電磁気学入門 第11章 §11.4 ★★ 任意の運動をする点電荷の場は、遅延時刻の位置・速度・加速度だけで厳密に書け、速度場と加速度場に分かれる
点電荷の遅延時刻
点電荷 q が軌道 w(t) に沿って運動するとする。速度を v=w˙、β=v/c とし、速さは常に光速より小さいとする。場の点 (r,t) の場を決めるのは、点電荷の世界線のうち場の点の過去の光円錐の上にある1点である(図 11.3)。その時刻 tr は
c(t−tr)=∣r−w(tr)∣(11.27)
で決まる。以下、次の記号を使う。
R=r−w(tr),R=∣R∣,n^=RR
さらに
κ=1−n^⋅β(tr)(11.28)
と置く。∣β∣<1 なので 0<κ<2 である。
命題 11.9
点電荷の速さが常にある定数 vmax<c 以下なら、(11.27) を満たす tr≤t はちょうど1つある。
証明
h(u)=c(t−u)−∣r−w(u)∣ と置く。
- 端の値:u=t では h=−∣r−w(t)∣≤0 である。u→−∞ では、電荷の移動距離は ∣w(u)−w(t)∣≤vmax(t−u) で抑えられる。三角不等式から
h(u)≥c(t−u)−∣r−w(t)∣−vmax(t−u)→+∞
である。2. 存在:h は連続なので、中間値の定理から零点がある。3. 一意性:h′(u)=−c+n^⋅v=−cκ<0 で、h は狭義単調減少である。したがって零点は1つに限る。

図 11.3 点電荷の遅延時刻。場の点の過去の光円錐(傾き 45∘ の破線)と電荷の世界線の交点が、場に寄与する唯一の事象である。世界線の傾きは常に 45∘ より急なので、交点はただ1つに決まる。
ポテンシャルの導出
点電荷の電荷密度と電流密度は次のとおりである。
ρ(r′,t′)=qδ(3)(r′−w(t′)),J=ρv(t′)
遅延ポテンシャル (11.8) にそのまま入れると、デルタ関数の引数の中の遅延時刻も源の点に依存するので扱いにくい。そこで (11.5) に戻り、時間積分を残した形から始める。
ϕ(r,t)=4πε01∫∫∣r−r′∣ρ(r′,t′)δ(t′−t+∣r−r′∣/c)dV′dt′.
先に源の点で積分すると、r′=w(t′) が代入される。
ϕ(r,t)=4πε0q∫∣r−w(t′)∣δ(g(t′))dt′,g(t′)=t′−t+c∣r−w(t′)∣
となる。g の零点は命題 11.9 の遅延時刻だけで、そこでの微分は
g′(tr)=1+c1dt′d∣r−w(t′)∣tr=1−cn^⋅v=κ
である。(11.1) の δ(g(x)) の公式を使うと、時間積分は 1/(κR) になる。ベクトルポテンシャルも、被積分関数に v(t′) が付くだけで、同じ手順で計算することができる。
定理 11.10(Liénard–Wiechert ポテンシャル ★★★)
軌道 w(t) で運動する点電荷 q の遅延ポテンシャルは
ϕ(r,t)=4πε0q[κR1]ret,A(r,t)=4πμ0q[κRv]ret=c2v(tr)ϕ(r,t)(11.29)
である。[ ]ret は遅延時刻 tr で評価することを表す。
静止した電荷では κ=1 で、Coulomb 電位に戻る。動く電荷では因子 1/κ が付く。電荷が場の点に向かって近づいている(n^⋅β>0)とき、ポテンシャルは大きくなる。
理由は (11.8) の積分の数え方にある。広がった電荷分布の各部分を、それぞれの遅延時刻で拾う。場の点に近づいてくる分布は、後ろの部分ほど遅い時刻(前へ進んだ位置)で拾われ、実際の大きさより 1/κ 倍長く見える。点電荷の極限でも、この見かけの体積の比が残る。
共変な形
- 4元の変位 Rμ=xμ−wμ(τr) を使う。R0=c(t−tr)=R なので、RμRμ=0 である。
- 4元速度 uμ=γ(c,v) との内積は、uμRμ=γ(cR−v⋅R)=γcRκ である。
したがって (11.29) は
Aμ=4πμ0qc[uνRνuμ]ret
とまとまる。実際、時間成分は A0=μ0qc⋅γc/(4πγcRκ)=ϕ/c となる(μ0c2=1/ε0)。分子も分母も4元ベクトルとその内積なので、Aμ=(ϕ/c,A) が4元ベクトルとして変換することが一目で分かる。
場の導出:速度場と加速度場
場を求めるには、2つのポテンシャルを (r,t) で微分する。微分は R と β を通して遅延時刻にも働くので、まず遅延時刻の微分を求める。(11.27) の両辺 R=c(t−tr) を時間で微分する。
∂tR−n^⋅v∂ttr=n^⋅∂tR=−n^⋅v∂ttr=c(1−∂ttr)(左辺)(右辺と等しいと置いた)
これを解いて
∂t∂tr=κ1,∇tr=−cκn^(11.30)
を得る。2つ目は、同じ式を場の点で微分して求める。次の2つを等しいと置いて解けばよい。
∇R=n^−(n^⋅v)∇tr,∇R=−c∇tr
これから、遅延時刻の量の微分の規則が決まる。
∂tβ=κβ˙,∂tR=−κcβ,∇R=−c∇tr=κn^,∂tR=c(1−κ1)=−κcn^⋅β.
