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マルコフ性と遷移確率行列

2026年10月15日19分で読めますAI生成教科書『基礎理論』第14章 確率過程とマルコフ連鎖
目次
  1. マルコフ連鎖の定義
  2. 同時分布と存在
  3. Chapman–Kolmogorov 方程式
  4. 強マルコフ性
  5. 確認テスト
  6. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

確率論入門 第14章 §14.4 ★★★ 現在が分かれば過去は要らない。同時分布は初期分布と遷移確率の積、nn ステップの遷移は行列の nn 乗

マルコフ連鎖の定義

この節と次の節では、離散時間の過程 (Xn)n≥0(X_n)_{n\ge0} を扱う。状態空間 SS は有限集合か可算集合とする。状態は i,j,ki,j,k などの文字で表す。

定義 14.20(マルコフ連鎖 ★★★)

SS 上の数の組 P=(pij)i,j∈SP=(p_{ij})_{i,j\in S} が

pij≥0,∑j∈Spij=1(i∈S)p_{ij}\ge0,\qquad\sum_{j\in S}p_{ij}=1\qquad(i\in S)

を満たすとき、PP を確率行列(遷移確率行列)と呼ぶ。状態空間上の確率 μ=(μi)i∈S\mu=(\mu_i)_{i\in S} と確率行列 PP をとる。過程 (Xn)n≥0(X_n)_{n\ge0} が次の2条件

  1. (M1) P(X0=i)=μiP(X_0=i)=\mu_i(i∈Si\in S)
  2. (M2) 条件の事象の確率が正であるすべての時刻と状態について

P(Xn+1=j∣X0=i0,…,Xn−1=in−1,Xn=i)=pijP(X_{n+1}=j\mid X_0=i_0,\dots,X_{n-1}=i_{n-1},X_n=i)=p_{ij}

を満たすとき、初期分布 μ\mu・遷移確率行列 PP の(時間的に一様な)マルコフ連鎖と呼ぶ。

(M2) がマルコフ性である。次の時刻の状態の条件つき分布は、これまでの履歴のうち現在の状態 Xn=iX_n=i だけで決まる。それ以前の経路 i0,…,in−1i_0,\dots,i_{n-1} にはよらない。

さらに、その分布 pi⋅p_{i\cdot} が時刻にもよらないことを「時間的に一様」という。この章では時間的に一様な連鎖だけを扱う。確率行列の各行は「状態 ii から1歩でどこへ行くか」の確率分布で、行の和が 1 になっている。

初期状態を X0=iX_0=i と固定した連鎖についての確率と期待値を

Pi( ⋅ )=P( ⋅∣X0=i),Ei[ ⋅ ]P_i(\,\cdot\,)=P(\,\cdot\mid X_0=i),\qquad E_i[\,\cdot\,]

と書く。初期分布 μ\mu のときは PμP_\mu と書く。全確率の公式から Pμ=∑iμiPiP_\mu=\sum_i\mu_iP_i である。

マルコフ連鎖の例

  1. ランダムウォーク。状態空間は S=ZS=\mathbb{Z} で、遷移確率は次のとおりである。

pi,i+1=p,pi,i−1=1−pp_{i,i+1}=p,\qquad p_{i,i-1}=1-p

独立増分を持つ整数値の過程はマルコフ連鎖である(確認テスト 14.4-4)。2. ギャンブラーの破産。状態空間は S={0,1,…,M}S=\{0,1,\dots,M\} である。所持金が 1≤i≤M−11\le i\le M-1 の賭け手は、1回ごとに確率 pp で 1 増やし、残りの確率で 1 減らす。所持金が 0 か MM になったら止める(p00=pMM=1p_{00}=p_{MM}=1)。3. Ehrenfest の壺。2つの箱に合わせて MM 個の球がある。毎回すべての球から1個を等確率で選び、もう一方の箱へ移す。箱 A の球の個数 XnX_n は S={0,…,M}S=\{0,\dots,M\} 上のマルコフ連鎖で、遷移確率は次のとおりである。

pk,k−1=kM,pk,k+1=M−kMp_{k,k-1}=\frac kM,\qquad p_{k,k+1}=\frac{M-k}M

気体の拡散の素朴な模型である。4. 2状態の連鎖。S={1,2}S=\{1,2\}、0≤a,b≤10\le a,b\le1 として

P=(1−aab1−b).P=\begin{pmatrix}1-a&a\\b&1-b\end{pmatrix}.

