確率論入門 第2章 §2.1 ★★ 長さを直接書ける半開区間の上で、可算加法性を確かめる。拡張の前提条件はここで全部そろう
第1章では確率空間 (Ω,F,P) を定義し、確率測度に課す公理から包除の公式や連続性を導いた。しかし、そこで定義した対象が実際に存在するかどうかは、有限集合や可算集合の上でしか確かめていない。区間 (0,1] から「一様に」点を1つ選ぶという、もっとも素朴な連続の確率モデルでさえ、存在は自明ではない。
第1章 §1.1 で筋を見たように、(0,1] のすべての部分集合に長さを割り当てようとすると矛盾が起きる。そこで確率を割り当てる集合を Borel 集合族 B に限ることにしたが、B の元は「開集合から補集合と可算和を繰り返して作れる集合」という間接的な形でしか与えられていない。その1つ1つについて長さを直接書き下すことはできない。
この章では、次の3段階でこの問題を解く。
- 長さを直接書ける半開区間の全体から出発し、そこで定めた集合関数が可算加法性を満たすことを確かめる(§2.1)。
- 外測度という道具で、この集合関数を σ加法族の上の測度へ拡張する(§2.2、Carathéodory の拡張定理)。
- 拡張の仕方がただ1通りであることを、π系と λ系の議論で示す(§2.3、Dynkin の定理)。
最後にこれらを組み合わせ、右連続で単調非減少な関数 F を1つ与えるごとに、B(R) の上の確率測度がただ1つ決まることを示す(§2.4、Lebesgue–Stieltjes 測度)。
この章の結果は後の章で何度も使う。第3章 §3.3 で分布関数と分布が一対一に対応することを示すとき、存在は §2.4 の定理から、一意性は §2.3 の系から借りる。第4章で独立性を「生成元の上で確かめれば十分」と述べるときにも、§2.3 の Dynkin の定理を使う。第5章で期待値を Lebesgue 積分として定義するときには、ここで作った測度を前提にする。
第1章から使うもの
- F が Ω のσ加法族であるとは、次の3つが成り立つことをいう。
Ω∈F,A∈F⇒Ac∈F,A1,A2,⋯∈F⇒n=1⋃∞An∈F.
- 集合族 C を含む最小の σ加法族を σ(C) と書き、生成する σ加法族と呼ぶ。これは C を含むすべての σ加法族の共通部分である。
- P が確率測度であるとは、P(Ω)=1 と次の可算加法性が成り立つことをいう。すなわち、互いに素な A1,A2,⋯∈F について
P(n=1⨆∞An)=n=1∑∞P(An)(2.1)
が成り立つことをいう(⨆ は互いに素な和を表す)。
An↑A ⇒ P(An)↑P(A),An↓A ⇒ P(An)↓P(A).
- R の Borel 集合族 B(R) は、開集合の全体が生成する σ加法族である。
目標を式で書く
この章の目標を式で書いておく。関数 F:R→[0,1] が与えられたとする。このとき、B(R) の上の確率測度 P で
P((a,b])=F(b)−F(a)(a<b)(2.2)
を満たすものを作りたい。たとえば F を次のようにとる。
F(x)=⎩⎨⎧0x1(x<0)(0≤x≤1)(x>1)
すると、区間 (a,b]⊂(0,1] の確率はその長さ b−a に等しい。これが「(0,1] 上の一様分布」である。指数分布や正規分布も、F をその分布関数にとれば同じ形の問題になる。
区間の確率は (2.2) で直接与えられる。問題は、B(R) の一般の元に対する値をどう決めるかである。方針は「値が分かっている集合の族から出発して、可算加法性を保ったまま族を広げる」というものになる。出発点の族として半開区間 (a,b] の全体を選ぶ理由は、隣り合う半開区間をつなげると
(a,b]⊔(b,c]=(a,c]
と、重なりも隙間もなく1つの半開区間になるからである。開区間どうしでは端点 b が抜け、閉区間どうしでは b が重なる。
集合半代数と集合代数
半開区間の全体は補集合をとる操作で閉じていない((0,1] の補集合は2つの区間の和になる)。それでも「補集合が有限個の元の互いに素な和で書ける」という性質は持っている。この性質に名前を付けておく。
定義 2.1(集合半代数)
Ω の部分集合の族 S が次の3条件を満たすとき、これを集合半代数(半代数)と呼ぶ。
- (i) ∅∈S。
- (ii) A,B∈S ならば A∩B∈S。
- (iii) A∈S ならば、その補集合は S の互いに素な有限個の元の和で書ける。
Ac=C1⊔⋯⊔Cm(C1,…,Cm∈S).
