電磁気学入門 第9章 §9.3 ★★★ 境界条件から反射と屈折の法則と Fresnel の式を導き、Brewster 角と全反射を説明する
反射の法則と Snell の法則
平面 z=0 を境に、2つの物質が接している。
- z<0 には屈折率 n1 の物質1がある。
- z>0 には屈折率 n2 の物質2がある。
どちらも自由電荷・自由電流の無い線形な絶縁体で、境界にも面電荷や面電流は無いとする。物質1の側から平面波(入射波、波数ベクトル ki)が当たると、2つの波が生じる。物質1に戻る反射波(kr)と、物質2に入る透過波(kt)である。3つの波の場を
Eiei(ki⋅r−ωit),Erei(kr⋅r−ωrt),Etei(kt⋅r−ωtt)
と書く。境界条件 (9.2) は、境界 z=0 の上のすべての点とすべての時刻で成り立つ。例えば接線成分については
[Eiei(ki⋅r−ωit)+Erei(kr⋅r−ωrt)]接線=[Etei(kt⋅r−ωtt)]接線
の形をしている。指数関数 ei(ax+by−ωt) は、指数 (a,b,ω) が異なれば1次独立である。したがってこの式が x,y,t について恒等的に成り立つためには、3つの指数が境界の上で一致しなければならない。すなわち
ωi=ωr=ωt=ω,ki,x=kr,x=kt,x,ki,y=kr,y=kt,y(9.31)
である。座標軸を、入射波の波数ベクトルが xz 面にあるようにとる(ki,y=0)。ki と法線 z^ を含むこの面を入射面と呼ぶ。(9.31) から、3つの波数ベクトルはすべて入射面にある。
入射角・反射角・屈折角を法線から測り、添字 i・r・t をつけて θi のように書く。波数の大きさは
∣ki∣=∣kr∣=cn1ω,∣kt∣=cn2ω
なので、x 成分の一致は次を与える。
n1sinθi=n1sinθr=n2sinθt
定理 9.3(反射の法則と Snell の法則)
θr=θi,n1sinθi=n2sinθt.(9.32)
この2つの法則は、境界条件の具体的な形を使わず、「境界の上で位相がそろう」ことだけから出た。音波や量子力学の波でも同じ形になるのはこのためである。これに対し、反射と透過の振幅の比は境界条件の具体的な形、つまり電磁場の性質から決まる。
以下、3つの波数ベクトルを次のようにとる。
ki=k1(sinθi,0,cosθi),kr=k1(sinθi,0,−cosθi),kt=k2(sinθt,0,cosθt)
入射波の電場は、入射面に垂直な成分(y 成分)と入射面内の成分に分けられる。前者を s 偏光(TE 偏光)、後者を p 偏光(TM 偏光)と呼ぶ。境界条件は y の向きの鏡映について対称なので、2つの偏光は混ざらず、別々に扱える。
Fresnel の式
各波の磁場は (9.18) から H=Z−1k^×E である。2つの物質のインピーダンスを
Z1=μ1/ε1,Z2=μ2/ε2
とする。境界に電荷も電流も無いので、(9.2) の接線成分の条件は次の4成分が連続であることになる。
Ex,Ey,Hx,Hy
法線成分の条件はこれから従う(確認テスト 9.3-2 の解答で触れる)。
s 偏光.
3つの波の電場をすべて E=Ey^ の形にとる。磁場の向きを決める k^×y^ は
(−cosθ,0,sinθ) (入射波・透過波),(cosθi,0,sinθi) (反射波)
である。したがって Ey と Hx の連続から
Ei+Er=Et,Z1cosθi(Ei−Er)=Z2cosθtEt
を得る。反射係数 rs=Er/Ei と透過係数 ts=Et/Ei を求める。第1式を第2式に入れて解くと
rs=Z1−1cosθi+Z2−1cosθtZ1−1cosθi−Z2−1cosθt,ts=1+rs
となる。
p 偏光.
