電磁気学入門 第4章 §4.2 ★★★ ∇⋅D=ρf と D=εE の2式で、誘電体を含む静電場の問題が真空の問題と同じ形になる
電束密度の定義と Gauss の法則
前節の結果から、誘電体があるときの Gauss の法則は、右辺に自由電荷と分極電荷の両方を入れて
ε0∇⋅E=ρf+ρb=ρf−∇⋅P
と書ける。分極電荷の項を左辺へ移すと ∇⋅(ε0E+P)=ρf となる。分極電荷は電場が決まってはじめて決まる量なので、あらかじめ分かっている自由電荷だけが右辺に残るこの形が扱いやすい。
定義 4.3(電束密度)
D=ε0E+P(4.9)
を電束密度と呼ぶ。単位は P と同じ C/m2 である。
定理 4.4(誘電体中の Gauss の法則 ★★★)
∇⋅D=ρf,∮SD⋅dS=Qf (S の内部の自由電荷).(4.10)
証明
微分形は上の変形そのものである。積分形は、微分形を S の内部で積分して発散定理を使えば得られる。
D は自由電荷だけでは決まらない
(4.10) は、真空の Gauss の法則と見た目が同じである。そのため「電束密度は自由電荷だけでつくられ、真空中の ε0E と同じ式で計算できる」と読みたくなる。しかしベクトル場は発散と回転の両方を与えてはじめて決まり(第1章 §1.3 の Helmholtz の分解)、D の回転は
∇×D=ε0∇×E+∇×P=∇×P
で、一般には 0 ではない。
- 反例:例題 4.1 の一様に分極した球には自由電荷が無いが、外部では D=ε0E=0 である。球の表面では分極が不連続に変わるので、∇×P が表面で 0 でない。
- 球対称・円柱対称・平面対称のように対称性から D の向きと大きさの等しい面が分かり、しかも誘電体の境界がその対称性に沿っている場合に限り、D を Gauss の法則だけで求めることができる。
線形誘電体と誘電率
多くの物質では、電場がそれほど強くなければ、分極は電場に比例する。等方的な物質では向きも電場と同じなので
P=ε0χeE(4.11)
と書ける。無次元の比例係数 χe を電気感受率と呼ぶ。このような物質を線形誘電体と呼ぶ。このとき
D=ε0(1+χe)E=εE,ε=ε0εr,εr=1+χe(4.12)
となる。ε を誘電率、εr を比誘電率と呼ぶ。分極は電場の向きに生じるので χe>0、つまり εr>1 である。
比誘電率は、0 ∘C・1気圧の空気で 1.0006 程度、室温の水で 80 程度である。水の値が大きいのは、水分子が大きな永久双極子モーメントを持ち、配向分極 (4.5) の寄与が大きいからである。
異方的な物質
結晶の中には、電場の向きによって分極のしやすさが違うものがある。そのような物質では P と E が平行とは限らず、
Di=j∑εijEj
と 3×3 の誘電率テンソル εij で書く。この章では等方的な場合だけを扱う。
一様な誘電体で満たされた空間
自由電荷の分布 ρf が、一様な誘電率 ε の線形誘電体の中に埋め込まれている場合を考える(誘電体は全空間を満たし、境界が無い)。D=εE を (4.10) に入れると、ε が定数なので
∇⋅E=ερf,∇×E=0
となる。これは真空の方程式 (4.1) の ε0 を ε に置き換えたものである。したがって、点電荷 q の電場は
E=4πεr2qr^=εr1⋅4πε0r2qr^(4.13)
となり、真空中の 1/εr に弱まる。
電場が弱まる理由は分極電荷で説明できる。分極電荷の密度は
ρb=−∇⋅P=−ε0χe∇⋅E=−1+χeχeρf
である。つまり自由電荷のある所に、逆符号で大きさ (1−1/εr) 倍の分極電荷が重なっている。合計は ρf+ρb=ρf/εr になり、真空の Gauss の法則に入れると (4.13) が再現される。自由電荷が無い所では、一様な線形誘電体の内部に分極電荷は現れない。
同じ理由で、平行平板コンデンサーの極板間を誘電体で満たすと、同じ電荷 Q に対して電場と電圧が 1/εr になり、容量は
C=εrC0=dεA(4.14)
に増える(C0=ε0A/d は第3章 §3.2 の真空の容量)。
分子の分極率と誘電率の関係
§4.1 の分極率 α と比誘電率 εr を結ぶ。素朴には、数密度 n の分子がそれぞれ αE の双極子を持つと考えたくなる。そうすると
P=nαE,χe=ε0nα
となる。これは気体のように分子がまばらな場合には正しい。しかし密な物質では、1つの分子に働く電場(局所場 Eloc)は、巨視的な平均の電場 E と違う。
