物理のための微分幾何入門 第7章 §7.2 ★★ 曲面の曲がりは接平面からの高さの2次の項に現れる。曲面上の曲線の法曲率はその接線方向だけで決まる
接平面からの離れ方
第一基本形式は曲面の上の長さを測るが、曲面がどう曲がっているかは測らない。平面と円柱は、どちらも適当な座標で I=du2+dv2 となる(確認テスト 7.2-1)。それでも円柱は曲がって見えるので、曲がりを測る別の量が要る。
点 r(u,v) から少し動いた点 r(u+du,v+dv) が接平面からどれだけ離れるかを調べる。Taylor 展開すると
r(u+du,v+dv)−r(u,v)=rudu+rvdv+21(ruudu2+2ruvdudv+rvvdv2)+⋯
となる。1次の項は接平面に入るので、単位法線との内積をとると2次の項だけが残る。
定義 7.6(第二基本形式)
L=ruu⋅n,M=ruv⋅n,N=rvv⋅n(7.9)
とおき、
II=Ldu2+2Mdudv+Ndv2(7.10)
を第二基本形式と呼ぶ。係数を (hij)=(LMMN) とも書く。係数の L は Lagrangian と同じ字なので、この字は曲面を扱う第7章と第8章だけで使い、第9章からは hij で書く。
この定義により、接平面から法線の向きに測った高さは
(r(u+du,v+dv)−r(u,v))⋅n=21II+O(∣du∣3+∣dv∣3)(7.11)
となる。平面では r が1次式なので II=0 である。円柱では、後の例題で見るように II=0 になる。
係数には法線の微分を使う表し方もある。恒等式 ru⋅n=0 を u で微分すると
ruu⋅n+ru⋅nu=0
になる。同じ操作を繰り返すと
L=−ru⋅nu,M=−ru⋅nv=−rv⋅nu,N=−rv⋅nv(7.12)
を得る。M の2つの表し方が等しいことは、ruv=rvu から従う。
法線の向きを反転すると L,M,N はすべて符号を変える。第一基本形式は法線によらないので、2つの基本形式は性格の違う量である。
法曲率と Meusnier の定理
曲面の上の曲線 γ(s) を弧長で表し、単位接ベクトルを t とする。曲線は曲面から離れないので、t は常に接平面に入る。その結果、曲線の加速度 κe の法線成分は曲面の形で決まる。
定義 7.7(法曲率)
接平面の零でないベクトル X に対して
κn(X)=I(X,X)II(X,X)(7.13)
を X の方向の法曲率と呼ぶ。X を定数倍しても値は変わらないので、κn は接平面の中の方向だけの関数である。
定理 7.8(Meusnier の定理 ★★)
曲面の上の曲線を弧長で表し、点 p での曲率を κ とする。主法線を e とする。主法線と曲面の法線 n のなす角を θ とする。このとき
κcosθ=κe⋅n=κn(t)(7.14)
が成り立つ。特に、同じ点で同じ接線を持つ曲面上の曲線は、すべて同じ κcosθ を持つ。
証明
曲線を γ(s)=r(u(s),v(s)) と書き、曲線に沿った法線を n(s)=n(u(s),v(s)) とする。t⋅n=0 が曲線に沿って恒等的に成り立つので、s で微分すると
dsdt⋅n+t⋅dsdn=0
である。第1項は (7.1) により κe⋅n に等しい。
第2項を計算する。′ で d/ds を表す。t=u′ru+v′rv と dn/ds=u′nu+v′nv を代入すると
t⋅dsdn=u′2ru⋅nu+u′v′(ru⋅nv+rv⋅nu)+v′2rv⋅nv=−(Lu′2+2Mu′v′+Nv′2)
となる。最後の等号には (7.12) を使った。弧長で表しているので I(t,t)=1 であり、右辺の括弧は κn(t) に等しい。2つを合わせると (7.14) が得られる。
