電磁気学入門 第8章 §8.2 ★★★ 斉次の2本を B=∇×A、E=−∇ϕ−∂A/∂t で解き、残りの2本をポテンシャルの方程式に直す。ゲージを選ぶと式が簡単になる
ポテンシャルの導入
Maxwell 方程式のうち、源を含まない (8.7) と (8.8) の2本は、ポテンシャルを使うと恒等的に満たされる。(8.7) の ∇⋅B=0 から、第1章 §1.3 の Helmholtz の分解(発散の無い場は回転で書ける)により、
B=∇×A(8.15)
となるベクトル場 A がある。これは第5章 §5.4 で静磁場について導入したベクトルポテンシャルと同じ形で、時間変化する場でもそのまま使える。(8.15) を (8.8) に入れると
∇×E=−∂t∂∇×A⟹∇×(E+∂t∂A)=0
となる。回転が 0 の場は(全空間のような単連結な領域では)勾配で書ける(第1章 §1.3)。そのため、あるスカラー場 ϕ を使ってE+∂A/∂t=−∇ϕ と書ける。まとめると
E=−∇ϕ−∂t∂A,B=∇×A.(8.16)
ϕ をスカラーポテンシャル、A をベクトルポテンシャルと呼ぶ。静的な場では ∂A/∂t=0 なので、ϕ は第2章の電位に戻る。時間変化する場では、電場は電位の勾配だけでは書けず、−∂A/∂t の部分を持つ。この部分が第7章の誘導起電力の源である。
ゲージ変換
(8.16) を満たすポテンシャルは一通りには決まらない。
命題 8.3(ゲージ変換)
任意の(2回微分可能な)関数 Λ(r,t) について
A′=A+∇Λ,ϕ′=ϕ−∂t∂Λ(8.17)
とおく。新しい組 (ϕ′,A′) は、もとの組と同じ電場と磁場を表す。逆に、同じ電場と磁場を表す2組のポテンシャルは、(単連結な領域で)ある Λ による (8.17) の形で結ばれる。
証明
∇×∇Λ=0 より ∇×A′=∇×A=B。また
−∇ϕ′−∂t∂A′=−∇ϕ+∇∂t∂Λ−∂t∂A−∂t∂∇Λ=−∇ϕ−∂t∂A=E.
逆を示す。2組の差を次のようにおく。
a=A′−A,φ=ϕ′−ϕ.
- ベクトルポテンシャルの差は勾配である。磁場が等しいので ∇×a=0 である。そのため、a=∇Λ となる関数がある(各時刻で勾配の形に書く。Λ は時間に依存してよい)。
- スカラーポテンシャルの差は時間だけの関数を除いて決まる。電場が等しいことから
−∇φ−∂t∂a=0,つまり∇(φ+∂t∂Λ)=0
となる。よって φ+∂Λ/∂t は、空間によらない時間の関数 f(t) である。3. その関数は Λ に吸収できる。Λ を Λ−∫tf(t′)dt′ に取り替えても、その勾配は変わらない。この取り替えのあとでは φ=−∂Λ/∂t となる。
Λ をゲージ関数、(8.17) をゲージ変換と呼ぶ。観測にかかる量は Lorentz 力を通じて E と B だけなので、ゲージ変換で移り合うポテンシャルは物理的に同じ状態を表す。ゲージの自由度は、問題に合わせてポテンシャルに条件を1つ課して、式を簡単にするために使う。
ポテンシャルは便宜のための量か
- 古典電磁気学では、E と B が決まれば運動は決まるので、ポテンシャルは計算を楽にするための補助の量とみなしてよい。
- 量子力学では、荷電粒子の Schrödinger 方程式にポテンシャルが直接入り、ゲージ変換は波動関数の位相の変換 ψ→eiqΛ/ℏψ と組になる。磁場が無い所を通る電子の干渉が A の線積分に依存する現象(Aharonov–Bohm 効果)があり、ポテンシャルの役割は古典論より大きい。
ポテンシャルが満たす方程式
残りの2本、(8.6) と (8.9) をポテンシャルで書く。(8.16) を (8.6) に入れると
∇2ϕ+∂t∂(∇⋅A)=−ε0ρ.(8.18)
(8.9) に入れ、第1章 §1.1 の恒等式 ∇×(∇×A)=∇(∇⋅A)−∇2A を使うと
∇(∇⋅A)−∇2A=μ0J+c21∂t∂(−∇ϕ−∂t∂A)
となる。整理して
∇2A−c21∂t2∂2A−∇(∇⋅A+c21∂t∂ϕ)=−μ0J.(8.19)
(8.18) と (8.19) は ϕ と A が絡み合った形をしている。ゲージの自由度を使って、∇⋅A を決める条件を課すと、絡み合いがほどける。
Coulomb ゲージ
定義 8.4(Coulomb ゲージ)
条件 ∇⋅A=0 を満たすポテンシャルの選び方を Coulomb ゲージと呼ぶ。
任意のポテンシャル (ϕ,A) から Coulomb ゲージに移れることを確かめる。(8.17) の変換で
∇⋅A′=∇⋅A+∇2Λ
となるので、Λ を Poisson 方程式 ∇2Λ=−∇⋅A の解に選べばよい。この解は第1章 §1.3 の公式で
Λ(r,t)=4π1∫∣r−r′∣∇′⋅A(r′,t)dV′
と書ける(∇⋅A が遠方で十分速く減る場合)。
Coulomb ゲージでは (8.18) の第2項が消え、
∇2ϕ=−ε0ρ⟹ϕ(r,t)=4πε01∫∣r−r′∣ρ(r′,t)dV′(8.20)
となる。スカラーポテンシャルは、同じ時刻の電荷分布がつくる Coulomb の電位そのものである。ゲージの名前はここに由来する。(8.19) は
∇2A−c21∂t2∂2A=−μ0J+c21∇∂t∂ϕ(8.21)
となる。右辺の発散をとると、(8.20) と連続の式から
