電磁気学入門 第7章 §7.2 ★★★ 回路を貫く磁束は電流に比例し、その比例係数は形だけで決まる。相互インダクタンスは対称である
相互インダクタンスと Neumann の公式
2つの細い導線の回路 C 1 C_1 C 1 、C 2 C_2 C 2 を考える。C 1 C_1 C 1 に電流 I 1 I_1 I 1 を流すと、Biot–Savart の法則(第5章 §5.2)により、磁場は至る所で電流に比例する。したがって C 2 C_2 C 2 を貫く磁束 Φ 21 \Phi_{21} Φ 21 も電流に比例し、
Φ 21 = M 21 I 1 (7.13) \Phi_{21}=M_{21}I_1\tag{7.13} Φ 21 = M 21 I 1 ( 7.13 )
と書ける。比例係数 M 21 M_{21} M 21 を相互インダクタンス と呼ぶ。単位は H = W b / A \mathrm{H}=\mathrm{Wb/A} H = Wb/A (ヘンリー)である。M 21 M_{21} M 21 は2つの回路の形と位置関係だけで決まり、電流によらない。
I 1 I_1 I 1 が時間変化すると、回路2には Faraday の法則により次の起電力が生じる(回路は静止しているとする)。
E 2 = − M 21 d I 1 d t . \mathcal E_2=-M_{21}\frac{d I_1}{d t}. E 2 = − M 21 d t d I 1 .
M 21 M_{21} M 21 をベクトルポテンシャルで書く。(7.6) と (7.2) から
Φ 21 = ∮ C 2 A 1 ⋅ d l 2 = ∮ C 2 ( μ 0 I 1 4 π ∮ C 1 d l 1 ∣ r 2 − r 1 ∣ ) ⋅ d l 2 \Phi_{21}=\oint_{C_2}\bm{A}_1\cdot\mathrm{d}\bm{l}_2=\oint_{C_2}\Bigl(\frac{\mu_0I_1}{4\pi}\oint_{C_1}\frac{\mathrm{d}\bm{l}_1}{\left\vert \bm{r}_2-\bm{r}_1\right\vert }\Bigr)\cdot\mathrm{d}\bm{l}_2 Φ 21 = ∮ C 2 A 1 ⋅ d l 2 = ∮ C 2 ( 4 π μ 0 I 1 ∮ C 1 ∣ r 2 − r 1 ∣ d l 1 ) ⋅ d l 2
である。I 1 I_1 I 1 で割ると、次の公式を得る。
定理 7.5(Neumann の公式 ★★★)
細い導線の2つの回路の相互インダクタンスは
M 21 = μ 0 4 π ∮ C 1 ∮ C 2 d l 1 ⋅ d l 2 ∣ r 1 − r 2 ∣ (7.14) M_{21}=\frac{\mu_0}{4\pi}\oint_{C_1}\oint_{C_2}\frac{\mathrm{d}\bm{l}_1\cdot\mathrm{d}\bm{l}_2}{\left\vert \bm{r}_1-\bm{r}_2\right\vert }\tag{7.14} M 21 = 4 π μ 0 ∮ C 1 ∮ C 2 ∣ r 1 − r 2 ∣ d l 1 ⋅ d l 2 ( 7.14 )
で、とくに M 21 = M 12 M_{21}=M_{12} M 21 = M 12 が成り立つ。
証明 式の導出は上に書いた。右辺は C 1 C_1 C 1 と C 2 C_2 C 2 を入れ替えても変わらない。内積 d l 1 ⋅ d l 2 \mathrm{d}\bm{l}_1\cdot\mathrm{d}\bm{l}_2 d l 1 ⋅ d l 2 も距離 ∣ r 1 − r 2 ∣ \left\vert \bm{r}_1-\bm{r}_2\right\vert ∣ r 1 − r 2 ∣ も対称だからである。したがって M 12 M_{12} M 12 を同じ手順で求めると、同じ式になる。
この対称性は自明でない。たとえば、大きな円形コイルと、その軸上の遠く離れた所にある小さなコイルを考える。大きなコイルに電流を流したときに小さなコイルを貫く磁束と、小さなコイルに同じ電流を流したときに大きなコイルを貫く磁束は、計算の仕方がまったく違うが、必ず等しくなる(確認テスト 7.2-4)。
これからは M = M 12 = M 21 M=M_{12}=M_{21} M = M 12 = M 21 と書く。§7.3 では、同じ対称性をエネルギーの議論からも導く。
自己インダクタンス
回路 C C C に電流 I I I を流すと、その電流がつくる磁場は回路自身も貫く。この磁束も電流に比例し、
Φ = L I (7.15) \Phi=LI\tag{7.15} Φ = L I ( 7.15 )
と書ける。L L L を自己インダクタンス と呼ぶ。電流が変わると、回路には自分自身の磁束の変化による起電力
