電磁気学入門 第6章 §6.2 ★★ ∇×H=Jf と、境界で磁束密度の法線成分と磁場の接線成分が連続という2つの条件
磁場 H の定義
物質があるとき、電流には2種類ある。
- 導線に電池をつないで流す電流のように、外から持ち込んだ自由電流 Jf。
- 磁化の結果として現れる磁化電流 Jb=∇×M。
磁束密度をつくるという点では両者に区別は無いので、(6.1) の Ampère の法則は
∇×B=μ0(Jf+∇×M)
となる。磁化の項を左辺へ移すと、∇×(B/μ0−M)=Jf を得る。
定義 6.4(磁場 H)
H=μ0B−M,つまりB=μ0(H+M)(6.10)
を磁場と呼ぶ。単位は A/m である。
定理 6.5(物質中の Ampère の法則 ★★★)
静磁場では
∇×H=Jf,∮CH⋅dr=If(6.11)
が成り立つ。If は C を縁とする面を貫く自由電流である。
証明
微分形は定義から直ちに出る。積分形は、閉曲線を縁とする面で微分形を積分し、Stokes の定理を使えば得られる。
(6.11) は、第4章の ∇⋅D=ρf と同じ役割を持つ。源が自由電流だけになるので、対称性の高い配置では、磁化を知らなくても H が先に決まる。
ただし、H が自由電流だけで決まるわけではない。(6.10) の発散をとると、∇⋅B=0 から
∇⋅H=−∇⋅M(6.12)
となり、磁化が一様でない所や物体の表面では H の発散が 0 にならない。Helmholtz の定理(第1章 §1.3)によれば、ベクトル場は回転と発散の両方で決まる。したがって H は、自由電流と ∇⋅M の両方を源に持つ。
永久磁石の H
- 自由電流が無くても、H は 0 とは限らない。例題 6.1 の一様に磁化した球では、内部で
H=μ0B−M=32M−M=−31M
となり、磁場は磁化と逆向きを向く。これを反磁場と呼ぶ。
- 発散の式 (6.12) の右辺 ρm=−∇⋅M と、表面の σm=M⋅n を磁極の密度とみなす。すると H は、第4章の分極電荷の電場と同じ式で計算できる。分極を真空の誘電率で割ったものを、磁化に置き換えればよい。磁極は単独で取り出せない、計算上の量である。
線形な磁性体と透磁率
多くの物質では、磁場が弱いうちは磁化が磁場に比例する。比例係数を H に対して定義して
M=χmH(6.13)
と書き、χm を磁化率と呼ぶ。B ではなく H に対して定義するのは、実験で制御できるのが自由電流、つまり磁場の方だからである。このとき
B=μ0(1+χm)H=μH,μ=μ0μr,μr=1+χm(6.14)
となる。μ を透磁率、μr を比透磁率と呼ぶ。磁化率の符号で、物質を次の2つに分ける。
- χm<0 の物質を反磁性体と呼ぶ。
- χm>0 の物質を常磁性体と呼ぶ。
両者とも ∣χm∣ はふつう 10−5 程度で、比透磁率は 1 とほとんど変わらない。
一方、鉄のような強磁性体は、比透磁率が 103 から 105 にもなる。ただし磁化が磁場に比例せず、過去の履歴にもよる(§6.3)。強磁性体に (6.14) を使うのは、動作する範囲で B と H の関係を直線で近似できるときに限られる。
一様な線形磁性体の内部では、磁化電流は
Jb=∇×(χmH)=χmJf
である。したがって、自由電流の無い所には磁化電流も現れない。自由電流の流れる所では、磁化電流と合わせた全電流は (1+χm)Jf になる。
誘電体と磁性体の対応
| 誘電体(第4章) | 磁性体(この章) |
| 単位体積あたりのモーメント | P | M |
| 束縛された源 | ρb=−∇⋅P、σb=P⋅n | Jb=∇×M、Kb=M×n |
| 自由な源だけの式 | ∇⋅D=ρf | ∇×H=Jf |
| もう1本の式 | ∇×E=0 | ∇⋅B=0 |
| 線形の関係 | D=εE | B=μH |
境界条件
2つの磁性体(領域1と領域2)の境界を考える。n を1から2へ向かう単位法線とし、Kf を境界を流れる自由な面電流密度とする。
