電磁気学入門 第9章 §9.2 ★★★ 屈折率を物質の応答から導き、振動数による変化(分散)・吸収・導体の中の減衰と表皮効果を1つの複素数の波数で扱う
線形な誘電体の中の波
自由電荷も自由電流も無い、一様で線形かつ等方な物質を考える。D=εE、B=μH とすると、物質中の Maxwell 方程式は
∇⋅E=0,∇⋅B=0,∇×E=−∂t∂B,∇×B=εμ∂t∂E
となり、真空の (9.3) の 1/c2=ε0μ0 を εμ に置き換えた形である。したがって §9.1 の議論がすべて成り立ち、波は速さ
v=εμ1=nc,n=εrμr(9.17)
で伝わる。n を屈折率と呼ぶ。分散関係は ω=vk、つまり k=nω/c である。物質の中の波長は真空の波長の 1/n になる。
光の振動数では、ほとんどの物質で μr=1 とみなせる(磁化が光の速い振動に追いつかない)。したがって n=εr である。
平面波の磁場は、(9.8) の c を v に置き換えれば得られる。
B=v1k^×E
H=B/μ で書くと
H=Z1k^×E,Z=εμ(9.18)
である(μv=μ/ε を使った)。Z は電場と磁場 H の大きさの比である。単位は V/A=Ω なので、波動インピーダンスと呼ぶ。真空では Z0=μ0/ε0=376.7Ω で、非磁性の物質では Z=Z0/n である。強度は
I=∣⟨E×H⟩∣=2Z1∣E0∣2=2Z0n∣E0∣2(μr=1)(9.19)
と書ける。
分散:振動子模型
屈折率は物質の定数ではなく、振動数によって変わる。プリズムが白色光を色に分けるのはこのためである。振動数による変化を分散と呼ぶ。
その原因は、物質の分極 P が電場の速い振動に対して遅れて応答することにある。最も簡単な模型で調べる。
原子の中の電子(電荷 −e、質量 me)が、次の2つの力を受けて束縛されているとする。
- 変位 x に比例する復元力 −meω02x。ω0 は固有角振動数である。
- 速度に比例する抵抗力 −meγx˙(γ は減衰率)。
第4章 §4.1 の弾性的な分極の模型に、慣性と減衰を加えたものである。電場 E=E0e−iωt の中での運動方程式は
mex¨=−meω02x−meγx˙−eE0e−iωt
である(電子の速さは光速よりずっと小さいので、磁場からの力は無視する)。定常的に振動する解 x=x0e−iωt を入れると
(−ω2+ω02−iγω)x0=−meeE0
なので、電子1個の双極子モーメントは
p=−ex=mee2ω02−ω2−iγω1E
となる。単位体積あたりこのような電子が N 個あれば P=Np である。P=ε0χeE と εr=1+χe から
命題 9.2(振動子模型の誘電関数)
εr(ω)=1+ω02−ω2−iγωωp2,ωp2=ε0meNe2.(9.20)
ωp をプラズマ角振動数と呼ぶ。
この模型は H. A. Lorentz にちなんで Lorentz 模型と呼ばれる。(9.20) の εr は複素数になる。その虚部は、分極が電場から位相が遅れる分を表す。§9.1 の議論は複素数の係数でもそのまま成り立つので、波数は複素数
k~=n~cω,n~=εr(ω)=n+iκ(μr=1)(9.21)
になる。n~ を複素屈折率と呼ぶ(平方根は虚部が正のものをとる)。+z 向きの平面波は
E=E0ei(k~z−ωt)=E0e−κωz/cei(nωz/c−ωt)
となる。実部 n が波の位相の進み方(ふつうの意味の屈折率)を、虚部 κ が振幅の減衰を決める。強度は ∣E∣2 に比例するので e−αz で減る。吸収係数は α=2κω/c である。
図 9.2 に、ωp2=0.5ω02、γ=0.1ω0 の場合を示す。グラフから2つの領域が読み取れる。