磁場が入射面に垂直になるので、3つの波の磁場をすべて H=Hy^ の形にとる。電場は E=ZH×k^ で定める。複素振幅 E=ZH を p 偏光の電場の振幅と呼ぶ。電場の向きを決める y^×k^ は
(cosθi,0,−sinθi)(−cosθi,0,−sinθi)(cosθt,0,−sinθt)(入射波)(反射波)(透過波)
である。したがって Hy と Ex の連続から
Z1Ei+Er=Z2Et,cosθi(Ei−Er)=cosθtEt
を得る。これを解くと
rp=Z1cosθi+Z2cosθtZ1cosθi−Z2cosθt,tp=Z1Z2(1+rp)
となる。
非磁性の物質(μ1=μ2=μ0)では Zj=Z0/nj である。分母と分子に Z0−1 や n1n2/Z0 を掛けて整理すると、次の形になる。
定理 9.4(Fresnel の式)
非磁性の物質の境界で、
rsrp=n1cosθi+n2cosθtn1cosθi−n2cosθt,=n2cosθi+n1cosθtn2cosθi−n1cosθt,tstp=n1cosθi+n2cosθt2n1cosθi,=n2cosθi+n1cosθt2n1cosθi.(9.33)(9.34)
証明
- s 偏光:上の rs に Zj−1=nj/Z0 を入れ、分母と分子の共通因子を約せばよい。ts=1+rs を通分すると (9.33) の第2式になる。
- p 偏光:rp の分母と分子に n1n2/Z0 を掛けると、各項は次のようになる。
Z1cosθi⋅Z0n1n2=n2cosθi,Z2cosθt⋅Z0n1n2=n1cosθt
tp=(n1/n2)(1+rp) を通分すると
tp=n2n1⋅n2cosθi+n1cosθt2n2cosθi
となり、(9.34) の第2式を得る。
垂直入射(θi=θt=0)では
rs=n1+n2n1−n2,rp=n1+n2n2−n1(9.35)
となる。
垂直入射で rs=−rp になる理由
- 垂直入射では s と p の区別は無いので、物理的な反射波は同じでなければならない。符号が逆になるのは、p 偏光の振幅の向きの約束による。
- 上の約束では、反射波の p の電場の正の向きは y^×k^r=(−cosθi,0,−sinθi) である。垂直入射ではこれは −x^ を向く。入射波の正の向きは +x^ である。
- したがって反射波の電場のベクトルは −rpEix^=rsEix^ で、s 偏光の結果と一致する。
- p 偏光の符号の約束は本によって異なる。他の本の式と比べるときは向きの定義を確かめる。
反射率と透過率
エネルギーの割合を求める。境界の面積 A を通って単位時間に流れるエネルギーは、Poynting ベクトルの z 成分に面積を掛けたものである。入射波・反射波・透過波の強度は、それぞれ ∣E∣2/(2Z) である。z 成分にするには、それぞれ次の因子を掛ける。
cosθi (入射波),cosθi (反射波),cosθt (透過波)
したがって反射率 R と透過率 T は
R=∣r∣2,T=Z2cosθiZ1cosθt∣t∣2=n1cosθin2cosθt∣t∣2(9.36)
である(s と p で同じ形)。T に係数が付くのは、強度の比に媒質のインピーダンスの比が入ることと、透過波の光束の断面が入射波と異なることによる。
エネルギーの保存 R+T=1 を s 偏光で確かめる。a=n1cosθi、b=n2cosθt とおくと
rs=a+ba−b,ts=a+b2a
なので
Rs+Ts=(a+b)2(a−b)2+ab⋅(a+b)24a2=(a+b)2a2−2ab+b2+4ab=1
である。p 偏光は確認テスト 9.3-2 で確かめる。
Brewster 角
(9.34) の rp は、n2cosθi=n1cosθt のとき0になる。この条件と Snell の法則を辺々掛ける。
n1n2sinθicosθisin2θi=n1n2sinθtcosθt=sin2θt(n2cosθi=n1cosθt と n1sinθi=n2sinθt の積)(両辺を n1n2/2 で割った)
n1=n2 なら θi=θt である。したがって 2θi=π−2θt でなければならない。つまり
θi+θt=2π
である。このとき sinθt=cosθi なので、Snell の法則は n1sinθi=n2cosθi となる。逆にこの式が成り立てば θt=π/2−θi で、rp=0 である。
