確率論入門 第2章 §2.2 ★★ 集合代数の上の前測度を、外から覆う量で σ加法族の上の測度へ広げる。測度の存在を保証する定理
外測度
この節では、次の設定をとる。
- A は集合 Ω の上の集合代数とする。
- μ は A の上の前測度とする。さらに μ(Ω)=1 とする。
前節の μF が代表例である。目標は、μ を σ(A) の上の確率測度へ延長することである。
任意の集合 E⊂Ω に対して、まず「A の元で外から覆ったときの総量の下限」を考える。
定義 2.7(外測度)
E⊂Ω に対して
μ∗(E):=inf{n=1∑∞μ(An) An∈A, E⊂n=1⋃∞An}(2.7)
と定め、μ∗ を μ から作った外測度と呼ぶ。覆い方としては、全体 Ω を1つだけ使うもの(残りは空集合)がつねにある。よって 0≤μ∗(E)≤1 である。
覆い方として可算個を許していることが大切である。有限個の覆いしか許さない量(Jordan の外容量)では、有理数の集合のように細かく散らばった集合をうまく測れない(例題 2.2 で確かめる)。
命題 2.8(外測度の性質)
μ∗ は Ω のすべての部分集合の上で定義され、次を満たす。
- (i) μ∗(∅)=0。
- (ii) 単調性。E⊂E′ ならば μ∗(E)≤μ∗(E′)。
- (iii) 可算劣加法性。任意の E1,E2,⋯⊂Ω について μ∗(⋃nEn)≤∑nμ∗(En)。
証明
(i) は ∅ を ∅ で覆えば総量 0 になることから従う。
(ii) は次のように分かる。E′ の覆いは、すべて E の覆いでもある。よって (2.7) の下限をとる範囲は、小さい集合 E の方が広い。
(iii) を示す。ε>0 を固定する。各 n を固定する。下限の定義から、En の覆い An,1,An,2,⋯∈A で次を満たすものがある。
k=1∑∞μ(An,k)≤μ∗(En)+ε2−n.
可算個の可算族 {An,k}n,k は全体として可算族で、⋃nEn を覆う。したがって
μ∗(n⋃En)≤n=1∑∞k=1∑∞μ(An,k)≤n=1∑∞(μ∗(En)+ε2−n)=n=1∑∞μ∗(En)+ε.
ε↓0 として (iii) を得る。
一般に、すべての部分集合の上で定義され (i)〜(iii) を満たす集合関数を外測度と呼ぶ。外測度は可算加法的とは限らない。可算劣加法性しか持たない量から、可算加法性が成り立つ部分を切り出すのが次の段階である。その前に、外測度 μ∗ が集合代数の上では元の μ に一致することを確かめる。
命題 2.9(外測度は前測度の延長)
A∈A ならば μ∗(A)=μ(A)。
証明
A 自身で覆えば、μ∗(A)≤μ(A) である。逆向きを示す。A⊂⋃nAn(An∈A)を任意の覆いとし、
Bn:=A∩An∖j<n⋃Aj
とおく。A は共通部分と差で閉じているので、Bn∈A である。Bn は互いに素で、和は A に等しい。A∈A なので前測度の可算加法性を使うことができて
μ(A)=n=1∑∞μ(Bn)≤n=1∑∞μ(An)
(不等号は Bn⊂An と単調性による)。覆いについて下限をとれば μ(A)≤μ∗(A)。
この証明は前測度の可算加法性を直接使っている。例題 2.1 の μG は可算加法的でなかった。
実際、μG から外測度を作ってみる。(0,1] は、確率 0 の区間 (n+11,n1] たちで覆える。よって μG∗((0,1])=0 となり、μG((0,1])=1 と食い違う。可算加法性を欠く集合関数は、外測度を通しても元の値を保てない。
Carathéodory 可測性
定義 2.10(Carathéodory 可測)
集合 E⊂Ω が、すべての T⊂Ω に対して
μ∗(T)=μ∗(T∩E)+μ∗(T∩Ec)(2.8)
を満たすとき、E は μ∗-可測(Carathéodory の意味で可測)であるという。μ∗-可測な集合の全体を M と書く。
T=(T∩E)∪(T∩Ec) と劣加法性から、(2.8) の「≤」はつねに成り立つ。したがって E∈M を示すには、すべての T について
μ∗(T)≥μ∗(T∩E)+μ∗(T∩Ec)(2.9)
を確かめればよい。
判定用の集合 T を切り分ける