定理 6.6(磁性体の境界条件 ★★★)
B2n−B1n=0,n×(H2−H1)=Kf.(6.15)
とくに境界に自由電流が無ければ、磁束密度の法線成分と磁場の接線成分が連続である。
証明
法線成分:境界をはさむ底面積 ΔS、高さ h の薄い円筒をとる。これに ∇⋅B=0 を積分し、発散定理を使う。高さを 0 に近づけると側面の寄与は消え、(B2n−B1n)ΔS=0 が残る。
接線成分:境界上の点で、境界に接する単位ベクトル t をとる。この向きの辺の長さが ℓ の長方形の閉曲線 C を、境界をはさんでとる。長方形の高さは h である。
長方形の面の単位法線を u=n×t とする(これも境界に接する)。閉曲線をこの法線に対して右ねじの向きに回ると、辺の向きは次のようになる。
- 領域2の側の辺は +t の向きである。
- 領域1の側の辺は −t の向きである。
(6.11) を使い、高さを 0 に近づけると
(H2−H1)⋅tℓ=Kf⋅uℓ
となる。右辺は長方形を貫く自由電流である。スカラー三重積の巡回 Kf⋅(n×t)=t⋅(Kf×n) を使うと、境界に接する任意の t について
(H2−H1)⋅t=(Kf×n)⋅t
である。つまり H2−H1 の接線成分は Kf×n に等しい。
両辺に左から n× を掛ける。Kf⊥n なので n×(Kf×n)=Kf であり、(6.15) の第2式を得る。
自由電流の無い2つの線形磁性体の境界で、磁束線が法線となす角を θ1、θ2 とする。境界条件は
B1cosθ1μ1B1sinθ1=B2cosθ2=μ2B2sinθ2(法線成分の連続),(接線成分の連続)
である。辺々割って
tanθ2tanθ1=μ2μ1(6.16)
を得る。第4章の電気力線の屈折と同じ形である。
領域1を鉄(μr∼103)、領域2を空気とする。鉄の中で磁束線が表面にほとんど沿っていても、空気側では表面にほぼ垂直に出る(確認テスト 6.2-3)。逆に、空気から鉄へ入る磁束線は鉄の中で表面に沿う向きへ大きく曲がる。この性質は、§6.4 で磁束が鉄心の中に閉じ込められると近似する根拠になる。
磁気スカラーポテンシャル
自由電流の無い領域では ∇×H=0 なので、その領域が単連結なら(第1章 §1.3)
H=−∇ϕm(6.17)
と書ける。ϕm を磁気スカラーポテンシャルと呼ぶ。一様な線形磁性体の中では ∇⋅B=μ∇⋅H=0 である。したがってポテンシャルは Laplace 方程式 ∇2ϕm=0 を満たす。
境界では次の2つが連続になる。
- 磁場の接線成分の連続から、ϕm が連続になる。
- 磁束密度の法線成分の連続から、μ∂ϕm/∂n が連続になる。
これは第4章の誘電体の境界値問題で、ϕ と ε∂ϕ/∂n が連続になるのと同じ形である。したがって、第3章 §3.4 の Legendre 多項式による解法をそのまま使うことができる。
例題 6.3 一様な磁場の中の磁性体の球 ★★★
オリジナル一様な磁場 H0=H0z^ の中に、半径 a の球を置く。外の磁束密度は B0=μ0H0 である。球は比透磁率 μr の線形磁性体でできている。
球の内部の磁場、磁束密度、磁化を求めよ。μr→∞ の極限ではどうなるか。
解答
自由電流が無いので (6.17) を使うことができる。遠方では ϕm→−H0rcosθ である。境界条件は cosθ=P1(cosθ) の項しか結び付けないので、l=1 の項だけで
ϕin=−Crcosθ,ϕout=(−H0r+r2D)cosθ
とおく(内部は原点で有限)。球面 r=a でのポテンシャルの連続と μ∂ϕm/∂r の連続から
−Ca=−H0a+a2D,−μrC=−H0−a32D
となる。第1式から D=a3(H0−C) である。これを第2式に入れると
−μrC=−H0−2H0+2C,つまり(μr+2)C=3H0
である。したがって
Hin=μr+23H0,Bin=μr+23μrB0,M=(μr−1)Hin=μr+23(μr−1)H0.