晴れ(状態1)と雨(状態2)の翌日の天気の模型として読むことができる。

落とし穴

  • マルコフ連鎖の関数はマルコフ連鎖とは限らない。状態をまとめると、まとめた状態の中のどこにいるかという情報が過去の経路に残り、マルコフ性が壊れることがある(確認テスト 14.4-3)。
  • マルコフ性は独立性ではない。Xn+1X_{n+1} と XnX_n は一般に独立でなく、強く依存してよい。マルコフ性が要求するのは、現在 XnX_n を固定すれば、次の値 Xn+1X_{n+1} と過去が切り離されることである。

同時分布と存在

定理 14.21(有限次元分布 ★★★)

次の2つは同値である。

  • (Xn)(X_n) は、与えられた初期分布と遷移確率行列 PP をもつマルコフ連鎖である。
  • 次の等式が成り立つ。

すべての nn と i0,…,in∈Si_0,\dots,i_n\in S について

P(X0=i0,X1=i1,…,Xn=in)=μi0 pi0i1 pi1i2⋯pin−1in(14.11)P(X_0=i_0,X_1=i_1,\dots,X_n=i_n)=\mu_{i_0}\,p_{i_0i_1}\,p_{i_1i_2}\cdots p_{i_{n-1}i_n}\tag{14.11}

である。

証明

必要性。Ak={Xk=ik}A_k=\{X_k=i_k\} と置き、乗法公式 (14.1) を使う。P(A0∩⋯∩Ak−1)>0P(A_0\cap\cdots\cap A_{k-1})>0 である限り、(M2) から次が成り立つ。

P(Ak∣A0∩⋯∩Ak−1)=pik−1ikP(A_k\mid A_0\cap\cdots\cap A_{k-1})=p_{i_{k-1}i_k}

これを P(A0)=μi0P(A_0)=\mu_{i_0} と掛け合わせて (14.11) を得る。

途中のある kk で P(A0∩⋯∩Ak−1)=0P(A_0\cap\cdots\cap A_{k-1})=0 になるときは、左辺は 0 である。このとき右辺も 0 になる。実際、kk についての帰納法で次が成り立つ。

P(A0∩⋯∩Ak−1)=μi0pi0i1⋯pik−2ik−1P(A_0\cap\cdots\cap A_{k-1})=\mu_{i_0}p_{i_0i_1}\cdots p_{i_{k-2}i_{k-1}}

その値が 0 なら、右辺の因子のどれかが 0 である。

十分性。(14.11) で n=0n=0 とすると (M1) が出る。(M2) の条件の事象の確率が正なら、条件つき確率の定義と (14.11) から

P(Xn+1=j∣X0=i0,…,Xn=i)=μi0pi0i1⋯pin−1i pijμi0pi0i1⋯pin−1i=pij.P(X_{n+1}=j\mid X_0=i_0,\dots,X_n=i)=\frac{\mu_{i_0}p_{i_0i_1}\cdots p_{i_{n-1}i}\,p_{ij}}{\mu_{i_0}p_{i_0i_1}\cdots p_{i_{n-1}i}}=p_{ij}.