- 正常分散:ω0 から十分離れた所。κ はほとんど0で、物質は透明である。そこでは γ を無視して
n2=1+ω02−ω2ωp2
と書ける。ω<ω0 の範囲では、振動数とともに n が大きくなる。ガラスの屈折率が赤い光より青い光で大きいのはこのためで、ガラスの電子の共鳴は紫外線の領域にある。2. 異常分散:ω0 の近く(幅 γ 程度)。κ が大きくなって光は吸収される。n は ω とともに減る。

図 9.2 振動子模型 (9.20) の複素屈折率 n~=n+iκ(ωp2=0.5ω02、γ=0.1ω0)。実線が n、破線が κ。共鳴 ω0 の手前は正常分散、共鳴の付近は異常分散で吸収が強い。
位相速度と群速度
屈折率が ω によるとき、「波の速さ」には2つの意味がある。単色波の山が進む速さは
vp=kω=n(ω)c(9.22)
で、これを位相速度と呼ぶ。一方、信号やエネルギーは、振幅が有限の範囲に限られた波の塊(波束)として運ばれる。近い角振動数 ω±Δω(波数 k±Δk)の2つの波を等しい振幅で重ねると
cos((k+Δk)z−(ω+Δω)t)+cos((k−Δk)z−(ω−Δω)t)=2cos(Δkz−Δωt)cos(kz−ωt)
となる。速い振動 cos(kz−ωt) の振幅が、ゆっくり変わる包絡線 2cos(Δkz−Δωt) で変調されている。包絡線は速さ Δω/Δk で進む。
一般の波束 ∫A(k′)ei(k′z−ω(k′)t)dk′ でも同じことが言える。A が k の近くに集まっていれば
ω(k′)≃ω(k)+(k′−k)dkdω
と展開して
∫A(k′)ei(k′z−ω(k′)t)dk′≃ei(kz−ωt)∫A(k′)ei(k′−k)(z−vgt)dk′
となる。包絡線(右辺の積分)は z−vgt だけの関数として、形を保ったまま進む。ここで
vg=dkdω=n+ωdn/dωc(9.23)
を群速度と呼ぶ。第2の形は、k=n(ω)ω/c を ω で微分した次の式から得る。
dωdk=c1(n+ωdωdn)
正常分散(dn/dω>0)の透明な物質では vg<vp である。
プラズマと金属の自由電子
束縛の無い電子が衝突の少ない状態で集まった物質(電離層・金属の中の伝導電子)を考える。(9.20) で ω0=0、γ→0 として
εr(ω)=1−ω2ωp2(9.24)
を得る。振動数がプラズマ角振動数より高いか低いかで、振る舞いが分かれる。
- ω>ωp のとき:εr>0 である。分散関係 k2c2=εrω2 は
ω2=ωp2+c2k2(9.25)
となる。位相速度と群速度は
vp=kω>c,vg=ωc2k<c,vpvg=c2
である(確認テスト 9.2-2)。位相速度が c を超えても、信号を運ぶ群速度は c を超えないので、相対論と矛盾しない。2. ω<ωp のとき:εr<0 なので、波数は純虚数になる。波は物質の中に入ると指数関数的に減衰し、プラズマの表面で反射される。
分散のある物質のエネルギー密度
- 第8章 §8.3 で、誘電率が振動数によると、エネルギー密度を 21E⋅D と書けないことを注意した。例えば (9.24) では ω<ωp で ε<0 となる。すると 41ε∣E0∣2 は負になる。
- 吸収が無視できる振動数の範囲で、振幅をゆっくり立ち上げたときに場と物質に蓄えられる仕事を数えると、時間平均のエネルギー密度は
⟨u⟩=41dωd(ωε)∣E0∣2+4μ∣H0∣2
となる(L. Brillouin による)。誘電率が定数なら 41ε∣E0∣2+41μ∣H0∣2 に戻る。
dωd(ωε)=ε0(1+ω2ωp2)>0
増えた分 41ε0(ωp2/ω2)∣E0∣2 は、電場で揺すられる電子の運動エネルギーの時間平均に等しい。
