確率論入門 第2章 §2.3 ★★★ 「生成元の上で一致すれば全体で一致する」を保証する Dynkin の定理。本書の後半でも繰り返し使う
なぜ一意性を別に示すのか
Carathéodory の拡張定理は延長の存在を保証するが、σ(A) の上で μ と一致する確率測度がほかにないことまでは述べていない。外測度を使わない別の方法で作った測度が、A の上では同じ値をとりながら、σ(A) のどこかで違う値をとるかもしれない。一意性が分かれば、分布関数の値(区間の確率)だけを指定すれば分布が決まる、と言えるようになる。
素朴に考えると、D={A∈σ(A):P(A)=Q(A)} が σ加法族であることを示せば済みそうである。ところが D は一般に共通部分で閉じていない(確認テスト 2.3-2 に例がある)。P(A)=Q(A) と P(B)=Q(B) が成り立っても、共通部分の確率が等しいとは限らないからである。
そこで、共通部分の条件を「生成元の側」に課し、D には確率の等式から確かめられる性質だけを求める。この分担を定式化したのが π系と λ系である。
π系と λ系
定義 2.13(π系・λ系)
Ω の部分集合の族 C が共通部分で閉じているとき、これをπ系と呼ぶ。すなわち A,B∈C⇒A∩B∈C が成り立つ族である。部分集合の族 D が次の3条件を満たすとき、これをλ系(Dynkin 族)と呼ぶ。
- (i) Ω∈D。
- (ii) A,B∈D かつ A⊂B ならば
B∖A∈D.
- (iii) 増加列 A1⊂A2⊂⋯(An∈D)について
n⋃An∈D.
λ系は、(i) と (ii) から補集合 Ac=Ω∖A で閉じる。互いに素な2つの元の和でも閉じる(確認テスト 2.3-4)。しかし一般の2つの元の和や共通部分では閉じない。λ系の3条件は、どれも「確率が等しい」という性質で直接確かめられる形になっている。
補題 2.14(π系かつ λ系なら σ加法族)
π系であり λ系でもある族 D は σ加法族である。
証明
Ω∈D と補集合で閉じることは上で見た。
A,B∈D とする。π系であることから Ac∩Bc∈D である。その補集合として A∪B∈D を得る。
帰納的に有限和でも閉じる。可算和 ⋃nAn は、増加列 BN=⋃n≤NAn∈D の和である。よって (iii) から、これも入る。
Dynkin の定理
定理 2.15(Dynkin の π-λ 定理 ★★★)
C を π系、D を λ系とする。C⊂D ならば、σ(C)⊂D である。
証明
C を含むすべての λ系の共通部分を ℓ(C) とおく。λ系の3条件は、どれも共通部分をとる操作で保たれる。よって ℓ(C) は C を含む最小の λ系である。とくに ℓ(C)⊂D である。
したがって、ℓ(C) が π系であることを示せば足りる。そうすれば補題 2.14 から、これは C を含む σ加法族になる。よって次が得られる。
σ(C)⊂ℓ(C)⊂D.
2段階で示す。
段階1。次の族を考える。
D1:={A∈ℓ(C):A∩C∈ℓ(C) がすべての C∈C で成り立つ}.
C は π系なので C⊂D1。D1 が λ系であることを確かめる。
- (i) Ω∩C=C∈ℓ(C)。
- (ii) A,B∈D1、A⊂B とする。差について次が成り立つ。
(B∖A)∩C=(B∩C)∖(A∩C).
右辺の2つの集合はどちらも ℓ(C) の元で、A∩C⊂B∩C である。よって差も ℓ(C) に入る。3. (iii) An↑A なら An∩C↑A∩C である。ℓ(C) は増加列の和で閉じる。
よって D1 は C を含む λ系である。ℓ(C) の最小性から D1=ℓ(C)。すなわち次が成り立つ。
A∈ℓ(C), C∈C ⟹ A∩C∈ℓ(C).
段階2。次の族を考える。
D2:={B∈ℓ(C):A∩B∈ℓ(C) がすべての A∈ℓ(C) で成り立つ}.
段階1の結論から C⊂D2。段階1と同じ計算で D2 は λ系なので、D2=ℓ(C)。これは ℓ(C) が π系であることを意味する。

図 2.2 Dynkin の定理の包含関係。生成元 C に共通部分で閉じることを課し、大きい族 D には λ系の3条件だけを課す。すると D は C の生成する σ加法族全体を含む。
系 2.16(確率測度の一意性 ★★★)
C を π系とする。P,Q を (Ω,σ(C)) の上の確率測度とする。C の上で一致すれば、2つの測度は σ(C) の上でも一致する。
証明
D={A∈σ(C):P(A)=Q(A)} が λ系であることを示せば、Dynkin の定理から σ(C)⊂D となる。(i) P(Ω)=Q(Ω)=1。(ii) A,B∈D、A⊂B なら、次が成り立つ。
P(B∖A)=P(B)−P(A)=Q(B)−Q(A)=Q(B∖A).
