電磁気学入門 第6章 §6.1 ★★ 磁化した物質の磁場は、体積電流 ∇×M と表面電流 M×n の磁場に等しい
第5章では、真空の中を流れる電流がつくる静磁場を扱った。ところが、鉄の釘が磁石に吸い付き、方位磁針が北を指すように、物質そのものが磁場をつくったり、磁場に応じて性質を変えたりする現象は日常的に見られる。物質の中の原子や分子は、電子の軌道運動とスピンによって小さな磁気双極子モーメントを持ち、外から磁場をかけるとそれらの向きや大きさが変わる。
その結果、物質全体が小さな電流ループの集まりとして振る舞い、もとの磁場に新しい磁場を重ねる。この現象を磁化と呼び、磁化する物質を磁性体と呼ぶ。
この章の構成は、第4章の誘電体と同じ形をしている。
- §6.1 では、単位体積あたりの磁気双極子モーメント M を定義する。磁化した物質は、体積電流 ∇×M と表面電流 M×n と同じ磁場をつくることを示す。
- §6.2 では、この磁化電流を Ampère の法則に繰り込んで磁場 H を定義する。その回転の源が、外から流した電流(自由電流)だけになることを示す。あわせて、透磁率と、2つの磁性体の境界での条件を導く。
- §6.3 では、磁化の微視的な起源を、反磁性・常磁性・強磁性の3つに分けて調べる。
- §6.4 では、鉄心に巻いたコイルの磁束を電気回路と同じ形の計算で求める磁気回路の方法を導く。
前の章から借りる結果は次のとおりである。第5章 §5.3 で導いた静磁場の基本法則
∇⋅B=0,∇×B=μ0J,∮CB⋅dr=μ0IC(6.1)
を使う。IC は閉曲線 C を縁とする面を貫く電流である。第5章 §5.4 のベクトルポテンシャル B=∇×A、
A(r)=4πμ0∫∣r−r′∣J(r′)dV′(6.2)
を使う。第5章 §5.5 からは、原点にある磁気双極子モーメント μ のベクトルポテンシャルと磁束密度
Adip(r)=4πμ0r3μ×r,Bdip(r)=4πμ0r33(μ⋅r^)r^−μ(r=0)(6.3)
を使う。同じ §5.5 からは、さらに次の結果を使う。
- 電流 I が流れる閉じたループの磁気モーメント μ=Ia。ここで a=21∮r×dl はループのベクトル面積である。
- 一様な磁束密度の中の双極子に働くトルクとエネルギー
N=μ×B,U=−μ⋅B.(6.4)
- 電子の軌道運動の磁気モーメントと角運動量の関係 μ=−2meeL。
- Bohr 磁子 μB=eℏ/(2me)=9.274×10−24J/T。
第4章からは、分極電荷の導き方(§4.1)、境界条件と力線の屈折(§4.3)、誘電体球の解法(例題 4.4 の一様電場中の誘電体球)と Langevin 関数
L(x)=cothx−x1=3x−45x3+O(x5)(6.5)
を借りる。この章で導く H と境界条件は、第7章のインダクタンスと磁場のエネルギー、第8章の物質中の Maxwell 方程式、第9章の物質中の電磁波(屈折率 n=εrμr)で使う。
呼び方
第5章と同じく B を磁束密度と呼び、この章で導入する H を磁場と呼ぶ。章の題や節の題で「磁場」とまとめて呼ぶときは両方を指し、式の中では記号で区別する。
原子の磁気モーメント
電子(電荷 −e、質量 me)を考える。この電子が半径 r の円軌道を角速度 ω で回っているとする。第5章 §5.5 で見たように、この電子は電流 I=−eω/(2π) の円形ループとみなせる。軌道面に垂直な磁気モーメントの成分は
μz=Iπr2=−2eωr2(6.6)
である。角運動量 Lz=meωr2 との比は −e/(2me) で、軌道の大きさによらない。軌道角運動量の量子化から、磁気モーメントの自然な単位として Bohr 磁子 μB が現れる。
電子は軌道運動とは別に、スピンと呼ばれる固有の角運動量 ℏ/2 を持つ。それに伴う磁気モーメントの大きさは、ほぼ μB である。
原子の磁気モーメントは、これらの軌道とスピンの寄与の和である。多くの原子や分子では、電子が対をつくって寄与が打ち消し合い、正味の磁気モーメントが 0 になる。打ち消しが不完全な原子(鉄・コバルト・ニッケルや希土類のイオン、酸素分子など)は、μB 程度の永久磁気モーメントを持つ。
