確率論入門 第9章 §9.2 ★★★ 特性関数が等しい分布は等しい。多変量でも成り立ち、独立性は同時特性関数の分解で判定できる
1次元の一意性定理
定理 9.5(一意性定理)
確率変数 X,Y が、すべての実数 t で次を満たすとする。
φX(t)=φY(t)
このとき2つは同分布である(PX=PY)。
証明
2つの確率変数の原子を合わせた集合 N は、高々可算である(第3章 §3.3)。a<b がともに N に属さなければ、反転公式 (9.8) の左辺は2つの特性関数で同じ値をとるので
FX(b)−FX(a)=FY(b)−FY(a)
である。証明は2段で進める。
- N の外の点で分布関数が一致する。N は可算なので、この集合に属さない点列 an↓−∞ を選べる。このとき FX(an)→0 かつ FY(an)→0 である。よって b∈/N なら FX(b)=FY(b) である。
- すべての点で一致する。任意の点 x をとる。この集合に属さない点列 bn で、上から x に近づくものを選べる。区間 (x,x+1/n) は非可算なので、N に属さない点を含むからである。分布関数の右連続性から
FX(x)=limFX(bn)=limFY(bn)=FY(x)
となる。
分布関数が等しいので分布も等しい(第3章 §3.3)。
この定理によって、特性関数は分布の完全な代わりになる。分布を特定したいときは、特性関数を計算して既知の分布の特性関数と比べればよい。第8章で予告した2つの主張をここで証明しておく。
系 9.6(対称な分布)
X=d−X であるための必要十分条件は、φX が実数値であることである。
証明
(9.1) から
φ−X(t)=φX(−t)=φX(t)
である。この式から両向きが従う。
- φX が実数値なら φ−X=φX となる。定理 9.5 から −X=dX である。
- 逆に X=d−X なら φX=φ−X=φX である。よって φX は実数値である。
第8章 §8.2 では、積率母関数が 0 の近くで有限で等しければ分布が等しいこと(積率母関数の一意性)を、複素関数論の一致の定理を使う筋だけ示した。ここでは複素関数論を使わない証明を与える。
定理 9.7(積率母関数の一意性)
ある δ>0 をとる。0 を含むこの幅の開区間の上で、2つの積率母関数 MX,MY がともに有限で等しいとする。このとき X=dY である。
証明
0<s<δ を1つ固定する。es∣x∣≤esx+e−sx だから
E[es∣X∣]≤MX(s)+MX(−s)<∞
である。es∣X∣ を級数に展開して項別積分する(第5章 §5.2 の単調収束定理)と
k≥0∑k!skE[∣X∣k]=E[es∣X∣]<∞
を得る。とくに
n!snE[∣X∣n]⟶0(n→∞)(9.15)
である。Y についても同じである。
第8章 §8.3 の特性関数とモーメントの定理から、φX は何回でも微分でき、
φX(k)(t0)=E[(iX)keit0X]
である。第8章 §8.3 では、指数関数の Taylor 剰余を次のように評価した。
eix−k=0∑nk!(ix)k≤(n+1)!∣x∣n+1
これを x=hX に使い、eit0X を掛けて期待値をとると
φX(t0+h)−k=0∑nk!hkφX(k)(t0)≤(n+1)!∣h∣n+1E[∣X∣n+1]
となる。∣h∣≤s なら、右辺は (9.15) により 0 に収束する。したがって、任意の t0 と ∣h∣≤s について
φX(t0+h)=k=0∑∞k!hkφX(k)(t0)(9.16)
であり、Y についても同じ式が成り立つ。
この級数を使い、2つの特性関数が一致する範囲を順に広げる。
- 原点のまわりで一致する。t0=0 で比べる。MX=MY が (−δ,δ) で成り立つので、0 での導関数も等しく、すべてのモーメントが一致する。
