確率論入門 第3章 §3.3 ★★★ 分布は1変数の関数 FX(x)=P(X≤x) だけで決まる。単調・右連続・両端で 0,1 がその特徴づけ
定義と3つの性質
分布 PX は Borel 集合族という巨大な集合族の上の関数であり、そのままでは扱いにくい。そこで半直線 (−∞,x] での値だけを取り出す。
定義 3.9(分布関数)
確率変数 X に対して
FX(x):=P(X≤x)=PX((−∞,x])(x∈R)(3.10)
を X の分布関数(累積分布関数)と呼ぶ。
定理 3.10(分布関数の性質 ★★★)
分布関数 F=FX は次の3性質をもつ。
- (i) 単調非減少:x≤y なら F(x)≤F(y)。
- (ii) 右連続:すべての x で h↓0limF(x+h)=F(x)。
- (iii) 両端の極限:x→−∞limF(x)=0、x→+∞limF(x)=1。
さらに左極限 F(x−):=limh↓0F(x−h) について
F(x−)=P(X<x),F(x)−F(x−)=P(X=x)(3.11)
が成り立つ。
証明
(i) x≤y なら {X≤x}⊂{X≤y} である。確率の単調性から F(x)≤F(y) となる。
(ii) F は単調なので、右極限はどんな減少列 hn↓0 に沿ってとっても同じ値になる。そこで hn=1/n とする。事象 {X≤x+1/n} は n について減少し、
n=1⋂∞{X≤x+n1}={X≤x}
である。実際、すべての n で X(ω)≤x+1/n が成り立つとする。極限をとれば X(ω)≤x となる。逆は明らかである。
連続性 (3.1) の後半から F(x+1/n)→F(x) となる。
(iii) n→∞ で、事象は次のように近づく。
{X≤−n}↓∅,{X≤n}↑Ω.
値 X(ω) は実数なので、十分大きな番号では区間 (−n,n] に入る。これが近づき方の理由である。連続性 (3.1) から F(−n)→0 と F(n)→1 が従う。単調性から、整数でない x についても極限は同じである。
(3.11) の1つ目:事象 {X≤x−1/n} は増加し、和集合は {X<x} である。実際、X(ω)<x なら x−X(ω)>0 である。1/n がこの差より小さくなるように番号をとれば、X(ω)≤x−1/n となる。
連続性の前半から F(x−1/n)→P(X<x) となる。2つ目の式は、次が互いに素な和であることから従う。
{X≤x}={X<x}∪{X=x}
右連続性は、分布関数を「≤」で定義したことの帰結である。仮に G(x)=P(X<x) と定義すれば、同じ議論で G は左連続になる。どちらの約束でも分布の情報は失われないが、本書では (3.10) の「≤」の約束を通して使う。
(3.11) から、2つの条件「点 x で分布関数が連続」と「P(X=x)=0」は同値である。P(X=x)>0 となる点、つまり正の確率をもつ1点を、分布の原子と呼ぶ。区間の確率は次の表のように F とその左極限で表される。
P(a<X≤b)P(a<X<b)=F(b)−F(a),=F(b−)−F(a),P(a≤X≤b)P(a≤X<b)=F(b)−F(a−),=F(b−)−F(a−).(3.12)
どの式も、端点を含むかどうかに応じて (3.11) の P(X=a) や P(X=b) を足し引きしたものである。
命題 3.11(跳びは可算個)
分布関数 F の不連続点(原子)は高々可算個である。
証明は第2章 §2.4 で分布関数の跳びについて示したものと同じである(跳びの大きさが 1/n を超える点は n 個未満しかない)。

図 3.2 例題 3.4 の分布関数。黒丸が F の値、白丸が左極限 F(x−) で、跳びの大きさが原子の確率になる。F は跳びの点で上の値をとる(右連続)。
分布関数と分布は一対一
分布関数は分布の半直線での値だけを記録したものだが、実はそれだけで分布全体が決まる。
定理 3.12(分布関数による分布の決定 ★★★)
(a) 2つの確率変数の分布関数が等しい(FX=FY)なら、分布も等しい(PX=PY)。
(b) 逆に、関数 F:R→[0,1] が次の3性質を満たすとする。
- (i) 単調非減少。
- (ii) 右連続。
- (iii) F(−∞)=0、F(+∞)=1。
このとき、F を分布関数にもつ確率測度 μ が、実数直線の Borel 集合族の上にただ1つ存在する。
