電磁気学入門 第11章 §11.2 ★★★ 波長より小さい源の放射は双極子モーメントの2階微分で決まり、sin2θ のパターンと ω4 に比例する電力を持つ
3つの長さと双極子近似
原点の近くの大きさ d の領域に局在した源が、角振動数 ω 程度の速さで時間変化しているとする。場の点までの距離を r とする。放射される波の波長は λ=2πc/ω である。この節では次の2つを仮定する。
d≪r,d≪λ.(11.11)
1つ目は場の点が源から遠いこと、2つ目は源の中を光が横切る時間 d/c が変化の周期より十分短いことを意味する。この仮定のもとで、遅延ポテンシャルを次のように近似する。
- 分母の ∣r−r′∣ を r に置き換える。誤差は d/r の程度である。
- 遅延時刻の ∣r−r′∣/c を r/c に置き換える。誤差は時間で d/c の程度で、位相にして ωd/c∼d/λ の程度である。
どちらも小さいので、まず最低次では源の点への依存を無視してよい。これを双極子近似と呼ぶ。さらに r≫λ の領域を放射帯(遠方帯)と呼ぶ。
補題 11.4
局在した源が連続の式を満たすとき、∫J(r′,t)dV′=dtdp である。
証明
成分 i について、∂j′(xi′Jj)=Ji+xi′∇′⋅J を全空間で積分する。左辺は発散定理で無限遠の面積分になり 0 である。したがって
∫JidV′=−∫xi′∇′⋅JdV′=∫xi′∂t∂ρdV′=dtd∫xi′ρdV′=p˙i.
2つ目の等号で連続の式 ∇′⋅J=−∂tρ を使った。
ポテンシャルと場
補題 11.4 により、双極子近似のベクトルポテンシャルは
A(r,t)=4πrμ0∫J(r′,t−r/c)dV′=4πμ0rp˙(t−r/c)(11.12)
である。スカラーポテンシャルも同じ近似で展開できるが、その最低次は全電荷の Coulomb 電位で時間変化しない。時間変化する部分は Lorenz 条件から求めるほうが早い。n^=r/r と書き、遅延時刻 t−r/c での値を省略して書く。p˙(t−r/c) の微分は、∇(t−r/c)=−n^/c を通して生じるので
∇⋅A=4πμ0(r∇⋅p˙+p˙⋅∇r1)=−4πμ0(crn^⋅p¨+r2n^⋅p˙).
Lorenz 条件 c−2∂tϕ=−∇⋅A を時間で積分し、μ0c2=1/ε0 を使うと
ϕ(r,t)=4πε01(r2n^⋅p+crn^⋅p˙)t−r/c(11.13)
を得る(積分定数は時間によらない部分で、全電荷が0なら0にとれる)。第1項は第3章 §3.5 の静的な双極子の電位で、時刻だけが遅延時刻に置き換わっている。
定理 11.5(振動する双極子の場 ★★)
双極子近似の範囲で、場は次の形をとる。右辺はすべて遅延時刻 t−r/c で評価する。
BE=4πμ0(r2p˙+crp¨)×n^,=4πε01(r33(n^⋅p)n^−p+cr23(n^⋅p˙)n^−p˙+c2r(n^⋅p¨)n^−p¨).(11.14)(11.15)
証明
B=∇×A を (11.12) から計算する。∇×(fV)=∇f×V+f∇×V を使い、次に注意する。
∇×p˙(t−r/c)=∇(t−r/c)×p¨=−c1n^×p¨
すると
B=4πμ0(−r2n^×p˙−crn^×p¨)=4πμ0(r2p˙+crp¨)×n^.
電場は E=−∇ϕ−∂tA を (11.13) と (11.12) から計算する。まず
−∂tA=−4πrμ0p¨=−4πε0c2rp¨
は、(11.15) の最後の項の −p¨ の部分である。−∇ϕ の計算では、n^⋅V/rk の形の項の勾配に次の式を使う。
∇rkn^⋅V=∇rk+1r⋅V=rk+1V−(k+1)(n^⋅V)n^−crk(n^⋅V˙)n^
右辺は、V を定数とみなした部分と、遅延時刻を通した部分の和である。これを次の2つの場合に使う。
- k=2、V=p。
- k=1、V=p˙。
−∇r2n^⋅p=r33(n^⋅p)n^−p+cr2(n^⋅p˙)n^,−c1∇rn^⋅p˙=cr22(n^⋅p˙)n^−p˙+c2r(n^⋅p¨)n^.
2つを足して 1/(4πε0) を掛け、−∂tA を加えると (11.15) になる。
式 (11.15) の3つの項は、距離の大きさで役割が分かれる。
- 近接帯(r≪λ):p˙∼ωp である。そのため第1項が他より λ/r 倍以上大きい。場は各時刻の双極子の静電場とほぼ同じになる(準静的な場)。
- 放射帯(r≫λ):第3項が支配的で、磁場も p¨ の項だけが残る。
放射帯の場を
Erad=4πrμ0n^×(n^×p¨),Brad=4πcrμ0p¨×n^=c1n^×Erad(11.16)
とまとめる。次の2つを使うと、(11.15) の第3項と一致する。
n^×(n^×p¨)=(n^⋅p¨)n^−p¨,μ0=ε0c21
放射帯の電場と磁場は互いに垂直で、どちらも進行方向 n^ に垂直であり、∣Erad∣=c∣Brad∣ を満たす。局所的には第9章の平面波と同じ構造を持つ球面波である。
放射パターンと放射電力
双極子モーメントが z 軸の向きを保って大きさだけ変わる場合を考える。観測の向きと z 軸のなす角を θ とする。z^=cosθr^−sinθθ^ なので、
(n^⋅p¨)n^−p¨=p¨sinθθ^
であり、
Erad=4πrμ0p¨sinθθ^,Brad=4πcrμ0p¨sinθφ^(11.17)
となる(φ は方位角)。Poynting ベクトルは θ^×φ^=r^ から
S=μ0E×B=16π2cμ0p¨2r2sin2θr^(11.18)
で、外向きに 1/r2 で減る。単位立体角あたりの放射電力は、dP/dΩ=r2S⋅r^ である。
定理 11.6(双極子放射の電力 ★★★)
dΩdP=16π2cμ0p¨2sin2θ,P=6πcμ0p¨2.(11.19)
p=p0cosωtz^ と振動するとき、1周期で平均した電力は
⟨P⟩=12πcμ0p02ω4.(11.20)
証明
全電力は dΩ=sinθdθdφ で積分して
P=16π2cμ0p¨2⋅2π∫0πsin3θdθ=16π2cμ0p¨2⋅2π⋅34=6πcμ0p¨2.
