電磁気学入門 第3章 §3.5 ★★★ 遠方の電位を電荷分布のモーメントで表す展開。原子・分子と放射の章(第11章)の土台
展開の導出
電荷分布 ρ(r′) が、原点のまわりの半径 R の球の中にあるとする。その外 r>R の点の電位
ϕ(r)=4πε01∫∣r−r′∣ρ(r′)dV′
を r′/r のべきで展開する。2つの位置ベクトルのなす角を γ とする。母関数 (3.19) で t=r′/r、x=cosγ とおいて
∣r−r′∣1=r1−2(r′/r)cosγ+(r′/r)21=l=0∑∞rl+1r′lPl(cosγ)(3.20)
が得られる。これを積分に入れると
ϕ(r)=4πε01l=0∑∞rl+11∫r′lPl(cosγ)ρ(r′)dV′(3.21)
となる。l 番目の項は 1/rl+1 で減るので、遠方では低い次数の項ほど大きい。これを多重極展開と呼ぶ。
最初の3項を直交座標で書き直す。r^=r/r とすると r′cosγ=r^⋅r′ なので、
l=0:l=1:l=2:∫ρdV′=Q(全電荷),∫r′cosγρdV′=r^⋅∫r′ρdV′=r^⋅p,∫r′221(3cos2γ−1)ρdV′=21∫(3(r^⋅r′)2−r′2)ρdV′=21i,j∑r^ir^jQij
である。最後の等号では r′2=r′2∑ir^i2=∑i,jr^ir^jr′2δij と書いた。ここで
p=∫r′ρ(r′)dV′,Qij=∫(3xi′xj′−r′2δij)ρ(r′)dV′(3.22)
をそれぞれ電気双極子モーメント、電気四重極モーメント(テンソル)と呼ぶ。まとめると
ϕ(r)=4πε01[rQ+r2p⋅r^+21i,j∑r3Qijr^ir^j+⋯](3.23)
である。Qij は対称で、対角和がゼロ(∑iQii=∫(3r′2−3r′2)ρ=0)なので、独立な成分は5個である。l 番目の項の独立な成分の数は 2l+1 で、最初の3項では 1, 3, 5 である。この数は、方位角の依存性まで含めた球面調和関数 Ylm の個数(m=−l,…,l)と一致する。
原点の取り方への依存
原点を a だけずらすと、位置ベクトルは r′→r′−a と変わる。このとき双極子モーメントは
p→p−Qa
と変わる。
- Q=0 なら、a=p/Q(電荷の重心)に原点をとれば双極子モーメントはゼロになる。
- Q=0 なら p は原点の取り方によらない(確認テスト 3.5-1)。
- 同様に、四重極モーメントが原点によらないのは Q=0 かつ p=0 のときである。一般に、最初のゼロでないモーメントだけが原点によらない。
双極子の電場
双極子の項 ϕdip=4πε0r3p⋅r の電場を求める。∇(p⋅r)=p、∇r−3=−3r/r5 を使うと
Edip=−∇ϕdip=4πε01r33(p⋅r^)r^−p(3.24)
となる。p=pz^ のとき球座標の成分は
Er=4πε0r32pcosθ,Eθ=4πε0r3psinθ
である。電気力線は dr/(rdθ)=Er/Eθ=2cotθ を満たすので、積分して logr=2logsinθ+定数、すなわち
r=r0sin2θ(3.25)
が電気力線の式である(図 3.4)。電場は 1/r3 で減り、点電荷の 1/r2 より速い。遠方から見ると正負の電荷が重なって見えて打ち消し合い、そのずれの分だけが残るからである。

図 3.4 z 方向を向いた双極子の電気力線 r=r0sin2θ(r0 の3つの値)。力線は双極子の上側(+z 側)から出て、外を回って下側から戻る。図は xz 面での切り口で、z 軸のまわりに回転させたものが3次元の力線である。
外部電場の中の双極子
外から与えた電場 E(r)=−∇ϕ外 の中に、小さな電荷分布を置く。電荷分布の中の点 r0+s での外部電位を、ずれ s について1次まで展開すると
ϕ外(r0+s)≃ϕ外(r0)+s⋅∇ϕ外(r0)
となる。よって電荷分布の位置エネルギーは
U=∫ρ(s)ϕ外(r0+s)dVs≃Qϕ外(r0)−p⋅E(r0)(3.26)
となる。中性の分布では U=−p⋅E で、双極子が電場と同じ向きのときにエネルギーが最も低い。双極子と電場のなす角を α とすると、エネルギーと力のモーメント(トルク)は
U=−pEcosα,−∂α∂U=−pEsinα,N=p×E
である。電場が一様でなければ、双極子は力
F=−∇U=∇(p⋅E)=(p⋅∇)E
も受ける。最後の等号では、双極子モーメントを定数とし、∇×E=0 を使った。
例題 3.6 線状の四重極と展開の精度 ★★
オリジナル軸上の2点 z=±d に、それぞれ点電荷 q を置く。原点には点電荷 −2q を置く。
- 全電荷と双極子モーメントを求めよ。
- 四重極モーメント Qij を求め、遠方の電位の主要項を r,θ で書け。
- z 軸上の点 r=5d で、厳密な電位と (2) の主要項の比を求めよ。
解答
- Q=q+q−2q=0。p=q(dz^)+q(−dz^)+(−2q)0=0。
- 原点の電荷は位置ベクトルがゼロなので寄与しない。残る2つの電荷はどちらも x′=y′=0、r′2=d2 なので
QzzQxx=2q(3d2−d2)=4qd2,=Qyy=2q(0−d2)=−2qd2
で、非対角成分はゼロである(対角和 4−2−2=0 を満たす)。よって
∑Qijr^ir^j=4qd2cos2θ−2qd2sin2θ=2qd2(3cos2θ−1)
なので、(3.23) から
ϕ≃4πε01r3qd2(3cos2θ−1)=4πε0r32qd2P2(cosθ).
3. 軸上(θ=0、r>d)の厳密な電位は
ϕ=4πε0q(r−d1+r+d1−r2)=4πε0qr(r2−d2)2d2
で、主要項は θ=0 で 4πε0qr32d2 である。r=5d での比は
r2−d2r2=2425=1.042
で、主要項は厳密な値と約 4% しか違わない。比を展開すると 1+(d/r)2+⋯ である。これは次の項(l=4)が主要項より (d/r)2 だけ小さいことと対応している。
確認テスト
オリジナル
- 3.5-1 全電荷がゼロの電荷分布では、双極子モーメント p が原点の取り方によらないことを示せ。
- 3.5-2 xy 面上の4点に点電荷を置く。2点 (±d,0,0) には q を置く。残りの2点 (0,±d,0) には −q を置く。全電荷・双極子モーメント・四重極モーメント Qij を求め、遠方の電位の主要項を x,y,r で書け。
- 3.5-3 双極子の電場 (3.24) から、電気力線の式 r=r0sin2θ を導け。また、赤道面(θ=π/2)と軸上で、同じ距離の点の電場の大きさの比を求めよ。
- 3.5-4 水の分子の電気双極子モーメントを p=6.2×10−30Cm とする。大きさ E=1.0×106V/m の一様な電場の中で、双極子が電場と同じ向きのときと逆向きのときのエネルギーの差を求めよ。それを温度 T=300K の熱エネルギー kBT と比べよ。Boltzmann 定数は kB=1.381×10−23J/K とする。
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