E[Xk]=MX(k)(0)=MY(k)(0)=E[Yk]
よって φX(k)(0)=ikE[Xk]=φY(k)(0) である。(9.16) から、[−s,s] の上で2つの特性関数は一致する。2. 区間の端から先へ延ばす。次に t0=±s で比べる。2つの特性関数は t0 の片側の区間で一致し、どちらも t0 で何回でも微分できる。微分係数は片側からの差分商の極限としても求まるので、すべての k で φX(k)(t0)=φY(k)(t0) である。 (9.16) から、[−2s,2s] の上で一致する。3. 繰り返す。これを繰り返せば、すべての t で φX(t)=φY(t) となる。
定理 9.5 から X=dY である。
この証明の要点は2つある。積率母関数が有限という仮定から、E[∣X∣n] の増え方は n!/sn で抑えられる。その結果、特性関数はどの点のまわりでも半径 s の Taylor 級数で表せる。
第8章 §8.2 の対数正規分布の例では、すべてのモーメントが有限でも E[Xn] が en2/2 の程度で増える。このためこの議論が使えず、実際に同じモーメントをもつ別の分布が存在した。
例題 9.3 特性関数から分布を特定する ★★
オリジナル確率変数 X の特性関数が φX(t)=cost⋅e−t2/2 であるとする。
- X の分布を特定し、密度を書け。
- E[X2] を特性関数から求めよ。
- P(X>1) を標準正規分布の分布関数 Φ で表し、数値を求めよ。
解答
- 余弦関数は次のように書ける。
cost=21eit+21e−it
これは、±1 を等確率でとる確率変数 B の特性関数である(第8章の確認テスト 8.3-1)。Z∼N(0,1) を B と独立にとると、(9.2) から
φB+Z(t)=cost⋅e−t2/2
である。定理 9.5 から X=dB+Z である。B の値で場合分けすると
fX(x)=21⋅2πe−(x−1)2/2+21⋅2πe−(x+1)2/2
となる。N(1,1) と N(−1,1) を半分ずつ混ぜた分布である。2. φX(t)=cost⋅e−t2/2 を2回微分する。積の微分で
φX′′(t)=(−cost)e−t2/2+2(−sint)(−te−t2/2)+cost⋅(t2−1)e−t2/2
だから φX′′(0)=−1+0−1=−2 で、E[X2]=−φX′′(0)=2 である。E[(B+Z)2]=E[B2]+2E[B]E[Z]+E[Z2]=1+0+1 と一致する。3. B の値で場合分けすると
P(X>1)=21P(Z>0)+21P(Z>2)=21(21+1−Φ(2))≈21(0.5+0.02275)≈0.2614
である。
多変量の一意性定理
Rd 値の確率ベクトル X=(X1,…,Xd)⊤ の同時特性関数を
φX(t):=E[eit⊤X]=E[ei(t1X1+⋯+tdXd)](t∈Rd)(9.17)
で定める。1次元の反転公式を d 次元に広げることもできるが、ここでは正規分布を使って次元によらない形で一意性を証明する。各成分の分散が σ2 の d 次元正規分布の密度を、次のように書く。
ϕσ(x):=(2πσ2)−d/2e−∣x∣2/(2σ2)
補題 9.8(正規分布によるなめらか化)
Z∼Nd(0,I) を X と独立にとる。σ>0 とすると、X+σZ は密度
fσ(x)=(2π)d1∫Rde−it⊤xφX(t)e−σ2∣t∣2/2dt(9.18)
をもつ。とくに X+σZ の分布は φX だけで決まる。
証明
(9.3) で x=σt と置換する。さらに t の代わりに −u/σ を入れると、1次元の等式
2π1∫−∞∞e−itue−σ2t2/2dt=2πσ21e−u2/(2σ2)
を得る。これを各座標で掛け合わせると
ϕσ(u)=(2π)d1∫Rde−it⊤ue−σ2∣t∣2/2dt(9.19)