角度の積分は、u=cosθ と置けば ∫−11(1−u2)du=4/3 である。振動する場合は p¨=−ω2p0cosω(t−r/c) である。余弦の2乗の1周期平均は 1/2 なので、(11.20) を得る。

図 11.1 z 軸方向に振動する電気双極子の放射パターン。原点から曲線までの距離が、その向きの dP/dΩ∝sin2θ に比例する。z 軸を回転軸とする立体ではドーナツ形になり、双極子の軸の向きには放射しない。
結果を読み取る。
- 向き:放射は双極子の軸に垂直な向き(θ=π/2)で最も強く、軸の向きには出ない(図 11.1)。放射帯の電場は、p¨ のうち進行方向に垂直な成分だけでできている。したがって n^∥p¨ の向きには電場が無い。
- 偏光:電場は p¨ と n^ が張る面の中にあり、放射は直線偏光している。
- 振動数:平均電力は ω4 に比例し、振動数が2倍になると16倍になる。同じ振幅で揺すられる小さな双極子は、短い波長ほど強く散乱する。
次の次数:磁気双極子と電気四重極
- 遅延時刻を t−r/c+n^⋅r′/c まで展開すると、次の次数に磁気双極子放射と電気四重極放射が現れる。どちらも電気双極子放射より (d/λ)2 程度小さい。
- 磁気双極子 μ(t)(第5章 §5.5)の放射電力は P=μ0μ¨2/(6πc3) である。これは (11.19) の p¨ を μ¨/c に替えた形である。電場と c 倍の磁場の役割は入れ替わっている。
- 原子の遷移で双極子モーメントの行列要素が0になる場合(選択則で禁止される遷移)に、これらの小さな放射が主役になる。
アンテナの放射抵抗
波長より十分短い直線導線(長さ ℓ)に、一様な交流電流 I(t)=I0cosωt が流れるとする。両端には電荷 ±q(t) が溜まり、q˙=I を満たす。双極子モーメントは p=qℓ なので、
p˙=Iℓ,p¨=−ωI0ℓsinωt
である。(11.19) から、平均電力は ⟨P⟩=μ0ω2I02ℓ2/(12πc) となる。抵抗 R に同じ電流を流したときの平均の Joule 熱 21RI02 と比べて、
Rrad=6πcμ0ω2ℓ2=32πZ0(λℓ)2≃789 Ω×(λℓ)2(11.21)
を放射抵抗と呼ぶ。Z0=μ0c≃376.7 Ω は真空のインピーダンスである。2つ目の等号では ω=2πc/λ を使った。アンテナを流れる電流から見ると、放射で失われる電力は、この大きさの抵抗での Joule 熱と同じに見える。
例題 11.2 短いアンテナの放射 ★★
オリジナル長さ ℓ=0.1λ の短いアンテナに、振幅 I0=1.0 A の一様な交流電流が流れる。
- 放射抵抗と平均放射電力を求めよ。
- 同じアンテナで、電流の振幅を変えずに周波数を半分にすると、放射電力は何倍になるか。
解答
- (11.21) に ℓ/λ=0.1 を入れて、Rrad=789×0.01 Ω=7.9 Ω を得る。平均電力は
⟨P⟩=21RradI02=21×7.9×1.02 W=3.9 W
である。2. 長さは変わらず波長が2倍になるので、(ℓ/λ)2 は 1/4 倍になる。電流の振幅が同じなら、電力も 1/4 倍である。双極子の振幅 p0=I0ℓ/ω は2倍になる。(11.20) の p02ω4 で数えても、4×161=41 倍で一致する。
放射抵抗が ℓ/λ の2乗に比例するので、波長に比べて短すぎるアンテナは電力を放射しにくい。実用のアンテナが半波長程度の長さを持つのはこのためである(その長さでは双極子近似は成り立たず、電流分布を考えた計算が要る)。
確認テスト
オリジナル
- 11.2-1 z 方向に振動する電気双極子の放射は、どの向きで最も強く、どの向きで0か。θ=45∘ の向きの強さは最大値の何倍か。
- 11.2-2 大気の分子は、太陽光の電場に揺すられて誘起双極子 p0∝E0 を持ち(振動数は分子の共鳴より十分低い)、双極子放射で光を散乱する。波長 400 nm の光は、700 nm の光の何倍強く散乱されるか。
- 11.2-3 長さ ℓ の短いアンテナの中央から給電すると、電流は中央で I0、両端で0の三角形の分布になる。
I(z)=I0(1−ℓ2∣z∣)
補題 11.4 を使って p˙ を求め、放射抵抗が一様な電流の場合の何倍になるかを求めよ。4. 11.2-4 xy 面内で回転する双極子 p=p0(cosωt,sinωt,0) を考える。放射の角分布の時間平均が 1+cos2θ に比例することを示し、全放射電力の平均を求めよ。
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