)bq2].
δρμ の係数から a=−1/q2。qμqρ の係数を 0 と置くと
−ξq2b+(1−ξ1)(−q21)=0⟹b=q41−ξ.
したがって
i(O−1)νρ=q2−i[ηνρ−(1−ξ)q2qνqρ].
ξ=1 とすると qνqρ の項が消えて −iηνρ/q2 となり、第5部 で用いた Feynman ゲージの伝播関数に一致する。ξ→0 の Landau ゲージでは qν を掛けると 0 になる(横波成分だけが伝播する)。ゲージ固定項を入れる前は detO=0 で逆行列が存在しなかったのに対し、1/ξ の項が零モードに質量に相当する寄与を与え、逆行列が定義できるようになった点が要である。
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