確率論入門 第14章 §14.5 ★★★ 状態空間を「行き来できる」関係でクラスに分け、出られない集合と戻る歩数の周期を見る
到達可能性と連結
マルコフ連鎖が長い時間のあとにどう振る舞うかは、どの状態からどの状態へ行けるかという、遷移確率の正負の模様でかなりの部分が決まる。この節ではその模様を整理する。
定義 14.26(到達可能・連結 ★★★)
状態 i,j をとる。ある歩数 n≥0 で pij(n)>0 となるとき、行き先は出発点から到達可能であるという。記号で i→j と書く。両向きに到達可能なとき、2つの状態は連結している(互いに到達可能)といい、i↔j と書く。
pii(0)=1 なので、どの状態も自分自身に到達可能である。n≥1 では
pij(n)=i1,…,in−1∑pii1pi1i2⋯pin−1j
で、非負の項の和が正であることは、正の遷移確率だけをたどる経路 i→i1→⋯→j が1本はあることと同値である。
状態を頂点とし、pij>0 のときに矢印を引いた有向グラフを遷移図と呼ぶ。遷移図の上で、i→j は「矢印をたどって行ける」ことを意味する。
到達時刻 Tj=inf{n≥1:Xn=j}(命題 14.6)を使うと、j=i のとき
i→j⟺Pi(Tj<∞)>0(14.14)
である。事象 {Tj<∞} は ⋃n≥1{Xn=j} に等しい。可算和の確率が正であることは、どれかの項の確率が正であることと同値である。つまりある n で pij(n)>0 となることと同値である。
命題 14.27(連結は同値関係 ★★★)
↔ は S 上の同値関係である。
証明
反射律 i↔i は pii(0)=1 から、対称律は定義から明らかである。推移律を示すには、次を示せばよい。
i→k かつ k→j ⟹ i→j
pik(m)>0、pkj(n)>0 とすると、(14.13) から次が成り立つ。
pij(m+n)≥pik(m)pkj(n)>0
この結果を両向きに使えば、連結の推移律が出る。
定義 14.28(クラス・既約 ★★★)
↔ による同値類をクラス(連結類)と呼ぶ。状態空間全体が1つのクラスであるとき、すなわちすべての i,j で i↔j のとき、連鎖は既約であるという。
ランダムウォーク(0<p<1)と Ehrenfest の壺は既約である。ギャンブラーの破産(0<p<1、M≥2)は、次の3つのクラスに分かれる。
{0},{M},{1,…,M−1}
両端の 0 と M からはどこへも出られない。中間の状態からは、両端のどちらにも行ける。
閉集合
定義 14.29(閉集合・吸収状態 ★★★)
状態の集合 C⊂S が次を満たすとき、C は閉じている(閉集合)という。
i∈C, j∈/C ⟹ pij=0
1点集合 {i} が閉じているとき、すなわち pii=1 のとき、その状態を吸収状態と呼ぶ。
命題 14.30(閉集合からは出られない)
C が閉じていることと、次が成り立つことは同値である。
Pi(Xn∈C (n=0,1,2,…))=1(i∈C)
証明
後者を仮定する。i∈C、j∈/C について次が成り立つ。
pij=Pi(X1=j)≤Pi(X1∈/C)=0
逆に C が閉じているとし、i∈C をとる。Pi(Xn∈C)=1 を時刻についての帰納法で示す。n=0 は明らかである。Pi(Xn∈C)=1 なら
Pi(Xn+1∈/C)=k∈C∑Pi(Xn=k)j∈/C∑pkj=0.