E = − L d I d t (7.16) \mathcal E=-L\frac{d I}{d t}\tag{7.16} E = − L d t d I ( 7.16 )
が生じる。Lenz の法則から、この起電力は電流の変化を妨げる向きを持つので、逆起電力 とも呼ぶ。自己インダクタンスは、回路が電流の変化に対して示す「慣性」の大きさを表す。
Neumann の公式 (7.14) で C 1 = C 2 C_1=C_2 C 1 = C 2 とすると、積分は対数的に発散する。r 1 = r 2 \bm{r}_1=\bm{r}_2 r 1 = r 2 の近くで、被積分関数が 1 / ∣ r 1 − r 2 ∣ 1/\left\vert \bm{r}_1-\bm{r}_2\right\vert 1/ ∣ r 1 − r 2 ∣ のように発散するからである。これは、太さ 0 の導線のすぐ近くでは磁場が 1 / s 1/s 1/ s で大きくなり、導線を貫く磁束が無限大になるからである。
現実の導線には太さがあり、自己インダクタンスは導線の太さに(対数的に)依存する。太さのある導線の自己インダクタンスは、§7.3 でエネルギーを使って定義し直す。磁場が導線の外の広い領域にあるソレノイドのような回路では、導線の太さの影響は小さく、磁束から直接求められる。
長いソレノイド
長いソレノイドの長さを l l l 、断面積を S S S とする。巻数を N N N とし、電流 I I I を流す。長いとは l ≫ S l\gg\sqrt S l ≫ S の意味である。単位長さあたりの巻数は n = N / l n=N/l n = N / l で、内部の磁場は B = μ 0 n I B=\mu_0nI B = μ 0 n I である。1巻きを貫く磁束は B S BS B S なので、N N N 巻き全体では
Φ = N B S = μ 0 n 2 l S I . \Phi=NBS=\mu_0n^2lSI . Φ = N B S = μ 0 n 2 l S I .
したがって
L = μ 0 n 2 S l = μ 0 N 2 S l . (7.17) L=\mu_0n^2Sl=\frac{\mu_0N^2S}{l}.\tag{7.17} L = μ 0 n 2 S l = l μ 0 N 2 S . ( 7.17 )
L L L は巻数の2乗に比例する。巻数を2倍にすると、磁場が2倍になり、その磁場が貫く巻きの数も2倍になるからである。
同軸ケーブル(導体の外の部分)
内導体の半径 a a a 、外導体の半径 b b b の同軸ケーブルを考える。内導体に電流 I I I 、外導体(薄い円筒)に逆向きの同じ電流が流れる。Ampère の法則から、2つの導体のあいだ(a < s < b a<s<b a < s < b )の磁場は B = μ 0 I / ( 2 π s ) B=\mu_0I/(2\pi s) B = μ 0 I / ( 2 π s ) で、外導体の外では 0 である。長さ l l l の部分で、2つの導体のあいだにある長方形の面を貫く磁束は
Φ = ∫ a b μ 0 I 2 π s l d s = μ 0 I l 2 π ln b a \Phi=\int_a^b\frac{\mu_0I}{2\pi s}l\,\mathrm{d} s=\frac{\mu_0Il}{2\pi}\ln\frac ba Φ = ∫ a b 2 π s μ 0 I l d s = 2 π μ 0 I l ln a b
なので、単位長さあたりの自己インダクタンスは
L l = μ 0 2 π ln b a \frac Ll=\frac{\mu_0}{2\pi}\ln\frac ba l L = 2 π μ 0 ln a b
になる。内導体の中にも磁場があり、その寄与は例題 7.5 で求める。
結合した回路と変圧器
2つの回路が結合しているとき、回路1を貫く磁束は、自分の電流による分と回路2の電流による分の和
Φ 1 = L 1 I 1 + M I 2 \Phi_1=L_1I_1+MI_2 Φ 1 = L 1 I 1 + M I 2
である。各回路の起電力は
E 1 = − L 1 d I 1 d t − M d I 2 d t , E 2 = − M d I 1 d t − L 2 d I 2 d t . (7.18) \mathcal E_1=-L_1\frac{d I_1}{d t}-M\frac{d I_2}{d t},\qquad \mathcal E_2=-M\frac{d I_1}{d t}-L_2\frac{d I_2}{d t}.\tag{7.18} E 1 = − L 1 d t d I 1 − M d t d I 2 , E 2 = − M d t d I 1 − L 2 d t d I 2 . ( 7.18 )
M M M の符号は、2つの回路の向きの取り方で変わる。§7.3 では、エネルギーが正であることから