(14.11) は、経路 i0→i1→⋯→ini_0\to i_1\to\cdots\to i_n をたどる確率が「出発点の確率×各歩の遷移確率」の積になることを述べている。有限次元分布がこれで決まるので、マルコフ連鎖の法則は初期分布と遷移確率行列だけで決まる。逆に、任意の μ\mu と PP に対して連鎖は存在する。次の構成は、計算機で連鎖を動かす方法でもある。

定理 14.22(マルコフ連鎖の構成 ★★)

状態に S={s1,s2,… }S=\{s_1,s_2,\dots\} と番号をつける。各 i∈Si\in S について、関数 f(i,⋅):(0,1)→Sf(i,\cdot):(0,1)\to S を

f(i,u)=sm(∑l<mpisl<u≤∑l≤mpisl)f(i,u)=s_m\qquad\Bigl(\sum_{l<m}p_{is_l}<u\le\sum_{l\le m}p_{is_l}\Bigr)

と定める(uu が入る区間の番号の状態を返す。第3章 §3.5 の逆変換法)。X0X_0 を分布 μ\mu に従う確率変数とする。U1,U2,…U_1,U_2,\dots を、X0X_0 と独立な独立同分布の一様乱数の列とする。そのうえで

Xn+1=f(Xn,Un+1)(n=0,1,2,… )X_{n+1}=f(X_n,U_{n+1})\qquad(n=0,1,2,\dots)

と置く。こうして作った (Xn)(X_n) は、与えられた初期分布と遷移確率行列をもつマルコフ連鎖である。

証明

U∼U(0,1)U\sim\mathrm U(0,1) とすると、各状態で P(f(i,U)=j)=pijP(f(i,U)=j)=p_{ij} である。関数の値が jj となる点の集合が、長さ pijp_{ij} の区間だからである。XnX_n は (X0,U1,…,Un)(X_0,U_1,\dots,U_n) の関数である。まとめ方の補題(第4章 §4.2)により、Un+1U_{n+1} は (X0,…,Xn)(X_0,\dots,X_n) と独立である。したがって

P(X0=i0,…,Xn=in,Xn+1=j)=P(X0=i0,…,Xn=in, f(in,Un+1)=j)=P(X0=i0,…,Xn=in) pinj.\begin{aligned}P(X_0=i_0,\dots,X_n=i_n,X_{n+1}=j)&=P\bigl(X_0=i_0,\dots,X_n=i_n,\ f(i_n,U_{n+1})=j\bigr)\\ &=P(X_0=i_0,\dots,X_n=i_n)\,p_{i_nj}.\end{aligned}

1行目は、事象 {Xn=in}\{X_n=i_n\} の上で Xn+1=f(in,Un+1)X_{n+1}=f(i_n,U_{n+1}) となることによる。時刻についての帰納法で (14.11) が成り立ち、定理 14.21 から結論を得る。

この構成の形 Xn+1=f(Xn,Un+1)X_{n+1}=f(X_n,U_{n+1}) は、「現在の状態と、過去と独立な新しい乱数から次の状態を作る」というマルコフ性の内容をそのまま表している。独立同分布の一様乱数の列が存在することは、第4章 §4.2 で [0,1)[0,1) 上に具体的に作った。

Chapman–Kolmogorov 方程式

nn ステップの遷移確率を

pij(n)=P(Xm+n=j∣Xm=i)p^{(n)}_{ij}=P(X_{m+n}=j\mid X_m=i)

と書く。時間的に一様な連鎖では、これは mm によらないことを次の定理で示す。0 ステップと1ステップの値は次のとおりである(δij\delta_{ij} は i=ji=j なら 1、そうでなければ 0)。

pij(0)=δij,pij(1)=pijp^{(0)}_{ij}=\delta_{ij},\qquad p^{(1)}_{ij}=p_{ij}

定理 14.23(マルコフ性の一般形 ★★★)

AA を、時刻 m−1m-1 までの値で決まる事象とする。つまり A∈σ(X0,…,Xm−1)A\in\sigma(X_0,\dots,X_{m-1}) である。さらに P(A∩{Xm=i})>0P(A\cap\{X_m=i\})>0 とする。このとき

