電磁気学入門 第11章 §11.3 ★★★ 加速度 a の電荷は q2a2/(6πε0c3) の電力を放射する。等速運動する電荷は放射しない
1個の電荷の放射
速さ v≪c で動く1個の点電荷 q を考える。位置を w(t) とすると、原点のまわりの双極子モーメントは p=qw である。加速度を a=w¨ とすると、p¨=qa である。
双極子近似の条件 d≪λ を考える。運動の時間尺度を T とすると、これは電荷が動く距離 vT が、光の進む距離より十分小さいことに当たる。すなわち v≪c である。(11.16) と (11.19) に p¨=qa を入れれば、次の結果を得る。
定理 11.7(Larmor の公式 ★★★)
速さが光速より十分小さい点電荷 q が加速度 a で運動するとき、放射帯の電場と放射電力は
Erad=4πε0c2Rqn^×(n^×a),dΩdP=16π2ε0c3q2a2sin2Θ,P=6πε0c3q2a2(11.22)
である。R は、遅延時刻の電荷の位置から場の点までの距離である。Θ は n^ と加速度のなす角で、右辺の加速度は遅延時刻で評価する。
この公式は2つのことを述べている。放射の電力は速度によらず加速度の2乗だけで決まり、等速で動く電荷は放射しない。そして放射は加速度の向きに垂直な面で最も強い。
力線の折れ曲がりから見た Larmor の公式
Larmor の公式は、電気力線の形を考えるだけでも導ける。J. J. Thomson による議論を、図 11.2 を見ながら追う。
時刻0より前に原点 O に静止していた電荷が、短い時間 Δt のあいだだけ一定の加速度で加速されるとする。その大きさを a とする。その後は、速さ Δv=aΔt≪c で等速運動を続ける。十分あとの時刻 t≫Δt の場を考える。
- 外側(半径 ct より外):加速の影響は光速で広がるので、まだ及んでいない。そこの場は「O に静止し続けている電荷」の Coulomb 場のままである。
- 内側(半径 c(t−Δt) より内):加速が終わった後の状態が反映されている。等速運動する電荷の場で、Δv≪c なので、ほぼ現在位置 O′ を中心とする Coulomb 場である。現在位置は、原点から Δvt だけ離れている。

図 11.2 加速が短時間で終わった電荷の電気力線。外側(r>ct)は元の位置 O を中心とする放射状の力線、内側(r<c(t−Δt))は現在位置 O′ を中心とする放射状の力線で、厚さ cΔt の球殻の中の折れ曲がった部分(橙)がそれらをつなぐ。折れ曲がりの部分の電場は接線方向の成分を持ち、外へ光速で進む。
力線は途中で切れないので、内側の力線と外側の力線は、厚さ cΔt の球殻の中でつながっていなければならない。加速の向きとなす角 θ の力線を考える。内側と外側で力線の位置は、球殻のところで接線方向に Δvtsinθ だけずれている。このずれを球殻の厚さ cΔt の中で埋める。したがって球殻の中の電場の接線成分 E⊥ と動径成分 Er の比は
ErE⊥=cΔtΔvtsinθ=catsinθ=c2arsinθ
となる(最後に r=ct を使った)。動径成分は、Gauss の法則により Coulomb 場と同じ Er=q/(4πε0r2) である。したがって
E⊥=4πε0r2q⋅c2arsinθ=4πε0c2rqasinθ(11.23)
を得る。これは (11.22) の電場の大きさ(∣n^×(n^×a)∣=asinθ を含む)と一致する。