内部の場はすべて一様である。外部の Dcosθ/r2 の項は、双極子
μ=4πDz^=4πa3μr+2μr−1H0
の磁気スカラーポテンシャルである。これは 34πa3M に等しく、例題 6.1 と整合する。
比透磁率の値によって、内部の磁束密度は次のようになる。
- μr→∞ では、Hin→0 となる。磁束密度は Bin→3B0 である。透磁率の大きな球は、まわりの磁束を引き込んで内部の磁束密度を3倍にする。
- μr=1 では Bin=B0 に戻る。
- μr<1(反磁性体)では Bin<B0 となり、磁束が押し出される。
第4章の誘電体球の結果で、εr を μr に置き換えたものと同じ形である。
例題 6.4 磁気シールド ★★
オリジナル内半径 a、外半径 b の球殻を考える。これを比透磁率 μr の線形磁性体でつくる。これを一様な磁場 H0 の中に置く。空洞の中の磁場が
H0Hin=(2μr+1)(μr+2)−2(a/b)3(μr−1)29μr
となることを示し、μr=1000、a/b=0.9 の値を求めよ。
解答
3つの領域で l=1 の解をとる。
ϕm=−Crcosθ (r<a),(−Er+r2F)cosθ (a<r<b),(−H0r+r2D)cosθ (r>b).
内側と外側の2つの球面のそれぞれで、ポテンシャルと μ∂ϕm/∂r が連続である。この4つの条件を cosθ で割ると
CE−b3F=E−a3F,=H0−b3D,Cμr(E+b32F)=μr(E+a32F),=H0+b32D(6.18)(6.19)
となる。(6.18) の2式を等しいとおくと E(1−μr)=F(1+2μr)/a3 なので
F=−a32μr+1μr−1E,C=E−a3F=2μr+13μrE.
(6.19) の左の式を2倍して右の式に足すと D が消えて
(μr+2)E+b32(μr−1)F=3H0.
F を代入すると
E[(μr+2)−2μr+12(μr−1)2b3a3]=3H0⟹E=(2μr+1)(μr+2)−2(a/b)3(μr−1)23(2μr+1)H0.
Hin=C=2μr+13μrE から求める式を得る。
確かめ:μr=1 では 1 になる。a→0 では
H0Hin→(2μr+1)(μr+2)9μr=μr+23⋅2μr+13μr
となる。第1の因子は例題 6.3 の中実の球の内部の磁場で、第2の因子は一様な磁性体の中にあけた小さな球形の空洞の磁場が周囲の何倍になるかを表す((6.18) だけを使い、E を周囲の磁場とみなすと C/E=3μr/(2μr+1))。
数値:μr=1000、(a/b)3=0.729 では、分母は
2001×1002−2×0.729×9992=2005002−1455086=549916
で、
H0Hin=5499169000=1.64×10−2.
厚さが外半径の 10% の殻で、空洞の磁場は約 1/61 になる。μr≫1 では、比はほぼ
H0Hin≃2μr(1−(a/b)3)9
である。比透磁率を大きくするか殻を厚くするほど、遮蔽はよくなる。
導体の静電遮蔽(第3章 §3.1)は、空洞の電場を厳密に 0 にする。磁気シールドは、有限の μr では磁場を弱めるだけである。磁束は透磁率の大きな殻の中を通って空洞を迂回し、殻を通り抜ける磁束がわずかに空洞へ漏れる。
確認テスト
オリジナル
- 6.2-1 確認テスト 6.1-3 の (a) 長い円柱と (b) 薄い円板について、内部の H を求めよ(境界条件を使ってよい)。
- 6.2-2 半径 a の無限に長い円柱を、比透磁率 μr の線形磁性体でつくる。その軸に沿って細い導線で電流 I を流す(円柱の外は真空)。円柱の内外の磁場、磁束密度、磁化を求めよ。軸上と表面に現れる磁化電流の総量も求めよ。
- 6.2-3 比透磁率 1000 の鉄の表面で、鉄の中の磁束線が法線と 85° の角をなしている。空気側に出た磁束線が法線となす角を求めよ。
- 6.2-4 境界に自由電流が無く、両側が線形磁性体であるとする。境界条件 (6.15) の第2式から、M の接線成分は連続でないことを示せ。また、境界を流れる磁化の面電流 Kb を、磁場の接線成分 Ht と2つの磁化率で表せ。磁化率は領域1、2でそれぞれ χm1、χm2 とする。
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