磁化ベクトル
第4章で分極 P を定義したときと同じく、巨視的に小さく微視的に大きい体積 ΔV をとって平均する。
定義 6.1(磁化ベクトル)
点 r を含む体積 ΔV をとる。その中の原子・分子の磁気モーメントの和を ∑μi とするとき、
M(r)=ΔV1i∈ΔV∑μi
を磁化ベクトル(または単に磁化)と呼ぶ。磁気モーメントの単位は A⋅m2 なので、磁化の単位は A/m である。原子の数密度を n とする。どの原子も同じ μ を持つなら、磁化は nμ である。
磁化電流
磁化 M(r′) を持つ物体が領域 V を占めているとする。体積要素 dV′ は磁気モーメント MdV′ を持つので、(6.3) を重ね合わせて
A(r)=4πμ0∫V∣r−r′∣3M(r′)×(r−r′)dV′(6.7)
となる。ここで f(r′)=1/∣r−r′∣ とおくと
∇′f=∣r−r′∣3r−r′
なので、被積分関数は M×∇′f である。積の微分の公式
∇′×(fM)=f∇′×M+(∇′f)×M
を書き換えると
M×∇′f=f∇′×M−∇′×(fM)
となる。右辺第2項の体積積分を表面積分に直すために、次の補題を使う。
補題 6.2(回転の積分定理)
領域 V の表面を ∂V とする。表面の外向き単位法線を n とする。滑らかなベクトル場 F に対して
∫V∇×FdV=∮∂Vn×FdS.
証明
任意の定ベクトル c をとる。
∇⋅(F×c)=c⋅(∇×F)−F⋅(∇×c)=c⋅(∇×F)
なので、Gauss の発散定理(第1章 §1.2)から
c⋅∫V∇×FdV=∮∂V(F×c)⋅ndS=c⋅∮∂Vn×FdS
となる。最後の等号ではスカラー三重積の巡回 (F×c)⋅n=c⋅(n×F) を使った。定ベクトルは任意なので、両辺のベクトルは等しい。
補題を F=fM に使うと
∫V∇′×(fM)dV′=∮n′×MfdS′
なので、
A(r)=4πμ0∫V∣r−r′∣∇′×MdV′+4πμ0∮∂V∣r−r′∣M×n′dS′(6.8)
を得る。(6.2) と比べると、次の対応がある。
- 第1項は、体積電流密度 ∇×M のベクトルポテンシャルと同じ形をしている。
- 第2項は、面電流密度 M×n のベクトルポテンシャルと同じ形をしている。
定理 6.3(磁化電流 ★★★)
磁化 M を持つ物体がつくる磁束密度は、内部に体積電流密度
Jb=∇×M,表面に面電流密度Kb=M×n(6.9)
の電流を流したときの磁束密度に等しい(n は表面の外向き単位法線)。この2つを磁化電流(束縛電流)と呼ぶ。物体を横切る任意の断面を通る磁化電流の総量は 0 である。
証明
前半は (6.8) そのものである。
後半を示すには、表面の面電流を次の極限とみなす。表面の内側の厚さ δ の薄い層で、M が連続に 0 まで減るとし、層を薄くする。そうすると磁化電流はすべて体積電流 ∇×M になる。物体を横切る断面を含む面 S をとり、その縁 C を物体の外に置く。Stokes の定理(第1章 §1.2)から
∫S(∇×M)⋅nSdS=∮CM⋅dr=0
となる。C の上では M=0 だからである。層の極限で表面電流が (6.9) の Kb になることは、薄い層を貫く長方形の上の Stokes の定理から確かめられ、これは前半の表面項と一致する。
磁化電流が現れる理由は、図 6.1 を見ると分かる。磁化した物質を、同じ向きに回る小さな電流ループを敷き詰めたものとみなすと、内部では隣り合うループの電流が逆向きに重なって打ち消し合う。打ち消されないのは物体の縁を回る電流だけで、これが表面電流 Kb である。
ループの強さが場所によって変わると、隣り合うループの電流が完全には打ち消し合わず、内部にも電流 ∇×M が残る。磁化電流は、電子が原子の外へ移動して運ぶ電流ではなく、原子の中に閉じた電流の和として現れる電流である。この点は、分子から取り出せない分極電荷と同じ性格である。

図 6.1 一様に磁化した板を、反時計回りの小さな電流ループ(細線)を敷き詰めたものとみなす。内部では隣どうしの電流が打ち消し、縁を回る電流(太線)だけが残る。