したがって、実数直線上の確率測度全体と、性質 (i)〜(iii) をもつ関数全体のあいだには、次の対応による一対一の対応がある。
μ↦F(x)=μ((−∞,x])
証明
第2章 §2.4 の Lebesgue–Stieltjes 測度の定理(性質 (i)〜(iii) をもつ関数には、それを分布関数にもつ確率測度がただ1つある)を、確率変数の分布の言葉で述べ直したものである。
(a) では、2つの分布 PX,PY が同じ関数を分布関数にもつ確率測度なので、その一意性から両者は一致する。一意性の中身は2つある。半直線の族 {(−∞,x]} が B(R) を生成する π系であることと、一意性 (3.2) である。(b) の存在には、§3.5 の逆変換法による別証明もある(定理 3.20 の後の注意)。
この定理により、「分布を与える」ことと「性質 (i)〜(iii) をもつ関数を与える」ことは同じになる。第11章で分布収束 XndX を定義するときは、この対応を使って分布関数の収束で定める。
分布関数でよく起きる誤り
- P(X<x) と P(X≤x) は原子のある点で異なる。区間の確率は (3.12) の表に従って左極限を使い分ける。
- 分布関数の値 F(x) は確率だが、次節の密度 f(x) の値は確率ではない。密度は 1 を超えてよい(例:一様分布 U(0,1/2) の密度は 2)。
例題 3.4 跳びと傾きをもつ分布関数 ★★
オリジナル関数 F を次で定める。
F(x)=⎩⎨⎧04x21+4x−11(x<0)(0≤x<1)(1≤x<2)(x≥2)
- F が分布関数であることを確かめよ。
- F を分布関数にもつ確率変数 X について、次の3つを求めよ。
P(X=1),P(X=2),P(X<1).
3. 次の3つを求めよ。
P(21<X≤23),P(1≤X<2),P(X>23).
解答
- 各区間の中で F は定数か傾き 1/4 の一次関数なので、区間の内部で非減少かつ連続である。区間の境目では左極限と値を比べる。
F(0−)=0=F(0),F(1−)=41<21=F(1),F(2−)=21+41=43<1=F(2).
どの境目でも値は左極限以上なので F は全体で非減少であり、各境目で値が右側の式に一致するので右連続である。左端 x<0 では値が 0、右端 x≥2 では値が 1 である。よって両端の極限も正しい。定理 3.12 により、F を分布関数にもつ確率変数が存在する。2. (3.11) から
P(X=1)=F(1)−F(1−)=21−41=41,P(X=2)=F(2)−F(2−)=1−43=41,
P(X<1)=F(1−)=41.
3. 表 (3.12) を使う。まず F(23)=21+81=85 と F(21)=81 から
P(21<X≤23)=F(23)−F(21)=85−81=21.
この区間は原子 1 を含むので、連続な部分の寄与 41 に原子の 41 が加わっている。次に
P(1≤X<2)=F(2−)−F(1−)=43−41=21
であり、原子 1 を含み原子 2 を含まない。最後に P(X>23)=1−F(23)=83 である。
確認テスト
オリジナル
- 3.3-1 次の関数のうち分布関数であるものを選び、そうでないものはどの性質が成り立たないかを答えよ。(a) F(x)=1+e−x1。(b) 負の数で 0、正の数で 1、原点で 21 をとる関数。(c) F(x)=1−e−x(すべての x∈R)。
- 3.3-2 確率変数 X の分布関数が
F(x)=⎩⎨⎧0311−21e−(x−1)(x<0)(0≤x<1)(x≥1)
で与えられる。次の5つを求めよ。
P(X=0),P(X=1),P(0<X<1),P(1≤X≤2),P(X>2).
3. 3.3-3 確率変数 X の分布関数を F とする。Y=−X の分布関数を F とその左極限で表せ。X が上の 3.3-2 の分布をもつとき、P(Y≤−1) を求めよ。4. 3.3-4 2つの確率変数 X,Y の分布関数が、実数の稠密な部分集合 D(たとえば有理数全体)の上で一致するとする。
FX(x)=FY(x)(x∈D)
このとき FX=FY が実数全体で成り立ち、X=dY であることを示せ。
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