電磁気学入門 第9章 §9.1 ★★★ 真空の Maxwell 方程式から速さ c の横波を導き、電場と磁場の関係・エネルギーの流れ・偏光を定める
第8章で完成させた Maxwell 方程式は、電荷も電流も無い真空でも 0 でない解を持つ。Faraday の法則によれば磁場が時間変化する所には電場の回転があり、変位電流の項によれば電場が時間変化する所には磁場の回転がある。
この2つの関係が交互に成り立つことで、場は源から離れた所でも空間を伝わっていく。これが電磁波である。この章では、その伝わり方を4つの場面で調べる。
- §9.1 では、真空の Maxwell 方程式から波動方程式を導き、伝わる速さが c=1/ε0μ0 であることを示す。平面波について、電場と磁場が進む向きに垂直であること、大きさの比が ∣B∣=∣E∣/c であることを示す。さらにエネルギーの流れを求め、電場の向きの振る舞いを偏光として分類する。
- §9.2 では物質の中に進む。誘電体の中では波の速さが c/n になり、屈折率 n が振動数によって変わる(分散)。電子を減衰つきの振動子とみなす模型から屈折率と吸収の振動数依存性を導き、位相速度と群速度を区別する。導体の中では、伝導電流のために波が数周期のうちに減衰し、場が表面の薄い層(表皮)にしか入らないことを示す。
- §9.3 では、2つの物質の境界に当たった波が反射と屈折に分かれる様子を、境界条件から Fresnel の式として導く。反射が消える Brewster 角と、反射が完全になる全反射を調べる。
- §9.4 では、金属の管の中に閉じ込めた電磁波(導波管)と、金属の箱の中の定在波(共振器)を扱う。伝わることのできる振動数に下限(遮断周波数)があることを示す。
前の章から使う結果は次のとおりである。第8章 §8.1 の真空中の Maxwell 方程式
∇⋅E=ε0ρ,∇⋅B=0,∇×E=−∂t∂B,∇×B=μ0J+c21∂t∂E(9.1)
と、物質中の形
∇⋅D=ρf,∇×H=Jf+∂t∂D,
および境界条件
n⋅(D2−D1)=σf,n⋅(B2−B1)=0,n×(E2−E1)=0,n×(H2−H1)=Kf(9.2)
を借りる(n は媒質1から2へ向く単位法線)。第8章 §8.3 のエネルギー密度と Poynting ベクトル
u=2ε0E2+2μ01B2,S=μ01E×B
も使う。線形な物質の中では、これらは
u=21(E⋅D+B⋅H),S=E×H
になる。§8.4 の運動量密度 g=S/c2 も使う。
物質の性質としては、次の3つを使う。
- 第4章の誘電率 ε=ε0εr。
- 第6章の透磁率 μ=μ0μr。
- 第5章 §5.1 の Ohm の法則 J=σcE(σc は電気伝導率)。
§9.4 の導波管で横向きの場が存在しないことを示すところでは、第3章 §3.1 の調和関数の最大値原理を使う。
この章の結果は、あとの2章で使う。第10章では、平面波を4元波数で書き、電場と磁場の大きさの比と直交性がどの慣性系でも保たれることを確かめる(例題 10.4)。第11章では、振動する電荷から遠く離れた所の場が局所的には §9.1 の平面波になっていることを使って、放射される電力を求める。
波動方程式の導出
電荷も電流も無い真空(ρ=0、J=0)を考える。(9.1) は
∇⋅E=0,∇⋅B=0,∇×E=−∂t∂B,∇×B=c21∂t∂E(9.3)
になる。第3式の回転をとり、右辺の回転と時間微分の順序を入れ替えてから第4式を代入すると
∇×(∇×E)=−∂t∂(∇×B)=−c21∂t2∂2E
となる。左辺には第1章 §1.1 の恒等式
∇×(∇×E)=∇(∇⋅E)−∇2E
を使う。第1式 ∇⋅E=0 を入れると −∇2E が残る。同じ操作を第4式から始めると、B についても同じ形の式が出る(確認テスト 9.1-1)。
定理 9.1(真空中の波動方程式)
電荷と電流の無い真空では、電場と磁場の各成分が
∇2E−c21∂t2∂2E=0,∇2B−c21∂t2∂2B=0,c=ε0μ01(9.4)
を満たす。第8章のダランベルシアン □=c−2∂t2−∇2 を使えば、
□E=0,□B=0
と書ける。
この式が波を表すことを、1次元の場合で確かめる。f(x,t) が ∂x2f−c−2∂t2f=0 を満たすとする。新しい変数
ξ=x−ct,η=x+ct
を使うと、連鎖律から
∂x=∂ξ+∂η,∂t=c(−∂ξ+∂η)
なので
∂x2−c21∂t2=(∂ξ+∂η)2−(−∂ξ+∂η)2=4∂ξ∂η