ここで β˙=a/c は、遅延時刻での dβ/dtr である。
ポテンシャルの分母 κR=R−R⋅β の微分を計算する。∇(R⋅β) の i 成分は
∂i(Rjβj)=βi+(−cβjβj+Rjβ˙j)∂itr
なので
∇(κR)∂t(κR)=∇R−∇(R⋅β)=κn^−β−cκ(cβ2−R⋅β˙)n^=κn^−β−κβ2n^+cκ(R⋅β˙)n^,=−κcn^⋅β−κ−cβ2+R⋅β˙=κc(β2−n^⋅β)−R⋅β˙
である。1行目では ∂iRj=δij−vj∂itr と ∂itr=−ni/(cκ) を使った。k=q/(4πε0) と置くと
ϕ=κRk,A=cκRkβ
なので
E=−∇ϕ−∂t∂A=(κR)2k[∇(κR)+cβ∂t(κR)]−cκ2Rkβ˙.
角括弧の中を、加速度を含まない項と含む項に分けて整理する。含まない項は、κ+n^⋅β=1 を使って
κ(1−β2)n^+κβ(−κ+β2−n^⋅β)=κ(1−β2)(n^−β),
となる。含む項は (R⋅β˙)(n^−β)/(cκ) である。最後の項と合わせると、加速度を含む部分は
cκ3Rk[(n^⋅β˙)(n^−β)−κβ˙]=cκ3Rkn^×((n^−β)×β˙)
となる。等号は、次の恒等式を X=n^−β(n^⋅X=κ)に使った。
n^×(X×β˙)=X(n^⋅β˙)−β˙(n^⋅X)
磁場も B=∇×(βϕ/c) を同じ規則で微分して求まる。結果をまとめる。
定理 11.11(任意に運動する点電荷の場 ★★★)
E(r,t)=4πε0q[速度場κ3R2(1−β2)(n^−β)+加速度場cκ3Rn^×((n^−β)×β˙)]ret,B=c1[n^]ret×E.(11.31)
- 第1項は速度だけで決まり、1/R2 で減る。これを速度場(一般化された Coulomb 場)と呼ぶ。
- 第2項は加速度に比例し、1/R で減る。これを加速度場(放射場)と呼ぶ。
§11.1 の議論のとおり、遠方へエネルギーを運ぶのは加速度場だけである。低速の極限では κ→1 で、加速度場は 4πε0c2Rqn^×(n^×a) となる。これは Larmor の場 (11.22) である。
一様に運動する電荷:第10章との照合
加速度が0なら加速度場は消え、速度場だけが残る。速度が一定の電荷の場は、第10章 §10.5 で静止系の Coulomb 場を Lorentz 変換して求めた(定理 10.7)。
第10章で R と書いた現在位置からのベクトルを、この章では Rp と書く。この章の R は、遅延時刻の位置からの距離に使っているからである。その結果を、電荷の現在位置からの変位 Rp=r−w(t) と、それが速度となす角 ψ で書くと
E=4πε0q(1−β2sin2ψ)3/21−β2Rp3Rp,B=c2v×E(11.32)
である。これは、静止系の Coulomb 場の運動方向の成分はそのまま、垂直な成分は γ 倍になるという §10.5 の変換則から出る形である。この場は電荷の現在位置から放射状に出ている。遅延時刻の位置から計算した (11.31) がこれと一致することを示す。
証明
一様運動では w(t)=w(tr)+v(t−tr) である。c(t−tr)=R なので
Rp=r−w(t)=R−vcR=R(n^−β).