命題 9.5(Brewster 角)
非磁性の物質の境界で、p 偏光の反射率が0になる入射角 θB は
tanθB=n1n2(9.37)
で与えられる。このとき反射波と透過波の進む向きは直交する(θB+θt=π/2)。
反射が消える理由は、反射波を出しているものを考えると分かる。反射波は、透過波の電場で揺すられた物質2の中の電子が出す波である。p 偏光では電子は透過波の電場の向き、つまり kt に垂直で入射面内の向きに振動する。
第11章で示すように、振動する双極子は振動の向きには波を出さない。θi+θt=π/2 のとき、反射波の向きはちょうど電子の振動の向きになるので、反射波が出ない。
自然光(偏光していない光)を Brewster 角で当てると、反射光は s 偏光だけになる。偏光サングラスが水面の照り返しを減らすのはこの性質による。

図 9.3 空気(n1=1)からガラス(n2=1.5)へ入射するときの反射率。実線が s 偏光、破線が p 偏光。p 偏光の反射率は Brewster 角で 0 になる。
全反射
n1>n2 の場合(ガラスから空気へ出る場合など)を考える。Snell の法則から
sinθt=n2n1sinθi
で、これが1を超えることがある。sinθi=n2/n1 となる入射角 θc を臨界角と呼ぶ。θi>θc では実数の屈折角は存在しない。
しかし (9.31) の導出は角度を使っていない。透過波の波数ベクトルの x 成分は kt,x=k1sinθi である。物質2の分散関係 kt,x2+kt,z2=k22 から
kt,z2=k22−k12sin2θi=c2ω2(n22−n12sin2θi)<0
となる。そこで
kt,z=icωq,q=n12sin2θi−n22>0
とおく(符号は z→+∞ で場が発散しない方を選ぶ)。透過波は
Ete−z/dei(k1sinθix−ωt),d=ωqc=2πn12sin2θi−n22λ0(9.38)
となる(λ0 は真空中の波長)。この波は境界に沿って x の向きに進みながら、境界から離れると指数関数的に減衰する。これをエバネッセント波と呼ぶ。
Fresnel の式は代数の式なので、cosθt=kt,z/k2=iq/n2 と置けばそのまま使える。次の2つを入れる。
n2cosθt=iq,n1cosθt=n2in1q
すると
rs=n1cosθi+iqn1cosθi−iq,rp=n22cosθi+in1qn22cosθi−in1q(9.39)
となる(rp は分母と分子に n2 を掛けた)。どちらも分子が分母の複素共役なので、∣rs∣=∣rp∣=1 である。入射したエネルギーはすべて反射される。これが全反射である。反射波は入射波から位相がずれていて、そのずれは
argrs=−2arctann1cosθiq,argrp=−2arctann22cosθin1q(9.40)
である。s と p で位相のずれが異なるので、入射面に対して斜めの直線偏光を全反射させると楕円偏光になる。
透過側にも場はあるが、エネルギーは z の向きに流れない。s 偏光の場合、エバネッセント波の磁場の x 成分は、電場の y 成分と位相が直角ずれている。そのため Poynting ベクトルの z 成分の時間平均が0になる。
ただし、物質2の層が薄く(d 程度)、その向こうに再び屈折率の大きい物質があると、エバネッセント波がそこへ移って伝わり始める。量子力学のトンネル効果と同じ構造の現象で、光ファイバーの結合器などに使われる。
例題 9.5 空気からガラスへの反射 ★★
オリジナル空気(n1=1.00)からガラス(n2=1.50)の平らな面に光が当たる。入射角は 45∘ である。
- 屈折角 θt を求めよ。
- s 偏光と p 偏光の反射係数と反射率を求めよ。さらに透過率を求めて R+T=1 を確かめよ。
- Brewster 角を求めよ。
解答
- sinθt=sin45∘/1.50=0.4714 から、θt=28.13∘ である。このとき cosθt=0.8819 である。
- Fresnel の式に入る4つの量は
n1cosθi=0.7071,n2cosθt=1.3229,n2cosθi=1.0607,n1cosθt=0.8819
なので
rs=0.7071+1.32290.7071−1.3229=−0.3033,rp=1.0607+0.88191.0607−0.8819=0.0920.
