物理のための微分幾何入門 第6章 §6.2 ★★★ 空間曲線に沿って動く正規直交枠の回り方を曲率と捩率で書く。曲線の幾何の中心の式
Frenet 標構
空間曲線では「左へ曲がる」という区別ができないので、曲率は κ=T′≥0 だけで扱う。その代わり、曲がる向きそのものを表す単位ベクトルを作る。
定義 6.10(Frenet 標構)
弧長で表した空間曲線 r(s) で、つねに κ(s)>0 とする。次の3つのベクトルを考える。
T=r′,N=κT′,B=T×N.(6.5)
これらをそれぞれ単位接ベクトル・主法線ベクトル・従法線ベクトルと呼ぶ。3つの組 (T,N,B) を Frenet 標構と呼ぶ。
§6.1 で見たとおり、T′ は T と直交する。したがって N は、T と直交する単位ベクトルである。B は直交する2つの単位ベクトルの外積なので、単位ベクトルであり、その2つの両方に直交する。こうして (T,N,B) は各点で右手系の正規直交基底になる。
T と N が張る平面を接触平面と呼ぶ。曲線はその点の近くで、まずこの平面の中で曲がり始める。曲率が 0 の点では主法線が定まらないので、この節では κ>0 を仮定する。
Frenet–Serret の式
定理 6.11(Frenet–Serret の式 ★★★)
曲率が正の空間曲線では、関数 τ(s) がただ1つあって次が成り立つ。
T′=κN,N′=−κT+τB,B′=−τN.(6.6)
この τ を捩率と呼ぶ。
証明
第1式は N の定義そのものである。
第3式を示す。従法線は単位ベクトルなので、B⋅B=1 の微分から B′⊥B を得る。一方、B=T×N を積の微分で微分すると次になる。
B′=T′×N+T×N′=κN×N+T×N′=T×N′.
右辺の外積は接線と直交するので、B′ は接線 T とも直交する。
接線と従法線の両方に直交するベクトルは、残る主法線 N の向きを向く。そこで B′=−τN となる関数がただ1つ決まり、それは τ=−B′⋅N である。
第2式を示す。右手系の正規直交基底では N=B×T なので、これを微分する。
N′=B′×T+B×T′=−τN×T+κB×N.
右手系の関係から、N×T=−B と B×N=−T が成り立つ。これを代入すれば第2式 N′=−κT+τB を得る。
3つの式は行列でまとめると見通しがよい。
dsdTNB=0−κ0κ0−τ0τ0TNB.(6.7)
係数行列は反対称である。§6.3 の存在の証明では、この反対称性によって正規直交性が保たれることを使う。
捩率の意味
捩率は、接触平面がどれだけ回るかを表す。接触平面の法線は B であり、第3式 B′=−τN はその法線の回り方を表す。法線は弧長あたり角度 ∣τ∣ で回る。平面の中に収まる曲線では接触平面が動かないので、捩率は 0 になるはずである。
この見方は、曲線を Frenet 標構で Taylor 展開すると具体的になる。r′=T と r′′=κN をもう1回微分すると、次になる。
r′′′=κ′N+κN′=−κ2T+κ′N+κτB.
s=0 の点を原点に置き、そこでの Frenet 標構を座標軸に選ぶ。各成分の主要な項を取り出すと、次の局所標準形を得る。
r(s)=(s+O(s3))T+(2κs2+O(s3))N+(6κτs3+O(s4))B.(6.8)
主法線方向の放物線の曲がりは、曲率 κ で決まる。接触平面から従法線方向へ離れる量は、s3 の項から始まる。τ>0 なら、曲線は弧長が正の側で +B の向きへ抜ける。図 6.2 の右巻きの螺旋がこの場合にあたる。
定理 6.12(捩率ゼロと平面曲線)
曲率が正の空間曲線について、次の2つは同値である。
- 捩率がつねに 0 である。
- 曲線が1つの平面に含まれる。
証明
捩率がつねに 0 だとする。第3式から B′ は零ベクトルなので、従法線は一定のベクトル B0 である。このとき次が成り立つ。
dsd(r⋅B0)=T⋅B0=0.
したがって r⋅B0 は定数 d になる。曲線は平面 x⋅B0=d に含まれる。
逆に、曲線が単位法線 n の平面に含まれるとする。
r⋅n が一定なので、微分すると T⋅n=0 を得る。もう1回微分して κN⋅n=0 となり、曲率が正なので N⋅n=0 である。したがって B=±n であり、B は連続なので符号は区間全体で一定である。B が一定なので、第3式から捩率は 0 である。
媒介変数表示の公式
証明
速さを v=∣r′∣=ds/dt と書く。弧長での微分は t での微分を v で割ったものである。したがって t で微分すると、Frenet–Serret の式の右辺に v が掛かる。
dtdT=vκN,dtdN=v(−κT+τB).
これを使って r′=vT を2回微分する。
r′′r′′′=v′T+v2κN,=(v′′−v3κ2)T+(3vv′κ+v2κt)N+v3κτB.