接線 t と法線 n を含む平面で曲面を切った切り口を法断面と呼ぶ。法断面では主法線 e が ±n に一致する。そのため法断面の曲率は κ=∣κn(t)∣ である。すなわち法曲率は、法断面の曲率に、曲面が n の側へ曲がるか反対側へ曲がるかの符号をつけたものである。
同じ接線を持つ斜めの切り口では、cosθ が小さいほど曲率 κ が大きい。曲率半径で言い換えると 1/κ=cosθ/∣κn∣ なので、斜めの切り口の曲率中心は、法断面の曲率中心と点 p を直径の両端とする円の上に並ぶ。これは Thales の定理で直径に対する円周角が直角になることと同じである。図 7.2 にこの配置を示す。

図 7.2 Meusnier の定理。紙面は接線 t に垂直な平面で、接平面はその跡の水平線に見える。法断面の曲率中心 C0 と、主法線が法線と角 θ をなす斜めの切り口の曲率中心 C1,C2(θ=40∘,65∘)は、pC0 を直径とする破線の円の上にある。
物理の例:曲面に束縛された粒子の抗力
- 摩擦の無い曲面の上を、重力などの外力を受けずに速さ v で動く質点を考える。第6章 §6.4 によれば加速度は v˙t+v2κe と分かれる。
- 加速度の法線成分は、Meusnier の定理により v2κe⋅n=v2κn(t) である。したがって曲面が質点に及ぼす抗力の大きさは mv2∣κn(t)∣ になり、進む向きだけで決まる。
- 抗力は法線方向なので仕事をせず、v は一定に保たれる。このとき加速度の接平面の成分は0で、質点の軌道は第10章で扱う測地線になる。
主方向と Euler の公式
法曲率 (7.13) は、2つの対称な2次形式の比である。分母の I は正定値なので、線形代数の同時対角化が使える。
定理 7.9(Euler の公式 ★★)
各点で、接平面には I について正規直交な基底 e1,e2 がある。さらに実数 κ1≥κ2 があって、単位ベクトル X=cosφe1+sinφe2 の法曲率が
κn(X)=κ1cos2φ+κ2sin2φ(7.15)
となる。κ1,κ2 は法曲率の最大値と最小値である。
証明
接平面の内積 I を使い、第二基本形式に対応する線形写像 S を
I(SX,Y)=II(X,Y)(すべての Y)
で定める。内積 I が非退化なので、S はただ1つに決まる。II の対称性から I(SX,Y)=I(X,SY) が成り立つ。すなわち S は内積 I について対称な写像である。
内積空間の対称写像は正規直交な固有基底を持つ(スペクトル定理)。その固有基底を e1,e2、固有値を κ1≥κ2 とすれば
II(ei,ej)=I(Sei,ej)=κiδij
となる。単位ベクトル X=cosφe1+sinφe2 では I(X,X)=1 である。したがって II(X,X) を展開すると (7.15) が得られる。
(7.15) は κ2+(κ1−κ2)cos2φ と書き直せる。cos2φ の係数は0以上である。したがって法曲率は φ=0 で最大値 κ1 をとる。同様に、φ=π/2 で最小値 κ2 をとる。
定義 7.10(主曲率と主方向)
定理 7.9 の κ1,κ2 を点 p の主曲率と呼ぶ。e1,e2 の方向を主方向と呼ぶ。κ1=κ2 となる点を臍点と呼ぶ。臍点ではすべての方向の法曲率が等しい。
主方向を座標軸にとると、高さの式 (7.11) は
z≃21(κ1x2+κ2y2)(7.16)
となる。ここで x,y は接平面の正規直交座標、z は法線方向の高さである。したがって曲面は、点の近くでは2つの主曲率を持つ2次曲面で近似される。

図 7.3 Euler の公式 (7.15) による法曲率の方向依存。破線は主曲率が同符号の場合で、法曲率は符号を変えない。実線は異符号の場合で、黒点の2方向(tan2φ=2)で法曲率が0になる。
例題 7.2 円柱の第二基本形式と Meusnier の定理 ★★