したがって速度場の分子 (n^−β)/R2 は Rp/R3 に等しく、
κ3R2(1−β2)(n^−β)=(κR)3(1−β2)Rp
となる。残りは κR=Rp1−β2sin2ψ を示せばよい。
- 2乗を比べる:κR=R−β⋅R を2乗し、Rp2=∣R−βR∣2 と比べると
(κR)2=R2−2Rβ⋅R+(β⋅R)2,Rp2=R2−2Rβ⋅R+β2R2
なので、次の関係を得る。
(κR)2=Rp2−(β2R2−(β⋅R)2)=Rp2−∣β×R∣2
2. 外積を書き換える:β×Rp=β×(R−βR)=β×R である。したがって ∣β×R∣2=β2Rp2sin2ψ となり、
(κR)2=Rp2(1−β2sin2ψ)
を得る。3. 磁場:B=n^×E/c で、電場は n^−β に平行である。したがって
n^×E={(n^−β)+β}×E=β×E
となり、B=v×E/c2 に一致する。
遅延時刻の位置から計算しているのに、結果は現在位置を中心とする場になった。等速運動では、電荷が遅延時刻から現在までに進む分を、速度場の n^−β がちょうど補っている。電荷が加速すると、この補い方は崩れ、加速度場が現れる。
例題 11.5 速い電荷の場のつぶれ ★★
オリジナル速さ v=0.9c で一様に運動する点電荷の電場を、電荷の現在位置から同じ距離 Rp の2点で比べる。運動方向の真横(ψ=90∘)と真正面(ψ=0)の電場の比を求めよ。
解答
(11.32) で ψ=90∘ では sin2ψ=1 なので
E⊥=4πε0Rp2q(1−β2)3/21−β2=4πε0Rp2γq,
真正面では sinψ=0 なので
E∥=4πε0Rp2(1−β2)q=4πε0γ2Rp2q
である。比は
E∥E⊥=γ3=(1−0.811)3=2.2943=12.1.
速い電荷の電場は、運動に垂直な面の近くに集まった円盤状になる。全体の流束は Gauss の法則どおり q/ε0 のまま変わらない(確認テスト 11.4-4)。
速い電荷の放射の向き
加速度場から、速い電荷の放射の角分布を求める。速度と加速度が平行な直線加速では、β×β˙=0 である。したがって加速度場の分子は n^×(n^×β˙) になる。その大きさは β˙sinθ である(θ は観測の向きと速度のなす角)。放射の電場の大きさは
∣Erad∣=4πε0c2κ3Rqasinθ,κ=1−βcosθ
である。
ここで注意が1つ要る。Poynting ベクトルの流束 R2∣S∣dΩ は、場の点の時刻 t についての電力である。電荷が遅延時刻の幅 dtr に放射したエネルギーは、(11.30) により幅 dt=κdtr に受け取られる。電荷が失う電力を数えるには、遅延時刻あたりに直して κ を掛ける。
dΩdP=κR2μ0c∣Erad∣2=16π2ε0c3q2a2(1−βcosθ)5sin2θ.(11.33)
全立体角で積分すると ∫sin2θ(1−βcosθ)−5dΩ=38πγ6 となる。したがって P=q2γ6a2/(6πε0c3) を得る。これは Liénard の公式 (11.26) の平行な場合と一致する。

図 11.4 直線加速する電荷の放射の角分布 (11.33)。破線は β=0(Larmor の sin2θ)、実線は β=0.5 で、どちらも最大値を 1 にそろえて描いた。速さが増すと放射は運動の向きの前方へ傾く。
分母の (1−βcosθ)5 により、放射は前方へ集中する(図 11.4)。最大の向きを求める。x=cosθ として (1−x2)/(1−βx)5 を微分して0と置く。すると 3βx2+2x−5β=0 となる。その正の根
cosθmax=3β1+15β2−1(11.34)
で与えられる。光速に近づくと θmax≃1/(2γ) となり、放射は幅 1/γ 程度の細い円錐に絞られる。円運動するときも同様に、放射は速度の向きの細い円錐に集まり、これがシンクロトロン放射の強い指向性の理由である。
確認テスト
オリジナル
- 11.4-1 点電荷の遅延時刻がただ1つに決まるために、電荷の速さについてどの条件が使われたか。1行で答えよ。
- 11.4-2 点電荷が x 軸上を速さ v で等速運動している。電荷の前方の軸上の点で、Liénard–Wiechert のスカラーポテンシャルを、電荷の現在位置からの距離 Rp で表せ。
- 11.4-3 全エネルギー 3.0 GeV の電子が、半径 r0=10 m の円軌道を回る。Liénard の公式から、1周あたりに放射で失うエネルギーを求めよ。
- 11.4-4 一様運動する点電荷の電場 (11.32) について、電荷の現在位置を中心とする球面を通る流束が q/ε0 になることを示せ。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com