確率論入門 第7章 §7.4 ★★★ 足す個数が確率変数のとき。分布は畳み込みの混合、母関数は合成、平均は「個数の平均×1つの平均」
ランダム和とその分布
ある期間に保険会社へ届く請求の件数 N と、1件ごとの請求額 X1,X2,… を考える。支払いの総額は X1+⋯+XN で、足す個数そのものが確率変数である。§7.3 の畳み込みは個数を固定した和しか扱わないので、もう1段の手続きが要る。
定義 7.12(ランダム和と複合分布)
次の設定を考える。
- X1,X2,… は、同じ分布 μ に従う独立な確率変数の列である。
- N は値 0,1,2,… をとる確率変数である。
- N と列 (Xi)i≥1 は独立である。すなわち σ(N) と σ(X1,X2,…) が独立である。
Sn=X1+⋯+Xn と置く(S0=0)。
SN(ω)=SN(ω)(ω)=n=0∑∞1{N(ω)=n}Sn(ω)(7.20)
をランダム和と呼ぶ。SN の分布を複合分布と呼ぶ。とくに N∼Po(λ) のとき複合 Poisson 分布と呼ぶ。
(7.20) の右辺は、各 ω で1つの項だけが残る和である。可測関数の各点極限なので、SN は確率変数である(第3章 §3.1)。
定理 7.13(複合分布は畳み込みの混合 ★★★)
定義 7.12 の状況で、pn=P(N=n) と置くと
P(SN∈B)=n=0∑∞pnP(Sn∈B)=n=0∑∞pnμ∗n(B)(B∈B(R)).(7.21)
証明
事象 {N=n} たちは互いに素で、和は全体 Ω である。可算加法性により
P(SN∈B)=n∑P(N=n, SN∈B)=n∑P(N=n, Sn∈B).
{Sn∈B} は σ(X1,…,Xn) の元である。したがって {N=n} と独立である。したがって
P(N=n, Sn∈B)=pnP(Sn∈B)
である。Sn の分布は定理 7.9 により μ∗n である。
(7.21) は全確率の公式(第4章 §4.1)を N の値で場合分けしたものである。複合分布は、個数を固定したときの分布 μ∗n を、重み pn で混ぜ合わせた分布になっている。
とくに P(SN=0)≥p0 である。したがって Xi が密度を持っても、p0>0 ならランダム和は0に原子を持つ。このとき分布は、離散部分と連続部分の混合になる(第3章 §3.4)。
確率母関数の合成
Xi が値 0,1,2,… をとるとき、混合 (7.21) は確率母関数を使うと1つの式にまとまる。確率母関数は第8章 §8.1 で詳しく扱うが、ここでは定義と1つの性質だけを使う。値 0,1,2,… をとる X について
GX(s)=E[sX]=k=0∑∞P(X=k)sk(∣s∣≤1)(7.22)
を X の確率母関数と呼ぶ。∣s∣≤1 では係数の絶対値の和が1なので、級数は絶対収束する。冪級数の係数は P(X=k)=GX(k)(0)/k! で取り出せるので、確率母関数は分布をただ1つに定める。
また、独立な X,Y について、(7.16) の両辺に sk を掛けて足す(絶対収束する二重級数の並べ替え)。すると
GX+Y(s)=k∑j∑P(X=j)sjP(Y=k−j)sk−j=GX(s)GY(s)(7.23)
を得る。
定理 7.14(ランダム和の確率母関数 ★★★)
定義 7.12 の状況で、Xi が値 0,1,2,… をとるとする。このとき ∣s∣≤1 で
GSN(s)=GN(GX(s))(7.24)
が成り立つ。ここで GX は X1 の確率母関数である。とくに N∼Po(λ) なら GN(s)=eλ(s−1) であり、
GSN(s)=exp(λ(GX(s)−1)).
証明
(7.23) を繰り返し使うと GSn(s)=GX(s)n である(n=0 では1)。(7.21) を B={k} に使い、sk を掛けて足す。二重級数の各項の絶対値は pnP(Sn=k)∣s∣k≤pnP(Sn=k) で、その総和は1である。したがって和の順序を入れ替えてよく、
GSN(s)=k∑P(SN=k)sk=n∑pnk∑P(Sn=k)sk=n∑pnGX(s)n=GN(GX(s)).
最後の等号は、∣GX(s)∣≤1 なので定義 (7.22) にそのまま代入してよいことによる。Poisson 分布については
GN(s)=k∑e−λk!λksk=e−λeλs
である。
例題 7.7 Poisson 個の Bernoulli の和(間引き) ★★★
オリジナルある店に1日に来る客の数を N∼Po(λ) とする。各客は、他の客や来客数と独立に、確率 p で商品を買う(確率 1−p で買わない)。商品を買った客の数を K、買わなかった客の数を L=N−K とする。
- K∼Po(λp) を、確率母関数の合成 (7.24) を使って示せ。
- K と L が独立であることを示せ。また L∼Po(λ(1−p)) を示せ。
- λ=20、p=0.3 とする。P(K=0) と、K の平均・分散を求めよ。
解答
(1) 客 i が買えば1、買わなければ0をとる Xi を置く。K=X1+⋯+XN はランダム和で、GX(s)=1−p+ps である。定理 7.14 から
GK(s)=exp(λ(1−p+ps−1))=exp(λp(s−1)).
