電磁気学入門 第10章 §10.3 ★★★ 4元ポテンシャルの回転(電磁場テンソル)の6成分が電場と磁場で、ここから2つの不変量 B2−E2/c2 と E⋅B が出る
電場と磁場は4元ベクトルの成分になれない
4元電流と4元ポテンシャルは、どちらも4つの成分を持つ量だった。電場と磁場は合わせて6つの成分を持つので、4元ベクトルの成分に収めることはできない。6という数は、4×4 の反対称行列の独立な成分の数 4⋅3/2=6 に一致する。ポテンシャルとの関係
E=−∇ϕ−∂t∂A,B=∇×A
を見ると、どちらも Aμ の成分を微分して、添字を入れ替えて引いた形をしている。2つの例を挙げる。
- Bz=∂xAy−∂yAx である。
- Ex=−∂xϕ−∂tAx も、2つの微分を入れ替え、ポテンシャルの2つの成分を入れ替えて引いた形になっている。
これを4次元で揃えて書いたものが電磁場テンソルである。
定義と成分
定義 10.1(電磁場テンソル)
4元ポテンシャル Aμ の共変成分 Aμ=(ϕ/c,−A) から
Fμν=∂μAν−∂νAμ(10.21)
で定まる量を電磁場テンソル(場の強さのテンソル)と呼ぶ。添字を上げた次の量も同じ名前で呼ぶ。
Fμν=ημαηνβFαβ=∂μAν−∂νAμ
微分 ∂μ とポテンシャル Aν は、どちらも共変成分として変換される。したがって Fμν は2階のテンソルである。定義から Fμν=−Fνμ(反対称)で、対角成分は0である。
成分を計算する。次の3つを使う。
∂0=c1∂t,A0=cϕ,Ai=−Ai
時間と空間を1つずつ持つ成分は
F0i=∂0Ai−∂iA0=c1(−∂t∂Ai−∂xi∂ϕ)=cEi(10.22)
である。空間の成分は、3次元の Levi-Civita 記号 ϵijk(ϵ123=+1)を使って
Fij=∂i(−Aj)−∂j(−Ai)=−(∂iAj−∂jAi)=−ϵijkBk(10.23)
となる。最後の等号は、∂iAj−∂jAi が ϵijk(∇×A)k に等しいことによる。たとえば i=1,j=2 では ∂xAy−∂yAx=Bz である。
添字を上げると、0の添字を1つだけ含む成分の符号が変わる。空間の添字2つの成分は変わらない(ηii を2回掛けるので)。行を μ、列を ν として並べると
Fμν=0Ex/cEy/cEz/c−Ex/c0Bz−By−Ey/c−Bz0Bx−Ez/cBy−Bx0,Fμν=0−Ex/c−Ey/c−Ez/cEx/c0Bz−ByEy/c−Bz0BxEz/cBy−Bx0(10.24)
である。まとめれば
F0i=−cEi,Fij=−ϵijkBk
で、第0行と第0列に電場、空間の 3×3 の部分に磁場が入る。
符号の流儀
- F0i の符号は、計量の符号と、定義 (10.21) の引く順序で変わる。−Ei/c とする教科書と +Ei/c とする教科書に分かれる。
- この本は計量 (+,−,−,−) と (10.21) で固定した。ほかの本の式と比べるときは、F01 の符号を先に照合する。
- この流儀から §10.5 で導く3次元の変換公式は、E⊥′=γ(E+v×B)⊥ の形になる(§10.1 の低速の推測と同じ符号)。
ゲージ変換 (10.20) の共変成分は Aμ→Aμ−∂μΛ である。このとき電磁場テンソルの変化は
−∂μ∂νΛ+∂ν∂μΛ=0
である。つまり Fμν はゲージ変換で変わらない(確認テスト 10.3-1)。電場と磁場がゲージによらないことの4次元の言い方である。
Lorentz 力の共変形
Fμν がテンソルであることは、Lorentz 力の形からも読み取ることができる。『相対論入門』第5章 §5.4 の4元力 fμ=dpμ/dτ を考える。これは3次元の力 F と粒子の速度 u を使って次のように書ける。
fμ=γu(cF⋅u,F)
F=q(E+u×B) を入れると
