電磁気学入門 第6章 §6.4 ★ 鉄心の磁束は、起磁力 NI を磁気抵抗の和で割って求まる
磁気回路の考え方
変圧器・モーター・電磁石では、コイルを鉄心に巻き、鉄心の中に磁束を通す。§6.2 で見たように、透磁率の大きな物質の表面では、磁束線は空気側へほぼ垂直に出るか、鉄の中で表面に沿って進む。鉄心の透磁率が十分大きければ、磁束はほとんど鉄心の中を通り、導線の中を流れる電流のように鉄心に沿って流れる。この近似のもとで、磁束の計算を電気回路と同じ形に書き直す。
図 6.4 の環状の鉄心を考える。鉄心の断面積を A、平均の長さを ℓ とする。透磁率は μ である。
鉄心には幅 g の空隙(エアギャップ)がある。鉄心に導線を N 回巻いて電流 I を流す。鉄心の中の磁束を Φ=∫B⋅dS とする。

図 6.4 空隙のある環状の鉄心に巻いたコイル。破線は鉄心の中を回る磁束の経路。
磁束の経路に沿って物質中の Ampère の法則 (6.11) を使う。経路は N 本の導線を貫くので
∮H⋅dr=Hiℓ+Hgg=NI
である。Hi は鉄心の中の磁場、Hg は空隙の中の磁場である。一方、∇⋅B=0 から、磁束が鉄心の外へ漏れなければ、どの断面を通る磁束も同じ Φ である。
空隙の幅が断面の寸法より十分小さければ、空隙の中の磁束も広がらず、同じ断面積を通る(境界に垂直な Bn の連続)。したがって
Bi=Bg=AΦ,Hi=μAΦ,Hg=μ0AΦ
で
Φ(μAℓ+μ0Ag)=NI(6.27)
を得る。
定義 6.7(起磁力と磁気抵抗)
F=NI を起磁力と呼ぶ。磁路の長さを ℓ、断面積を A とする。透磁率 μ の磁路について
R=μAℓ(6.28)
を磁気抵抗(リラクタンス)と呼ぶ。単位は A/Wb である。
この言葉で (6.27) を書き直すと
F=Φ(Ri+Rg)
となり、電気回路の Ohm の法則 V=I(R1+R2) と同じ形になる。起磁力が起電力に、磁束が電流に、磁気抵抗が電気抵抗に対応する。一般の磁気回路では、次の2つの法則が Kirchhoff の法則の役をする。
- 磁路の分岐点では、流れ込む磁束の和が 0(∇⋅B=0 を分岐点を囲む閉曲面で積分したもの)。
- 閉じた磁路を1周すると、各区間の ΦR の和が、その磁路が囲む起磁力に等しい((6.11) を閉じた磁路で積分したもの)。
これらから、磁気抵抗の直列は和、並列は逆数の和で合成でき、電気回路と同じ計算で磁束が求まる。
近似の範囲
- 電気回路では導線と空気の電気伝導率の比が 1020 を超えるので、電流が導線の外へ漏れることはない。磁気回路では、鉄と空気の透磁率の比は 103 から 105 程度である。そのため一部の磁束は鉄心の外を通る(漏れ磁束)。
- 空隙の幅が断面の寸法に比べて無視できないと、空隙で磁束が横に広がり(縁の効果)、実効的な断面積が A より大きくなる。
- 鉄心の透磁率は一定ではなく、磁束密度によって変わる(§6.3)。μ を一定とみなせるのは、飽和より十分低い範囲に限られる。
例題 6.7 空隙のある電磁石 ★★
オリジナル図 6.4 の鉄心で、数値を次のとおりとする。
ℓ=0.30m,A=4.0×10−4m2,g=1.0mm,μr=2000,N=500,I=1.0A
- 鉄心と空隙の磁気抵抗を求めよ。また、磁束 Φ と空隙の磁束密度 Bg を求めよ。
- 空隙が無いとしたときの磁束密度を求め、空隙の役割を述べよ。
解答
- μ0A=(4π×10−7)(4.0×10−4)=5.03×10−10Wb⋅m/A なので
Ri=2000×5.03×10−100.30=2.98×105A/Wb,Rg=5.03×10−101.0×10−3=1.99×106A/Wb.
合成は 2.29×106A/Wb で、
Φ=Ri+RgNI=2.29×106500Wb=2.19×10−4Wb,Bg=AΦ=0.55T.
2. 空隙が無ければ
B=ℓμNI=0.302000×(4π×10−7)×500T=4.2T
となる。実際の鉄は 2 T 前後で飽和するので、この値は直線近似の範囲を超えている。
幅 1 mm の空隙の磁気抵抗は、長さ 30 cm の鉄心の約7倍である。回路の磁気抵抗のほとんどを空隙が占める。そのため磁束は鉄の透磁率にほとんどよらず、ほぼ μ0NI/g で決まる。透磁率が磁束密度によって変わる鉄を使っても、空隙を入れると磁束を安定に設計することができる。
例題 6.8 永久磁石と空隙 ★
オリジナル長さ ℓm=10mm の永久磁石と、透磁率が無限大とみなせる鉄のヨークで磁路をつくる。磁路には幅 g=2.0mm の空隙を設ける(コイルは無い)。磁石の断面積と空隙の断面積は等しいとする。磁石の中の磁束密度と磁場は、次の直線に従うとする。
B=Br+μ0H,Br=1.2T
空隙の磁束密度を求めよ。
解答
コイルが無いので、磁路を1周する ∮H⋅dr=0 である。ヨークの中では透磁率が無限大なので H=0 となり
Hmℓm+Hgg=0
となる。断面積が等しく磁束が連続なので、Bm=Bg=B である。Hg=B/μ0 なので
Hm=−μ0ℓmBg
である。磁石の中の磁場は磁化と逆向きで、例題 6.1 の反磁場と同じ性格を持つ。これを磁石の特性 B=Br+μ0Hm に入れると
B=Br−ℓmgB⟹B=ℓm+gℓmBr=1210×1.2T=1.0T.
磁石の中の磁場は
Hm=μ0B−Br=4π×10−7−0.2A/m=−1.6×105A/m
である。H–B 面で見ると、動作点は2本の直線の交点である。1本は磁石の特性の直線、もう1本は空隙で決まる直線 B=−μ0(ℓm/g)H である。空隙を広げるほど、動作点の磁束密度は下がる。
確認テスト
オリジナル
- 6.4-1 磁気抵抗の単位 A/Wb が 1/H(ヘンリーの逆数)に等しいことを示せ。また、起磁力・磁束・磁気抵抗が電気回路のどの量に対応するかを述べよ。
- 6.4-2 「日」の字形の鉄心の中央の脚に、コイル(起磁力 300A)を巻く。中央の脚の磁気抵抗は 1.0×105A/Wb である。左右の脚(上下の横棒を含む)の磁気抵抗は、2.0×105A/Wb と 6.0×105A/Wb である。中央の脚と左右の脚を通る磁束を求めよ。
- 6.4-3 電磁石の2つの磁極面(面積の合計 2.0×10−3m2)に鉄板が密着している。磁極面の磁束密度は 1.0 T である。第7章 §7.3 で導く磁場のエネルギー密度 B2/(2μ0) を借り、鉄板をわずかに引き離す仮想仕事から吸引力を求めよ。
- 6.4-4 例題 6.7 の空隙の磁束密度が、透磁率が無限大のときの値 μ0NI/g の 1/(1+ℓ/(μrg)) 倍であることを示せ。また、数値で確かめよ。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com