となり、方程式は ∂ξ∂ηf=0 に変わる。1回積分すると ∂ξf=g(ξ)(ξ だけの関数)となる。もう一度 ξ で積分すると
f(x,t)=F(x−ct)+G(x+ct)(9.5)
を得る(d'Alembert の解)。
- F(x−ct) は、時刻0の形 F(x) が形を変えずに動いたものである。動く速さは c、向きは +x である。
- G(x+ct) は、同じように −x の向きに動くものである。
したがって (9.4) は、電場と磁場の乱れが速さ c で伝わることを表している。
真空の誘電率と透磁率の値
ε0=8.854×10−12F/m,μ0=1.257×10−6H/m
を入れると c=2.998×108m/s となる。これは静電気と静磁気の実験だけで決まる2つの定数から出た数であり、光の速さの測定値と一致する。Maxwell はこの一致から、光は電磁波であると結論した。
平面波
波動方程式 (9.4) の最も簡単な解は、ある単位ベクトル k^ の向きに進み、k^ に垂直な平面の上では一様な波である。d'Alembert の解 (9.5) の x を k^⋅r に置き換えて
E(r,t)=E0f(k^⋅r−ct)(9.6)
とおく(E0 は定ベクトル、f は任意の関数)。∇2f(k^⋅r−ct)=k^2f′′=f′′、∂t2f=c2f′′ なので、これは (9.4) を満たす。しかし (9.4) は Maxwell 方程式から導いた必要条件にすぎないので、Maxwell 方程式そのものを満たすかを別に確かめなければならない。
まず ∇⋅E=E0⋅k^f′=0 が恒等的に成り立つためには
k^⋅E0=0(9.7)
でなければならない。電場は進む向きに垂直に振動する。電磁波は横波である。
次に磁場を Faraday の法則から求める。∇×(E0f(k^⋅r−ct))=k^×E0f′ なので∂B/∂t=−k^×E0f′ である。f′=−c−1∂tf を使って時間で積分すると(時間によらない静的な場は加えない)
B=c1k^×E(9.8)
を得る。残りの2式も確かめる。∇⋅B=c−1k^⋅(k^×E0)f′=0 は自動的に成り立つ。∇×B=c−1k^×(k^×E0)f′=c−1[k^(k^⋅E0)−E0]f′=−c−1E0f′ で、一方 c−2∂tE=c−2E0(−c)f′=−c−1E0f′ なので、Ampère–Maxwell の式も成り立つ。
真空中の平面波の性質
- 電場と磁場はともに進む向き k^ に垂直で(横波)、互いにも垂直である。
- 電場・磁場・k^ はこの順に右手系をなす。
- 大きさの比は ∣B∣=∣E∣/c である。電場と磁場は同じ位相で振動する。
E と B の比は単位に依存する量なので、物理的な意味はエネルギーで見ると分かりやすい。電場のエネルギー密度と磁場のエネルギー密度の比は
ε0E2/2B2/(2μ0)=ε0μ0E2E2/c2=1
で、平面波のエネルギーは電場と磁場に等しく分かれている。全体のエネルギー密度は u=ε0E2 である。Poynting ベクトルは
S=μ01E×(c1k^×E)=μ0c1[k^E2−E(E⋅k^)]=μ0cE2k^=cuk^(9.9)
となる(1/(μ0c)=ε0c を使った)。エネルギーは進む向きに速さ c で運ばれる。第8章 §8.4 の運動量密度は
g=c2S=cuk^
である。したがって、エネルギー U を運ぶ平面波の塊は運動量 U/c を持つ。この比は、質量0の粒子のエネルギーと運動量の関係 E=pc と同じである。
単色平面波と複素数の表記
任意の関数 f は Fourier 解析によって正弦波の重ね合わせに分解できるので、正弦波の平面波を調べれば十分である。角振動数 ω、波数ベクトル k=kk^ の単色平面波を
E(r,t)=Re[E0ei(k⋅r−ωt)],B(r,t)=Re[B0ei(k⋅r−ωt)](9.10)
と書く。E0、B0 は複素数の成分を持つ定ベクトル(複素振幅)である。位相 k⋅r−ωt=k(k^⋅r−ct) が(9.6) の形になるためには
ω=ck(9.11)
でなければならない。角振動数と波数のこの関係を分散関係と呼ぶ。波長と振動数は
λ=k2π,f=2πω,λf=c
である。
Maxwell 方程式は線形で実数の係数しか持たないので、複素数の場 E0ei(k⋅r−ωt) が方程式を満たせば、その実部も満たす。そこで計算は複素数のまま行い、最後に実部をとる。複素数の場では微分が掛け算になり、∇→ik、∂t→−iω と置き換えればよい。(9.3) は
