物理のための微分幾何入門 第6章 §6.1 ★★★ 弧長で測った向きの変化率が曲率。媒介変数表示の公式と接触円はあとの全節で使う
この章では、平面や空間の中の曲線がどれだけ曲がり、どれだけねじれているかを測る量を作る。曲がり方は曲率 κ、ねじれ方は捩率 τ という弧長の関数で表される。さらに、この2つの関数を与えると曲線の形が位置と向きの違いを除いて1つに決まる(曲線論の基本定理)。
使う道具は2つある。1つは第1章 §1.1 の逆関数定理で、弧長を新しいパラメータに取り替えるときに使う。もう1つは第5章 §5.1 の線素で、ここでは R3 の Euclid 計量 ds2=dx2+dy2+dz2 だけを使う。
この章の結果は、あとの章で次のように使われる。第7章 §7.2 では、曲面の上の曲線の曲率ベクトル κN を、曲面の法線方向と接平面の方向に分けて法曲率を定める。接平面の方向の成分は測地的曲率と呼ばれ、それが 0 の曲線が第10章の測地線である。最後の §6.4 では、質点の加速度・一様磁場中の荷電粒子・コイルばね・道路の緩和曲線を、曲率と捩率の言葉で読む。
正則曲線と弧長
定義 6.1(正則曲線)
区間 I⊂R から Rn への滑らかな写像を考える。これを r:I→Rn と書く。この写像を媒介変数表示された曲線と呼ぶ。すべての t∈I で速度 r′(t)=dr/dt が零ベクトルでないとき、この曲線は正則であるという。
正則という条件は、曲線の上を動く点が途中で止まらないことを表す。止まる点では進む向きが定まらないので、向きの変化率である曲率も定義することができない。たとえば r(t)=(t2,t3) は t=0 で速度が零ベクトルになり、像は原点で尖っている。この章の曲線は、断らない限りすべて正則とする。
定義 6.2(弧長)
正則曲線 r:I→Rn と点 t0∈I をとる。次の量を t0 から測った弧長と呼ぶ。
s(t)=∫t0t∣r′(u)∣du(6.1)
被積分関数 ∣r′∣ は速さである。短い時間 dt に進む距離は、速さに dt を掛けたものになる。第5章 §5.1 の線素で書けば ds2=dr⋅dr であり、(6.1) はこの ds を足し合わせたものである。
パラメータを t=h(u)(ただし h′>0)と取り替えても、置換積分により弧長は変わらない。したがって弧長は、曲線の像とたどる向きだけで決まる量である。
命題 6.3(弧長による取り替え)
正則曲線は弧長 s をパラメータに取り直すことができ、そのとき速さは1である。
dsdr=1.
証明
微分積分学の基本定理から s′(t)=∣r′(t)∣ であり、正則性によってこれは正である。したがって s は狭義単調増加で、その導関数は 0 にならない。
第1章 §1.1 の逆関数定理(1変数の場合)から、逆関数 t=t(s) が存在して滑らかである。その導関数は dt/ds=1/∣r′∣ である。連鎖律によって次を得る。
dsdr=r′(t)dsdt=∣r′(t)∣r′(t).
右辺は長さ1のベクトルである。
弧長で表した曲線では、dr/ds を単位接ベクトルと呼び、T と書く。§6.1 から §6.3 では、弧長 s による微分をプライムで書く(T′ など)。それ以外のパラメータ t で微分するときは、そのつど断る。§6.4 の物理の節では、時刻 t による微分をドットで書く。
曲率
T は長さが1なので、変わりうるのは向きだけである。T⋅T=1 を s で微分すると次になる。
2T⋅T′=0.