したがって Pi(Xn+1∈C)=1 である。可算個の確率 1 の事象の共通部分は確率 1 なので(第1章 §1.4)、すべての n で Xn∈C となる確率も 1 である。
閉じた集合 C の上では、遷移確率行列をその集合に制限した行列も確率行列になる(各行の和が 1)。したがって C だけを状態空間とする連鎖と見ることができる。
クラスについては、閉じていることが到達可能性で言い換えられる。クラス C が閉じていないとは、その中の状態 i と外の状態で、次を満たすものがあることである。
pij>0
このとき j→i は成り立たない。成り立てば j も同じクラスに入るからである。
つまり閉じていないクラスからは、二度と戻れない所へ正の確率で出ていく。第15章 §15.1 では、閉じていないクラスの状態が過渡的(いずれ戻らなくなる)であることを示す。
命題 14.31(有限の連鎖には閉じたクラスがある ★★)
S が有限集合なら、閉じたクラスが少なくとも1つある。
証明
2つのクラスについて、一方のある状態から他方のある状態に到達可能なとき、C⪯C′ と書く。推移律(命題 14.27 の証明)から、これは代表元の選び方によらない。
- 任意のクラス C1 から出発する。閉じていなければ、その外の状態 j へ1歩で行ける。j のクラスを C2 とする。これは出発したクラスから到達可能で、それとは異なる。
- C2 が閉じていなければ同様に C3 をとり、これを続ける。
- 同じクラスが2度現れることはない。もし Ck=Cl(k<l)なら、次の鎖ができる。
Ck⪯Ck+1⪯⋯⪯Cl=Ck
このとき隣り合う2つのクラスの状態は互いに到達可能になり、同じクラスになってしまう。4. クラスは有限個しかないので、この列は有限回で止まる。最後のクラスは閉じている。
無限の状態空間では閉じたクラスが無いこともある。S=N0 で pi,i+1=1(必ず右へ1つ進む)とすると、各状態が単独でクラスをなし、どのクラスも閉じていない。
周期
対称単純ランダムウォークは、偶数歩でしか出発点に戻れない。このような戻りの歩数の規則性を周期として定める。
定義 14.32(周期 ★★★)
状態 i について Ai={n≥1:pii(n)>0} と置く。Ai=∅ のとき、その最大公約数
d(i)=gcdAi
を i の周期と呼ぶ。周期が 1 の状態は非周期的であるという。Ai=∅ のときは周期を定めない。
pii>0 なら 1∈Ai なので、その状態は非周期的である。周期が d のとき、戻りは d の倍数の歩数でしか起きない。しかし d の倍数の歩数すべてで戻れるとは限らない。たとえば Ai={4,6,8,10,…} なら d(i)=2 だが、2 歩では戻れない。
定理 14.33(周期はクラスの性質 ★★★)
i↔j なら d(i)=d(j) である。
証明
i=j なら明らかなので i=j とする。次を満たす a,b≥1 をとる。
pij(a)>0,pji(b)>0
(14.13) から pii(a+b)≥pij(a)pji(b)>0 である。したがって a+b∈Ai であり、d(i) はこの和を割り切る。次に n∈Aj を任意にとる。(14.13) を2回使うと
pii(a+n+b)≥pij(a)pjj(n)pji(b)>0
なので a+n+b∈Ai で、d(i) はこの数を割り切る。a+b も割り切るので、差の n も割り切る。
したがって d(i) は、集合 Aj のすべての元の公約数である。よって d(i)∣d(j) である。2つの状態の役割を入れ替えると d(j)∣d(i) となる。したがって d(i)=d(j) を得る。
この定理から、既約な連鎖ではすべての状態の周期が等しい。それを連鎖の周期と呼び、周期 1 の既約な連鎖を非周期的な連鎖と呼ぶ。
非周期的であることの使い道は、次の数論の補題を通して現れる。
補題 14.34(加法で閉じた集合 ★★)
A⊂{1,2,…} が加法で閉じ、gcdA=1 であるとする。加法で閉じるとは m,n∈A⇒m+n∈A のことである。このとき、ある n0 があって、それ以上のすべての整数が A に属する。
証明
A の元の最大公約数は、有限個の元 a1,…,ar∈A の最大公約数として実現される。最大公約数は元を加えるたびに減るか変わらないかで、正の整数なので有限回で止まるからである。
Bézout の等式から、整数 c1,…,cr で ∑lclal=1 となるものがある。正の係数の項の和を Q とし、負の係数の項の絶対値の和を R とする。このとき Q−R=1 である。
Q は集合の元の正の整数係数の和なので、加法で閉じていることから A に入る。R についても、正なら同じ理由で A に入る。
- R=0 のとき。1=Q∈A となり、すべての正の整数が A に入る。
- R≥1 のとき。n≥R2 を R で割り、商と余りで次のように書く。
n=qR+s(0≤s<R)
q≥R>s なので
