確率論入門 第4章 §4.4 ★★★ 「無限回起こるか」を確率 0 か 1 かで判定する道具。概収束の証明はほとんどこれで行う
上極限事象と下極限事象
無限に続く試行、たとえば硬貨を無限回投げる試行を考えると、「表が無限回出る」「ある時点から先はずっと裏」のような、有限回の観察では決着しない事象が自然に現れる。これらは第1章 §1.2 で定めた上極限事象と下極限事象で書ける。定義を再掲し、この節で使う形に言い直しておく。
定義 4.20(上極限事象・下極限事象(第1章 §1.2 の再掲))
事象の列 A1,A2,… に対して
n→∞limsupAn:=m=1⋂∞n=m⋃∞An,n→∞liminfAn:=m=1⋃∞n=m⋂∞An(4.19)
と定め、それぞれ上極限事象、下極限事象と呼ぶ。可算個の和と共通部分なので、どちらも F に属する。
定義を言葉に直す。
- 上極限事象。ω∈limsupAn は、どの m についても、それ以降のある番号でその事象に入ることを言う。すなわち点 ω が無限に多くの An に属することと同値である。そこで limsupAn を {An i.o.}(infinitely often)とも書く。
- 下極限事象。ω∈liminfAn は、ある m から先のすべての番号でその事象に入ることを言う。すなわち有限個の例外を除いて An に属することと同値である。これを「ついには An に入る」と言う。
指示関数で書くと 1limsupAn=limsupn1An、1liminfAn=liminfn1An である。定義から liminfAn⊂limsupAn で、de Morgan の法則から
(n→∞limsupAn)c=n→∞liminfAnc(4.20)
が成り立つ。「無限回は起こらない」と「ある時点から先はずっと起こらない」は同じことだからである。
第1章 §1.4 で導入した「ほとんど確実に」をここで思い出しておく。性質 Q(ω) が成り立つ点の全体が確率1の事象を含むとき、Q はほとんど確実に(almost surely、a.s.)成り立つという。確率1の事象は空でない補集合を持ち得るので、「ほとんど確実に」は「確実に」より弱い。
可算個の確率1の事象の共通部分は、また確率1である。補集合の和に劣加法性 (4.1) を使えば、確率0の可算個の和の確率が0だからである。この「可算個なら確率1のまま束ねられる」性質を、以下で何度も使う。
Borel–Cantelli の補題
定理 4.21(Borel–Cantelli の第1補題 ★★★)
事象の列 A1,A2,… が ∑n=1∞P(An)<∞ を満たすなら、
P(n→∞limsupAn)=0.
すなわち、ほとんど確実に An は有限回しか起こらない。
証明
任意の m について limsupAn⊂⋃n≥mAn だから、単調性と劣加法性 (4.1) により
P(n→∞limsupAn)≤P(n=m⋃∞An)≤n=m∑∞P(An).
右辺は収束する級数の末尾なので、m→∞ で 0 に近づく。左辺は m によらないから 0 である。
第1補題は独立性を仮定していない。確率の和が有限なら、事象のあいだにどんな依存関係があっても結論が成り立つ。逆向き、すなわち確率の和が発散するときに「無限回起こる」と結論するには、独立性が要る。
定理 4.22(Borel–Cantelli の第2補題 ★★★)
事象 A1,A2,… が独立で ∑n=1∞P(An)=∞ なら、
P(n→∞limsupAn)=1.
すなわち、ほとんど確実に An は無限回起こる。
証明
(4.20) から、P(liminfAnc)=0 を示せばよい。下極限事象は次の和集合である。
liminfAnc=m⋃n≥m⋂Anc
劣加法性により、各 m について P(⋂n≥mAnc)=0 を示せば十分である。
m≤N を固定する。系 4.11 から Amc,…,ANc は独立なので
P(n=m⋂NAnc)=n=m∏N(1−P(An))≤n=m∏Ne−P(An)=exp(−n=m∑NP(An))
となる。ここで不等式 1−x≤e−x(x∈R)を使った。この不等式は、e−x が凸関数で、原点での接線が 1−x であることから従う。
仮定から N→∞ で ∑n=mNP(An)→∞ なので、右辺は 0 に近づく。共通部分 ⋂n=mNAnc は、上端について減少して ⋂n≥mAnc に近づく。よって連続性 (4.1) により、その確率は0である。
Borel–Cantelli の2つの補題
- ∑P(An)<∞ なら、依存関係によらず P(An i.o.)=0。
- ∑P(An)=∞ かつ独立なら、P(An i.o.)=1。
- したがって独立な事象列では、P(An i.o.) は 0 か 1 のどちらかしかとらない。どちらになるかは、級数 ∑P(An) の収束・発散だけで決まる。
第2補題で独立性を外せない例
Ω=[0,1) に Lebesgue 測度を入れ、An=[0,1/n) とする。確率の和は ∑1/n=∞ と発散する。
しかし無限に多くの An に属する点は原点だけで、P(limsupAn)=P({0})=0 である。この事象列は減少列で、An+1 が起きれば An も起きるという強い依存関係を持っている。なお、第2補題の独立性は「対ごとに独立」まで弱められることが知られている(第10章 §10.1 の Chebyshev の不等式を使う証明があるが、本書では扱わない)。
応用:極値の増え方と連の長さ
Borel–Cantelli の補題の典型的な使い方は、確率変数の列の上極限を2方向から挟むことである。上からの評価には第1補題、下からの評価には第2補題を使う。

図 4.4 独立同分布 Xn∼Ex(1) の見本(n=1,…,300、乱数の種を固定して生成)。曲線 logn を超える点は n が大きくなっても現れ続け、2logn を超える点はやがて現れなくなる。例題 4.6 は、この見た目を limsupXn/logn=1(ほとんど確実に)という形で証明する。