したがって T′ はつねに T と直交する。T′ は「単位長さ進むあいだに向きがどれだけ回るか」を表すので、次の定義が自然である。
定義 6.4(曲率)
弧長で表した曲線 r(s) に対して、κ(s)=T′(s)=∣r′′(s)∣ を曲率と呼ぶ。κ(s)>0 のとき、ρ=1/κ を曲率半径と呼ぶ。
直線 r(s)=a+su では、単位ベクトル u が一定なので曲率は 0 である。半径 R の円は、弧長を使って次のように表される。
r(s)=R(cosRs,sinRs),T=(−sinRs,cosRs).
もう1回微分すると T′=1/R を得る。小さい円ほど同じ距離で向きが大きく回るので、曲率が大きい。
平面曲線の符号つき曲率
平面曲線では、曲がる向きが左か右かも区別することができる。T を反時計回りに直角だけ回したベクトルを Ns と書く。
T=(cosθ,sinθ),Ns=(−sinθ,cosθ).
ここで θ(s) は、単位接ベクトルが x 軸となす角である。この角は、2π の整数倍の違いを除いて s の連続関数に選ぶことができる。
T を微分すると次になる。
T′=θ′(−sinθ,cosθ)=θ′Ns.
係数 θ′ は、進む向きの角度が弧長あたりどれだけ増えるかを表す。
定義 6.5(符号つき曲率)
平面曲線に対して κs(s)=dθ/ds を符号つき曲率と呼ぶ。定義から次が成り立つ。
T′=κsNs,∣κs∣=κ.
κs>0 は進行方向の左へ曲がること、κs<0 は右へ曲がることを表す。反時計回りの半径 R の円では κs=1/R である。時計回りにたどると、符号が反転して −1/R になる。
一般に曲線をたどる向きを逆にすると、T と Ns がともに反転する。したがって符号つき曲率の符号も反転する。
媒介変数表示の公式
実際の曲線は弧長以外のパラメータで与えられることが多い。弧長に取り直さずに曲率を計算する公式を導いておく。
証明
速さを v=x′2+y′2 と書く。T=r′/v から次が成り立つ。
cosθ=vx′,sinθ=vy′.
x′=0 の点では tanθ=y′/x′ である。角を t で微分したものを θt と書く。両辺を t で微分すると、次の2式を得る。
cos2θθt=x′2v2θt,dtdx′y′=x′2x′y′′−x′′y′.
左の式と右の式が等しいので、θt=(x′y′′−x′′y′)/v2 を得る。
x′=0 の点では y′=0 である。そこでは cotθ=x′/y′ を同じように微分すれば、同じ式を得る。最後に連鎖律 κs=θt/v を使えば (6.2) になる。
系 6.7(グラフの曲率)
関数 y=f(x) のグラフを、x が増える向きにたどる。その符号つき曲率は次で与えられる。
κs=(1+f′(x)2)3/2f′′(x).(6.3)
証明
グラフを r(x)=(x,f(x)) と表す。(6.2) で x′=1 と x′′=0 を代入すればよい。
接線が水平な点では f′=0 なので、曲率は2階導関数 f′′ に等しい。傾きがある点では、分母があるので曲率は f′′ より小さい。グラフの x 方向に進む量より、曲線に沿って進む量のほうが長いことがこの差の理由である。
接触円
曲線にある点で一番よく接する円を考える。接線が一致する円は無数にあるが、曲がり方まで一致させると1つに決まる。
定義 6.8(接触円)
平面曲線の点 s=s0 で、符号つき曲率が 0 でないとする。次の点を曲率中心と呼ぶ。
c=r(s0)+κs(s0)1Ns(s0).(6.4)
中心が c で半径が ρ=1/∣κs(s0)∣ の円を、接触円と呼ぶ。
命題 6.9(接触円は2次まで接する)
中心 c、半径 ρ の円に対して次の関数を考える。
F(s)=∣r(s)−c∣2−ρ2.