M 2 ≤ L 1 L 2 (7.19) M^2\le L_1L_2\tag{7.19} M 2 ≤ L 1 L 2 ( 7.19 )
を示す。k = M / L 1 L 2 k=M/\sqrt{L_1L_2} k = M / L 1 L 2 を結合係数 と呼び、∣ k ∣ ≤ 1 \left\vert k\right\vert \le1 ∣ k ∣ ≤ 1 である。∣ k ∣ = 1 \left\vert k\right\vert =1 ∣ k ∣ = 1 は、一方の回路の磁束がすべて他方を貫く場合である。
1つの鉄心に2つのコイルを巻いた変圧器では、鉄心が磁束を閉じ込め、両方のコイルの1巻きを同じ磁束 Φ 0 \Phi_0 Φ 0 が貫く(∣ k ∣ ≃ 1 \left\vert k\right\vert \simeq1 ∣ k ∣ ≃ 1 )。巻数を N 1 N_1 N 1 、N 2 N_2 N 2 とすると、各コイルの起電力は
E 1 = − N 1 Φ ˙ 0 , E 2 = − N 2 Φ ˙ 0 \mathcal E_1=-N_1\dot\Phi_0,\qquad \mathcal E_2=-N_2\dot\Phi_0 E 1 = − N 1 Φ ˙ 0 , E 2 = − N 2 Φ ˙ 0
である。コイルの抵抗が無視できれば、端子の電圧の比は
V 2 V 1 = N 2 N 1 \frac{V_2}{V_1}=\frac{N_2}{N_1} V 1 V 2 = N 1 N 2
になる。この関係を使えば、交流の電圧を巻数の比で変えることができる。
例題 7.3 直線電流と長方形のコイル ★★
オリジナル 無限に長い直線の導線と同じ平面内に、辺の長さ a a a (導線に垂直)、b b b (導線に平行)の長方形のコイルを置く。導線に近い方の辺は導線から距離 d d d にある。
相互インダクタンス M M M を求めよ。
a = d = 5.0 c m a=d=5.0\,\mathrm{cm} a = d = 5.0 cm 、b = 10 c m b=10\,\mathrm{cm} b = 10 cm のときの相互インダクタンスを求めよ。さらに、導線に振幅 10 A 10\,\mathrm A 10 A 、周波数 50 H z 50\,\mathrm{Hz} 50 Hz の交流を流したとき、コイルに生じる起電力の振幅を求めよ。
M M M を、コイルに電流を流したときに直線の導線を貫く磁束から求めようとすると、どこで困るかを述べよ。
解答
導線に電流 I I I を流す。距離 s s s の点の磁場は μ 0 I / ( 2 π s ) \mu_0I/(2\pi s) μ 0 I / ( 2 π s ) で、コイルの面に垂直である。コイルを貫く磁束は
Φ = ∫ d d + a μ 0 I 2 π s b d s = μ 0 I b 2 π ln d + a d , M = μ 0 b 2 π ln d + a d . \Phi=\int_d^{d+a}\frac{\mu_0I}{2\pi s}\,b\,\mathrm{d} s=\frac{\mu_0Ib}{2\pi}\ln\frac{d+a}{d},
\qquad M=\frac{\mu_0b}{2\pi}\ln\frac{d+a}{d}. Φ = ∫ d d + a 2 π s μ 0 I b d s = 2 π μ 0 I b ln d d + a , M = 2 π μ 0 b ln d d + a .
2. μ 0 2 π = 2.0 × 10 − 7 H / m \frac{\mu_0}{2\pi}=2.0\times10^{-7}\,\mathrm{H/m} 2 π μ 0 = 2.0 × 1 0 − 7 H/m なので M = 2.0 × 10 − 7 × 0.10 × ln 2 H = 1.39 × 10 − 8 H M=2.0\times10^{-7}\times0.10\times\ln2\,\mathrm H=1.39\times10^{-8}\,\mathrm H M = 2.0 × 1 0 − 7 × 0.10 × ln 2 H = 1.39 × 1 0 − 8 H 。電流 I = I 0 sin ω t I=I_0\sin\omega t I = I 0 sin ω t のとき、起電力は − M ω I 0 cos ω t -M\omega I_0\cos\omega t − M ω I 0 cos ω t である。その振幅は
M ω I 0 = 1.39 × 10 − 8 × 314.2 × 10 V = 4.4 × 10 − 5 V . M\omega I_0=1.39\times10^{-8}\times314.2\times10\,\mathrm V=4.4\times10^{-5}\,\mathrm V . M ω I 0 = 1.39 × 1 0 − 8 × 314.2 × 10 V = 4.4 × 1 0 − 5 V .