オリジナル半径 a の円柱を r(u,v)=(acosu,asinu,v) で表す。法線は軸に向かう向き n=(−cosu,−sinu,0) にとる。
- 第一・第二基本形式を求め、主曲率と主方向を答えよ。
- 螺旋 γ(t)=(acost,asint,ct) の曲率は a/(a2+c2) である。これが法曲率と一致することを確かめよ。
- 点 p=(a,0,0) を通り y 軸の向きを含む平面で円柱を切る。平面は水平面から角 θ だけ傾いているとする。切り口の p での曲率を求め、Meusnier の定理を確かめよ。
解答
(1) ru=(−asinu,acosu,0),rv=(0,0,1) なので、E=a2,F=0,G=1 である。2階の偏微分は ruu=(−acosu,−asinu,0),ruv=rvv=0 なので
L=a,M=0,N=0
となる。単位接ベクトル (ru/a)cosφ+rvsinφ の法曲率は、(7.13) から
κn=1L(cosφ/a)2=acos2φ
となる。主曲率は κ1=1/a(水平の円の方向)と κ2=0(母線の方向)である。
(2) 螺旋の速度は (−asint,acost,c) である。水平の成分の大きさは a で、鉛直の成分は c である。
接線と水平の円のなす角を φ とすれば cos2φ=a2/(a2+c2) である。したがって法曲率は κn=a/(a2+c2) である。螺旋の加速度は (−acost,−asint,0) で、軸に向かう。主法線が n に一致するので θ=0 であり、曲率は法曲率に等しい。
(3) 平面は、y 方向とベクトル d=(−cosθ,0,sinθ) で張られるとする。平面の点を p+s(0,1,0)+wd と書くと、円柱の式 x2+y2=a2 は
(a−wcosθ)2+s2=a2⟺a2s2+(a/cosθ)2(w−a/cosθ)2=1
となる。
これは平面の中の楕円である。s 方向の半軸の長さは a である。これと垂直な方向の半軸の長さは a/cosθ である。点 p は原点 s=w=0 に当たり、楕円の頂点の1つである。
接線方向の半軸を A、それに垂直な方向の半軸を B とする。楕円の B 軸上の頂点での曲率は B/A2 である。これは頂点の近くで w≃s2B/(2A2) と展開すると分かる。したがって切り口の曲率は
κ=a2a/cosθ=acosθ1
である。主法線は楕円の中心に向かう d で、d⋅n=cosθ となる。よって κcosθ=1/a である。これは p での水平の円の方向の法曲率 κn=1/a に一致する。
確認テスト
オリジナル
- 7.2-1 円柱の座標を u~=au, v~=v に取り替える。このとき I=du~2+dv~2 になることを確かめよ。平面と円柱の違いが第二基本形式に現れることを、例題 7.2 の結果を使って1行で述べよ。
- 7.2-2 半径 R の球面を r=R(sinθcosϕ,sinθsinϕ,cosθ) で表し、法線を中心に向かう向きにとる。L,M,N を求め、すべての方向の法曲率が 1/R であること(全点が臍点であること)を示せ。
- 7.2-3 7.2-2 の球面の緯線 θ=θ0(0<θ0<π)を考える。緯線の曲率と、その主法線が球面の法線となす角を求め、Meusnier の定理を確かめよ。
- 7.2-4 曲面 z=21(x2−y2) を (u,v)=(x,y) で表し、法線を上向きにとる。原点での第二基本形式を求めよ。x 軸から角 φ の方向の法曲率を求め、法曲率が0になる方向をすべて答えよ。
- 7.2-5 恒等式 ru⋅n=0,rv⋅n=0 から (7.12) を導け。
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