k⋅E0=0,k⋅B0=0,k×E0=ωB0,k×B0=−c2ωE0(9.12)
という代数の式になり、(9.7) と (9.8) が直ちに読み取れる。
ただし、エネルギーや Poynting ベクトルのように場の2次式になる量は、複素数のまま掛けてはいけない。実部をとってから掛ける必要がある。振動の1周期にわたる時間平均 ⟨⋯⟩ については、次の公式が便利である(証明は確認テスト 9.1-5)。
⟨Re[ae−iωt]⋅Re[be−iωt]⟩=21Re(a⋅b∗).(9.13)
これを使うと、単色平面波のエネルギー密度と Poynting ベクトルの時間平均は
⟨u⟩=2ε0∣E0∣2,⟨S⟩=2μ01Re(E0×B0∗)=2cε0∣E0∣2k^(9.14)
となる。∣⟨S⟩∣ を波の強度と呼ぶ。
平面波のポテンシャル
- 第8章 §8.2 で、源の無い所では Lorenz ゲージの中に残る自由度を使って ϕ=0 と ∇⋅A=0 を同時に課すことができると述べた。
- 単色平面波では A=Re[A0ei(k⋅r−ωt)] とおく。
E=−∂tA=Re[iωA0ei(⋯)]
から A0=−iE0/ω である。
- ∇⋅A=0 は k⋅A0=0 を意味し、横波の条件 (9.7) と同じである。
- B=∇×A は次を与え、(9.12) と一致する。
B0=ik×A0=ωk×E0
偏光
+z の向きに進む単色平面波を考える。横波の条件から、E0 は z 成分を持たない。一般に複素振幅を
E0=(axayeiδ)(ax,ay≥0, −π<δ≤π)(9.15)
と書く(全体に共通な位相は時刻の原点を動かせば消せるので、x 成分を実数にとった)。このように偏光の状態を表す2成分の複素ベクトルを Jones ベクトルと呼ぶ。z=0 の面で電場の先端が描く曲線を調べる。実部をとると
Ex=axcosωt,Ey=aycos(ωt−δ)=ay(cosωtcosδ+sinωtsinδ)
である。X=Ex/ax=cosωt、Y=Ey/ay とおくと
Y−Xcosδ=sinωtsinδ
となる。両辺を2乗して sin2ωt=1−X2 を使えば
(axEx)2+(ayEy)2−axay2ExEycosδ=sin2δ(9.16)
を得る。これは一般に楕円の式であり、電場の先端は楕円を描いて1周期に1回まわる。この状態を楕円偏光と呼ぶ。特別な場合が2つある。
- 直線偏光:δ=0 または δ=π のとき。(9.16) は
(axEx∓ayEy)2=0
となり、電場は原点を通る1本の線分の上を往復する。2. 円偏光:ax=ay かつ δ=±π/2 のとき。(9.16) は Ex2+Ey2=ax2 となり、電場は一定の大きさで回転する。
回転の向きを決める。t=0 で電場は (ax,aycosδ) にあり、その瞬間の時間変化は
E˙x=0,E˙y=ayωsinδ
である。0<δ<π とする。このとき電場は x 軸の正の側から y 軸の正の向きへ回る。これは z 軸のまわりに右ねじの向き(+z から見て反時計回り)である。
進む向き k^=z^ のまわりに右ねじの向きに回る偏光を正のヘリシティ、逆向きを負のヘリシティと呼ぶ。例えば E0=E(x^+iy^)/2 は正のヘリシティの円偏光である。z=0 での実部は (E/2)(cosωt,sinωt) である。
右回り・左回りという呼び方
- 光学の多くの本は、波を正面から迎える観測者(+z の側から光源の方を見る人)にとって時計回りのものを「右回り円偏光」と呼ぶ。この流儀では正のヘリシティは「左回り」になる。
- 素粒子物理では正のヘリシティを「右巻き」と呼ぶことが多く、名前だけでは向きが決まらない。本書では誤解を避けるため、回転の向きをヘリシティの符号で言う。

図 9.1 z=0 の面で電場の先端が描く曲線。円偏光と楕円偏光は正のヘリシティ(0<δ<π。+z の側から見て反時計回り)の場合を描いた。
例題 9.1 レーザーポインタの電場 ★★
オリジナル出力 1.0mW のレーザーポインタの光が、直径 1.0mm の円の中に一様な強度で広がっているとする。光を単色の平面波とみなす。
- 強度 I を求めよ。
- 電場の振幅 E0 と磁場の振幅 B0 を求めよ。
- エネルギー密度の時間平均 ⟨u⟩ を求め、光が鏡に垂直に当たって完全に反射するときの放射圧と比べよ。
解答
- 断面積は π(0.50×10−3m)2=7.854×10−7m2 なので
I=7.854×10−7m21.0×10−3W=1.27×103W/m2.
