統計熱力学入門 第3章 §3.9 ★ J=−PV、logΞ∝V の根拠=短距離相互作用による加法性。背景の深掘り。
「J が示量的」という主張の中身は logΞ∝V であり、その根拠は最終的に相互作用が短距離であることに行き着く。二段階で見る。
(i) 熱力学の言葉での即答:J=−PV。
内部エネルギーは示量的、すなわち1次の同次関数
U(λS,λV,λN)=λU(S,V,N) なので、Euler の定理から
U=TS−PV+μN.
グランドポテンシャルはそのルジャンドル変換 J=U−TS−μN なので
J=−PV.
P=P(T,μ) は示強量、V は示量量、ゆえに J は示量的。別の見方をすると、J の自然な変数 (T,μ,V) のうち示量的なのは V だけである。系を λ 倍にしてもT,μ は変わらず V→λV だけが変わるから、示量性J(T,μ,λV)=λJ(T,μ,V) は V についての線形性を強制し、
J(T,μ,V)=V⋅j(T,μ),j(T,μ)=−P(T,μ)
となる。ただしこれは「示量的だと仮定すれば V に比例する」という話であり、なぜそもそも示量的なのかには答えていない。本質は次である。
(ii) 統計力学的な根拠:logΞ の加法性。
J=−β−1logΞ なので、J∝V は logΞ∝V と同値である。体積 V を、どちらもマクロな二つの部分 V=VA+VB に仮想的に分ける。全エネルギーは
E=EA+EB+EAB
であり、EAB は界面をまたぐ相互作用である。相互作用が短距離なら EAB は界面の面積程度、すなわち EAB∼V2/3 にしかならず、バルクの ∼V に対し熱力学極限で無視できる。このとき大分配関数は二つの領域の積に分解する:
Ξ(V)≈Ξ(VA)Ξ(VB)⟹logΞ(V)≈logΞ(VA)+logΞ(VB).
つまり logΞ は部分体積について加法的である。加法的で並進対称な量は V に比例するほかなく、
logΞ=V⋅(βP),J=−PV.
これが示量性の正体である。

図3:logΞ の加法性。界面項が体積に比べて無視できることが示量性を生む。
グランドカノニカルだと分解がとくに綺麗な理由。
カノニカルで同じ分割をやると NA+NB=N という制約が残るため A と B は独立にならない(因子化は鞍点近似でしか成り立たない)。グランドカノニカルでは A も B も同じ浴に対して独立に粒子をやりとりするので NA,NB は互いに無関係に揺らぎ、制約が無い。ゆえに因子化は界面項 EAB を除いて厳密である。これは§5の「窓=代表サンプル」の話と地続きで、どの部分体積も浴と独立に平衡化するから全体は部分の単純な足し合わせになる。
要点
効いている前提(破れる場合):示量性は(a)短距離相互作用(EAB/E∼V−1/3→0)、(b)熱力学極限(表面/体積比が消える)、の二つに依存する。長距離力(重力、遮蔽されないクーロン)ではエネルギーが非加法的になりlogΞ は V に比例しない。自己重力系で示量性が破れ、負の比熱などの異常が出るのはこのためである。標準的な統計力学が「示量的」を当然のように使えるのは、暗に短距離相互作用を仮定しているからである。
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