物理のための微分幾何入門 第7章 §7.1 ★★★ 曲面の上の長さ・角・面積はすべて E,F,G の3つの関数で測れる。第8章以降の内在的な幾何の出発点
第6章では、空間の中の曲線の曲がり方を曲率 κ と捩率 τ で測った。この章では、1次元の曲線を2次元の曲面に取り替えて、同じ問いを立てる。曲面の上の長さと角はどう測るか、曲面は各点でどう曲がっているか、という問いである。
前者の答えは第一基本形式で、第5章で導入した計量 gij の具体例になっている。後者の答えは第二基本形式で、こちらは曲面が空間の中にどう置かれているかで決まる。2つを組み合わせると、各点に主曲率 κ1,κ2 が定まる。その積が Gauss 曲率 K、平均が平均曲率 H である。
物理では、平均曲率は表面張力と結びつく。面積を最小にする石鹸膜は H=0 の曲面になり、液滴の内外の圧力差は 2σH になる。Gauss 曲率のほうは、第8章で第一基本形式だけから決まる量であることを示す(驚異の定理)。第15章の Gauss–Bonnet の定理では、その積分が曲面の位相を表すことを見る。
前の章から借りる結果を式の形で書いておく。曲線 γ(s) を弧長 s で表す。単位接ベクトルを t=dγ/ds とすると、第6章 §6.1・§6.2 の曲率と主法線は
dsdt=κe,κ≥0,∣e∣=1(7.1)
で定まる。この章では、曲面の法線 n と区別するために、曲線の主法線を e と書く。第5章 §5.1 からは、計量 gij による線素と面積要素
ds2=gijduiduj,dA=detgdu1du2
を借りる。
正則な曲面片と接平面
平面の領域 D の各点に、空間の点 r(u,v)∈R3 を対応させる。この対応は滑らかであるとする。偏微分を ru=∂r/∂u,rv=∂r/∂v と書く。
定義 7.1(正則な曲面片)
滑らかな写像 r:D→R3 が単射で、D のすべての点で
ru×rv=0
を満たすとき、r を正則な曲面片と呼ぶ。このとき (u,v) を曲面の局所座標と呼ぶ。u だけを動かした曲線を u 曲線と呼ぶ。同様に、v だけを動かした曲線を v 曲線と呼ぶ。
正則性の条件は、2つのベクトル ru,rv が1次独立であることと同じである。第1章の言葉で言えば、写像 (u,v)↦r のヤコビ行列の階数が2であることを要求している。この条件のもとで、第1章 §1.4 の議論により、像は各点の近くで滑らかな2次元の部分多様体になる。
定義 7.2(接平面と単位法線)
点 p=r(u,v) で2つのベクトル ru,rv が張る平面を接平面と呼ぶ。これを Tp と書く。接平面に垂直な単位ベクトル
n=∣ru×rv∣ru×rv(7.2)
を単位法線と呼ぶ。
曲面の上の曲線 γ(t)=r(u(t),v(t)) の速度は、連鎖律により
γ˙=u˙ru+v˙rv
となる。したがって曲面の上の曲線の速度はすべて接平面に入る。逆に接平面の任意のベクトル aru+brv は、曲線 (u0+at,v0+bt) の速度として実現できる。第2章で曲線の速度として定義した接空間は、曲面の場合にはこの接平面そのものである。
単位法線の向きは、座標 u,v を入れ替えると反転する。この章のどの結果も、法線の向きを1つ決めてから述べる。向きを反転したときに符号が変わる量と変わらない量の区別は §7.3 で整理する。

図 7.1 曲面 z=0.35(x2+0.6y2) を (u,v)=(x,y) で表した曲面片。太線は点 p を通る u 曲線と v 曲線で、その速度 ru,rv が接平面 Tp(青)を張り、単位法線 n はそれに垂直である。
第一基本形式
接平面のベクトル X=aru+brv の長さの2乗は、空間の内積で計算すると
∣X∣2=a2ru⋅ru+2abru⋅rv+b2rv⋅rv
となる。係数の3つの関数に名前をつける。
定義 7.3(第一基本形式)
E=ru⋅ru,F=ru⋅rv,G=rv⋅rv(7.3)
とおき、
I=Edu2+2Fdudv+Gdv2(7.4)
を曲面の第一基本形式と呼ぶ。接ベクトル X,Y に対する対称な双線形形式としては I(X,Y)=X⋅Y である。
第5章の記法で u1=u,u2=v と書けば、第一基本形式は計量
(gij)=(EFFG),I=gijduiduj(7.5)
そのものである。これは空間の Euclid 計量 dx2+dy2+dz2 を写像 r で曲面へ引き戻したもので、誘導計量とも呼ぶ。正則性から X=0 なら I(X,X)>0 なので、この計量は正定値である。
命題 7.4(長さ・角・面積)
曲面の上の曲線 γ(t)=r(u(t),v(t))(a≤t≤b)の長さを考える。同じ点の2つの接ベクトル X,Y のなす角を α とする。領域 Ω⊂D の像の面積を A(Ω) とする。これらは