地球の位置での太陽光の強度(約 1361W/m2)とほぼ同じである。2. (9.14) から I=21cε0E02 なので
E0=cε02I=(2.998×108)(8.854×10−12)2×1.273×103V/m=9.8×102V/m.
磁場は B0=E0/c=3.3×10−6T で、地磁気の約 1/15 である。3. (9.9) の時間平均から ⟨u⟩=I/c=1.27×103/(2.998×108)J/m3=4.2×10−6J/m3 である。第8章 §8.4 によれば、完全に反射する面が受ける放射圧は 2I/c=2⟨u⟩=8.5×10−6Pa で、エネルギー密度の2倍に等しい。
例題 9.2 1/4 波長板による偏光の変換 ★★
オリジナル1/4 波長板は、x 方向の電場と y 方向の電場の進み方が異なる結晶の板である。通り抜けると、y 成分の複素振幅には x 成分と比べて余分な因子が掛かる。その因子は eiπ/2=i である。つまり Jones ベクトル (Ex,Ey) を (Ex,iEy) に変える。+z 向きに進む強度 I0 の直線偏光
E0=2E(x^+y^)(x 軸から 45∘ の向き)
について答えよ。
- 1/4 波長板を通った光の偏光の状態とヘリシティを求めよ。
- その光を、x 軸から角 θ の向きの電場だけを通す偏光板に通す。通り抜ける強度を求め、1/4 波長板を通す前の光を同じ偏光板に通した場合と比べよ。
- 1/4 波長板を2枚続けて通すと、偏光はどうなるか。
解答
- 通り抜けたあとの Jones ベクトルは E(1,i)/2 である。これは (9.15) で ax=ay=E/2、δ=π/2 の場合である。0<δ<π なので正のヘリシティの円偏光である。強度は 21cε0∣E0∣2 で変わらず I0 である。
- 偏光板を通る成分は、電場の e^θ=(cosθ,sinθ) への射影である。円偏光の場合、その複素振幅は
e^θ⋅E0=2E(cosθ+isinθ)=2Eeiθ
で、絶対値の2乗は E2/2 である。強度は I0/2 で、θ によらない。1/4 波長板を通す前の直線偏光では、射影は
2E(cosθ+sinθ)=Ecos(θ−π/4)
なので、強度は I0cos2(θ−π/4) となる(Malus の法則)。偏光板を回すと、直線偏光では強度が0から I0 まで変わるが、円偏光では変わらない。3. 2枚目で y 成分にもう一度 i が掛かるので、Jones ベクトルは
2E(1,i2)=2E(1,−1)
となる。これは x 軸から −45∘ の向きの直線偏光である。2枚の 1/4 波長板は、位相差 π を与える 1/2 波長板として働き、直線偏光の向きを x 軸について折り返す。
確認テスト
オリジナル
- 9.1-1 真空の Maxwell 方程式 (9.3) から、磁場 B が波動方程式 ∇2B−c−2∂t2B=0 を満たすことを導け。
- 9.1-2 真空中の電場が E=E0cos(ky−ωt)z^(ω=ck)で与えられている。磁場、Poynting ベクトル、エネルギー密度の時間平均 ⟨u⟩ を求めよ。
- 9.1-3 完全導体の面を z=0 に置く。z<0 の側から +z 向きの平面波が当たり、反射波が生じる。
Ei=E0cos(kz−ωt)x^,Er=−E0cos(kz+ωt)x^
合成した電場と磁場を求め、次の3つを示せ。どちらも定在波になること。電場の節が磁場の腹になっていること。Poynting ベクトルの時間平均が0であること。4. 9.1-4 単色平面波が +z 向きに進んでいる。その複素振幅は E0=E(2,1+i,0)(E>0)である。z=0 で電場の先端が描く楕円について、長半径と短半径、回転のヘリシティ、強度を求めよ。5. 9.1-5 時間平均の公式 (9.13) を証明せよ。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com