である。σZ は密度 ϕσ をもち、もとのベクトルと独立である。よって第7章 §7.3 の畳み込みにより、和は次の密度をもつ。
fσ(x)=E[ϕσ(x−X)]
(9.19) を u=x−X で代入すると
fσ(x)=E[(2π)d1∫Rde−it⊤(x−X)e−σ2∣t∣2/2dt]
となる。被積分関数の絶対値は e−σ2∣t∣2/2 で、これは Rd×Ω の上で可積分である。Fubini の定理により期待値と積分を交換すると E[eit⊤X]=φX(t) が現れ、(9.18) を得る。
補題 9.9(有界連続関数の期待値は分布を決める)
2つの d 次元確率ベクトル X,Y が、すべての有界連続関数について次を満たすとする。
E[g(X)]=E[g(Y)]
このとき X=dY である。
証明
点 x∈Rd を固定する。1変数の連続関数
hn(s)=min(1,max(0,1−ns))
を使う。これは s≤0 で 1、s≥1/n で 0 をとり、その間は1次関数である。これを使って gn(y)=∏k=1dhn(yk−xk) と置く。
- gn は有界連続である。
- n→∞ のとき、gn は各点で減少しながら次の指示関数に収束する。
1{y≤x}ここで y≤x は、すべての成分で yk≤xk という意味である。
優収束定理(優関数は定数 1)から
P(X≤x)=limE[gn(X)]=limE[gn(Y)]=P(Y≤x)
である。同時分布関数が一致するので、同時分布も一致する。区間の族 {(−∞,x]} は B(Rd) を生成する π系なので、第4章 §4.3 と第2章 §2.3 の一意性が使えるからである。
定理 9.10(多変量の一意性定理)
2つの d 次元確率ベクトル X,Y が、すべての点で次を満たすとする。
φX(t)=φY(t)
このとき X=dY である。
証明
Z∼Nd(0,I) を、2つの確率ベクトルのどちらとも独立にとる。2つのベクトルは別の確率空間にあってもよく、それぞれの空間で Z をとればよい。
各 σ>0 で、雑音を足した2つの確率ベクトルを比べる。
X+σZ,Y+σZ補題 9.8 から、この2つは同じ密度をもち、同分布である。よって有界連続な g について
E[g(X+σZ)]=E[g(Y+σZ)]
である。ここで σ→0 とする。
- 各標本点で g(X+σZ)→g(X) である(g の連続性)。
- ∣g∣ は定数で抑えられる。
優収束定理から、左辺は E[g(X)] に、右辺は E[g(Y)] に収束する。補題 9.9 から X=dY である。
d=1 の場合、この証明は定理 9.5 の別証明になっている。2つの証明は経由するものが違う。
- 1次元の証明は、反転公式という具体的な公式を経由する。
- この証明は、「分布に小さな正規分布の雑音を足すと、その密度は特性関数の積分で書ける」ことを経由する。
多変量の一意性からすぐに分かることを3つ挙げる。
- 分布は1次元の射影で決まる。確率ベクトル X の分布は、すべての1次元の射影 t⊤X の分布で決まる。実際
φX(t)=E[ei⋅1⋅t⊤X]=φt⊤X(1)
である。よってすべての方向で t⊤X=dt⊤Y なら、φX=φY となる。この事実を分布収束の形にしたものが、第13章 §13.3 の Cramér–Wold の方法である。2. 多変量正規分布は平均と共分散行列で決まる。第6章 §6.2 の多変量正規分布 X=μ+AZ を考える。射影は
t⊤X=t⊤μ+(A⊤t)⊤Z
である。第2項は独立な正規分布の1次結合なので、N(0,A⊤t2) に従う(第6章 §6.3)。A⊤t2=t⊤AA⊤t なので、Σ=AA⊤ と書くと
φX(t)=φt⊤X(1)=exp(it⊤μ−21t⊤Σt)(9.20)