例題 6.1 一様に磁化した球 ★★★
オリジナル半径 a の球が一様な磁化 M=Mz^ を持つ。球の内部と外部の磁束密度を求めよ。
解答
磁化が一様なので Jb=∇×M=0 である。表面だけに Kb=M×r^=Msinθφ^ が流れる。これは帯電した球殻を z 軸のまわりに回したときの面電流と同じ形である。この面電流の磁場を直接積分する代わりに、(6.7) を使う。M が一様なので積分の外へ出せて
A(r)=μ0M×G(r),G(r)=4π1∫r′<a∣r−r′∣3r−r′dV′
となる。G は、ρ/ε0=1 を満たす一様な電荷密度の球の電場と同じ式である。第2章 §2.2 の Gauss の法則から、その電場は
G=3r(r<a),G=3a3r3r(r>a)
である。したがって内部では A=3μ0M×r である。
∇×(M×r)=M(∇⋅r)−(M⋅∇)r=3M−M=2M
から
Bin=32μ0M
を得る。内部の磁束密度は一様で、磁化と同じ向きである。外部では
A=μ03a3r3M×r=4πμ0r3μ×r,μ=34πa3M
で、原点に双極子 μ を置いたときと同じである。外部の B は (6.3) の形になる。
確かめとして、中心の磁束密度を表面電流の Biot–Savart の積分で直接求める。面要素 dS=a2sinθdθdφ を流れる電流が中心につくる磁束密度は
4πμ0a2Kb×(−r^)dS
である。ベクトル積 φ^×(−r^)=−θ^ の軸方向の成分は sinθ なので
Bz(0)=4πμ0∫02π∫0πMsinθ⋅sinθ⋅sinθdθdφ=4πμ0M⋅2π⋅34=32μ0M
となり、一致する。
答え:内部は一様な Bin=32μ0M、外部は原点に μ=34πa3M を置いたときの双極子の磁束密度。
例題 6.2 鉄の飽和磁化の見積もり ★★
オリジナル鉄の密度を 7.87×103kg/m3、モル質量を 55.8g/mol とする。鉄原子1個あたりの磁気モーメントを 2.2μB とする。
- すべての原子の磁気モーメントがそろったときの磁化 Ms と μ0Ms を求めよ。
- この状態の鉄の球の内部の磁束密度を、例題 6.1 から求めよ。
解答
- 原子の数密度は
n=55.8×10−37.87×103×6.022×1023m−3=8.49×1028m−3.
1個あたり 2.2μB=2.2×9.274×10−24A⋅m2=2.04×10−23A⋅m2 なので
Ms=n⋅2.2μB=1.73×106A/m,μ0Ms=(4π×10−7)(1.73×106)T=2.18T.
2. Bin=32μ0Ms=1.45T。
1T を超える磁束密度は、空芯のコイルでは数万アンペア回数の電流を流さないと得られない。長いソレノイドなら、μ0nI=1T に nI≈8×105A/m が要る。原子の磁気モーメントがそろうだけで同じ大きさの磁束密度が生じることが、鉄が磁石や電磁石の芯に使われる理由である。
確認テスト
オリジナル
- 6.1-1 磁化 M の単位が A/m であることを定義から確かめよ。ニッケルの数密度を 9.14×1028m−3、原子1個あたりの磁気モーメントを 0.60μB とする。磁気モーメントがすべてそろったときの Ms と μ0Ms を求めよ。
- 6.1-2 半径 a、長さ L の円柱がある。円柱座標で M=ksφ^ の磁化を持つ。k は定数、s は軸からの距離である。 Jb と側面の Kb を求めよ。また、軸に垂直な断面(z 一定の円板)を貫く磁化電流の総量が 0 になることを確かめよ(φ 一定の半平面を貫く磁化電流ではない)。
- 6.1-3 半径 R の円柱が軸方向の一様な磁化 M=Mz^ を持つ。(a) 長さ ℓ≫R のとき、中央付近の内部の磁束密度を求めよ。(b) 厚さ t≪R の円板のとき、中心の磁束密度を求めよ。
- 6.1-4 例題 6.1 の表面電流 Kb=Msinθφ^ について、磁気モーメント
μ=21∮r×KbdS
を計算し、∫MdV に等しいことを示せ。
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