P(Xm+1=j1,…,Xm+n=jn∣A∩{Xm=i})=pij1pj1j2⋯pjn−1jn=Pi(X1=j1,…,Xn=jn).\begin{aligned}P\bigl(X_{m+1}=j_1,\dots,X_{m+n}=j_n\bigm| A\cap\{X_m=i\}\bigr)&=p_{ij_1}p_{j_1j_2}\cdots p_{j_{n-1}j_n}\\ &=P_i(X_1=j_1,\dots,X_n=j_n).\end{aligned}

すなわち、Xm=iX_m=i のもとで、その時刻以後の過程 (Xm+n)n≥0(X_{m+n})_{n\ge0} は過去の事象によらない。それは初期状態 ii の連鎖と同じ法則を持つ。

証明

SS が可算なので、AA は次の形の排反な事象の和に書ける。

{X0=i0,…,Xm−1=im−1}((i0,…,im−1)∈D)\{X_0=i_0,\dots,X_{m-1}=i_{m-1}\}\qquad((i_0,\dots,i_{m-1})\in D)

ここで DD は可算集合である。各項に (14.11) を使って和をとると

P(A, Xm=i, Xm+1=j1,…,Xm+n=jn)=∑Dμi0pi0i1⋯pim−1i⋅pij1⋯pjn−1jn=P(A, Xm=i)⋅pij1⋯pjn−1jn.\begin{aligned}P\bigl(A,\ X_m=i,\ X_{m+1}=j_1,\dots,X_{m+n}=j_n\bigr) &=\sum_{D}\mu_{i_0}p_{i_0i_1}\cdots p_{i_{m-1}i}\cdot p_{ij_1}\cdots p_{j_{n-1}j_n}\\ &=P(A,\ X_m=i)\cdot p_{ij_1}\cdots p_{j_{n-1}j_n}.\end{aligned}

2行目は、1行目の和のうち DD に依存する部分が、(14.11) により P(A,Xm=i)P(A,X_m=i) に等しいことによる。これで割ると第1の等号を得る。第2の等号は、(14.11) で初期分布を μ=δi\mu=\delta_i(ii に確率 1)とした式である。

定理 14.24(Chapman–Kolmogorov 方程式 ★★★)

nn ステップの遷移確率は、行列の積 PnP^n の対応する成分に等しい。さらに m,n≥0m,n\ge0 について

pij(m+n)=∑k∈Spik(m) pkj(n)(14.12)p^{(m+n)}_{ij}=\sum_{k\in S}p^{(m)}_{ik}\,p^{(n)}_{kj}\tag{14.12}

が成り立つ。初期分布 μ\mu を行ベクトルと見ると、時刻 nn の分布は次のとおりである。

Pμ(Xn=j)=(μPn)jP_\mu(X_n=j)=(\mu P^n)_j

証明

定理 14.23 で A=ΩA=\Omega とする。P(Xm=i)>0P(X_m=i)>0 のとき、中間の状態 j1,…,jn−1j_1,\dots,j_{n-1} について和をとって

P(Xm+n=j∣Xm=i)=∑j1,…,jn−1pij1pj1j2⋯pjn−1j=(Pn)ijP(X_{m+n}=j\mid X_m=i)=\sum_{j_1,\dots,j_{n-1}}p_{ij_1}p_{j_1j_2}\cdots p_{j_{n-1}j}=(P^n)_{ij}

となる。右辺は行列の積の定義そのもので、mm によらない。

SS が無限集合のときも、非負の項の和なので和の順序を自由に入れ替えてよい。したがって行列の積は結合法則を満たす。(14.12) は Pm+n=PmPnP^{m+n}=P^mP^n の成分の式である。最後の主張は、全確率の公式 Pμ(Xn=j)=∑iμipij(n)P_\mu(X_n=j)=\sum_i\mu_ip^{(n)}_{ij} による。

(14.12) は、2点のあいだを m+nm+n 歩で行くことを、途中の mm 歩目にいる場所で場合分けして足し合わせた式である。とくに、ある1つの kk の項だけを残すと

pij(m+n)≥pik(m) pkj(n)(14.13)p^{(m+n)}_{ij}\ge p^{(m)}_{ik}\,p^{(n)}_{kj}\tag{14.13}