実数直線の半開区間
端点 −∞≤a≤b≤+∞ に対して、次の区間を考える。
- b<∞ のときは (a,b]。
- b=+∞ のときは (a,∞)。
どちらも記号 (a,b] で書く(a=b なら空集合)。これらの全体を SR と書く。2つの区間の共通部分は
(a,b]∩(c,d]=(max(a,c),min(b,d)]
で(左端が右端以上なら空集合)、再び SR に入る。補集合は
(a,b]c=(−∞,a]⊔(b,∞)
と SR の2つの元の互いに素な和になる。したがって SR は集合半代数である。
定義 2.2(集合代数)
Ω の部分集合の族 A が次の3条件を満たすとき、これを集合代数(有限加法族)と呼ぶ。
Ω∈A,A∈A⇒Ac∈A,A,B∈A⇒A∪B∈A.
σ加法族との違いは、和について有限個しか要求しない点だけである。de Morgan の法則A∩B=(Ac∪Bc)c から共通部分でも閉じ、A∖B=A∩Bc から差でも閉じる。
補題 2.3(半代数が生成する集合代数)
S を集合半代数とする。S の元の有限個の互いに素な和で書ける集合の全体を、A(S) とおく。このとき A(S) は集合代数であり、S を含む集合代数の中で最小のものである。
証明
まず Ω∈A(S) を示す。条件 (iii) を A=∅ に使う。すると Ω=∅c が、S の元の有限個の互いに素な和で書ける。
次に共通部分で閉じることを示す。2つの元を次のように書く。
A=i=1⨆kAi,B=j=1⨆lBj(Ai,Bj∈S).
すると
A∩B=i=1⨆kj=1⨆l(Ai∩Bj)
となる。各 Ai∩Bj は、条件 (ii) により S の元である。しかも添字の組が違えば互いに素である。よって A∩B∈A(S)。
補集合で閉じることを示す。A=⨆i=1kAi なら、次が成り立つ。
Ac=i=1⋂kAic.
条件 (iii) により、各 Aic は A(S) に入る。いま示した共通部分についての性質を k−1 回使えば Ac∈A(S) となる。和は A∪B=(Ac∩Bc)c と書けるので、これも A(S) に入る。以上で A(S) は集合代数である。
最後に最小性を示す。S を含む集合代数は有限和で閉じているので、S の元の有限個の和をすべて含む。すなわち A(S) を含む。
実数直線の場合、A0:=A(SR) は「有限個の互いに素な半開区間の和」の全体である。A0 は σ加法族ではない。たとえば1点 {x}=⋂n(x−1/n,x] は可算個の A0 の元の共通部分だが、有限個の半開区間の和としては書けない(半開区間は空でなければ長さが正だからである)。
有限加法性・可算加法性・前測度
定義 2.4(集合関数の加法性)
S を集合半代数または集合代数とする。μ:S→[0,∞] は、μ(∅)=0 を満たす集合関数とする。
- μ が有限加法的であるとは、次が成り立つことをいう。A∈S が互いに素な A1,…,An∈S の和に等しいとき、つねに
μ(A)=i=1∑nμ(Ai).
- μ が可算加法的(σ加法的)であるとは、次が成り立つことをいう。A∈S が互いに素な A1,A2,⋯∈S の可算和に等しいとき、つねに
μ(A)=n=1∑∞μ(An).
集合代数の上の可算加法的な集合関数を前測度と呼ぶ。
可算加法性の定義では、和 ⨆nAn が S に入る場合だけを要求している。集合代数は可算和で閉じていないので、和が族の外に出る場合には何も要求しない。この「族の中に収まる場合だけ」という弱い要求が、拡張の出発点として確かめられる条件になる。
集合代数の上の有限加法的な集合関数は、単調性と有限劣加法性を持つ。A⊂B なら B=A⊔(B∖A) である。よって μ(A)≤μ(B) となる。また B1,…,Bn∈A については
μ(k=1⋃nBk)=k=1∑nμ(Bk∖j<k⋃Bj)≤k=1∑nμ(Bk)(2.3)
となる。どちらも後の証明で使う。
補題 2.5(半代数から集合代数への延長)
μ を集合半代数 S の上の有限加法的な集合関数とする。A=⨆i=1kAi∈A(S)(Ai∈S)に対して
μˉ(A):=i=1∑kμ(Ai)
とおくと、μˉ は分け方によらずに定まり、A(S) の上で有限加法的である。S の上で μ と一致する有限加法的な集合関数はこれに限る。さらに、μ が S の上で可算加法的だとする。このとき μˉ は A(S) の上の前測度になる。
証明
分け方によらないこと。A=⨆i=1kAi=⨆j=1lBj と2通りに書けたとする。次の2つは、どちらも S の中の有限個の互いに素な和である。
Ai=j⨆(Ai∩Bj),Bj=i⨆(Ai∩Bj).