3つの条件 F(s0)=F′(s0)=F′′(s0)=0 を満たす円は、接触円ただ1つである。このとき F(s)=O((s−s0)3) となる。
証明
関係式 r′=T, T′=κsNs を使って、F を2回微分する。
F′=2(r−c)⋅T,F′′=2T⋅T+2κs(r−c)⋅Ns=2+2κs(r−c)⋅Ns.
条件 F′(s0)=0 は、ベクトル c−r(s0) が接線と直交することを表す。つまり、ある実数 λ を使って次のように表される。
c=r(s0)+λNs(s0).
これを F′′(s0)=0 に入れると、2−2κsλ=0 となる。したがって λ=1/κs(s0) に決まる。
最後に、条件 F(s0)=0 から半径は ρ=∣λ∣ である。3つの条件で中心の2成分と半径が1通りに決まり、それは (6.4) の接触円である。Taylor 展開で 0 次から2次までの係数が消えるので、F は (s−s0)3 の大きさである。
接触円の半径は曲率半径そのものであり、曲率中心は曲がる側にある。図 6.1 は、放物線 y=x2/2 の2点で接触円を描いたものである。頂点では曲率も接触円の半径も1である。もう1つの点では曲率が 2−3/2 なので、半径は 22 になる。

図 6.1 放物線 y=x2/2 の接触円(破線)。頂点では半径 1、中心 (0,1)。点 (1,21) では半径 22、中心 (−1,25)。曲率中心は Ns の向きにある
例題 6.1 楕円の曲率と頂点の接触円 ★★
オリジナルa>b>0 とし、楕円 r(t)=(acost,bsint) を考える。
- 符号つき曲率 κs(t) を求めよ。
- 曲率が最大・最小になる点と、そこでの曲率半径を求めよ。
- 長軸の端 (a,0) での曲率中心を求め、それが楕円の内側にあることを確かめよ。
解答
(1) 導関数を順に計算する。
x′=−asint,y′=bcost,x′′=−acost,y′′=−bsint.
分子は次のように t によらない。
x′y′′−x′′y′=absin2t+abcos2t=ab.
(6.2) から次を得る。
κs(t)=(a2sin2t+b2cos2t)3/2ab.
これはつねに正で、楕円を反時計回りにたどると左へ曲がり続ける。
(2) 分母の中身は次のように書き直すことができる。
a2sin2t+b2cos2t=b2+(a2−b2)sin2t.
a>b なので、これは sint=0 で最小値をとる。最大値 a2 をとるのは sint=±1 のときである。
曲率は長軸の端 (±a,0) で最大になる。最大値は a/b2 で、曲率半径は b2/a である。
曲率は短軸の端 (0,±b) で最小になる。最小値は b/a2 で、曲率半径は a2/b である。長軸の端は細長く尖った側なので、曲率が大きいことは楕円の形と合う。
(3) 長軸の端では単位接ベクトルが (0,1) なので、それを直角だけ回して Ns=(−1,0) である。(6.4) から曲率中心は次になる。
c=(a,0)+ab2(−1,0)=(aa2−b2,0).
0<(a2−b2)/a<a なので、中心は原点と点 (a,0) のあいだ、つまり楕円の内側にある。
確認テスト
オリジナル
6.1-1 平面曲線をたどる向きを逆にする(t↦−t)。曲率 κ と符号つき曲率はそれぞれどう変わるか。
6.1-2 サイクロイド r(t)=a(t−sint,1−cost) を考える(a>0)。1つのアーチ 0≤t≤2π の弧長を求めよ。さらに 0<t<2π での符号つき曲率を求め、アーチの頂上 t=π での曲率半径を求めよ。
6.1-3 懸垂線 y=coshx の符号つき曲率を x の関数で求めよ。また x=0 の点での接触円の中心と半径を求めよ。
6.1-4 弧長で表した平面曲線について、次の2つを示せ。
- 区間上で κs≡0 なら、曲線は線分である。
- 区間上で符号つき曲率が 0 でない定数 c に等しいなら、曲線は半径 1/∣c∣ の円弧である。
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