動径成分は 1/r2、接線成分は 1/r で減る。したがって遠方では、折れ曲がりの部分の電場は接線成分だけになる。これが光速で外へ進む放射のパルスである。
放射の反作用
電荷が放射でエネルギーを失うなら、電荷の運動にはそれに見合うブレーキがかかっているはずである。周期運動(あるいは始めと終わりで v⋅a が同じ値に戻る運動)で、この力 Frad を求める。力のする仕事が放射されたエネルギーを打ち消すことを要請すると
∫t1t2Frad⋅vdt=−6πε0c3q2∫t1t2a⋅adt=−6πε0c3q2([v⋅a]t1t2−∫t1t2a˙⋅vdt)
となる(部分積分)。境界項が0になる運動では、被積分関数を比べて
Frad=6πε0c3q2a˙=mτa˙,τ=6πε0mc3q2(11.24)
とおくのが自然である。これを Abraham–Lorentz の力と呼ぶ。電子では τ=2re/(3c)=6.26×10−24 s である。ここで
re=4πε0mec2e2=2.82×10−15 m
は第2章で導入した古典電子半径である。
Abraham–Lorentz の力の扱い
- (11.24) は平均のエネルギー収支から推したもので、各時刻での力の正しい形であることは示していない。
- 外力の無いときの運動方程式 mv˙=mτv¨ には、加速度が指数関数的に増え続ける解(暴走解)がある。物理的な解ではない。
- τ は、光が古典電子半径を横切る程度の時間である。運動の時間尺度がこれより十分長い場合にだけ、(11.24) を小さな補正として使う。
- その使い方の例:角振動数 ω0 で振動する電子では、a˙≃−ω02v と置ける。すると Frad≃−mτω02v は速度に比例する摩擦力になる。エネルギーは Γ=τω02 の率で減衰する。
相対論的な一般化
Larmor の公式は v≪c でだけ正しい。速い電荷については、放射電力が Lorentz 変換で不変な量であることを使って一般化する。
電荷が瞬間的に静止して見える慣性系 K′ で考える。この系では Larmor の公式が使える。
放射の角分布 sin2Θ は、進行方向を反転しても変わらない。したがって時間 dt′ のあいだに放射される電磁波は、全エネルギー dE′ を持つが全運動量は0である。この4元運動量 (dE′/c,0) を元の系へ Lorentz 変換すると、次のようになる。
dE=γdE′,dt=γdt′(固有時の関係)
したがって P=dE/dt=dE′/dt′=P′ は系によらない。
瞬間静止系で放射電力を書き、それを不変な形にする。4元運動量の固有時微分 dpμ/dτ は、瞬間静止系では (0,ma′) である。p0=γmc の変化は速さの2次なので、静止の瞬間には0になるからである。計量 (+,−,−,−) で
dτdpμdτdpμ=−m2a′2
なので
P=−6πε0m2c3q2dτdpμdτdpμ.(11.25)
この式は両辺とも不変なので、どの系でも成り立つ。普通の速度と加速度で書き直す。次の2つを使う。
dτd=γdtd,γ˙=cγ3(β⋅a)
すると
dτdp0=γdtd(γmc)=mγ4(β⋅a),dτdp=γdtd(γmv)=mγ2a+mγ4(β⋅a)β
である。2乗の差をとると、γ2(1−β2)=1 を使って
dτdpμdτdpμ=m2[γ8(β⋅a)2(1−β2)−2γ6(β⋅a)2−γ4a2]=−m2[γ4a2+γ6(β⋅a)2].