局所場を求めるため、注目する分子を中心に、分子間隔よりずっと大きく巨視的には小さい球を考える。分子に働く電場は、球の外の物質がつくる電場と、球の中のほかの分子がつくる電場の和である。
- 巨視的な電場 E は、球の中の物質を「一様に分極した球」とみなした寄与を含んでいる。その寄与は例題 4.1 より −P/(3ε0) である。したがって球の外の物質がつくる電場は E+P/(3ε0) である。
- 球の中のほかの分子が中心につくる電場は、分子が立方格子に並ぶ場合や、まったく無秩序に並ぶ場合には、対称性から足し合わせて 0 になる(この仮定を置く)。
こうして Lorentz の局所場
Eloc=E+3ε0P(4.15)
を得る。P=nαEloc に代入して P について解くと
P=1−nα/(3ε0)nαE,εr−1=1−nα/(3ε0)nα/ε0
となり、これを nα について解き直すと Clausius–Mossotti の式
εr+2εr−1=3ε0nα(4.16)
を得る。nα/ε0≪1 の気体では左辺の分母が 3 に近い。このとき εr−1≃nα/ε0 に戻る。
例題 4.3 誘電体の板を挟んだコンデンサー ★★
オリジナル平行平板コンデンサーの極板間に、誘電体の板を極板と平行に入れ、電圧 V=100V をかける。端の効果は無視する。
- 極板:面積 A=1.0×10−2m2、間隔 d=2.0mm。
- 誘電体の板:厚さ t=1.0mm、比誘電率 εr=4.0。
- 容量 C を文字式で求め、数値を出せ。真空の容量 C0 と比べよ。
- 極板の電荷 Q と電束密度 D を求めよ。空気の部分と誘電体の部分の電場 Eair、Ediel も求めよ。
- 誘電体の表面の分極電荷密度 σb を求めよ。
解答
- 極板に ±Q を置く。平面対称なので、電束密度は極板に垂直である。極板の内側の面と極板間の平面で挟んだ円筒に (4.10) を使うと、空気の中でも誘電体の中でも D=Q/A である(板の表面には自由電荷が無いので、電束密度はそこで変わらない)。電場は空気中で Eair=D/ε0、誘電体中で Ediel=D/(ε0εr) である。よって電圧と容量は
V=Eair(d−t)+Edielt=ε0AQ(d−t+εrt),C=VQ=d−t+t/εrε0A.
数値は
C=1.0×10−3+0.25×10−3(8.854×10−12)(1.0×10−2)F=7.08×10−11F=70.8pF
である。真空の容量は C0=ε0A/d=44.3pF なので、C/C0=1.6 である。これは容量 ε0A/(d−t) と εA/t の直列接続と同じ結果である。2. 順に求める。
QEair=CV=7.08×10−9C,=D/ε0=8.0×104V/m,DEdiel=Q/A=7.08×10−7C/m2,=Eair/εr=2.0×104V/m.
検算として電圧を足し直すと、Eair(d−t)+Edielt=80V+20V=100V である。3. 誘電体の中の分極は
P=D−ε0Ediel=D(1−εr1)=5.31×10−7C/m2
である。分極電荷は次のように現れる。
- 正の極板に面した表面:σb=−5.31×10−7C/m2。
- 負の極板に面した表面:σb=+5.31×10−7C/m2。
誘電体の中では、自由電荷の面密度 D にこの分極電荷が加わり、電場をつくる正味の面密度が D/εr に減っている。
確認テスト
オリジナル
4.2-1 一様な線形誘電体の内部で、自由電荷の無い所には分極電荷 ρb が現れないことを示せ。
4.2-2 内導体の半径 a、外導体の内半径 c の同軸円筒コンデンサーがある。間を2種類の誘電体で満たす。
- a<s<b:誘電率 ε1。
- b<s<c:誘電率 ε2。
単位長さあたりの容量を求めよ。3. 4.2-3 半径 R、比誘電率 εr の誘電体球がある(球の外は真空)。その中心に点電荷 q を置く。すべての場所の電束密度と電場、球面上の分極電荷密度、中心に現れる分極電荷を求めよ。また、分極電荷の総和が 0 であることを確かめよ。4. 4.2-4 アルゴンに近い気体として、次の値をとる。
n=2.5×1025m−3,4πε0α=1.6×10−30m3
εr−1 を、素朴な式 nα/ε0 と Clausius–Mossotti の式 (4.16) の両方で求め、相対的な差を見積もれ。5. 4.2-5 (4.16) から出発して、εr を y=nα/(3ε0) で表せ。y→1 で何が起きるか述べよ。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com