(iii) An↑A なら、連続性から P(A)=limP(An)=limQ(An)=Q(A)。
(ii) の引き算では、確率が有限であることを使った。この点は無限測度の反例で重要になる(下の notebox)。
集合代数は共通部分で閉じているので π系である。したがって系 2.16 から、Carathéodory の拡張定理で作った確率測度はただ1つに決まる。すなわち、集合代数の上で μ と一致する確率測度は、σ(A) の上にほかにない。
一意性の仮定を外すと成り立たない例
- 生成元が π系でない場合。例題 2.3 で、4点の集合の上で2つの確率測度が生成元の上で一致しながら、生成された σ加法族の上で異なる例を作る。
- 測度が無限の場合。実数直線の上で、ν(A) を「A に含まれる有理数の個数」とする。さらに ν′=2ν とおく。空でない半開区間は、どれも無限個の有理数を含む。よって SR の上では ν=ν′ である(空集合で 0、それ以外で無限大)。しかし ν({0})=1=2=ν′({0})。系 2.16 の (ii) で ∞−∞ が現れ、引き算ができない。σ有限な測度では、全体を測度有限な部分に分けてから系を使えば一意性が回復する。
Borel 集合族の生成元
B(R) の上の確率測度の一意性に系 2.16 を使うには、B(R) を生成する π系が要る。
補題 2.17(Borel 集合族の生成元)
B(R)=σ(SR)=σ(A0)=σ({(−∞,x]:x∈R})。
証明
H={(−∞,x]:x∈R} とおく。包含 σ(H)⊂σ(SR)⊂B(R) と B(R)⊂σ(H) を示す。
H⊂SR なので σ(H)⊂σ(SR)。(a,b]=⋂m(a,b+1/m) は開集合の可算個の共通部分なので Borel 集合であり、σ(SR)⊂B(R)。A0 の元は、半開区間の有限和である。よって σ(A0)=σ(SR)。
逆向きを示す。σ(H) は (a,b]=(−∞,b]∖(−∞,a] を含む。よって開区間 (a,b)=⋃m(a,b−1/m] も含む。
実数直線の開集合 O は、その中に含まれる有理数端点の開区間すべての和に等しい。実際、O のどの点についても、その点を含み O に収まる有理数端点の開区間がある。有理数端点の開区間は可算個しかないので、O はその可算和として σ(H) に入る。よって B(R)⊂σ(H)。
H に空集合を加えた族は π系である((−∞,x]∩(−∞,y]=(−∞,min(x,y)])。SR も π系である。
例題 2.3 π系でない生成元では一意性が成り立たない ★★
オリジナルΩ={1,2,3,4} とし、F=2Ω(すべての部分集合)とする。生成元として C={{1,2},{2,3}} をとる。P を一様分布(各点に 1/4)とする。Q は次で定める。
Q({1})=Q({3})=21,Q({2})=Q({4})=0.
- C の上で P=Q であることを確かめよ。
- σ(C)=2Ω を示し、P=Q となる集合を1つ挙げよ。
- C に共通部分を加えた C′={{1,2},{2,3},{2}} は π系である。2つの測度は C′ の上で一致するか。
解答
- P({1,2})=41+41=21、Q({1,2})=21+0=21。P({2,3})=21、Q({2,3})=0+21=21。どちらも一致する。
- σ加法族は共通部分・差・補集合で閉じるので、σ(C) は次の集合を含む。
{2}={1,2}∩{2,3},{1}={1,2}∖{2},{3}={2,3}∖{2},{4}=({1,2}∪{2,3})c.
1点集合がすべて入るので、その和として全部の部分集合が入り、σ(C)=2Ω。P({2})=41 だが Q({2})=0 である。よって集合 {2} の上で2つの測度は異なる。3. P({2})=41=0=Q({2}) なので一致しない。系 2.16 と矛盾しないことに注意する。系は「π系の上で一致すれば全体で一致する」と述べており、この例では P,Q は π系 C′ の上で一致していない。C の上で一致していても、C を共通部分で閉じた族の上で一致するとは限らないことが、この例の要点である。
例題 2.4 分布関数が同じなら分布は同じ ★★★
オリジナルP,Q を (R,B(R)) の上の確率測度とする。すべての x∈R で、次が成り立つとする。
P((−∞,x])=Q((−∞,x]).
P=Q を示せ。さらに、「すべての有理数 x で」と仮定を弱めても結論が変わらないことを示せ。
解答
C={(−∞,x]:x∈R}∪{∅} とおく。(−∞,x]∩(−∞,y]=(−∞,min(x,y)] なので C は π系である。仮定から C の上で P=Q(空集合ではどちらも 0)。補題 2.17 から σ(C)=B(R)。
系 2.16 により、B(R) の上で P=Q。
有理数 x だけで一致する場合を考える。任意の実数 x に対し、有理数列 rm↓x をとる。すると (−∞,rm]↓(−∞,x] である。確率測度の連続性から
P((−∞,x])=m→∞limP((−∞,rm])=m→∞limQ((−∞,rm])=Q((−∞,x]).
よってすべての実数 x で一致し、前半の結論に帰着する。
確認テスト
オリジナル
- 2.3-1 R の上の族 H={(−∞,x]:x∈R} は π系か。λ系か。理由をつけて答えよ。
- 2.3-2 Ω={1,2,3,4} とし、P を一様分布とする。Q=21δ1+21δ4 とする(点 1 と点 4 に 21 ずつ)。D={A⊂Ω:P(A)=Q(A)} の元をすべて挙げ、D が λ系であるが π系でないことを確かめよ。
- 2.3-3 (R2,B(R2)) の上の確率測度 P,Q を考える。すべての (x,y) で次が成り立てば、P=Q であることを示せ。
P((−∞,x]×(−∞,y])=Q((−∞,x]×(−∞,y]).
B(R2) は R2 の開集合の全体が生成する σ加法族とする。4. 2.3-4 λ系 D は補集合で閉じることを証明せよ。さらに、互いに素な A,B∈D について A∪B∈D であることを証明せよ。
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