これは Po(λp) の確率母関数である。確率母関数は分布を決めるから、K∼Po(λp) である。
(2) k,l≥0 をとる。K=k かつ L=l という事象は、次の事象と同じである。
{N=k+l}∩{最初の k+l 人のうち、買った人がちょうど k 人}
N と (Xi) の独立性から
P(K=k, L=l)=P(N=k+l)(kk+l)pk(1−p)l=e−λ(k+l)!λk+l⋅k!l!(k+l)!pk(1−p)l=e−λpk!(λp)k⋅e−λ(1−p)l!(λ(1−p))l.
e−λ=e−λpe−λ(1−p) と λk+l=λkλl を分けた。同時確率関数が、k だけの関数と l だけの関数の積に分かれ、それぞれが Poisson 分布の確率関数である。第4章 §4.2 の判定により、K と L は独立である。また L∼Po(λ(1−p)) である。
(3) λp=6 である。Poisson 分布の平均と分散はともにパラメータに等しいので(第6章 §6.1)、
P(K=0)=e−6≈0.00248,E[K]=V[K]=6.
来客数を知らないと、K と L は独立になる。一方、来客数を固定すると K+L=N なので独立ではない。この独立性は、来客数が Poisson 分布に従うことによって初めて成り立つ。
平均と分散
定理 7.15(ランダム和の平均と分散 ★★★)
定義 7.12 の状況で、E∣X1∣<∞ かつ E[N]<∞ なら
E[SN]=E[N]E[X1].(7.25)
さらに E[X12]<∞、E[N2]<∞ なら
V[SN]=E[N]V[X1]+V[N](E[X1])2.(7.26)
とくに複合 Poisson 分布(N∼Po(λ))では、次が成り立つ。
E[SN]=λE[X1],V[SN]=λE[X12]
証明
m=E[X1]、v=V[X1] と置く。まず、非負の ∣SN∣ に (7.20) を使う。単調収束定理(第5章 §5.2)で和と期待値を入れ替え、1{N=n} と Sn の独立性で積に分けると
E∣SN∣=n∑E[1{N=n}∣Sn∣]=n∑pnE∣Sn∣≤n∑pnnE∣X1∣=E[N]E∣X1∣<∞.
これで SN が可積分であることが分かった。部分和について次が成り立つ。
n≤M∑1{N=n}Sn≤∣SN∣
したがって、優収束定理により同じ入れ替えが SN そのものでも許され、
E[SN]=n∑pnE[Sn]=n∑pnnm=E[N]m.
2乗についても同様である(SN2=∑n1{N=n}Sn2 は非負)。独立な和の分散は分散の和なので(第5章 §5.4)、
E[Sn2]=V[Sn]+(E[Sn])2=nv+n2m2.
これを使って
E[SN2]=n∑pn(nv+n2m2)=E[N]v+E[N2]m2.
したがって
V[SN]=E[N]v+E[N2]m2−(E[N]m)2=E[N]v+V[N]m2
である。Poisson 分布では E[N]=V[N]=λ なので、分散は λv+λm2=λE[X12] となる。
(7.26) の2つの項は、ばらつきの2つの源に対応する。
- 第1項は、件数を固定しても1件ごとの額がばらつく分である。
- 第2項は、1件ごとの額を平均に固定しても件数がばらつく分である。
保険金の総額
1年間の請求件数を N∼Po(50) とする。1件の請求額(単位:万円)を Xi∼Ex(1/20) とする。平均は20で、E[Xi2]=2⋅202=800 である。
- 総額 SN の平均は 50×20=1000 である。分散は 50×800=40000 で、標準偏差は200である。
- 件数が平均の50に固定されていれば、分散は 50×V[X1]=50×400=20000 にとどまる。残りの20000は件数のばらつきに由来する。
- また P(SN=0)=P(N=0)=e−50 で、総額は0にごく小さな原子を持つ。
Wald の等式
(7.25) の証明では、N と列 (Xi) の独立性を使った。しかし実際によく現れるのは、Xi の値を見ながら止める時刻を決める場合である。そのとき両者は独立でない。
たとえばサイコロを6が出るまで振り続けるとき、振った回数 N は出た目で決まる。それでも平均の公式は、次の弱い条件のもとで成り立つ。
定理 7.16(Wald の等式 ★★★)
次の3つを仮定する。
- (i) X1,X2,… は同じ分布に従い、E∣X1∣<∞ である。
- (ii) N は非負整数値をとり、E[N]<∞ である。
- (iii) 各番号について、事象 {N≥n} と Xn が独立である。
このとき
E[SN]=E[N]E[X1].(7.27)
証明
E[N]<∞ から P(N<∞)=1 である。したがって SN はほとんど確実に定義される。各 ω で、和の第 n 項は、その番号が回数以下のときだけ現れる。したがって
SN=n=1∑∞Xn1{N≥n}
と書ける。N(ω) が有限なので、右辺は各点で有限和である。まず絶対値を考える。単調収束定理と、1{N≥n} と ∣Xn∣ の独立性(第5章 §5.4)から
E[n=1∑∞∣Xn∣1{N≥n}]=n=1∑∞E∣Xn∣P(N≥n)=E∣X1∣n=1∑∞P(N≥n).