例題 4.6 指数分布の列の上極限 ★★★
オリジナルX1,X2,… を独立同分布で Xn∼Ex(1) とする。ほとんど確実に
n→∞limsuplognXn=1
であることを示せ(log は自然対数)。
解答
正の数 c と2以上の番号について、事象 An(c)={Xn>clogn} を置く。すると
P(An(c))=e−clogn=n−c
である。
上からの評価。c>1 なら級数 ∑nn−c は収束する。第1補題から P(An(c) i.o.)=0 である。
したがってほとんど確実に、ある番号 N(ω) から先では Xn≤clogn となる。よって limsupXn/logn≤c である。
c=1+1/k(k=1,2,…)として得られる確率1の事象は可算個なので、その共通部分も確率1である。その上では、すべての k で次が成り立つ。
n→∞limsuplognXn≤1+k1
よってほとんど確実に limsupXn/logn≤1 である。
下からの評価。c=1 とすると P(An(1))=1/n で、確率の和は発散する。事象 An(1) は σ(Xn) に属し、確率変数の列は独立だから、これらの事象も独立である。
第2補題から、ほとんど確実に Xn>logn が無限に多くの番号で成り立つ。よって limsupXn/logn≥1 となる。
2つを合わせて、ほとんど確実に limsupXn/logn=1 である。上からの評価には独立性を使わなかったことに注意する。図 4.4 の見本で logn を超える点が散発的に現れ続ける。これは ∑1/n がゆっくり(対数の速さで)発散することに対応している。
例題 4.7 硬貨投げの表の連 ★★
オリジナル公正な硬貨を無限回投げる。第 n 回が表である事象を Hn とする。H1,H2,… は独立で、どれも確率 1/2 とする(例題 4.3 の桁を使えば、この列は実際に作れる)。
- 任意に固定した k≥1 について、「表が k 回続く」ことがほとんど確実に無限回起こることを示せ。
- 第 n 回から始まる表の連の長さを Rn とする(その回が裏なら 0)。ほとんど確実に次が成り立つことを示せ。
n→∞limsuplog2nRn≤1
解答
(1) 投げる回を長さ k のブロックに区切り、m 番目のブロックがすべて表である事象を
Bm=H(m−1)k+1∩H(m−1)k+2∩⋯∩Hmk
と置く。ブロックは互いに重ならないので、まとめ方の補題(定理 4.13)を σ加法族 {∅,Hn,Hnc,Ω} に使うと、B1,B2,… は独立である。また P(Bm)=2−k なので ∑mP(Bm)=∞ である。第2補題から、ほとんど確実に Bm が無限回起こり、表の k 連が無限回現れる。
すべての k について同時に成り立つことも分かる。k=1,2,… のそれぞれで確率1の事象が得られ、それらは可算個なので、共通部分もまた確率1である。
ブロックに区切らずに、第 n 回から始まる連 Cn=Hn∩⋯∩Hn+k−1 を使うとどうなるか。隣り合う Cn と Cn+1 は投げる回を共有するので独立でなく、第2補題をそのままは使えない。互いに素なブロックに区切ったのは、独立な事象列を作るためである。
(2) 整数 r≥1 をとる。Rn≥r は、次の事象と同じである。
Hn∩Hn+1∩⋯∩Hn+r−1
よって P(Rn≥r)=2−r である。
実数 t>0 をとる。連の長さは整数なので、条件 Rn≥t と Rn≥⌈t⌉ は同じである。よって次が成り立つ。
P(Rn≥t)=2−⌈t⌉≤2−t
c>1 として t=clog2n を代入すると
P(Rn≥clog2n)≤2−clog2n=n−c,n∑n−c<∞.
第1補題から、ほとんど確実にある時点から先は Rn<clog2n で、limsupRn/log2n≤c である。c=1+1/k として可算個の確率1の事象の共通部分をとれば、ほとんど確実に limsupRn/log2n≤1 を得る。Rn と Rn+1 は独立でないが、第1補題は独立性を要求しないのでこの議論はそのまま通る。
下からの評価と等号
(2) の上極限は実は 1 に等しい(ほとんど確実に)。下からの評価には、長さ log2n 程度の互いに素なブロックを並べて第2補題を使う工夫が要り、(1) のブロックの考え方をブロックの長さが伸びる場合に広げることになる。
最後に、Borel–Cantelli の第1補題から概収束を示す型を書いておく。第11章で詳しく扱う概収束 Xn→X a.s. とは、次の集合が確率1の事象であることをいう。
{ω:Xn(ω)→X(ω)}
命題 4.23(概収束の十分条件)
任意の ε>0 について ∑nP(∣Xn−X∣>ε)<∞ とする。このとき Xn→X ほとんど確実に。
証明は確認テスト 4.4-5 とする。この形は第12章で強法則を4次モーメントから示すときに、そのまま使う。
確認テスト
オリジナル
- 4.4-1 de Morgan の法則 (4.20) を、定義 (4.19) から示せ。
- 4.4-2 X1,X2,… を独立で、どれも [0,1] 上の一様分布に従うとする。P(Xn<n−2 i.o.) と P(Xn<n−1 i.o.) を求めよ。
- 4.4-3 X1,X2,… を独立同分布とし、次を満たすとする。
P(Xn>x)=x−2(x≥1)
ほとんど確実に次が成り立つことを示せ。
n→∞limsuplognlogXn=21
4. 4.4-4 Ω=[0,1) に Lebesgue 測度を入れ、An=[0,1/n) とする。limsupAn を求めよ。また A2 と A3 が独立でないことを確かめよ。5. 4.4-5 命題 4.23 を証明せよ。
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