集合 E が可測であるとは、次のことをいう。どんな集合 T を E の内と外に切り分けても、外から測った量が切り分けの前後で変わらない。
第1章 §1.1 の Vitali 集合のような集合を V とする。このとき T∩V と T∩Vc の両方が、もとの集合の中に細かく入り組んでいる。そのため両者を外から覆う集合が大きく重なり、μ∗(T∩V)+μ∗(T∩Vc)>μ∗(T) となる T が存在する。(2.8) はこの重なりが起きないことを要求する条件である。
拡張定理
定理 2.11(Carathéodory の拡張定理 ★★★)
設定を次のようにおく。
- μ は集合代数 A の上の前測度とする。さらに μ(Ω)=1 とする。
- μ∗ はその外測度。
- M は μ∗-可測な集合の全体。
このとき
- (1) M は σ加法族である。
- (2) μ∗ を M に制限したものは可算加法的である。
- (3) A⊂M である。
したがって σ(A)⊂M である。制限 P:=μ∗∣σ(A) は (Ω,σ(A)) の上の確率測度になる。この P は、集合代数の上では μ に一致する。
この定理は Carathéodory–Hopf の拡張定理とも呼ばれる。
証明
4段階に分ける。
段階1:M は集合代数。Ω∈M は μ∗(T∩∅)=0 から明らかである。定義 (2.8) は、ある集合とその補集合について対称なので、補集合でも閉じる。
E,F∈M として E∩F∈M を示す。任意の T をとる。まず E の可測性を T に使う。次に F の可測性を T∩E に使う。すると
μ∗(T)=μ∗(T∩E)+μ∗(T∩Ec)=μ∗(T∩E∩F)+μ∗(T∩E∩Fc)+μ∗(T∩Ec).
ここで T∩(E∩F)c=(T∩E∩Fc)∪(T∩Ec) なので、劣加法性から右辺の後ろ2項の和は μ∗(T∩(E∩F)c) 以上である。よって
μ∗(T)≥μ∗(T∩(E∩F))+μ∗(T∩(E∩F)c)
となり、(2.9) から E∩F∈M。和は E∪F=(Ec∩Fc)c で表せる。
段階2:互いに素な有限和についての等式。E1,…,En∈M が互いに素なら、任意の T について
μ∗(T∩i=1⨆nEi)=i=1∑nμ∗(T∩Ei)(2.10)
が成り立つ。n についての帰納法で示す。n=1 は自明である。
n−1 まで成り立つとする。En の可測性を、判定用の集合 T∩⨆i≤nEi に使う。この集合と En の共通部分は、T∩En である。補集合 Enc との共通部分は、互いに素なので T∩⨆i<nEi である。よって
μ∗(T∩i=1⨆nEi)=μ∗(T∩En)+μ∗(T∩i=1⨆n−1Ei)
となり、帰納法の仮定から (2.10) を得る。
段階3:可算和で閉じ、可算加法的。E1,E2,⋯∈M を互いに素とする。次のようにおく。
E=i⨆Ei,Gn=i≤n⨆Ei.
段階1から Gn∈M である。任意の T について、次の3つを順に使う。
- Gn の可測性。
- (2.10)。
- Gnc⊃Ec と単調性。
すると
μ∗(T)=μ∗(T∩Gn)+μ∗(T∩Gnc)≥i=1∑nμ∗(T∩Ei)+μ∗(T∩Ec).
n→∞ とし、さらに劣加法性 ∑iμ∗(T∩Ei)≥μ∗(T∩E) を使うと
μ∗(T)≥i=1∑∞μ∗(T∩Ei)+μ∗(T∩Ec)≥μ∗(T∩E)+μ∗(T∩Ec).(2.11)
よって E∈M。集合代数の可算和は互いに素な可算和 ⨆n(Fn∖⋃j<nFj) に書き直せるので、M は σ加法族である。さらに (2.11) に T=E を代入する。μ∗(E∩Ec)=0 なので、次を得る。
μ∗(E)≥i∑μ∗(Ei)≥μ∗(E).
よって μ∗(E)=∑iμ∗(Ei) であり、これが (2) である。
段階4:A⊂M。A∈A と任意の T をとる。ε>0 を固定する。外測度の定義から、次を満たす An∈A がある。
T⊂n⋃An,n∑μ(An)≤μ∗(T)+ε.
次の2つは、どちらも A の元による覆いである。
T∩A⊂n⋃(An∩A),T∩Ac⊂n⋃(An∩Ac).
よって
μ∗(T∩A)+μ∗(T∩Ac)≤n=1∑∞(μ(An∩A)+μ(An∩Ac))=n=1∑∞μ(An)≤μ∗(T)+ε.
