物理のための微分幾何入門 第6章 §6.3 ★★ 曲率と捩率は曲線の形の完全な記述になる。存在は線形常微分方程式、一意性は内積の保存で示す
剛体運動で変わらない量
曲線を空間の中で平行移動したり回転したりしても、曲がり方とねじれ方は変わらないはずである。この直観を式で確かめる。
定義 6.15(剛体運動)
直交行列 Q とベクトル c∈R3 をとる。写像 x↦Qx+c を合同変換と呼ぶ。合同変換のうち、detQ=+1 のものを剛体運動と呼ぶ。
行列式が −1 の合同変換は、鏡映を含む。証明の中では、直交行列についての次の恒等式を使う。
Qa×Qb=(detQ)Q(a×b).
外積は右手系の向きを使って定義されているので、鏡映を含む変換では向きが反転する。この恒等式はそのことを表している。
命題 6.16(曲率と捩率の不変性)
曲線 r(s) を合同変換で写した曲線を r~(s)=Qr(s)+c とする。その曲率と捩率は次のようになる。
κ~=κ,τ~=(detQ)τ.
とくに剛体運動では、曲率も捩率も変わらない。
証明
Q は長さを保つので、r~′=Qr′ は単位ベクトルである。したがって s は写した曲線の弧長でもある。T~=QT を微分すると T~′=κQN となる。QN は単位ベクトルなので、曲率は変わらず、主法線は QN である。
従法線は上の恒等式から次になる。
B~=QT×QN=(detQ)QB.
これを微分すると、次の式を得る。
B~′=(detQ)QB′=−(detQ)τQN=−(detQ)τN~.
第3式 B~′=−τ~N~ と比べて、τ~=(detQ)τ を得る。
鏡に映した螺旋は巻きの向きが逆になり、捩率の符号が反転する。右巻きのねじと左巻きのねじが回転では重ならないことは、この符号の違いとして表される。
基本定理の主張
定理 6.17(曲線論の基本定理 ★★★)
区間 I 上の滑らかな関数 κ(s),τ(s) を与える。ただし κ はつねに正とする。
- (存在)弧長で表され、曲率が κ(s)、捩率が τ(s) である空間曲線が存在する。
- (一意性)同じ曲率と捩率をもつ2つの曲線は、剛体運動で互いに重なる。
この定理によって、曲線の形を調べる問題は、2つの1変数関数を調べる問題に置き換わる。弧長をパラメータに選ぶのは、パラメータの取り方による違いを取り除くためである。
一意性の証明
一意性の証明
2つの曲線 r,r~ が同じ曲率と捩率をもつとし、点 s0∈I を1つ選ぶ。s0 での2つの Frenet 標構は、どちらも右手系の正規直交基底である。したがって一方を他方へ写す回転 Q がある。
写した曲線の位置が s0 で一致するように、平行移動 c を選ぶ。
c=r(s0)−Qr~(s0).
r~ を Qr~+c に置き換えても、命題 6.16 により曲率と捩率は変わらない。置き換えたあとは、s0 で位置と標構が一致する。
次の関数を考える。
f(s)=T⋅T~+N⋅N~+B⋅B~.
両方の曲線に (6.6) を使って微分すると、次になる。
f′=κN⋅T~+κT⋅N~+(−κT+τB)⋅N~+N⋅(−κT~+τB~)−τN⋅B~−τB⋅N~=0.
6つの項は2つずつ打ち消し合う。
したがって f は定数で、s0 での値は3である。
単位ベクトルどうしの内積は1以下で、等号はベクトルが一致するときに限る。3つの内積の和が3なので、すべての s で2つの標構は一致する。とくに T=T~ なので、r−r~ は定数である。点 s0 で一致しているので、2つの曲線は等しい。
存在の証明
存在は、Frenet–Serret の式 (6.7) を、未知の標構についての方程式として解いて示す。未知数は3本のベクトルの9成分で、方程式はそれらについて線形である。
存在の証明
点 s0∈I を選ぶ。行列値の未知関数 E(s) について、次の初期値問題を考える。
E′(s)=K(s)E(s),E(s0)=I,K=0−κ0κ0−τ0τ0.(6.11)
係数が区間上で連続な線形常微分方程式の解は、その区間全体でただ1つ存在する(線形常微分方程式の存在と一意性の定理)。E の3つの行を、T(s),N(s),B(s) と名付ける。
手順1(正規直交性が保たれること)。
行列 G=EET の成分は、3本の行ベクトルどうしの内積である。これを微分すると次になる。
G′=E′ET+EE′T=KG+GKT=KG−GK.