反射率は Rs=0.0920、Rp=0.0085 である。入射角 45∘ では一般に rp=rs2 が成り立つ。ここでも Rs と rp が一致している。透過係数は
ts=2.03002×0.7071=0.6967,tp=1.94262×0.7071=0.7280
で、(9.36) の係数は 1.3229/0.7071=1.8708 なので
Ts=1.8708×0.69672=0.9080,Tp=1.8708×0.72802=0.9915
となる。s 偏光でも p 偏光でも R+T=1 が成り立つ。3. tanθB=1.50 から θB=56.3∘ である。
例題 9.6 ガラスの中からの全反射とエバネッセント波 ★★
オリジナルガラス(n1=1.50)の中から、空気(n2=1.00)との境界に光が当たる。光の真空中の波長は λ0=633nm、入射角は 60∘ である。
- 臨界角を求め、全反射が起きることを確かめよ。
- エバネッセント波の振幅が 1/e になる距離 d を求めよ。
- s 偏光と p 偏光の反射による位相のずれと、その差を求めよ。
解答
- sinθc=1.00/1.50 から θc=41.8∘ である。入射角 60∘ はこれより大きいので、全反射が起きる。
- n12sin2θi−n22=2.25×0.75−1=0.6875 から q=0.8292 である。(9.38) から
d=2π×0.8292633nm=122nm
である。エバネッセント波は境界から波長の 1/5 程度の距離にしか広がらない。3. (9.40) に入る量は
n1cosθi=0.75,n22cosθi=0.5,n1q=1.2437
なので
argrs=−2arctan0.750.8292=−95.7∘,argrp=−2arctan0.51.2437=−136.2∘
で、p 偏光は s 偏光より 40.5∘ 余分に位相が遅れる。この差が 45∘ になる入射角を選んで2回全反射させると、合わせて 90∘ の差になる。すると 45∘ の向きの直線偏光が円偏光に変わる。Fresnel はこの原理で、1/4 波長板と同じ働きをするガラスの菱形のプリズムを作った。
確認テスト
オリジナル
- 9.3-1 空気から水(n=1.33)の面に垂直に光が当たるときの反射率を求めよ。
- 9.3-2 p 偏光について Rp+Tp=1 を (9.34) と (9.36) から示せ。また、境界条件のうち法線成分の連続(D1z=D2z の類)が、接線成分の条件と Snell の法則から従うことを確かめよ。s 偏光の Bz について調べればよい。
- 9.3-3 ガラス(n=1.50)の中から空気へ出る光の Brewster 角 θB′ を求めよ。空気からガラスへの Brewster 角 θB とのあいだに、次の関係があることを示せ。
θB+θB′=90∘
θB′ は臨界角より小さいか。4. 9.3-4 ダイヤモンド(n=2.42)から空気へ出る光の臨界角を求めよ。5. 9.3-5 真空から良導体の平らな面に垂直に入射する電磁波を考える。Fresnel の式 (9.35) は、導出が代数の操作だけによるので、次の複素屈折率でも成り立つ。
n~=1+iε0ωσc
これを使い、σc≫ε0ω のとき反射率が次の形になることを示せ。
R≃1−2σc2ε0ω
銅に 10 GHz の電磁波が当たるときの 1−R を求めよ。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com