電磁気学入門 第6章 §6.3 ★ 反磁性は誘導、常磁性は熱運動との競合、強磁性は磁気モーメントどうしの強い相互作用で生じる
前節までは M を与えられたものとして扱った。この節では、磁化がどのような仕組みで生じ、その大きさと温度依存性がどう決まるかを古典的な模型で調べる。磁性の正しい理論は量子力学によるが、以下の古典的な模型からも、符号・温度依存性・大きさの桁は正しく求まる。
反磁性
すべての物質は、磁場をかけたときに磁場と逆向きの磁化を生じる。この性質を反磁性と呼ぶ。電子が永久磁気モーメントを持たない原子でも反磁性が現れるので、その仕組みを電子の円軌道の模型で調べる。
原子核に向かう中心力で、電子が xy 平面内の円を回っているとする。半径は r、角速度は ω0 である。中心力の大きさは meω02r である。
ここに z 方向の一様な磁束密度 B をかける。軌道半径は変わらず、角速度だけが ω に変わるとする。電子の速度は v=ωz^×r なので、Lorentz 力は
(−e)v×B=−eωB(z^×r)×z^=−eωBr
である。位置ベクトルは xy 平面内にあるので、(z^×r)×z^=r となることを使った。ω>0 なら中心向きの力が加わり、円運動の式は
meω2r=meω02r+eωBr
となる。ω=ω0+Δω とおき、ずれの1次まで残すと 2meω0Δω=eω0B、つまり
Δω=2meeB(6.20)
を得る。逆回り(ω<0)のときは、力が外向きになって ∣ω∣ が減る。それでも符号付きの角速度は、やはり eB/(2me) だけ増える。
回る向きによらず、どの電子の軌道にも同じ角速度 (6.20) が加わる。これを Larmor 歳差の角速度と呼ぶ。
(6.6) から、磁気モーメントの変化は
Δμz=−2er2Δω=−4mee2r2B
で、回る向きによらず磁場と逆向きである。電子の軌道が空間のあらゆる向きをとる原子では、r2 を磁場に垂直な面への射影の2乗の平均⟨x2+y2⟩=32⟨r2⟩ に置き換える。数密度 n の原子が、それぞれ Z 個の電子を持つとする。∣χm∣≪1 なので B≃μ0H として
χdia=−6meμ0nZe2⟨r2⟩(6.21)
を得る。反磁性の磁化率は負で、温度によらない。
古典論の限界
- 上の導出では、磁場をかけても軌道半径が変わらないと仮定した。この仮定を外して古典統計力学で熱平衡の磁化を計算すると、反磁性も常磁性も厳密に 0 になる(Bohr–van Leeuwen の定理)。磁性は本来、量子力学の現象である。
- それでも (6.21) は、量子力学で計算した反磁性の磁化率と同じ形をしている。量子力学では、角運動量の量子化のために軌道半径が磁場で連続に変わることができず、上の仮定が正当化される。
磁化率がちょうど χm=−1 の物質では B=μ0(1+χm)H=0 となり、内部から磁束が完全に締め出される。超伝導体は、この完全反磁性を示す(Meissner 効果)。
常磁性
永久磁気モーメント μa を持つ原子や分子の集まりでは、磁場が無ければ熱運動で向きがばらばらで、磁化は 0 である。磁場をかけると、エネルギー U=−μ⋅B=−μaBcosθ の低い向き、つまり磁場にそろう向きがわずかに多くなる。この競合は第4章の配向分極と同じ形である。p⋅E を μ⋅B に置き換えると、熱平衡で
M=nμaL(x),x=kBTμaB(6.22)
となる。x≪1 では (6.5) から M≃nμa2B/(3kBT) である。B≃μ0H とおけば
χpara=3kBTμ0nμa2=TC,C=3kBμ0nμa2(6.23)
を得る。常磁性の磁化率は正で、温度に反比例する。これを Curie の法則、C を Curie 定数と呼ぶ。
永久磁気モーメントが μB 程度なら、室温で x=1 にするには、約 450 T の磁束密度が要る(確認テスト 6.3-2)。実験室で使える磁束密度では、常磁性体の磁化は飽和からはるかに遠い直線の領域にある。
常磁性体には反磁性の寄与も必ずあるので、全体の磁化率は χpara+χdia である。永久磁気モーメントを持つ物質では、ふつう常磁性の寄与が勝る。
例題 6.5 反磁性と常磁性の大きさ ★★
オリジナル
- 水を次の模型で表す。分子の数密度は n=3.34×1028m−3 で、各分子は電子を Z=10 個持つ。電子の広がりは ⟨r2⟩=a02(a0=5.29×10−11m)とする。(6.21) から χdia を見積もれ。
- 0 °C、1 気圧の酸素ガスの分子の数密度は n=2.69×1025m−3 である。各分子が永久磁気モーメント μa=2.83μB を持つとして、(6.23) から χpara を求めよ。
解答
- χdia=−6×9.109×10−31(4π×10−7)(3.34×1028)(10)(1.602×10−19)2(5.29×10−11)2=−5.5×10−6.