N⋅41me∣v0∣2,v0=−meωieE0
金属の透明化
- 第5章 §5.1 の Drude の模型に振動する電場を入れると、伝導率は次の形になる(τ は衝突時間)。
σc(ω)=1−iωτσc(0)
- ωτ≫1 では、伝導電子の寄与は (9.24) と同じ形になる。金属の伝導電子の密度は 1028–1029m−3 である。したがって ωp は紫外線の領域にある。
- したがって金属は可視光を反射するが、ωp より高い振動数の紫外線に対しては透明になる。アルカリ金属で観測されている(確認テスト 9.2-2)。
導体の中の波
一様な導体を考える。電気伝導率を σc、誘電率を ε とする。透磁率は μ とする。
導体の中に自由電荷があっても、それは時定数 ε/σc で消える(確認テスト 9.2-5。金属では 10−19s 程度)。そこで ρf=0 とおく。Jf=σcE を入れると
∇⋅E=0,∇⋅B=0,∇×E=−∂t∂B,∇×B=μσcE+με∂t∂E
である。第3式の回転をとって §9.1 と同じ操作をすると
∇2E=μσc∂t∂E+με∂t2∂2E(9.26)
を得る。右辺第1項は減衰を表す。E=E0ei(k~z−ωt) を入れると
−k~2=−iωμσc−μεω2,
つまり
k~2=μεω2+iμσcω=μεω2(1+iεωσc)(9.27)
となる。導体の性質は、誘電率を複素数 ε~=ε+iσc/ω に置き換えることで取り込める。k~=k′+ik′′(k′,k′′>0)とおき、実部と虚部を比べると
k′2−k′′2=μεω2,2k′k′′=μσcω
である。これを解くと(確認テスト 9.2-3)
k′=ωεμ[21+(σc/εω)2+1]1/2,k′′=ωεμ[21+(σc/εω)2−1]1/2(9.28)
を得る。比 σc/(εω) は、第8章の例題で調べた伝導電流と変位電流の振幅の比である。
良導体と表皮効果.
σc≫εω の導体を良導体と呼ぶ。銅では、マイクロ波の振動数でもこの比は 109 に達する。このとき (9.27) の第1項は無視できる。k~2=iμσcω と i=(1+i)/2 から
k~=δ1+i,δ=μσcω2(9.29)
となる。波は e−z/δei(z/δ−ωt) の形である。振幅は距離 δ 進むごとに 1/e になる。波長 2πδ の1波長のあいだに、振幅は e−2π≈1/535 まで減る。
導体の表面に外から電磁波が当たっても、場は表面から δ 程度の層にしか入らない。この現象を表皮効果、δ を表皮深さと呼ぶ。交流の電流も同じ理由で、導線の表面の厚さ δ 程度の層に集まって流れる。そのため高い振動数では、導線の抵抗が直流の値より大きくなる。
良導体の中の磁場は、Faraday の法則 k~z^×E0=ωB0 から
B0=ωk~z^×E0=ωμσceiπ/4z^×E0
である(1+i=2eiπ/4)。磁場は電場より位相が 45∘ 遅れる。大きさの比 ∣B0∣/∣E0∣=μσc/ω は、真空の 1/c よりずっと大きい。導体の中の場のエネルギーは、ほとんどが磁場のエネルギーである(確認テスト 9.2-4)。
導体の表面に入ったエネルギーは、すべて Joule 熱になる。表面での接線方向の磁場の複素振幅を H0 とすると、電場は
E0=Z~H0,Z~=k~ωμ=σcδ1−i
である(ωμδ/2=1/(σcδ) を使った)。表面の単位面積に流れ込む電力の時間平均は
A⟨P⟩=21Re(E0H0∗)=21Rs∣H0∣2,Rs=σcδ1(9.30)
となる。Rs を表面抵抗と呼ぶ。厚さ δ の層に、一様に電流が流れたときの1平方あたりの抵抗に等しい。§9.4 で共振器の損失を見積もるときに使う。
悪導体.