a2−∣β×a∣2=a2(1−β2)+(β⋅a)2 に注意すると、次の形にまとまる。
定理 11.8(Liénard の公式 ★★)
任意の速さで運動する点電荷の放射電力は
P=6πε0c3q2γ6(a2−∣β×a∣2)=6πε0c3q2[γ4a2+γ6(β⋅a)2](11.26)
である。とくに次の2つの場合がある。
- 速度と加速度が平行なら、P=q2γ6a2/(6πε0c3) となる。
- 速度と加速度が垂直なら、P=q2γ4a2/(6πε0c3) となる。
円運動では γ4 の因子が付く。同じエネルギーの電子と陽子を同じ半径で回すと、γ=E/(mc2) が質量に反比例する。そのため軽い電子のほうが、(mp/me)4≃1013 倍も多く放射する。電子の円形加速器では、この放射(シンクロトロン放射)による損失が到達エネルギーを制限する(確認テスト 11.4-3)。
例題 11.3 古典的な水素原子の寿命 ★★
オリジナル古典力学と古典電磁気学で水素原子を扱い、電子が陽子のまわりを円軌道で回るとする。電子は Larmor の公式に従ってエネルギーを失い、軌道は少しずつ縮む。各時刻の運動は円運動で近似できるとして、半径 a0=5.29×10−11 m から中心まで落ちる時間を求めよ。
解答
半径 r の円運動では、向心力の釣り合いと加速度は
rmev2=4πε0r2e2,a=4πε0mer2e2
である。全エネルギーは運動エネルギーと位置エネルギーの和で
E=21mev2−4πε0re2=−8πε0re2
である。エネルギーの減少率が放射電力に等しいので
dtdE=8πε0r2e2dtdr=−6πε0c3e2a2=−6πε0c3e2(4πε0mer2e2)2.
古典電子半径 re=e2/(4πε0mec2) を使って整理すると
dtdr=−3r24re2c,すなわちr2dr=−34re2cdt.
r=a0 から0まで積分して
t=4re2ca03=4×(2.82×10−15)2×3.00×108(5.29×10−11)3 s=1.56×10−11 s.
はじめの軌道の周期は 1.52×10−16 s なので、電子は約 105 周しただけで原子核に落ちる。速さは v/c≃1/137 と小さく、Larmor の公式の前提は満たされている。古典物理学では原子が安定に存在できないというこの結論は、量子力学が必要になる理由の1つである。
例題 11.4 自由電子による光の散乱(Thomson 散乱) ★★
オリジナル角振動数 ω、電場の振幅 E0 の直線偏光の平面波が、自由な電子に当たる。電子の速さは c より十分小さく、磁場による力は無視できるとする。
電子が放射する平均電力を、入射波の平均の強さ(単位面積あたりの電力)で割った量を散乱断面積 σ と呼ぶ。σ を求め、数値を出せ。
解答
電子の運動方程式は mea=−eE0cosωt なので、加速度の振幅は eE0/me である。Larmor の公式 (11.22) と、余弦の2乗の平均 1/2 から
⟨P⟩=6πε0c3e2⋅21(meeE0)2=12πε0me2c3e4E02.
入射波の平均の強さは ⟨S⟩=21ε0cE02 である(第9章 §9.1)。割り算して
σ=⟨S⟩⟨P⟩=6πε02me2c4e4=38π(4πε0mec2e2)2=38πre2=6.65×10−29 m2.
これを Thomson 散乱断面積と呼ぶ。振動数によらないことが特徴で、束縛された電子による散乱(確認テスト 11.2-2 の ω4)とは異なる。
- 自由電子では、加速度の振幅 eE0/me が振動数によらない。したがって p¨ の大きさも振動数によらない。
- 束縛された電子では、変位の振幅のほうが振動数によらない。したがって p¨ が ω2 に比例する。
確認テスト
オリジナル
- 11.3-1 Larmor の公式 P=q2a2/(6πε0c3) の右辺の単位が W になることを確かめよ。
- 11.3-2 磁束密度 B=1.0 T の一様磁場の中で、電子が非相対論的な速さで円運動している(サイクロトロン運動)。Larmor の公式から、運動エネルギー K の減衰の式 dK/dt=−K/τc を導け。時定数を数値で求めよ。
- 11.3-3 原子の中で角振動数 ω0 で振動する電子を、復元力 −meω02x を受ける古典的な振動子とみなす。放射によるエネルギーの減衰率 Γ を求めよ。波長 500 nm の光に対応する角振動数で、1/Γ を数値で求めよ。
- 11.3-4 電子が強さ 10 MV/m の一様な電場で直線的に加速されている。速さがほぼ光速のとき、Liénard の公式による放射電力は、電場から得る電力の何倍か。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com