等号では A の上の有限加法性を使った。ε↓0 で (2.9) を得る。
結論。M は A を含む σ加法族である。σ(A) は、それを含む最小の σ加法族なので、σ(A)⊂M。
(2) により、μ∗ は σ(A) の上で可算加法的である。また μ∗(Ω)=μ(Ω)=1 である。命題 2.9 から、集合代数の上では μ に一致する。
M と σ(A) の違い・無限測度の場合
- M は一般に σ(A) より大きい。外測度 0 の集合 N は、つねに M に入る(確認テスト 2.2-4)。M は、σ(A) に「外測度 0 の集合の部分集合」を付け加えて得られる σ加法族(完備化)に一致する。とくに A=A0、F(x)=x のとき、この族が Lebesgue 可測集合の族である。
- 全体の測度が無限の場合もある。実数直線全体の長さ(F(x)=x、μ(R)=∞)がその例である。その場合でも、Ω が測度有限な Ak∈A の可算和で書けるなら(σ有限)、同じ構成で測度ができる。外測度の定義と段階1〜4の証明は、μ∗(T)=∞ の T で (2.9) が自明になることに注意すればそのまま成り立つ。こうしてできる R 上の測度を本書では Leb と書き、Lebesgue 測度と呼ぶ。
外測度の定義から、σ加法族の元は集合代数の元で近似できることも分かる。後の章で、σ加法族の元についての主張を集合代数の元についての主張に帰着させるときに使う。
命題 2.12(集合代数による近似)
定理 2.11 の状況を考える。任意の E∈σ(A) と ε>0 をとる。このとき、次を満たす A∈A がある。
P(E△A)<ε.
ここで E△A=(E∖A)∪(A∖E) は対称差である。
証明
外測度の定義から、次を満たす An∈A がある。
E⊂n⋃An,n∑μ(An)<P(E)+ε/2.
U=⋃nAn とおくと、次が成り立つ。
P(U∖E)=P(U)−P(E)≤n∑μ(An)−P(E)<ε/2.
また ∑nμ(An)<∞ である。よって N を大きくとれば、∑n>Nμ(An)<ε/2 となる。A=⋃n≤NAn∈A とおくと
E△A⊂(U∖E)∪n>N⋃An,P(E△A)<2ε+2ε=ε.
最初の包含は、A∖E⊂U∖E と E∖A⊂U∖A⊂⋃n>NAn による。
例題 2.2 有理数の集合の外測度 ★★
オリジナル(0,1] 上の一様分布の前測度 μ を考える。これは F(x)=x(0≤x≤1)で定まる。集合 E=Q∩(0,1] をとる。
- μ∗(E)=0 を示せ。
- E∈σ(A0) を確かめ、P((0,1]∖E)=1 を導け。
- 有限個の半開区間で E を覆うと、その長さの和はつねに 1 以上になることを示せ。
解答
- E は可算集合なので E={q1,q2,…} と番号を付けられる。ε>0 を固定する。各 qn を区間 (qn−ε2−n,qn] で覆う。この区間の確率は長さ以下なので
μ∗(E)≤n=1∑∞ε2−n=ε.
ε>0 は任意なので μ∗(E)=0。2. 1点は、A0 の元の可算個の共通部分 {q}=⋂m(q−1/m,q] で書ける。よって σ(A0) に入る。E はその可算和なので E∈σ(A0) である。P(E)=μ∗(E)=0 と P((0,1])=1 から、次を得る。
P((0,1]∖E)=1−0=1.
無理数の全体は確率 1 を持つ。3. E⊂I1∪⋯∪Im(Ik は半開区間)とする。有限個の区間の和の閉包は各区間の閉包の和 Iˉ1∪⋯∪Iˉm で、閉集合である。閉集合が E を含めば、その閉包 [0,1] も含む。長さは閉包をとっても変わらない。[0,1] を覆う区間の長さの和は 1 以上なので、区間 Ik の長さの和も 1 以上である。有限個の覆いだけで測ると、E は長さ 1、その補集合 (0,1]∖E も同じ議論で長さ 1 となり、和が全体の 1 を超える。可算個の覆いを許した外測度ではこの不都合が起きない。
確認テスト
オリジナル
- 2.2-1 (0,1] 上の一様分布の外測度で、1点 {x} の外測度が 0 であることを示せ。また、可算集合の外測度が 0 であることを、命題 2.8 のどの性質から導けるか答えよ。
- 2.2-2 (0,1] 上の一様分布を P とし、次の集合を考える。
E=n=1⨆∞(4−n,2⋅4−n].
確率 P(E) と P((0,21]∖E) を求めよ。3. 2.2-3 [0,1] から中央の 1/3 の開区間を取り除き、残った2つの閉区間のそれぞれからも中央の3分の1を取り除く。この操作を限りなく続けて残る集合を、Cantor 集合 C と呼ぶ。n 回目までに取り除いた長さの合計を求めよ(長さは Leb で測る)。そのうえで Leb(C)=0 を示せ。4. 2.2-4 外測度 0 の集合 N は、μ∗-可測であることを証明せよ。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com