が得られる。§14.5 ではこの不等式を繰り返し使う。

強マルコフ性

定理 14.23 は決まった時刻 mm で過程を切り直す主張だった。この時刻を停止時刻に置き換えることができる。

定理 14.25(強マルコフ性 ★★★)

自然なフィルトレーション Fn=σ(X0,…,Xn)\mathcal F_n=\sigma(X_0,\dots,X_n) の停止時刻 τ\tau をとる。事象 AA が「τ\tau までの情報で決まる」、すなわち

A∩{τ=m}∈Fm(m=0,1,2,… )A\cap\{\tau=m\}\in\mathcal F_m\qquad(m=0,1,2,\dots)

を満たすとする。さらに P(A, τ<∞, Xτ=i)>0P(A,\ \tau<\infty,\ X_\tau=i)>0 とする。このとき

P(Xτ+1=j1,…,Xτ+n=jn∣A, τ<∞, Xτ=i)=Pi(X1=j1,…,Xn=jn).P\bigl(X_{\tau+1}=j_1,\dots,X_{\tau+n}=j_n\bigm| A,\ \tau<\infty,\ X_\tau=i\bigr)=P_i(X_1=j_1,\dots,X_n=j_n).

証明

{τ<∞}=⋃m{τ=m}\{\tau<\infty\}=\bigcup_m\{\tau=m\} と排反に分ける。A∩{τ=m}∈FmA\cap\{\tau=m\}\in\mathcal F_m なので、この事象は (X0,…,Xm)(X_0,\dots,X_m) で決まる。したがって {Xm=i}\{X_m=i\} との共通部分は、次の形に書ける。

Am∩{Xm=i},Am∈σ(X0,…,Xm−1)A_m\cap\{X_m=i\},\qquad A_m\in\sigma(X_0,\dots,X_{m-1})

定理 14.23 を各 mm に使うと(確率 0 の項は両辺とも 0)

P(A, τ<∞, Xτ=i, Xτ+1=j1,…,Xτ+n=jn)=∑m=0∞P(A, τ=m, Xm=i, Xm+1=j1,…,Xm+n=jn)=∑m=0∞P(A, τ=m, Xm=i) Pi(X1=j1,…,Xn=jn)=P(A, τ<∞, Xτ=i) Pi(X1=j1,…,Xn=jn).\begin{aligned}&P\bigl(A,\ \tau<\infty,\ X_\tau=i,\ X_{\tau+1}=j_1,\dots,X_{\tau+n}=j_n\bigr)\\ &=\sum_{m=0}^\infty P\bigl(A,\ \tau=m,\ X_m=i,\ X_{m+1}=j_1,\dots,X_{m+n}=j_n\bigr)\\ &=\sum_{m=0}^\infty P\bigl(A,\ \tau=m,\ X_m=i\bigr)\,P_i(X_1=j_1,\dots,X_n=j_n)\\ &=P\bigl(A,\ \tau<\infty,\ X_\tau=i\bigr)\,P_i(X_1=j_1,\dots,X_n=j_n).\end{aligned}

両辺を P(A,τ<∞,Xτ=i)P(A,\tau<\infty,X_\tau=i) で割ればよい。

強マルコフ性から、たとえば次のことが分かる。

  • 状態 jj に初めて戻った時刻 TjT_j で過程を切ると、その後は同じ状態から出発した新しい連鎖と同じで、それまでの経路と独立である。

第15章では、この性質を使って状態への戻りの回数の分布を求め、再帰と過渡を判定する。

例題 14.5 3状態の連鎖の計算 ★★

オリジナルS={1,2,3}S=\{1,2,3\} 上のマルコフ連鎖の遷移確率行列を

P=(1212014121401212)P=\begin{pmatrix}\frac12&\frac12&0\\[2pt]\frac14&\frac12&\frac14\\[2pt]0&\frac12&\frac12\end{pmatrix}