f0=cqγuE⋅u,f=qγu(E+u×B)
となる。右辺は4元速度 uμ=γu(c,u) の成分について1次式になっている。共変成分 uν=γu(c,−u) で書き直すと
fμ=dτdpμ=qFμνuν(10.25)
となる。実際、μ=0 では
F0iui=(−cEi)(−γuui)=cγuE⋅u,
μ=i では
Fi0u0+Fijuj=cEiγuc+(−ϵijkBk)(−γuuj)=γu(Ei+(u×B)i)
である。左辺の fμ は4元ベクトルで、uν は任意の4元速度をとれる。したがって『相対論入門』第4章 §4.3 の商定理から、Fμν はテンソルである。(10.25) を使った荷電粒子の運動(一様な磁場中の運動など)は『相対論入門』第6章 §6.2 で扱う。
双対テンソル
反対称テンソルからは、Levi-Civita 記号で添字を「裏返した」もう1つの反対称テンソルがつくることができる。
定義 10.2(双対テンソル)
F~μν=21ϵμνρσFρσ(10.26)
を電磁場テンソルの双対テンソルと呼ぶ。
成分を1つずつ計算する。F~01 では (ρ,σ)=(2,3),(3,2) の2項が残る。ϵ0123=+1、ϵ0132=−1 なので
F~01=21(F23−F32)=F23=−Bx
である。F~23 では (ρ,σ)=(0,1),(1,0) が残る。並び 2301 は、0123 から 0↔2 と 1↔3 の2回の互換で得られる偶置換である。したがって ϵ2301=+1 で、
F~23=21(F01−F10)=F01=cEx
となる。ほかの成分も同様に計算すると
F~μν=0BxByBz−Bx0−Ez/cEy/c−ByEz/c0−Ex/c−Bz−Ey/cEx/c0(10.27)
を得る。(10.24) と比べると、F~μν は Fμν で
cE→B,B→−cE(10.28)
と置き換えたものになっている。ϵμνρσ は不変なテンソルなので、F~μν も2階のテンソルである。
双対の置き換えが表すこと
置き換え (10.28) は電場と磁場の役割を入れ替える操作である。源の無い Maxwell 方程式(ρ=0、J=0)は、(10.1) を書き並べると分かるように、この置き換えで自分自身に移る。この対称性を破っているのは源の側で、電荷はあるが磁荷(磁気単極子)は見つかっていないことが、∇⋅E=ρ/ε0 と ∇⋅B=0 の違いとして現れている。
2つの不変量
テンソルの添字をすべて縮約すると不変量が得られる。Fμν から2つつくる。
定理 10.3(電磁場の2つの不変量)
FμνFμν=2(B2−c2E2),FμνF~μν=−c4E⋅B.(10.29)
したがって E2−c2B2 と E⋅B は、どの慣性系で測っても同じ値をとる。
証明
FμνFμν は、(10.24) の2つの行列の同じ位置の成分の積を全部足したものである。
- 0の添字を1つ含む成分は、(0,i) と (i,0) の合わせて6か所である。それぞれ (Ei/c)(−Ei/c) なので、和は −2E2/c2 になる。
- 空間の成分は FijFij=ϵijkϵijlBkBl である。ϵijkϵijl=2δkl を使うと 2B2 になる。
合わせて第1式を得る。
第2式は、F~μν が Fμν に置き換え (10.28) をしたものであることを使う。0の添字を含む6か所の和は
2i∑F0iF~0i=2i∑cEi(−Bi)=−c2E⋅B,
空間の成分は、Fij=−ϵijkBk で磁場を −E/c に置き換えた
F~ij=ϵijkcEk
なので
FijF~ij=(−ϵijkBk)(ϵijlcEl)=−c2E⋅B
である。合わせて −4E⋅B/c を得る。左辺はどちらもテンソルの完全な縮約なので不変量である。
2つの不変量から、慣性系を取り替えても変わらない場の性質が読み取ることができる。