ここで次の等式の期待値をとる(N=k なら右辺は最初の k 項が1)。
N=n≥1∑1{N≥n}
単調収束定理から ∑n≥1P(N≥n)=E[N] である。したがって上の量は E∣X1∣E[N]<∞ である。
よって部分和 ∑n≤MXn1{N≥n} は、可積分な関数 ∑n∣Xn∣1{N≥n} で抑えられる。優収束定理により和と期待値を入れ替えて
E[SN]=n=1∑∞E[Xn]P(N≥n)=E[X1]E[N].
条件「{N≥n} と Xn が独立」は、回数と列全体の独立よりずっと弱い。典型的なのは、直前の回までの結果を見て、n 回目を行うかどうか決める場合である。そのとき {N≥n}={N≤n−1}c は σ(X1,…,Xn−1) の元である。第4章 §4.2 のまとめ方の補題により、これは σ(Xn) と独立になる。
このように、{N≤n} が n 回目までの結果で決まる時刻を停止時刻と呼ぶ。第14章 §14.1 でフィルトレーションの言葉で定め直す。
落とし穴
- E[N]<∞ を落とすと成り立たない。公正な硬貨で表なら +1、裏なら −1 進むランダムウォークを考える。初めて +1 に達した時刻 N で止める。N は停止時刻で、第15章で示すとおり P(N<∞)=1 である。しかし SN=1 なので
E[SN]=1=0=E[N]E[X1]
である。矛盾が起きないのは E[N]=∞ だからである(確認テスト 7.4-5)。
- 未来を見て止めてはならない。「次の回で6が出る直前に止める」ような時刻では、{N≥n} が Xn の値に依存する。条件を満たさないので、(7.27) を使うことはできない。
例題 7.8 6が出るまでの目の合計 ★★
オリジナル公正なサイコロを、6の目が出るまで振り続ける(6が出た回も含めて数える)。振った回数を N、出た目の合計を T とする。
- E[N] を求めよ。
- Wald の等式を使って E[T] を求めよ。
- 6以外の目の合計に分けて E[T] を別の方法で計算し、(2) と一致することを確かめよ。
解答
(1) N は成功確率1/6の幾何分布(値 1,2,…)に従う。したがって P(N≥n)=(65)n−1 である。定理 7.16 の証明で示した E[N]=∑n≥1P(N≥n) から
E[N]=n=1∑∞(65)n−1=1−5/61=6.
(2) k 回目の目を Xk とする。T=SN である。{N≥n} は「直前の回まで6が出ない」事象で、σ(X1,…,Xn−1) に属する。したがって Xn と独立である。E[X1]=27、E[N]=6<∞ なので、定理 7.16 から
E[T]=6×27=21
である。回数は6が出た所で止まるので、N と (Xk) は独立でない。したがって定理 7.15 を使うことはできない。
(3) 合計を、最後の回とそれより前の回に分ける。
T=6+(最後の回を除く N−1 回の目の合計)
最後の回より前の各回の目は、「6でない」という条件のもとで {1,…,5} 上の一様分布に従う。その条件付きの平均は3である。
さらに、回数が N−1=j と決まったもとで、それらの目は互いに独立で、{1,…,5} 上一様に従う。各回が「6以外で値 i」になる確率1/6を、6以外になる確率5/6で割ると1/5になるからである。したがって最後の回を除く合計は、個数 N−1 と、それと独立な一様の列とのランダム和と同じ分布を持つ。
定理 7.15 から、その平均は E[N−1]×3=5×3=15 である。よって E[T]=6+15=21 である。2つの方法の答えが一致した。最初の方法は条件付き分布の考察を全く要しない。
確認テスト
オリジナル
- 7.4-1 定義 7.12 の状況で、Xi が値 0,1,2,… をとるとする。次を示せ。
P(SN=0)=GN(P(X1=0))
2. 7.4-2 N∼Bin(n,q) とする。Xi は回数と独立で、確率 p で1をとり、それ以外は0をとるとする。SN∼Bin(n,pq) を示せ。3. 7.4-3 0<q<1 とする。N は値 1,2,… をとり、次の幾何分布に従うとする。
P(N=n)=(1−q)n−1q
Xi∼Ex(λ) は N と独立であるとする。(7.21) と (7.19) を使って SN∼Ex(λq) を示せ。4. 7.4-4 N∼Po(4) とする。Xi は N と独立で、1と2を確率1/2ずつとるとする。SN の平均と分散を求めよ。また P(SN=2) を求めよ。5. 7.4-5 公正な硬貨で ±1 進むランダムウォーク Sn=X1+⋯+Xn を考える。Xi は独立で、P(Xi=1)=P(Xi=−1)=21 である。初めて Sn=1 となる時刻を N とする。P(N<∞)=1(第15章で示す)を認めて、E[N]=∞ を Wald の等式から示せ。
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