とする。

  1. P2P^2 を計算せよ。
  2. P1(X1=2,X2=3,X3=3)P_1(X_1=2,X_2=3,X_3=3) を求めよ。
  3. P1(X3=3)P_1(X_3=3) を求めよ。
  4. 初期分布が μ=(12,0,12)\mu=(\frac12,0,\frac12) のとき、X2X_2 の分布を求めよ。
解答

(1) 行と列の積を成分ごとに計算する。たとえば (1,1)(1,1) 成分は 12⋅12+12⋅14+0⋅0=38\frac12\cdot\frac12+\frac12\cdot\frac14+0\cdot0=\frac38 である。全成分は

P2=(381218141214181238).P^2=\begin{pmatrix}\frac38&\frac12&\frac18\\[2pt]\frac14&\frac12&\frac14\\[2pt]\frac18&\frac12&\frac38\end{pmatrix}.

各行の和が 1 になっていることで検算することができる(確率行列の積は確率行列)。

(2) (14.11) で μ=δ1\mu=\delta_1 とすると、P1(X1=2,X2=3,X3=3)=p12p23p33=12⋅14⋅12=116P_1(X_1=2,X_2=3,X_3=3)=p_{12}p_{23}p_{33}=\frac12\cdot\frac14\cdot\frac12=\frac1{16} である。

(3) Chapman–Kolmogorov 方程式で p13(3)=∑kp1k(2)pk3p^{(3)}_{13}=\sum_kp^{(2)}_{1k}p_{k3} を計算する。

p13(3)=38⋅0+12⋅14+18⋅12=18+116=316.p^{(3)}_{13}=\frac38\cdot0+\frac12\cdot\frac14+\frac18\cdot\frac12=\frac18+\frac1{16}=\frac3{16}.

(4) 時刻 2 の分布は行ベクトル μP2\mu P^2 で、

μP2=12(38,12,18)+12(18,12,38)=(14,12,14).\mu P^2=\frac12\Bigl(\frac38,\frac12,\frac18\Bigr)+\frac12\Bigl(\frac18,\frac12,\frac38\Bigr)=\Bigl(\frac14,\frac12,\frac14\Bigr).

例題 14.6 2状態の連鎖の nn ステップ遷移 ★★★

オリジナル2状態の連鎖

P=(1−aab1−b)(0<a+b<2)P=\begin{pmatrix}1-a&a\\b&1-b\end{pmatrix}\qquad(0<a+b<2)

について、次のように置く。

Π=1a+b(baba),D=1a+b(a−a−bb)\Pi=\frac1{a+b}\begin{pmatrix}b&a\\b&a\end{pmatrix},\qquad D=\frac1{a+b}\begin{pmatrix}a&-a\\-b&b\end{pmatrix}

と置く。

  1. 次の4つを確かめよ。

P=Π+(1−a−b)D,Π2=Π,D2=D,ΠD=DΠ=OP=\Pi+(1-a-b)D,\qquad\Pi^2=\Pi,\qquad D^2=D,\qquad\Pi D=D\Pi=O

そのうえで Pn=Π+(1−a−b)nDP^n=\Pi+(1-a-b)^nD を示せ。2. a=0.3a=0.3 かつ b=0.1b=0.1 とする。5ステップで状態1から状態1へ移る確率 p11(5)p^{(5)}_{11} を求めよ。

解答

(1) Π+D=1a+b(a+b00a+b)=I\Pi+D=\frac1{a+b}\begin{pmatrix}a+b&0\\0&a+b\end{pmatrix}=I である。したがって Π+(1−a−b)D=I−(a+b)D\Pi+(1-a-b)D=I-(a+b)D で、

I−(a+b)D=(1−aab1−b)=PI-(a+b)D=\begin{pmatrix}1-a&a\\b&1-b\end{pmatrix}=P

となる。次に、Π\Pi の各行は (b,a)/(a+b)(b,a)/(a+b) で、各列ベクトルとの積を計算すると

Π2=1(a+b)2(b(b+a)a(b+a)b(b+a)a(b+a))=Π,ΠD=1(a+b)2(ba−ab−ba+abba−ab−ba+ab)=O.\Pi^2=\frac1{(a+b)^2}\begin{pmatrix}b(b+a)&a(b+a)\\b(b+a)&a(b+a)\end{pmatrix}=\Pi,\qquad \Pi D=\frac1{(a+b)^2}\begin{pmatrix}ba-ab&-ba+ab\\ba-ab&-ba+ab\end{pmatrix}=O.