- E⋅B=0 のとき:電場だけ、あるいは磁場だけになる慣性系は無い。どちらかが0なら、内積も0になるはずだからである。
- 内積が0で E<cB のとき:不変量 E2−c2B2 は、どの系でも負である。したがって磁場が0になる系は無い。§10.5 で示すとおり、電場が0になる系はある。
- E⋅B=0 で E>cB のとき:逆に、磁場が0になる系があり、電場が0になる系は無い。
- E⋅B=0 かつ E=cB のとき:真空中の平面電磁波がその例である。どの系でも、電場と磁場は直交し、E=cB のままである。
独立な不変量が2つしかないこと
- 混合成分の行列 Fμν=Fμαηαν は Lorentz 変換で ΛFΛ−1 と相似変換されるので、その固有値は不変である。
- 特性多項式を計算すると次のようになり、係数は (10.29) の2つだけで決まる(この章の検算で確かめた)。
det(Fμν−λδμν)=λ4+(B2−c2E2)λ2−c2(E⋅B)2
とくに detFμν=(E⋅B)2/c2 である。
- 一般の反対称テンソルからつくる不変量は、この2つの多項式(関数)に限られる。
例題 10.3 不変量から場の性質を読む ★★
オリジナルある慣性系で、電場と磁場が次の値をとる(電場を c で割ってテスラの単位で表した)。
cE=(1,2,0)mT,B=(2,1,2)mT
- 2つの不変量 B2−E2/c2 と E⋅B/c を求めよ。
- 電場だけ、あるいは磁場だけになる慣性系はあるか。
- 電場と磁場が平行になる慣性系があるとして(確認テスト 10.5-4 で実際にあることを示す)、その系での E′/c と B′ を求めよ。
解答
- 単位を mT2 として、
c2E2B2−c2E2=1+4+0=5,=4,B2cE⋅B=4+1+4=9,=1⋅2+2⋅1+0⋅2=4
である。2. E⋅B=0 なので、どちらか一方だけになる慣性系は無い。どちらかが0になれば内積が0となり、不変量 E⋅B が変わってしまうからである。3. 平行になる系で E′/c=x、B′=y(ともに正にとれる向きを選ぶ)とおくと、2つの不変量から
y2−x2=4,xy=4.
第2式から x=4/y を第1式に入れると y4−4y2−16=0 となる。正の y2 の根をとると
y2=2+25=6.472,B′=y=2.544mT,cE′=y4=1.572mT
である。この系での電場は E′=1.572×10−3×2.998×108V/m=4.71×105V/m になる。どの慣性系から見ても、この場は「平行な電場と磁場」の組が見る向きによって傾いて見えたものである。
確認テスト
オリジナル
- 10.3-1 ゲージ変換 Aμ→Aμ−∂μΛ で Fμν が変わらないことを示せ。
- 10.3-2 電場と磁場が E=(0,E0,0)、B=(0,0,B0) のとき、電磁場テンソルの反変成分と共変成分を行列で書け。2つの不変量 FμνFμν と FμνF~μν を、成分の和から直接計算せよ。
- 10.3-3 電場と磁場が E/c=(a,0,0)、B=(a,a,0) のときを考える。行列式 detFμν を余因子展開で計算せよ。それが (E⋅B)2/c2 に一致することを確かめよ。
- 10.3-4 定理 10.3 の第2式を、双対の置き換えの規則を使わず、定義 (10.26) から FμνF~μν=21ϵμνρσFμνFρσ と書き、0 でない項を数え上げて示せ。
- 10.3-5 Lorentz 力の共変形 (10.25) について、uμfμ=0 を電磁場テンソルの反対称性から示せ。それが静止質量が変わらないこと(uμuμ=c2 の微分)と両立することを説明せよ。
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