測られている水の磁化率は −9.0×10−6 で、符号と桁が一致する。電子の雲の広がりを Bohr 半径とした粗い模型で、ここまでの一致が得られる。2. 数値は
μakBT=2.83×9.274×10−24A⋅m2=2.62×10−23A⋅m2,=1.381×10−23×273J=3.77×10−21J
なので
χpara=3×3.77×10−21(4π×10−7)(2.69×1025)(2.62×10−23)2=2.1×10−6.
気体なので数密度が水の約 1/1000 しかないのに、液体の水の反磁性と同じ桁の常磁性を示す。永久磁気モーメントがそろう効果は、1分子あたりで比べると軌道の変形による反磁性よりずっと大きい。
強磁性
鉄・コバルト・ニッケルなどは、外から磁場をかけなくても、ある温度 TC より下で自発的に磁化する。この温度を Curie 温度と呼び、鉄では 1043K である。この性質を強磁性と呼ぶ。自発磁化は、隣り合う原子の磁気モーメントを互いに平行にそろえようとする強い相互作用によって生じる。
Weiss は、この相互作用を、各原子が感じる有効な磁場で表した(分子場近似)。
Heff=H+λM(λ は無次元の定数)
まわりの磁気モーメントがそろうほど、1つの原子をそろえる磁場も強くなる、という仮定である。常磁性の式 (6.22) の B を μ0Heff に置き換えると
M=MsL(x),x=kBTμ0μa(H+λM),Ms=nμa(6.24)
となる。M が両辺に現れるので、これは磁化を決める自己無撞着な方程式である。
自発磁化
H=0 とし、m=M/Ms と書く。(6.24) の第2式は x=μ0μaλMsm/(kBT) である。
TC=3kBμ0nμa2λ=λC(6.25)
とおくと、x=3TCm/T、つまり
m=3TCTx
である。解は、曲線 m=L(x) とこの直線の交点で与えられる(図 6.2)。
L(x) は原点で傾き 1/3 を持ち、上に凸で 1 に飽和する。温度によって交点は次のように変わる。
- T<TC:直線の傾き T/(3TC) が 1/3 より小さい。このときに限り原点以外の交点が現れ、これが自発磁化である。
- T≥TC:交点は原点だけで、自発磁化は 0 になる。
- T→0:直線が横軸に寝る。交点は m→1、つまりすべての磁気モーメントがそろった状態に近づく。

図 6.2 分子場近似の自発磁化。曲線 m=L(x) と直線 m=3TCTx の交点が解である。T<TC の直線(T=0.6TC)だけが原点以外で曲線と交わる。
Curie–Weiss の法則
T>TC で弱い磁場 H をかける。x≪1 なので L(x)≃x/3 となり、(6.24) は
M=3kBTμ0nμa2(H+λM)=TC(H+λM)
となる。M について解くと M(1−λC/T)=CH/T なので
χm=HM=T−TCC(6.26)
を得る。これを Curie–Weiss の法則と呼ぶ。TC より上の強磁性体は常磁性体として振る舞うが、温度が TC に近づくと磁化率が発散する。
例題 6.6 分子場の大きさ ★
オリジナル鉄の原子の磁気モーメントを μa=2.2μB とし、数密度を例題 6.2 の n=8.49×1028m−3 とする。分子場近似の Curie 温度が、鉄の TC=1043K に等しいとする。
- Curie 定数 C と λ を求めよ。
- 磁化が飽和したときの分子場の磁束密度 μ0λMs を求めよ。これを、隣の原子の磁気双極子が r=0.25nm の距離につくる磁束密度の大きさと比べよ。
解答
- μa=2.04×10−23A⋅m2 なので
C=3×1.381×10−23(4π×10−7)(8.49×1028)(2.04×10−23)2K=1.07K,λ=CTC=9.7×102.