D=I−ΠD=I-\Pi なので、次の2式も出る。

D2=I−2Π+Π2=I−Π=D,DΠ=Π−Π2=OD^2=I-2\Pi+\Pi^2=I-\Pi=D,\qquad D\Pi=\Pi-\Pi^2=O

2つの行列は積が零行列で、互いに可換である。したがって二項展開の交差項がすべて消える。

Pn=(Π+(1−a−b)D)n=Πn+(1−a−b)nDn=Π+(1−a−b)nD(n≥1).P^n=\bigl(\Pi+(1-a-b)D\bigr)^n=\Pi^n+(1-a-b)^nD^n=\Pi+(1-a-b)^nD\qquad(n\ge1).

成分で書くと

p11(n)=ba+b+aa+b(1−a−b)n,p21(n)=ba+b−ba+b(1−a−b)n.p^{(n)}_{11}=\frac{b}{a+b}+\frac{a}{a+b}(1-a-b)^n,\qquad p^{(n)}_{21}=\frac{b}{a+b}-\frac{b}{a+b}(1-a-b)^n.

(2) a+b=0.4a+b=0.4、1−a−b=0.61-a-b=0.6 なので

p11(5)=0.10.4+0.30.4⋅0.65=0.25+0.75×0.07776=0.30832.p^{(5)}_{11}=\frac{0.1}{0.4}+\frac{0.3}{0.4}\cdot0.6^5=0.25+0.75\times0.07776=0.30832.

∣1−a−b∣<1\left\vert 1-a-b\right\vert <1 なので、ステップ数を増やすと Pn→ΠP^n\to\Pi となる。どちらから出発しても、状態 1 にいる確率は b/(a+b)=0.25b/(a+b)=0.25 に近づく。この極限の一般論は第15章 §15.3 で扱う。

確認テスト

オリジナル

  1. 14.4-1 公正なサイコロを繰り返し振り、nn 回目までに出た目の最大値を XnX_n とする。(Xn)n≥1(X_n)_{n\ge1} がマルコフ連鎖であることを示し、遷移確率 pijp_{ij} を書け(状態は1から6)。
  2. 14.4-2 次の2状態の連鎖について、p21(3)p^{(3)}_{21} と p11(3)p^{(3)}_{11} を求めよ。

P=(0.90.10.50.5)P=\begin{pmatrix}0.9&0.1\\0.5&0.5\end{pmatrix} 3. 14.4-3 S={1,2,3}S=\{1,2,3\} 上で、1→2→3→11\to2\to3\to1 と確定的に巡る連鎖を考える。つまり p12=p23=p31=1p_{12}=p_{23}=p_{31}=1 である。初期分布を一様にして動かす。関数 gg を次のように置く。

g(1)=g(2)=a,g(3)=bg(1)=g(2)=\mathrm a,\qquad g(3)=\mathrm b Yn=g(Xn)Y_n=g(X_n) がマルコフ連鎖でないことを示せ。4. 14.4-4 ξ1,ξ2,…\xi_1,\xi_2,\dots を独立同分布の整数値の確率変数とする。X0X_0 をそれらと独立な整数値の確率変数とし、Xn=X0+ξ1+⋯+ξnX_n=X_0+\xi_1+\cdots+\xi_n と置く。(Xn)(X_n) が遷移確率 pij=P(ξ1=j−i)p_{ij}=P(\xi_1=j-i) のマルコフ連鎖であることを示せ。また Chapman–Kolmogorov 方程式が分布の畳み込みの式になることを確かめよ。

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