最後の等号で、K が反対称であることを使った。
定数行列 G≡I は方程式 G′=KG−GK を満たし、初期値も同じである。これも線形方程式なので、解は1つしかない。
したがってすべての s で G(s)=I であり、3本のベクトルはつねに正規直交である。さらに detE は ±1 の値をとる連続関数で、初期点で1なので、つねに1である。つまり3本は右手系をなす。
手順2(曲線を作る)。
曲線を次のように定める。
r(s)=∫s0sT(u)du.
r′=T は単位ベクトルなので、s は弧長である。T はこの曲線の単位接ベクトルである。
手順3(曲率と捩率を確かめる)。
(6.11) の第1行から、r′′=κN である。係数は正で N は単位ベクトルなので、曲率は κ で、主法線は第2行のベクトルである。右手系なので、B=T×N が従法線である。第3行 B′=−τN から、捩率は τ である。
平面曲線の場合
平面では、符号つき曲率 κs(s) だけで曲線が決まる。この場合の κs は負の値や 0 をとってもよい。存在は2回の積分で表される。
θ(s)=θ0+∫s0sκs(u)du,r(s)=r0+∫s0s(cosθ(u),sinθ(u))du.(6.12)
一意性も同様である。定数 θ0 と r0 の取り方の違いが、平面内の回転と平行移動にあたる。
曲率から曲線を組み立てる例
曲率と捩率がともに正の定数の場合を考える。例題 6.2 の螺旋で、次の連立方程式を満たす a,b を選べばよい。
a2+b2a=κ,a2+b2b=τ.
2式の2乗の和から a2+b2=1/(κ2+τ2) となり、次のように解ける。
a=κ2+τ2κ,b=κ2+τ2τ.
一意性から、曲率と捩率が一定の曲線は螺旋に限られる。
平面で κs(s)=s/A2 とすると、曲率が弧長に比例して増える曲線ができる(A>0 は定数)。(6.12) で初期値をすべて 0 にとると、次の Fresnel 積分になる。
x(s)=∫0scos2A2u2du,y(s)=∫0ssin2A2u2du.(6.13)
この曲線をクロソイド(Euler の螺旋)と呼ぶ。s→±∞ で、曲線は2点 ±2πA(1,1) のまわりを巻きながら近づく(図 6.3)。原点の近くでは直線に近く、離れるほど急に曲がる。この性質のため、§6.4 では道路と鉄道の緩和曲線としてクロソイドが現れる。

図 6.3 クロソイド κs=s/A2(−3.6A≤s≤3.6A)。座標は Fresnel 積分 (6.13) を数値で求めた値。原点で曲率が 0 で、両端は点 ±2πA(1,1) のまわりを巻く
例題 6.3 曲率 1/(1+s2) の平面曲線 ★★
オリジナル弧長 s∈R で表された平面曲線で、符号つき曲率が次で与えられるものを求めよ。
κs(s)=1+s21.
ただし s=0 で原点を通り、そこで単位接ベクトルが (1,0) であるとする。得られた曲線が懸垂線 y=coshx−1 であることを示せ。
解答
(6.12) を使う。初期条件から θ0=0 なので、接線の角は次になる。
θ(s)=∫0s1+u2du=arctans.
この角は −π/2 と π/2 のあいだにあるので、余弦は正である。
cosθ=1+s21,sinθ=1+s2s.
これを積分すると座標が得られる。
x(s)=∫0s1+u2du=arsinhs,y(s)=∫0s1+u2udu=1+s2−1.
1つ目の式から s=sinhx であり、2つ目に代入すると次になる。
y=1+sinh2x−1=coshx−1.
検算として、系 6.7 を f(x)=coshx−1 に使う。
(1+f′2)3/2f′′=cosh3xcoshx=cosh2x1=1+sinh2x1=1+s21.
基本定理の一意性から、この条件を満たす曲線は懸垂線だけである。
確認テスト
オリジナル
- 6.3-1 曲線を鏡映 (x,y,z)↦(x,y,−z) で写すと、曲率と捩率はどう変わるか。例題 6.2 の螺旋で確かめよ。
- 6.3-2 s>0 で符号つき曲率が 1/s の平面曲線を求めよ。ただし s=1 で θ=0 とする。積分定数は、点 r(s) と原点の距離が s/2 になるように選ぶ。得られた曲線が対数螺旋であることを確かめよ。
- 6.3-3 曲率が 4/25、捩率が 3/25 で、どちらも一定の曲線を求めよ。その半径とピッチ(1周で軸方向に進む距離)を答えよ。
- 6.3-4 曲率が正の空間曲線で、比 τ/κ が定数 c であるとする。ベクトル u=cT+B が一定であることを示せ。さらに、T と u のなす角が一定であることを導け(Lancret の定理の一方向)。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com