よって S の上の有限加法性から
i=1∑kμ(Ai)=i=1∑kj=1∑lμ(Ai∩Bj)=j=1∑lμ(Bj).
有限加法性。A(S) の互いに素な元を有限個合わせるときは、それぞれの分け方を並べたものが和の分け方になるので、定義から直ちに従う。一意性は、有限加法的な延長なら μˉ(A)=∑iμ(Ai) とならざるを得ないことから従う。
可算加法性。A∈A(S) が互いに素な B1,B2,⋯∈A(S) の可算和に等しいとする。次のように分ける(各片は S の元)。
A=i=1⨆kAi,Bn=j=1⨆mnBn,j.
各 Ai は、Ai∩Bn,j たちの可算個の互いに素な和である。これらの片はどれも S の元なので、可算加法性から次を得る。
μ(Ai)=n∑j∑μ(Ai∩Bn,j).
これを i について足し、非負の項の和なので順序を入れ替えると
μˉ(A)=n=1∑∞j=1∑mni=1∑kμ(Ai∩Bn,j)=n=1∑∞j=1∑mnμ(Bn,j)=n=1∑∞μˉ(Bn).
2つ目の等号では、S の上の有限加法性を使った。Bn,j⊂A なので、Bn,j=⨆i(Ai∩Bn,j) となるからである。
以後、延長した μˉ も同じ記号 μ で書く。
分布関数で定めた区間の確率は可算加法的
ここからは関数 F:R→[0,1] に次の3条件を課す。
(a) 単調非減少,(b) 右連続 F(x)=y↓xlimF(y),(c) x→−∞limF(x)=0, x→+∞limF(x)=1.(2.4)
F(−∞):=0、F(+∞):=1 と約束する。そのうえで SR の上に
μF((a,b]):=F(b)−F(a)(−∞≤a≤b≤+∞)(2.5)
と定める。単調性 (a) から μF≥0 であり、μF(∅)=μF((a,a])=0 である。
定理 2.6(区間の上の可算加法性 ★★)
F が (2.4) を満たすとする。このとき (2.5) の μF は、SR の上で可算加法的である。したがって補題 2.5 により、μF は A0 の上の前測度に延長される。また μF(R)=1 である。
証明
4段階に分ける。
段階1:有限加法性。(a,b]=⨆i=1n(ai,bi](空でない区間だけを残す)とする。左端の小さい順に並べ替える。
a のすぐ右の点はどれかの区間に入るので、最初の区間の左端は a1=a である。区間どうしは重ならず隙間もないので、次が成り立つ。
b1=a2,b2=a3,…,bn=b.
よって和は次のように前後の項が打ち消し合う。
i=1∑n(F(bi)−F(ai))=F(bn)−F(a1)=F(b)−F(a).
この段階では右連続性を使っていない。
段階2:可算個の小区間の和は全体を超えない。⨆n=1∞(an,bn]⊂(a,b] とする。各 N について、次の集合は A0 の元である。
(a,b]∖n≤N⨆(an,bn].
よって有限個の互いに素な半開区間 C1,…,Cm の和に書ける。段階1と補題 2.5 から μF は A0 の上で有限加法的なので
F(b)−F(a)=n=1∑NμF((an,bn])+k=1∑mμF(Ck)≥n=1∑NμF((an,bn]).
N→∞ として ∑n=1∞μF((an,bn])≤F(b)−F(a) を得る。
段階3:可算個の区間で覆えば、和は全体以上になる。(a,b]⊂⋃n=1∞(an,bn](互いに素とは限らない)として、
F(b)−F(a)≤n=1∑∞(F(bn)−F(an))(2.6)
を示す。まず −∞<a<b<∞ の場合を考え、ε>0 を固定する。右連続性 (b) を a で使い、次を満たす a′ を選ぶ。
a<a′<b,F(a′)−F(a)<ε.
各 n について、bn′ を次のように選ぶ。
- bn<∞ なら、右連続性を bn で使う。bn′>bn で、F(bn′)−F(bn)<ε2−n となるものを選ぶ。
- bn=∞ なら bn′=∞ とおく。
すると
[a′,b]⊂(a,b]⊂n=1⋃∞(an,bn]⊂n=1⋃∞(an,bn′)
で、左端の閉区間 [a′,b] は有界閉集合、右端は開区間の族である(図 2.1)。Heine–Borel の定理によれば、有界閉集合を覆う開集合の族からは有限個を選んで覆い直せる。よって有限個の番号 n1,…,nK で[a′,b]⊂⋃k=1K(ank,bnk′) とできる。すると (a′,b]⊂⋃k=1K(ank,bnk′] であり、A0 の上の単調性と有限劣加法性 (2.3) から
F(b)−F(a′)≤k=1∑K(F(bnk′)−F(ank))≤n=1∑∞(F(bn′)−F(an))≤n=1∑∞(F(bn)−F(an))+ε.