2. 例題 6.2 の μ0Ms=2.18T を使うと、分子場の磁束密度は μ0λMs=2.1×103T である。一方、(6.3) で軸上の双極子の磁束密度は 4πμ0r32μa なので
Bdip=10−7×(2.5×10−10)32×2.04×10−23T=0.26T.
分子場は双極子の磁場の約 104 倍である。強磁性をそろえている相互作用は、磁気双極子どうしの相互作用ではない。その正体は、電子の波動関数の重なりと Pauli の排他原理から生じる交換相互作用と呼ばれる量子力学の効果で、静電的な Coulomb エネルギーがスピンの向きによって変わることに由来する。
磁区とヒステリシス
TC より下の鉄が、ふつうは磁石になっていないのはなぜか。強磁性体の内部は、磁区と呼ばれる多数の小さな領域に分かれている。1つの磁区の中では磁化がそろっているが、磁区ごとに磁化の向きが異なるので、全体の磁化は打ち消し合っている。
磁区に分かれると、例題 6.1 のように物体の外へ広がる磁場のエネルギーが小さくなるからである。磁区の境目を磁壁と呼ぶ。
磁化していない強磁性体に磁場 H をかけて強くしていくと、次の順に磁化が進む。図 6.3 の初磁化曲線(点線)がこの過程である。
- 磁場の向きに近い磁化を持つ磁区が、磁壁の移動によって広がる。
- さらに強い磁場では、各磁区の磁化の向きが磁場の向きへ回転する。
- 最後に磁化は飽和する。
磁壁は結晶の欠陥や不純物に引っかかりながら不可逆に動く。そのため、磁場を減らしても磁化はもとの曲線を戻らない。
H=0 に戻しても磁化が残る。そのときの磁束密度 Br を残留磁束密度と呼ぶ。磁化を 0 にするには逆向きの磁場 Hc が必要で、これを保磁力と呼ぶ。
磁場を正負に往復させると、B と H の関係は閉じた曲線を描く。これをヒステリシス曲線と呼ぶ。

図 6.3 強磁性体のヒステリシス曲線の模式図。実線の矢印は磁場を往復させたときの向き、点線は磁化していない状態からの初磁化曲線。Br は残留磁束密度、Hc は保磁力。
ヒステリシス曲線に囲まれた面積 ∮HdB は、磁場を1往復させるあいだに単位体積の磁性体へ電源が与え、熱として失われるエネルギーに等しい。この関係は、第7章 §7.1 の Faraday の法則を先に借りると確かめられる。
環状の鉄心に導線を一様に巻いたコイルを考え、鉄心の断面積を A、周の長さを ℓ とする。コイルの巻数を N、流す電流を I とする。鉄心の中の磁場が一様だとする。§6.2 の Ampère の法則と Faraday の法則から、コイルの起電力 E と電源の仕事率 P について
Hℓ=NI,E=−NAdtdB,P=−EI=AℓHdtdB
が成り立つ。3つ目の式は、電源がコイルの逆起電力に逆らってする仕事率である。
鉄心の体積 Aℓ で割って1往復で積分すると、単位体積あたりの仕事は ∮HdB になる。1往復すると磁束密度も磁場も元に戻るので、この仕事は磁性体に蓄えられずに熱として失われる。変圧器やモーターの鉄心のように磁場を何度も往復させる用途には、保磁力が小さくヒステリシス曲線の細い軟磁性材料を使う。永久磁石には、保磁力と残留磁束密度がともに大きい硬磁性材料を使う。
確認テスト
オリジナル
- 6.3-1 反磁性体・常磁性体・T>TC の強磁性体について、磁化率の符号と温度依存性を1行ずつで述べよ。χm=−1 の物質の内部の磁束密度はどうなるか。
- 6.3-2 μa=μB の常磁性体で、x=μaB/(kBT)=1 となる磁束密度を求めよ。温度は 300 K と 1 K の2通りとする。
- 6.3-3 Curie–Weiss の法則に従う物質があり、Curie 温度は TC=600K である。T=700K で χm=1.0×10−3 である。Curie 定数 C と、T=900K での磁化率を求めよ。
- 6.3-4 分子場近似 (6.24) の H=0 の解を考える。温度が TC より少し低いとき
MsM≃35(1−TCT)
となることを、(6.5) の展開を使って示せ。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com