L[γ]cosαA(Ω)=∫abEu˙2+2Fu˙v˙+Gv˙2dt,=I(X,X)I(Y,Y)I(X,Y),=∬Ω∣ru×rv∣dudv=∬ΩEG−F2dudv(7.6)(7.7)(7.8)
と書ける。
証明
長さは ∣γ˙∣ の積分で、γ˙=u˙ru+v˙rv を代入して展開すると根号の中身になる。角は空間の内積の定義 X⋅Y=∣X∣∣Y∣cosα を第一基本形式で書き直しただけである。
面積については、座標の小さな長方形 [u,u+Δu]×[v,v+Δv] の像を考える。これは1次の近似で、2辺が ruΔu と rvΔv の平行四辺形になる。その面積は ∣ru×rv∣ΔuΔv なので、Riemann 和の極限として最初の等号を得る。2つ目の等号は、空間の2つのベクトルについての Lagrange の恒等式
∣a×b∣2=∣a∣2∣b∣2−(a⋅b)2
に a=ru, b=rv を入れると、右辺が EG−F2 になることから従う。恒等式そのものは、成分で両辺を展開すると一致することで確かめられる。
EG−F2 は行列 (7.5) の行列式なので、(7.8) の面積要素は第5章 §5.1 の detgdudv と同じものである。角の式 (7.7) で X=ru,Y=rv とおくと、座標曲線どうしのなす角が得られる。特に、座標曲線が各点で直交することは F=0 と同値である。
命題 7.5(面積は座標の取り方によらない)
同じ曲面を別の局所座標 (u~,v~) で表し、(u,v)↦(u~,v~) が向きを保つとは限らない微分同相であるとする。このとき面積 (7.8) はどちらの座標で計算しても等しい。
証明
連鎖律により ru=r~u~∂u~/∂u+r~v~∂v~/∂u であり、rv も同様に書ける。外積の双線形性と r~u~×r~u~=0 を使って展開すると
ru×rv=detJr~u~×r~v~,J=∂(u,v)∂(u~,v~)
となる。両辺の大きさをとり、重積分の変数変換の公式 du~dv~=∣detJ∣dudv を使えば、2つの積分は一致する。
よく使う曲面の第一基本形式
- 関数のグラフ r=(x,y,f(x,y)) では rx=(1,0,fx),ry=(0,1,fy) なので
E=1+fx2,F=fxfy,G=1+fy2,EG−F2=1+fx2+fy2.
- 半径 R の球面を、極角と方位角 (θ,ϕ) で表す。このとき
I=R2dθ2+R2sin2θdϕ2.
- 回転面 r=(r(z)cosv,r(z)sinv,z) では E=1+r′2,F=0,G=r2 である。
例題 7.1 トーラスの第一基本形式と面積 ★★
オリジナル0<r<R とし、トーラスを
r(u,v)=((R+rcosu)cosv,(R+rcosu)sinv,rsinu),0≤u,v<2π
で表す。
- E,F,G を求め、座標曲線が直交することを確かめよ。
- トーラスの全面積を求めよ。
- 外側の赤道 u=0 と内側の赤道 u=π の長さを求めよ。
解答
ρ=R+rcosu とおく。
(1) 偏微分は
ru=(−rsinucosv,−rsinusinv,rcosu),rv=(−ρsinv,ρcosv,0)
である。内積をとると
E=r2(sin2ucos2v+sin2usin2v+cos2u)=r2,F=rρsinusinvcosv−rρsinusinvcosv=0,G=ρ2
となる。F=0 なので座標曲線は各点で直交する。
(2) EG−F2=rρ=r(R+rcosu) なので
A=∫02π∫02πr(R+rcosu)dudv=2π⋅r⋅2πR=4π2Rr.
cosu の項は1周の積分で消える。この値は、管の断面の円周 2πr と中心の円の長さ 2πR の積に等しい。
(3) v 曲線は v そのものを径数にとれる。したがって (7.6) から長さは
∫02πGdv=2πρ
である。外側の赤道は 2π(R+r)、内側の赤道は 2π(R−r) になる。
確認テスト
オリジナル
- 7.1-1 第一基本形式で F=0 となることは、座標曲線が直交することと同値である。その理由を (7.7) から1行で述べよ。
- 7.1-2 半径 R の球面 r=R(sinθcosϕ,sinθsinϕ,cosθ) の第一基本形式を求めよ。さらに、θ1≤θ≤θ2 の帯の面積が 2πR(cosθ1−cosθ2) であることを示せ。
- 7.1-3 c>0 を定数とする。螺旋面 r(u,v)=(ucosv,usinv,cv) の E,F,G を求めよ。また 0≤u≤1, 0≤v≤2π の部分の面積を求めよ。c=1 のときの数値を小数第2位まで答えよ。
- 7.1-4 座標変換 (u,v)↦(u~,v~) のヤコビ行列を J とする。第一基本形式の係数行列が g=JTg~J と変わることを示せ。そこから detgdudv=detg~du~dv~ を導け。
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