左辺に F(a′)−F(a)<ε を足すと、次を得る。
F(b)−F(a)≤n∑(F(bn)−F(an))+2ε.
ε↓0 として (2.6) を得る。
次に、a=−∞ または b=+∞ の場合を考える。a≤c<d≤b を満たす有限の c,d をとる。(c,d]⊂(a,b] なので、いま示した有限の場合からF(d)−F(c)≤∑n(F(bn)−F(an))。
ここで c↓a、d↑b とする。条件 (c) と約束 F(±∞) により、左辺は F(b)−F(a) に近づく。
段階4:まとめ。(a,b]=⨆n(an,bn] とする。段階2から不等号「≥」が、段階3から「≤」が出るので、等号が成り立つ。μF(R)=F(+∞)−F(−∞)=1 は定義から従う。

図 2.1 定理 2.6 の段階3。左端を a から a′ へ少し縮めて閉区間にし、各区間の右端を bn から bn′ へ少し延ばして開区間にする。右連続性のおかげで、この2つの操作で動く確率は ε の程度に収まる。閉区間を開区間で覆えば有限個で足りる。
右連続性と Heine–Borel の定理の役割
段階3の証明では、可算個の区間の和を扱う部分が難しい。有限個なら段階1の差し引きの計算で済む。Heine–Borel の定理は可算個の被覆から有限個を選び出す道具で、これを使うために集合を閉区間(コンパクト)に、被覆を開区間に取り替えた。その取り替えで生じる誤差が小さいことを保証するのが右連続性である。
誤差は次の2つである。
- 左端を右へ動かしたときの誤差 F(a′)−F(a)。
- 右端を右へ動かしたときの誤差 F(bn′)−F(bn)。
どちらも「右へ少し動かす」操作なので、右連続性だけで小さくできる。
例題 2.1 右連続でない F では可算加法性が成り立たない ★★
オリジナル次の関数 G を考える。
G(x)={01(x≤0)(x>0)
G は単調非減少で、両端の極限は 0 と 1 である。しかし x=0 で右連続でない。
- μG((a,b])=G(b)−G(a) が SR の上で有限加法的であることを確かめよ。
- (0,1]=⨆n=1∞(n+11,n1] を使い、μG が可算加法的でないことを示せ。
- μG((−1,0]) と μG((0,1]) を求めよ。また、μG が表そうとしている「確率 1」がどの点にも置かれていないことを説明せよ。
解答
- 定理 2.6 の証明の段階1は、右連続性を使わずに、差の和が打ち消し合うことだけで有限加法性を示した。G も単調非減少なので同じ計算が成り立ち、μG は有限加法的である。
- 左辺は μG((0,1])=G(1)−G(0)=1−0=1。右辺の各項は、n+11>0 と n1>0 から
μG((n+11,n1])=G(n1)−G(n+11)=1−1=0
で、その和は 0。1=0 なので可算加法性は成り立たない。3. μG((−1,0])=G(0)−G(−1)=0、μG((0,1])=1 である。(0,1] は確率 1 を持つ。ところが ε>0 をどれだけ小さくとっても、μG((ε,1])=1−1=0 となる。つまり確率 1 は (0,1] のどの点の近くにもなく、0 に右から限りなく近い所にだけあることになる。一方、0 自身を含む (−1,0] の確率は 0 である。このように、確率を担う点が実数の中に存在しない。 σ加法族へ拡張できれば、1点 {0} や {x} にも確率が決まるはずである。しかし、そのような拡張は存在しない。右連続性 (b) は、跳びの大きさを跳びの位置の点に担わせるための条件である。
確認テスト
オリジナル
- 2.1-1 開区間 (a,b)(−∞≤a<b≤∞)と空集合を集めた族は、集合半代数か。理由をつけて答えよ。
- 2.1-2 関数 F を次で定める。
F(x)={1−e−2x0(x≥0)(x<0)
次の集合 A を、SR の元の互いに素な和に書き直せ。
A=(−1,21]∪(41,1]∪(2,∞).
そのうえで μF(A) を求めよ。3. 2.1-3 自然数全体 Ω=N={1,2,…} で、有限集合か、補集合が有限集合であるような部分集合の全体を A とする。A が集合代数であるが σ加法族でないことを示せ。さらに、次で定めた μ が有限加法的だが可算加法的でないことを示せ。
μ(A)={01(A が有限)(Ac が有限)
4. 2.1-4 A を集合代数とする。μ を A の上の有限加法的な集合関数とする。ただし μ(Ω)=1 とする。次の2つが同値であることを証明せよ。
An∈A, An↓∅ ⟹ μ(An)→0.
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com