ここで κt=dκ/dt である。
外積をとると、T×T は消え、T×N=B が残る。
r′×r′′=v3κB,∣r′×r′′∣=v3κ.
これを v3 で割れば、曲率の式を得る。
外積 r′×r′′ は従法線の向きなので、r′′′ との内積には従法線成分だけが残る。
(r′×r′′)⋅r′′′=v3κ⋅v3κτ=v6κ2τ.
これを ∣r′×r′′∣2=v6κ2 で割れば、捩率の式になる。
平面曲線 (x(t),y(t),0) では、3階導関数の z 成分が 0 である。外積は z 軸の向きを向くので、(6.9) の捩率は 0 になる。曲率の分子は ∣x′y′′−x′′y′∣ になり、(6.2) の絶対値と一致する。
Darboux ベクトル
Frenet 標構は、曲線に沿って動く剛体に固定した3本の軸とみなすことができる。剛体の向きの時間変化は角速度ベクトルで書けるので、Frenet 標構にも角速度がある。
命題 6.14(Darboux ベクトル)
ベクトル ω=τT+κB を使うと、Frenet–Serret の式は次の形に書き直される。
T′=ω×T,N′=ω×N,B′=ω×B.(6.10)
証明
右手系の関係を使って、右辺を1つずつ計算する。
ω×Tω×Nω×B=κB×T=κN,=τT×N+κB×N=τB−κT,=τT×B=−τN.
これは (6.6) の3式と一致する。
ベクトル ω を Darboux ベクトルと呼ぶ。標構は、従法線のまわりに角速度 κ で回る(曲がり)。同時に、接線のまわりに角速度 τ で回る(ねじれ)。曲線を単位の速さでたどるとき、標構全体の回転の速さは ∣ω∣=κ2+τ2 である。

図 6.2 右巻きの螺旋 r(t)=(cost,sint,21t) と、t=3π/2 の点での Frenet 標構(矢印は長さ 1.5 に描いた)。N は螺旋の軸へ水平に向き、B は軸の向きから傾いている
例題 6.2 螺旋の Frenet 標構・曲率・捩率 ★★★
オリジナル定数 a>0, b∈R をとり、螺旋 r(t)=(acost,asint,bt) を考える。以下では c=a2+b2 とおく。
- 弧長 s を t で表し、Frenet 標構を求めよ。
- 曲率と捩率が次の値であることを示せ。
κ=c2a,τ=c2b.
3. b→0 と a→0 の極限で、それぞれ何が起きるかを述べよ。
解答
(1) 速度は r′=(−asint,acost,b) で、その大きさは一定値 c である。t=0 から測ると s=ct であり、単位接ベクトルは次になる。
T=c1(−asint,acost,b).
dt/ds=1/c を使って、単位接ベクトルを弧長で微分する。
T′=c21(−acost,−asint,0)=c2a(−cost,−sint,0).
右端のベクトル (−cost,−sint,0) は単位ベクトルで、係数は正である。したがってこのベクトルが N であり、螺旋の点から z 軸へ水平に向かう。
外積 B=T×N を成分で計算する。
B=c1ex−asint−costeyacost−sintezb0=c1(bsint,−bcost,a).
(2) 上の T′ の係数から、曲率は a/c2 である。B を s で微分すると次になる。
B′=c21(bcost,bsint,0)=−c2bN.
第3式 B′=−τN と比べて、捩率は b/c2 である。
検算として (6.9) も使う。2階と3階の導関数は次のとおりである。
r′′=(−acost,−asint,0),r′′′=(asint,−acost,0).
外積は r′×r′′=(absint,−abcost,a2) で、その長さは ac である。したがって曲率は ac/c3=a/c2 となる。内積は (r′×r′′)⋅r′′′=a2b なので、捩率は a2b/(a2c2)=b/c2 となり一致する。
(3) b→0 では曲率が 1/a に近づき、捩率は 0 に近づく。螺旋は半径 a の円に縮む。
a→0 では曲率が 0 に近づき、螺旋は z 軸の直線に縮む。b>0 の螺旋は右巻きで捩率が正、b<0 の螺旋は左巻きで捩率が負である。捩率の符号は、巻きの向きを表している。
確認テスト
オリジナル
- 6.2-1 例題 6.2 の螺旋について、Darboux ベクトルを成分で書け。それが z 軸に平行な一定のベクトルであることを示せ。
- 6.2-2 3次曲線 r(t)=(t,t2,t3) の曲率と捩率を、t の関数として求めよ。また t=0 での値を求めよ。
- 6.2-3 円錐上の螺旋 r(t)=(etcost,etsint,et) の曲率と捩率を求めよ。比 τ/κ が一定であることを確かめよ。
- 6.2-4 曲率が正の空間曲線のすべての点で、主法線を延ばした直線が1つの定点 c を通るとする。この曲線は円弧であることを示せ。
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