逆に σc≪εω の物質では、(9.28) を展開して次を得る(確認テスト 9.2-3)。
k′≃ωεμ,k′′≃2σcεμ
波は誘電体の中と同じ速さで進み、減衰の長さ 1/k′′ は振動数によらない。
例題 9.3 銅と海水の表皮深さ ★★★
オリジナル
- 銅の表皮深さを、50 Hz、1.0 MHz、1.0 GHz について求めよ。銅の値は σc=5.96×107S/m、μ=μ0 とする。
- 海水について、f=10kHz で良導体の近似が使えることを確かめ、表皮深さを求めよ。海水の値は次のとおりとする。
σc=4.0S/m,ε=81ε0,μ=μ0
潜水艦との交信に低い振動数の電波が使われる理由を述べよ。
解答
- (9.29) から δ=2/(μ0σcω) である。
μ0σc=(1.2566×10−6)(5.96×107)=74.90s/m2
なので
δ=74.90×2πf2m=f/Hz6.52×10−2m.
3つの振動数での値は次のとおりである。
δ=9.2mm (50Hz),δ=65μm (1.0MHz),δ=2.1μm (1.0GHz)
家庭の交流では太さ数 mm の導線の断面全体を電流が流れるが、マイクロ波の電流は表面の数 μm だけを流れる。2. ω=2π×104s−1=6.283×104s−1 で
εωσc=81×(8.854×10−12)×(6.283×104)4.0=8.9×104≫1
なので良導体の近似が使える。表皮深さは
δ=(1.2566×10−6)(4.0)(6.283×104)2m=0.31582m=2.5m
である。δ∝f−1/2 なので、1 MHz では 0.25 m になる。ふつうの電波は、海面から深さ数十 cm で減衰して届かない。深さ数十 m の潜水艦まで電波を届かせるには、δ を大きくするために数 kHz から数十 kHz の超長波を使う必要がある。
例題 9.4 電離層のプラズマ振動数 ★★
オリジナル電離層の電子密度を N=1.0×1012m−3 とする。
- プラズマ振動数 fp=ωp/(2π) を求めよ。
- 振動数 1.0 MHz の AM 放送の電波と、100 MHz の FM 放送の電波は、電離層に真上から入射したとき、それぞれどうなるか。通り抜ける方について、電離層の中の群速度を求めよ。
解答
- (9.20) の定義から
ωp=ε0meNe2=(8.854×10−12)(9.109×10−31)(1.0×1012)(1.602×10−19)2s−1=5.64×107s−1
で、fp=9.0MHz である。2. AM の電波は振動数が fp より低いので、εr<0 となって電離層の中を伝われず、反射される。地上と電離層のあいだで反射を繰り返すので、AM 放送は地平線の向こうまで届く。FM の電波は振動数が fp より高いので、通り抜ける。群速度は (9.25) から
vg=ωc2k=c1−ω2ωp2=c1−(0.0898)2=0.996c
で、真空中よりわずかに遅い。
確認テスト
オリジナル
- 9.2-1 真空の波動インピーダンス Z0=μ0/ε0 の値を求めよ。屈折率 1.33 の非磁性の物質(可視光に対する水)の中の波動インピーダンスはいくらか。
- 9.2-2 分散関係 (9.25) から vpvg=c2 を示せ。次に、ナトリウムの伝導電子の密度を N=2.65×1028m−3 とする。ナトリウムが透明になる真空中の波長 λp=2πc/ωp を求めよ。
- 9.2-3 次の連立方程式を解いて (9.28) を導け。
k′2−k′′2=μεω2,2k′k′′=μσcω
さらに σc≪εω のとき k′′≃2σcμ/ε となることを示せ。4. 9.2-4 良導体の中の平面波について、磁場のエネルギー密度の時間平均と電場のエネルギー密度の時間平均の比が σc/(εω) であることを示せ。銅(ε=ε0)で f=1.0GHz のときの値を求めよ。5. 9.2-5 一様な導体(伝導率 σc、誘電率 ε)の中の自由電荷密度が、次のように減ることを連続の式と Gauss の法則から示せ。
ρf(r,t)=ρf(r,0)e−t/τr,τr=σcε
銅(ε=ε0)の τr を求めよ。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com