である。右辺は A によらず、Σ だけで決まる。定理 9.10 から分布も A によらない。3. 独立性を同時特性関数で判定できる。次の定理である。
定理 9.11(独立性の判定)
X=(X1,…,Xd)⊤ の成分が独立であるための必要十分条件は、すべての t∈Rd で
φX(t1,…,td)=k=1∏dφXk(tk)(9.21)
が成り立つことである。
証明
- 必要性。eit⊤X=∏keitkXk である。独立な確率変数の有界な関数の積の期待値は、期待値の積になる。これには第8章 §8.3 の複素数値の期待値の補題を、d 個に繰り返し使う。
- 十分性。Y1,…,Yd を、独立で Yk=dXk となるようにとる(第4章 §4.3 の積測度)。必要性から
φY(t)=k∏φYk(tk)=k∏φXk(tk)
で、仮定からこれは φX(t) に等しい。定理 9.10 から X=dY である。よって X の同時分布は周辺分布の積測度であり、第4章 §4.3 から成分は独立である。
例題 9.4 無相関と独立 ★★★
オリジナル
- 次の2変量正規分布を考える。
(X,Y)⊤∼N2(0,Σ),Σ=(1ρρ1)(∣ρ∣≤1)
ρ=0 なら2つの成分が独立であることを、定理 9.11 で示せ。2. X∼N(0,1) をとる。これと独立で ±1 を等確率でとる ε をとる。Y=εX と置く。
- Y∼N(0,1) で、Cov(X,Y)=0 であることを示せ。
- (X,Y) の同時特性関数を計算して、2つが独立でないことを示せ。
解答
- (9.20) から
φ(X,Y)(s,t)=exp(−21(s2+2ρst+t2))
である。ρ で場合分けする。
- ρ=0 なら e−s2/2e−t2/2=φX(s)φY(t) と分解する。定理 9.11 から2つは独立である。
- ρ=0 なら、e−ρst=1 となる点がある。よって独立でない。
- ε の値で場合分けし、−X=dX を使うと
P(Y≤y)=21P(X≤y)+21P(−X≤y)=P(X≤y)
となる。よって Y∼N(0,1) である。また E[XY]=E[ε]E[X2]=0 だから、共分散は 0 である。同時特性関数は、ε の値で場合分けして
φ(X,Y)(s,t)=21E[ei(s+t)X]+21E[ei(s−t)X]=21(e−(s+t)2/2+e−(s−t)2/2)=e−(s2+t2)/2cosh(st)
となる。これを φX(s)φY(t)=e−(s2+t2)/2 と比べる。st=0 では cosh(st)>1 なので、一致しない。定理 9.11 から2つは独立でない(実際 ∣X∣=∣Y∣ である)。
(2) の (X,Y) は、成分がどちらも正規分布で無相関だが、同時分布は2変量正規分布ではない。(1) の「無相関なら独立」は、同時分布が多変量正規であるときに限る。
確認テスト
オリジナル
- 9.2-1 特性関数が φX(t)=e2it である確率変数 X は何か。理由も書け。
- 9.2-2 φX(t)=31(1+2cost) である X の分布を求めよ。また X と独立で同分布の Y をとる。和の特性関数を展開して、X+Y の分布を求めよ。
- 9.2-3 E1,E2 が独立で Ex(1) に従うとする。差 E1−E2 の特性関数を求めよ。また、差が Laplace 分布(密度 21e−∣x∣)に従うことを示せ。
- 9.2-4 (X,Y) の同時特性関数が次であるとする。
exp(−21(s2+2ρst+t2))(∣ρ∣<1)
X+Y と X−Y の分布を求め、この2つが独立であることを示せ。5. 9.2-5 X と Y が独立で同分布とする。差 X−Y の特性関数は ∣φX(t)∣2 であることを示せ。また、差の分布は原点について対称であることを示せ。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com