∇⋅(−μ0J+c21∇∂t∂ϕ)=−μ0∇⋅J+c21∂t∂(−ε0ρ)=−μ0(∇⋅J+∂t∂ρ)=0
となる(1/(c2ε0)=μ0 を使った)。右辺は発散の無い部分(横成分)だけを持ち、左辺の ∇⋅A=0 と両立している。
Helmholtz の分解で、J を回転の無い縦の部分と発散の無い横の部分に分ける。右辺第2項 ∇∂tϕ/c2 は、ちょうど縦の部分 μ0J∥ を打ち消す。そのため、(8.21) の右辺は横の部分 −μ0J⊥ だけになる。
Coulomb ゲージの ϕ は瞬時に伝わるか
- (8.20) によれば、電荷が動いた瞬間に遠くの ϕ も変わる。これは信号が光速より速く伝わることを意味しない。
- 観測にかかる電場は E=−∇ϕ−∂A/∂t で、A の側にも瞬時の部分が含まれ、両者の瞬時の部分は電場の中で打ち消し合う。結果として E と B は光速で伝わる(第11章 §11.1 の遅延ポテンシャルで確かめる)。
- ポテンシャルはゲージによって変わる量なので、ポテンシャルの伝わり方から因果律を論じることはできない。
Lorenz ゲージ
定義 8.5(Lorenz ゲージ)
条件
∇⋅A+c21∂t∂ϕ=0(8.22)
を満たすポテンシャルの選び方を Lorenz ゲージと呼ぶ。名前は L. V. Lorenz に由来する(Lorentz 変換の H. A. Lorentz とは別人)。
Lorenz ゲージでは、(8.19) の第3項が消える。(8.18) の ∇⋅A を −c−2∂ϕ/∂t に置き換えると、2本の式は同じ形になる。ダランベルシアン
□:=c21∂t2∂2−∇2(8.23)
を使うと
□ϕ=ε0ρ,□A=μ0J(8.24)
となる。ϕ と A の各成分が、源のある波動方程式に別々に従う。源の無い所では右辺が 0 になり、ポテンシャルは速さ c の波として伝わる。
符号の約束 (8.23) は、計量 ημν=diag(+1,−1,−1,−1) での ∂μ∂μ と一致する。第10章では、ポテンシャルと源を次のように4成分にまとめる。
Aμ=(cϕ,A),Jμ=(cρ,J).
すると (8.22) は ∂μAμ=0 に、(8.24) は □Aμ=μ0Jμ になり、どちらも Lorentz 変換で形を変えない式になる。
定理 8.6(Lorenz ゲージへ移れることと、残る自由度)
任意のポテンシャル (ϕ,A) に対して、Lorenz 条件 (8.22) を満たすポテンシャルにゲージ変換で移れる。Lorenz 条件を満たすポテンシャルの間のゲージ変換は、□Λ=0 を満たす Λ によるものに限られる。
証明
L:=∇⋅A+c−2∂ϕ/∂t とおく。(8.17) の変換で
L′=∇⋅A+∇2Λ+c21∂t∂ϕ−c21∂t2∂2Λ=L−□Λ
となる。したがって、ゲージ関数を源のある波動方程式 □Λ=L の解に選べば、変換後の L′ は 0 になる。この方程式の解は、(8.24) の解と同じ方法(第11章 §11.1 の遅延ポテンシャルの公式)で具体的に書ける。後半は、変換の前後でともに L が 0 である条件が □Λ=0 であることから直ちに従う。
残った自由度 □Λ=0 は、源の無い所でさらに条件を課すのに使う。第9章では、真空中の平面波について ϕ=0 と ∇⋅A=0 を同時に満たす選び方(Coulomb ゲージでもあり Lorenz ゲージでもある)を使う。
2つのゲージの使い分け
- Coulomb ゲージ:ϕ が静電場と同じ形になり、電磁波を表す自由度は A の横成分だけになる。物質中の放射場や、量子力学で光を扱う場面で使う。
- Lorenz ゲージ:4つのポテンシャルが同じ波動方程式に従い、式が Lorentz 変換で形を変えない。放射の計算(第11章)と相対論(第10章)で使う。
確認テスト
オリジナル
- 8.2-1 時間変化する磁場がある所では、電場をスカラーポテンシャルの勾配 −∇ϕ だけで書くことができない。その理由を Maxwell 方程式の1本を使って1行で述べよ。
- 8.2-2 次のポテンシャルを考える(A0,k,ω は正の定数)。
ϕ=0,A=A0sin(kx−ωt)y^.
- (a) 電場と磁場を求め、このポテンシャルが Coulomb ゲージと Lorenz ゲージの条件をともに満たすことを示せ。
- (b) 源の無い真空でこれが Maxwell 方程式の解になるための、ω と k の関係を求めよ。
- (c) そのときの ∣E∣/∣B∣ を求めよ。
- 8.2-3 次のポテンシャルを考える(β は定数)。
ϕ=0,A=βtxx^.
- (a) 電場と磁場を求め、それをつくる電荷密度と電流密度を求めよ。
- (b) このポテンシャルが Lorenz 条件を満たさないことを確かめよ。Coulomb ゲージへ移すゲージ関数 Λ と、移したあとのポテンシャル (ϕ′,A′) を求めよ。
- 8.2-4 Coulomb ゲージを満たす2組のポテンシャルが、無限遠で A→0 となる条件のもとでは一致することを、ゲージ関数が満たす方程式と第1章 §1.3 の一意性から示せ。
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