n=qR+s(Q−R)=(q−s)R+sQ,q−s≥1, s≥0
と書ける。右辺は A の元の正の整数係数の和なので n∈A である。n0=R2 とすればよい。
系 14.35(非周期的な状態の戻り ★★)
- (i) i が非周期的なら、ある n0 があって、それ以上のすべての歩数で戻りの確率が正である。
- (ii) 有限状態の既約で非周期的な連鎖では、ある N があって、それ以上のすべての歩数で Pn の全成分が正である。
証明
(i) Ai は (14.13) から加法で閉じている(pii(m+n)≥pii(m)pii(n)>0)。補題 14.34 を使えばよい。(ii) 各状態 i に (i) の n0(i) をとる。各組 (i,j) に、pij(mij)>0 となる歩数をとる。n≥n0(i) なら
pij(n+mij)≥pii(n)pij(mij)>0
である。そこで次のように置く。
N=imaxn0(i)+i,jmaxmij
n≥N なら n−mij≥n0(i) となるので、すべての成分が正である。状態が有限個なので最大値は有限である。
周期 d≥2 の既約な連鎖では、状態空間が組 G0,G1,…,Gd−1 に分かれる(主張と筋)。連鎖は次のように巡回的に移る。
G0→G1→⋯→Gd−1→G0
組の分け方は次のとおりである。状態 i0 を1つ固定する。pi0j(n)>0 となる歩数を周期で割った余りは、行き先の状態ごとに一意に定まる。その余りで組を分ける。
このとき Pd を各 Gr に制限した連鎖は非周期的になる。第15章 §15.3 では、周期を持つ連鎖の Pn が収束しないことを述べる。収束するのは d ステップおきの pjj(nd) だけであり、この分解がその理由である。

図 14.3 例題 14.7 の連鎖の遷移図。矢印に遷移確率を書いた。破線で囲んだ {1,2}(周期 2)と {3,4,5} がクラスで、{6} は吸収状態である。
例題 14.7 クラス分けと周期 ★★★
オリジナルS={1,…,6} 上の連鎖で、正の遷移確率が
p12=p13=21,p21=p26=21,p34=1,p45=1,p53=p54=21,p66=1
だけであるとする(図 14.3)。クラスに分け、各クラスが閉じているか、周期はいくつかを答えよ。
解答
クラス。遷移図の矢印をたどる。1→2→1 なので 1↔2 である。3→4→5→3 なので 3,4,5 は互いに連結している。
{3,4,5} と {6} からは、1 と 2 へ戻る矢印が無い。したがって 1 と 2 はこれらと連結していない。6 からは 6 にしか行けない。以上から、クラスは次の3つである。
{1,2},{3,4,5},{6}
閉じているか。{1,2} からは p13>0 で外へ出られるので、閉じていない。{3,4,5} の状態からの矢印は 3,4,5 のどれかにしか向かわないので、閉じている。{6} は p66=1 で吸収状態である。
周期。周期はクラスで共通なので(定理 14.33)、各クラスで1つの状態を調べればよい。
- (a) 状態 1 に戻る経路は、1→2→1 を何回か繰り返すものだけである(3 や 6 へ出ると戻れない)。A1={2,4,6,…} で d(1)=2 である。
- (b) 状態 4 には 4→5→4(2歩)と 4→5→3→4(3歩)で戻れる。2,3∈A4 で、2 と 3 は互いに素なので、d(4)=1 である。したがってクラス {3,4,5} は非周期的である。
- (c) p66=1 なので d(6)=1 である。
クラス {3,4,5} のどの状態にも自己ループ(pii>0)は無いが、長さの互いに素な2つの閉路があるので非周期的になる。周期の判定に自己ループは必要ない。
確認テスト
オリジナル
- 14.5-1 状態 i が吸収状態であることと、{i} が1つのクラスで、かつ閉じていることが同値であることを示せ。
- 14.5-2 S={1,2,3,4} 上の連鎖で、正の遷移確率が次のものだけであるとする。
p12=1,p21=p23=p24=31,p34=1,p43=1
クラスに分け、閉じているかと周期を答えよ。3. 14.5-3 次の既約な連鎖の周期を求めよ。
- (a) 遷移図が 1→2→3→1 と 1→4→1 の2つの閉路からなる連鎖。
- (b) 遷移図が 1→2→1 と 1→3→4→5→1 の2つの閉路からなる連鎖。
- 14.5-4 長さ m≥3 の円周の上を、1歩ずつ左右に動く連鎖を考える。状態空間は S={0,1,…,m−1} で、0<p<1 について
pi,i+1modm=p,pi,i−1modm=1−p
とする。この連鎖の周期を、m の偶奇で分けて求めよ。5. 14.5-5 球が4個の Ehrenfest の壺(M=4)が既約で周期 2 であることを示せ。また p00(2) と p00(4) を求めよ。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com