3. 無限に長い直線は閉じた回路ではないので、「直線を貫く磁束」は定義できない。直線の導線は無限遠でまわって戻る閉じた回路の一部と考える必要がある。Neumann の公式 (7.14) は閉じた回路どうしについて対称性を保証するので、帰りの導線が十分遠くにあれば、1 の結果が両方向の M M M として使える。
例題 7.4 ソレノイドの自己インダクタンスの見積もり ★★
オリジナル 長さ 20 c m 20\,\mathrm{cm} 20 cm 、半径 1.0 c m 1.0\,\mathrm{cm} 1.0 cm の円筒に導線を 1000 回巻いたソレノイドがある。
自己インダクタンス L L L を、長いソレノイドの式 (7.17) で求めよ。
このソレノイドに流す電流を 2.0 m s 2.0\,\mathrm{ms} 2.0 ms の間に 0 から 2.0 A 2.0\,\mathrm A 2.0 A まで一定の割合で増やす。逆起電力の大きさを求めよ。
解答
S = π ( 1.0 × 10 − 2 ) 2 m 2 = 3.14 × 10 − 4 m 2 S=\pi(1.0\times10^{-2})^2\,\mathrm{m^2}=3.14\times10^{-4}\,\mathrm{m^2} S = π ( 1.0 × 1 0 − 2 ) 2 m 2 = 3.14 × 1 0 − 4 m 2 なので
L = μ 0 N 2 S l = ( 4 π × 10 − 7 ) ( 10 6 ) ( 3.14 × 10 − 4 ) 0.20 H = 1.97 × 10 − 3 H ≈ 2.0 m H . L=\frac{\mu_0N^2S}{l}=\frac{(4\pi\times10^{-7})(10^6)(3.14\times10^{-4})}{0.20}\,\mathrm H=1.97\times10^{-3}\,\mathrm H\approx2.0\,\mathrm{mH}. L = l μ 0 N 2 S = 0.20 ( 4 π × 1 0 − 7 ) ( 1 0 6 ) ( 3.14 × 1 0 − 4 ) H = 1.97 × 1 0 − 3 H ≈ 2.0 mH .
長さと半径の比は 10 なので、端で磁場が弱まる効果により、実際の値はこれより数パーセント小さい。2. ∣ E ∣ = L d I / d t = 1.97 × 10 − 3 × 2.0 2.0 × 10 − 3 V = 1.97 V \left\vert \mathcal E\right\vert =L\,\mathrm{d} I/\mathrm{d} t=1.97\times10^{-3}\times\dfrac{2.0}{2.0\times10^{-3}}\,\mathrm V=1.97\,\mathrm V ∣ E ∣ = L d I / d t = 1.97 × 1 0 − 3 × 2.0 × 1 0 − 3 2.0 V = 1.97 V 。
確認テスト
オリジナル
7.2-1 インダクタンスの単位 H \mathrm H H が、次の2つに等しいことを定義から確かめよ。
V ⋅ s / A , Ω ⋅ s \mathrm{V\cdot s/A},\qquad \Omega\cdot\mathrm s V ⋅ s/A , Ω ⋅ s
2. 7.2-2 長方形の断面を持つトロイダルコイルに、導線を N N N 回巻く。断面の内半径を a a a 、外半径を b b b とする。断面の高さは h h h である。自己インダクタンスを求め、次の値のときの値を求めよ。
N = 500 , a = 2.0 c m , b = 3.0 c m , h = 1.0 c m . N=500,\quad a=2.0\,\mathrm{cm},\quad b=3.0\,\mathrm{cm},\quad h=1.0\,\mathrm{cm}. N = 500 , a = 2.0 cm , b = 3.0 cm , h = 1.0 cm .
3. 7.2-3 長さ l l l の2つの長いソレノイドを同軸に重ねる。
内側:半径 a 1 a_1 a 1 、単位長さあたり n 1 n_1 n 1 巻き。
外側:半径 a 2 a_2 a 2 、単位長さあたり n 2 n_2 n 2 巻き(内側より太い)。
2つの自己インダクタンスと相互インダクタンスを求め、結合係数が k = a 1 / a 2 k=a_1/a_2 k = a 1 / a 2 になることを示せ。4. 7.2-4 半径 b b b の円形コイル1の中心軸上で、中心から距離 z z z の所に、小さな円形コイル2を面を平行にして置く。コイル2の半径を a a a とする。この半径は、b b b と b 2 + z 2 \sqrt{b^2+z^2} b 2 + z 2 のどちらよりも十分小さい。次の2通りで M M M を求め、一致することを確かめよ。
(i) コイル1の電流がコイル2を貫く磁束から。
(ii) コイル2を磁気双極子とみなし、その電流がコイル1を貫く磁束から。
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